ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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7. 旅立つ勇気

「……ん」

 

どれくらい寝ていただろうか。むしろいつから寝ていただろうか。全く思い出せない。

ここはどこだ?首を横に向けてみると、そこには木製の本棚があった。そこに並んでいる本はどれも読んだことがあるもので、それを見て俺はここが自分の部屋だということに気が付いた。

とりあえず体を起こしてみる。すると背中と胸に痛みが走った。

そうだ、俺はレイモンドにさらわれたシャルを助けるために……。まるで夢のような出来事だったが体の痛みが現実だったのだと教えてくれる。背中を触ってみると、縫った跡があった。寝てる間に手術がなされたということだろう。

ふと、腰のあたりに重さを感じた。目をこすりそちらを見てみると、包帯だらけのシャルが、俺の手を握りながらすうすうと寝息を立てていた。

 

「やっと起きたわけ?」

 

俺の机の椅子にすわって足を組んでいるのはリッカだった。人の家だってのにずいぶんな態度だな。

 

「お前、無事だったんだな」

「無事だったんだな、じゃないわよ!あんたの炎で工場ごとぶっ飛んで、もう少しでしぬとこだったんだから!」

「レイモンドたちは?」

「レイモンドは、半死にだったけど騒ぎを聞きつけた憲兵団に連行されていったわ。たぶん向こうで治療を受けた後投獄されるでしょうね。シェパードは分からないわ。わたしが気づいた時にはもういなかったから」

「……ということは俺とシャルを助けてくれたのはお前だったんだな。ありがとう」

 

俺がまじめにお礼を言ったというのにリッカはなぜか顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

 

「べ、別に助けたくて助けたわけじゃない!ただ……」

「ただ?」

「ただ……最初にレイモンドから助けてもらったこと、お礼言ってなかったからそのまま死なれたら気持ち悪いってだけよ!どうもありがとうございますう!」

 

怒ってんだか感謝してんだかわかったもんじゃないな。

 

「んん……うるさいよお」

 

俺たちの会話で目が覚めたのか、シャルがベッドから上半身を起こす。

 

「おはよう。シャル」

「お兄……ちゃん?」

 

ねぼけていたシャルだったが、俺の顔を見ると見る見るうちに目に涙がたまっていく。

 

「おにいちゃあああああん!」

 

シャルが抱きついてくる。その感触が、体温が、シャルが生きていること、シャルを助けることができたことを俺に実感させてくれる。

 

「お兄ちゃん……ごめんね、私のためにたくさんつらい思いさせて本当にごめんね……」

「シャル……いいんだよ」

「よくないよ!お兄ちゃん、切られたところ焼いて直したんでしょ?そんな痛い思いさせたのに私……私……」

「何言ってんだよ。シャルだって一緒に戦ってくれたじゃないか」

「え?」

「え?」

「私、戦ってないよ?あのくそじじいにつかまって、お兄ちゃんたちが工場に来た時にぼこぼこに殴られて、気づいた時にはリッカさんが街の病院に運んでくれて……」

 

どういうことだ、あの時魔法でレイモンドを攻撃した時の記憶が消えている?いや、だがあの時のシャルの意識ははっきりと覚醒しているように見えたが。

 

「なんだい、さわがしいよ!」

 

勢いよく扉を開いてきたのは母さんだった。なぜかものすごく久しぶりに会った気がする。

 

「ライア……目が覚めたのね!」

 

俺が起きているのを見て母さんが勢いよく抱きついてくる。しかもシャルのうえから。さ、さすがに苦しいんだが。

 

「母さん、シャルそろそろ離してくれ……」

「だってあんた、一週間も寝てたのよ?これくらいいいじゃないの~」

「い、一週間!?」

 

そんなに寝てたら母さんの顔が懐かしく感じるのも無理ないな。それにしても1週間か。無理やり魔力を解放した副作用ってことだな。まあ、あんな無茶をして生きてるだけましか。

 

「そうだ、母さん」

「なんだい?ご飯が食べたいのかい?任せな、今すぐ……」

「そうじゃなくて」

「ん?」

 

俺の声が真面目なトーンになったことに気付いたのか、母さんは俺を抱きしめていた手を離す。

 

「ごめんなさい。母さんは俺のために学校を薦めてくれてるのに生意気なこと言って」

 

母さんはきょとんとしている。なんだ、なにか謝り方を間違ったのか?

 

「なんだ、そんなことかい!全くあんたは変なとこでまじめだから困ったもんだよ!」

 

母さんは大きく笑い、俺の背中をばしばしとたたく。そこ、手術したばっかりなんだけど……。でも、痛みよりもうれしさのほうが何倍も大きい。シャルとの約束通りちゃんと仲直りできたからかな。

 

「母さんも少し無理に言い過ぎたよ。あんたは学校なんて行かなくても頭もいいし、それにシャルをしっかり守ってくれた。立派なお兄ちゃんで、私の自慢の息子だよ!」

「そうだよお兄ちゃん!」

 

――ああ、俺はこの村に、この家に、この家族に拾われて本当に良かったんだな。

 

――でも、俺は……。

 

「……ライア、ちょっといい?」

 

リッカが椅子から立ち上がり、部屋の外を指さす。

 

「なんだよ?なんか用か?」

「ここじゃなんだし、外に来て」

 

リッカそう告げるとさっさと部屋を出て行ってしまった。

 

「なんだ、あいつ」

「なんだ、じゃないわよライア!女が男を呼び出すなんて決まってんじゃないの!突然あんなかわいい子連れてきて、あんたも隅に置けないねえ!」

「おおおおお兄ちゃん!駄目だよ!私はお兄ちゃんを誰かに渡すなんて断固拒否するよ!」

 

なんだか勝手に盛り上がってるが、リッカの表情はそんな浮いた話をするようなものではなかった。なにかそういう方面とは違うところの大事な話、という感じだと俺は思うんだが。

 

***

 

 

「……で、何の用だ?」

 

俺がいつも寝そべっているあの丘で、リッカは待っていた。

 

「いいところね、ここ」

「そうだろ、なんてったって俺のベストプレイスだからな……じゃなくて、何の用だって言ってるだろ」

 

リッカは俺のほうに振り向くと、真剣な面持ちで口を開いた。

 

「あんた、記憶喪失なんだってね」

「え?あ、ああまあそうだけど」

「街の医者にも匙を投げられて、原因もわからない。それでこの村で暮らしてるってあんたのお母さんから聞いたわ」

 

母さんはほんとおしゃべりだな。まあ、そこがいいところでもあるんだけどな。

 

「それで?」

「……王都に、わたしの知ってる中で一番の腕を持った医者がいるの。そこに案内してあげる。きっと何かわかるはずよ」

「……お前、なんでそこまで」

「ちょ、変な風にとらえないでよ!ただ、レイモンドから解放されたのはあんたのおかげだし……そ、それと!わたしも王都に用があるってだけよ!」

 

顔を赤くして怒られても全く怖くない……なんて言ったらさらに怒られそうだな。

 

「そっか、なんであれありがとう。でも、俺は王都にはいかない」

「……家族のためってこと?あんた勘違いしてるかもしれないけど―――」

「わかってるよ。シャルたちが俺の記憶が戻ることを一番に願ってることは。そういうことじゃないんだ」

「じゃあ、何よ?」

「実は、レイモンドたちを倒したとき、記憶戻ったんだ」

「はあ!?なにそれ、どういう仕組みよ?……てかそれなら早く言いなさいよ!」

「お、落ち着けって。戻ったって言ってもほんのひとかけらんだよ」

「ひと……かけら?」

 

俺はうなずく。あの時、工場の爆発の中で俺の中に入ってきた言葉、いや言葉でもないし文字でもない、うまく説明はできないがそれがきっと記憶ということなんだろう。

その記憶は俺にこう告げた。

 

『お前の記憶は99個に別れてこの世界に散らばっている』

 

なんで俺の記憶が分裂しているのか、そしてあの時何をきっかけにその一部が戻ったのか、それは全く分からない。

だが――

 

「世界中を探せば、いつか俺の記憶は戻る。それは確かだ」

「じゃあ、あんたは」

「ああ、俺は、自分の記憶を取り戻す旅に出る。だから、王都にはいかない」

 

自分の記憶を取り戻すことには恐れも、不安もある。でも、シャルがあのとき勇気をだして俺を守ってくれたように、俺も勇気を出して一歩踏み出そう。そう思ったのだ。

 

 

――半年後

 

いつもと変わらない空、変わらない村の風景。

一つだけ違うのは、それを見るのは今日が最後ってことだ。今日、俺は記憶を取り戻すための旅に出発する。

村の入り口にはシャルや母さんをはじめ、村の人や近くの他の村の人まで来ている。

 

「いやあ、ライア!立派になったなあ!男は誰でもいつか旅に出るもんだ!しっかりやってこいよ!」

「あんたの作った野菜が食べられなくなるなんて、ちょっと寂しいのお」

 

みんなが俺の旅立ちに言葉をくれる。

そして、俺はシャルと母さんの方へと歩み寄る。

 

「ライア、しっかりね」

「うん。母さん」

「ちゃんと歯磨きするのよ?たまには手紙よこしなさいよ?」

「わかってるって」

 

母さんはその後も取り留めのないことを何度も確認してきた。

 

「お兄ちゃん……」

 

シャルが俺の袖を引っ張る。もう今にも泣きそうな顔をしている。

 

「シャル……」

「お兄ちゃん……これ」

 

シャルはポケットから何かを取り出す。

 

「これは?」

「お守り。お母さんに教えてもらったの」

 

それは青い糸で編みこまれたお守りだった。

 

「この子、寝る間も惜しんで作ってたのよ?教えるのに苦労したんだから」

 

母さんがシャルの頭をなでる。

 

「そっか。ありがとな、シャル。」

 

俺はそれを首からかけ、シャルの頭をなでる。

 

「シャル。お前は強い子だ。それは俺が一番知ってる」

「私が……強い?」

「そうだ。お前には誰にも負けない勇気がある。それさえあれば。俺が居なくても頑張れるはずだ」

「……うん。私、頑張る!」

 

 

「それじゃあ、行ってくる!」

 

俺は街のみんなに手を振り、村の入り口を出る。

 

 

「終わった?」

 

入り口を出たところには、いつも通り仏頂面のリッカが待っていた。この半年、こいつには体力トレーニングや武器の使い方を一通り教えてもらった。

 

「まあな。それにしても、本当についてくるのか?王都に用事があるんじゃ」

「バカね。確かに半年間あんたを鍛えてやったけどあんな程度じゃ旅に出てもすぐに死ぬわよ?だから最初の間だけ面倒見てやるだけよ」

「あ、そうですか……」

 

相変わらず生意気な奴だ。

 

「さ、行きましょ。」

「ああ。行くか」

 

俺たちは歩き出す。これからどこへ行くとか、そもそもどういう仕組みで記憶が戻るのかとか、詳しいことは未定だが、何事も一歩踏みだすことが大事なのだ。

 

 

これから、俺たちの長い長い旅が始まる。

 

その先にある、真実へと向かって。

 

 

 

 

 

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