ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
「シャ……ル?」
かすむ視界のなかに、シャルの姿が映る。玉座の前で倒れていたはずのシャルが、よろよろと立ち上がっている。
――生きてたのか……よかった……。
「ん?なんだくたばってなかったのかお嬢ちゃん?こいつはやっぱり……。クク、まあ待ってろ。小僧を殺した後ゆっくりと料理してやるからよ」
「やめろ……シャルにこれ以上……手を出すな……」
声を振り絞り、レイモンドの足をつかむ。
「ああん?しつけえんだよ雑魚が!」
レイモンドが再び俺の顔を踏みつける。
「やめろ……」
その低くドスの利いた声は俺でもレイモンドでも、近くで見ているリッカやシェパードのものでもない。
ではどこから?消去法であてはまる人物は一人しかいない。
シャルだ。気づけばシャルの周りの瓦礫が浮き上がっている。心なしかシャルの体から青いオーラが出ているようにも見える。
「なに?なにが起こってるの?」
リッカの言葉に答えられるものはこの場にはいなかった。唯一シェパードだけが興味深そうにシャルを見ている。
「お兄ちゃんを傷つけるやつを……私は……許さない!」
シャルが手を正面にかざすと、体にまとっていたオーラが手のひらに球状に圧縮されていく。
「死ねええええええええええ!」
死ね。そんな言葉をシャルが人に向けて言うなんて想像すらしたことがなかった。
だが、その言葉と同時に圧縮されていた球体からものすごい音とともに青い竜が現れた。
「あれは……水の魔法?でも、道具も使わずにあんなものは……」
後ろつぶやくリッカの声は最後まで聞き取れなかった。
出現した青い竜はレイモンドの方にその眼光を向けている。と、思ったのもつかの間、そいつは一気にレイモンドに向かってきた。
「ぐ、ぐおあああああああああああ!」
俺の顔を踏んでいた足ごとレイモンドが吹き飛ばされる。気づいた時にはレイモンドは壁に打ちつけられ、そこには大きなくぼみができていた。
――なんだ?これは、夢か?
シャルが魔法を使ってレイモンドを攻撃した。そんなことがあるか?俺と同じであいつはただの農民だ。どういうことなんだ?
「やった……」
シャルは力を使い果たしたかのように再び倒れ伏した。
「シャル!」
痛む体を気力で無理やり動かし、シャルのもとへと駆け寄る。急いでシャルを抱き起す。
――よかった、生きてる。
「ふはははは、やるじゃねえかお嬢ちゃん!」
「……っ!?」
その声は、壁に打ち付けられたレイモンドのものだった。あいつ、あんなのを食らって生きているっていうのか?
だが、立ち上がったレイモンドはかなり息を切らしていた。どうやらノーダメージってわけでもなさそうだ。
「さすがに死ぬかと思ったが所詮はコントロールのできてない攻撃だな!」
あれでコントロールできていなかったというのか。逆に考えればコントロールできれば町ひとつ破壊できるかもしれない。そんな力が、シャルに?
いや、今はそんなことはどうでもいい。問題なのはまだレイモンドが動けるということ。リッカは動けない。シャルの力もおそらく偶発的な発動だから二度目は期待できない。そして俺のナイフは……折れてやがる。
この状況、俺たちにはもう戦う力は残っていないのだ。
――やっぱり、死ぬのか?俺は誰も助けられないのか?
意識が再び朦朧としてくる。俺の体が限界にきているのだ。
『お母さんと仲直り、する?』
脳裏をよぎったのは今朝のシャルとの会話。
――そうだ、あの後母さんに謝ってないんだと思う。
『魔法のこと教えて!』
それは隣の村へ向かう時のシャルとの会話。
――走馬灯ってやつかな?
『どうやって魔力を宿すの?』
『それには魔法石を使う』
『よかったねお兄ちゃん。魔法石』
『魔法石はそれをセットする媒体がないと使えない』
『お茶の葉っぱみたいな感じか~』
「……!」
そうだ、そういえば隣の村で魔法石を貰ったんだった。ズボンのポケットから魔法石を取り出す。さっきと見た時と同じ、赤い石。
これを何かにセットすれば炎が起こせるか……?
いや、だめだ。工場内の機械は大きすぎてこの魔法石じゃ動かせない。
『魔力自体は誰にでも宿ってるみたいだけどな』
自分のその言葉を思い出したとき、一つの可能性を思いついた。
だが、論理としてはめちゃくちゃだ。筋道だっているかと言われれば返す言葉もないずさんな仮説だ。
だが、このまま試そうがためさなかろうが俺たちが生き延びる可能性は限りなくゼロだ。
――それなら、やるしかない!
俺は手に持った魔法石を一度握り直し、それを――
口に入れた
その瞬間、俺の中に燃えるような力がみなぎるのを感じだ。背中も腹も、体のどこも痛くない。
「……ん?」
シェパードの表情が変わる。やつは俺が何をしたか瞬時に理解したようだ。
このままだとあいつも加勢してくるかもしれない。そのまえに、レイモンドを殺る!
「さあ、死ぬ準備はできてるか!小僧!リッカ!」
俺は地面を力いっぱい蹴る。レイモンドへの距離はさっきっと同じ10メートル程度。だがそれは俺が経験した中で、最も短い10メートルだった。
「ぐほおおお!」
俺のこぶしが、レイモンドの腹に一撃を与える。それもただの一撃じゃない。『炎の魔法』をまとった一撃だ。
レイモンドはものすごい勢いで転がっていく。
「ぐア……熱い……なんだこれは……」
「魔法石を……食べたのですね」
シェパードがゆっくりとそう口にする。
「はあ!?魔法石を……食ったア!?」
「そうです。もともと魔法石には自身に宿る魔力を解放するだけでなく、同属性の魔力のコントロールをする力も宿っている。それは先ほどの私のシルクハットのように」
「てっこたあなにか?魔法石を体内に取り込むことで無理やり自分の魔力を解放したってのか!?」
「そうなりますね。ただ、魔法石の属性が自分と適合しなければ最悪死もあり得る危険な方法です」
「くそが……イかれたことしやがって!だが、そんな付け焼き刃の魔法では俺の相手にはなれないぜ!」
「……どうだろうな」
俺の答えは冷静に聞こえたかもしれないが、実は今、かなりやばい状態になっている。
体の底からどんどん魔力がわいてきて、さっさと放出しないと体が破裂しそうなくらいだ。
「おい、レイモンド、シェパード」
「ああン?なんだ小僧。この期に及んで命乞いか?」
「……死んでも俺を恨むなよ」
「は?そりゃあどういう――」
レイモンドの言葉を最後まで聞かずに俺は全魔力を口の中に圧縮する。燃えたぎるような感覚がするが、それは俺の体を傷つけるものではない。自分の魔力だから、ということだろうか。
そして魔力がすべて圧縮されたのを見計らって俺はそれを放出した。
鳴り響く爆音は俺の口から出た炎が周りの機械に引火し、爆発する音だろうか、それとも炎自体の音だろうか。それすらわからないほどに、俺の吐いた炎は強烈だった。
あっという間に周りのすべてが消し飛んでいく。
この世の終わり、と言ってもいいほどの光景だったが、いつの間にか俺自身もそれに巻き込まれ、吹き飛んで行った。
その中で、俺は何かが俺の中に入ってくる感じがした。
『お前の記憶は…………………る』