ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件 作:たけぽん
8. フレイト平原
――ミスレシア王国北部・フレイト平原
「はあああああああ!」
俺が振りかざす魔法剣からはセットされた魔法石により炎が噴射される。
炎を纏った斬撃はこの平原に生息するモンスター、エメラルドウルフの首を一撃で切り落とす。これで25匹目。30分前にこいつらの群れに襲われてからの戦闘は正直結構つかれる。
「ライア、ふせて!」
「うおっ!」
その言葉に俺は躊躇なく伏せる。すると俺の頭上を風の魔力がやどった弓矢がエメラルドウルフめがけて飛んでいき、しとめる。
「おい!だから、打ってから伏せろっていうのはやめろ!」
俺の後方で次の弓を背中のかごから取り出しているリッカに聞こえるように叫ぶ。
「あんたがとろとろやってるからよ!」
「あのアマ……」
悪態をつきつつも、襲いかかってくる獲物に再び剣を振る。
あと、何体いるんだろう……。
***
それから10分後くらいだろうか、エメラルドウルフの群れは俺たちに勝てないと悟ったのか、そそくさと退散していった。
緊張がほどけた俺は草むらに倒れ伏す。
「ああ……しんどい……」
「なっさけないわねえ」
その横に座るリッカの発言が生意気なのは今に始まったことじゃないから特に気にはしていない。ただ、少しくらい文句言ってもいいよな?
「誰かさんが10本も弓を無駄うちしなければもっと楽に終わったんだけどな」
「はあ!?なによそれ、言っとくけどアンタの戦闘スタイルに合わせて弓を憶えてやったのよ?むしろ10本しか外してないんだから上出来でしょうが!」
「へいへい、そうですね」
村を出発してから1週間。ここ最近はこの平原をひたすら南へと進んでいる。一応その先にあるシルド街というところを目指しているのだが、これがめちゃくちゃ遠い。馬車でも拾えば早いんだろうが村のみんなから貰ったお金を自分たちが楽をするために使うわけにもいかない。
「まあ、でもあんたも半年前に比べたら少しはましに戦えるようになったじゃない」
「おかげさまでな」
半年間、リッカの厳しいしごきに耐えた俺は低級モンスターの群れくらいなら倒せるくらいになっていた。それでもさっきの量はちょっときつかったが。
「その魔法剣の使い勝手はどう?」
リッカが俺の横に置いてある青い魔法剣を指差す。青なんてシャレた色をしているが別に特別な剣ではなく、村の近くの街の道具屋で買った所謂市販のものだ。その剣に市販の炎属性の魔法石をはめただけ。何とも頼りない装備である。
「そもそもこれ以外の魔法剣を使ったことが無いからな。比較対象がない以上まともな結論は出ない」
「それもそうね」
「お前の弓はどうだ?」
「ま、よさげって感じ」
リッカはこの半年、俺を鍛えると同時に魔法弓の使い方を憶えた。本来足技が得意なリッカだが、一緒に戦う時に近接戦闘型が二人いても効率が悪いという俺の提案に納得し、これまた市販の弓矢に市販の風属性の魔法石をはめ込んで使っている。もちろん以前使っていたブーツも履いており、これにも市販の魔法石をはめてある。本人の話しだと以前のエルフ産より使い勝手は悪いが負担は少ないらしい。
「それにしても、ここ1週間相当戦ってるのにアンタの記憶が戻る気配はゼロね」
俺の記憶。それはこの世界に99個に分かれて散らばっているらしく、それを探すために俺たちは旅に出ている。だが、この1週間、モンスターとの戦闘を経ても俺の記憶が戻る気配は無い。そもそもの話、どういう条件で記憶が戻るのかも、何か個体として散らばっているのかも全く分からないのだから無理もない。ただ単純に、最初に記憶が戻った時に戦っていたからという理由だけで戦っているだけなのだ。
「まあ世界中に散らばってるわけだし、そう簡単にはいかないだろ」
「それもそうだけどさ、やっぱり何か手掛かりが欲しいところね。あんた、レイモンドを倒した時に戻った記憶は他には無いの?」
「無いな。半年間いろいろ頭を捻ってみたが、結局記憶が散らばってることしか分からなかった」
「はあ……前途多難ってやつね」
ため息をつきながらリッカは鞄から地図を取り出し眺める。
「あとどのくらいだ」
「このまま20分くらい歩けば着くわ」
「もうそんなに歩いたのか」
「そりゃあもう1週間だしね」
それだけ村から離れたってことだな。シャルは……元気かな。
故郷に置いてきた妹の顔が脳裏に浮かぶ。かなりのブラコンだったあいつが、いったいどんな毎日を送っているのか想像すらできない。
「ちょっと、そこのシスコン」
「お前、最初に会った時も言おうと思ってたけど人をシスコン呼ばわりするのはやめろ。失礼だぞ。俺はただシャルが大切なだけだ」
「……重度ね、これは」
「お前だって家族は大事だろ?」
「……それは」
俺の言葉に何故かリッカは言い淀んでしまった。ひょっとして、家族とは不仲だったりするのだろうか。そもそも俺はこいつの事をほとんど知らない。どこの地域出身だとか、どういう人生を送ってきたかとか。
……というかそれを言うなら自分の事も殆ど知らないんだった。
「ま、とにかくもう少しでつくからさっさと起き上がりなさいよ」
あまりにも露骨に話題を変えられたが、まあいいたくないことを無理に言わせる気もない。俺は起き上がり、重い腰を上げる。
***