ただの村人だった俺が失われた記憶を取り戻したら最強になった件   作:たけぽん

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9. オリバー・シルキタスの魔法学

「……おお、すげえ」

 

シルド街についた俺の口から出たのはそんな深みのない感想だった。なぜならこの街は俺が想像していた何倍も栄えていたからだ。道路には街の内外を行き来する馬車や人であふれかえっているし、飲食店や服屋なども充実している。村から行ける範囲の街は村より規模はおおきかったがここまででは無かった。

 

「なに間抜けな声出してんのよ。さっさと行くわよ」

「行くって、どこへ?」

「とり合えず宿をとって荷物を下ろしましょ。その後は……まあ、アンタの行きたいところでいいわ」

 

街で何か見れば記憶が戻るかもとリッカは思ったのだろうか。でなければこいつがそんな事を言うわけもない。まあ、俺としても行ってみたい店は何軒かあるが。

取りあえず安そうな宿を探し、そこの受付に部屋が空いているか尋ねる。

 

 

「申し訳ありません。ただいま部屋は一つしか空いておりません」

 

受付が申し訳なさそうに言う。まあ、これだけ栄えてるのなら外部からの旅人も多いだろうしある程度は我慢しなきゃだめだよな。

 

「じゃあ、その部屋に泊ります」

「は、はあ!?ちょっと、何勝手に決めてんのよ!」

 

俺の言葉にリッカが異を唱えてくる。

 

「なにか問題だったか?」

「問題しかないわよ!なんでアンタと同じ部屋なのよ!」

「半年間は一緒に住んでたじゃないか」

「部屋は別だったでしょうが!だいたいわたし、そういうところではアンタのこと一ミリも信用して無いのよ!」

「そりゃまたなんで?」

「なんで、じゃないわよ!アンタ最初に会った時わたしに何したか憶えてないの?」

「えーっと……あ。へそをなめたな」

「そうよ!そんな変態と同じ部屋で寝とまり出来る訳ないじゃない!」

 

まさかそんなことで警戒されているとは思わなかった。そう言えば半年間の間は修業のとき以外は二人きりになることは無かったが、それも警戒されていたからだったのか。そして、いろいろ考えた末起きている時なら大丈夫と判断したってことか。まあ確かに意識がはっきりしてる時に勝負になったらリッカに勝てる気はしないが。

 

「でも、ここに来るまでは同じ場所で野宿してただろ」

「うぐっ、そ、外と部屋じゃ全然違うのよ!」

 

どこが違うのか全然わからないが、取りあえずリッカが俺と同じ部屋はいやだということははっきりした。これからもしばらく一緒に旅をするのだし、あまり溝を深めるのもよくないな。

 

「わかった。じゃあ俺は他を当たるからお前はここに泊れ」

「え?」

「え?ってなんだよ、俺と同室が嫌だっていうからそれを汲んでやってるんだろ」

「それは……ありがたいけど」

「けど?」

「アンタがそんな簡単に決断出来るとは思わなかった」

 

失礼な。俺が優柔不断だって言いたいのかこいつは。

 

「これからもお前には世話になるだろうから、お礼の前払いみたいなもんんだ」

「……」

 

リッカは黙ったまま、宿泊者リストにペンで名前を書き出す。

それはともかく、他に安い宿は空いているんだろうか。最悪野宿だな……。

 

「承りました。2名様ですね。お部屋は3階の廊下のつきあたりになります」

「だってさ。さっさと行きましょ」

「え?」

 

状況を飲み込めずにいると、リッカが宿泊リストを俺に渡してきた。

 

『宿泊 期間・未定 リッカ ライア』

 

そこには俺の名前もしっかり書いてあった。

 

「お前、話聞いてなかったのか?それとも俺への警戒心なんてのは無かったのか?俺が自意識過剰だっただけ?」

「うっさいわね!あんたはわたしに泊る権利を渡したんだからわたしがその部屋をどう使おうと勝手でしょ」

 

リッカははないきを荒くしながら床に置いてあったカバンを持ち上げ部屋のほうへと歩いて行った。俺は苦笑いする受付から部屋の鍵を受け取り、その後をおった。

 

 

 

***

 

部屋に荷物を置いた俺たちは早速、街を周ることにした。今日一日は俺の興味があるものを片っ端から見てなにか記憶がもどるきっかけにならないか探すことになった。

 

「いらっしゃいませー」

 

最初に訪れたのは本屋だった。どんなところに来てもやっぱり本がない日常ってのは退屈だからな。何冊か買っていこう。

 

「あんた……マジで本の虫よね」

「まあ、村にひろわれて最初の内は畑仕事をする体力もなかったからずっと本読んでたからな」

 

自室の部屋の本棚も、俺が余りにも本を集めたため一度壊れたことがあった。あの時は母さんに呆れられたっけな。

 

「それじゃ、わたしは適当にみてるから買物終わったら教えて」

 

そう告げてリッカは本棚の陰に消えて行った。それを見送り、俺も目当ての魔法学の本の棚を探す。

魔法学の棚はすぐに見つかった。やっぱり結構な種類があるな。それだけ魔法が人々の生活に密接に結びついているということか。適当に一冊とってみる。タイトルは『新発見!6つ目の属性!魔法学者オリバー・シルキタスの魔法解説書』。オリバー・シルキタスと言えば王都に研究所をもつ魔法学研究のスペシャリストだ。俺の部屋にもこのシリーズは何冊か置いてあるが、まさか最新刊が出ていたとは。タイトルの6つ目の属性と言うのも非常に気になる。俺はぱらぱらとページをめくる。最初の方にはオリバー教授の魔法学の今後の在り方やこの本の有用性なんかが書かれていた。さらにページをめくって行くと、ついに『魔法の属性について』という項目がでてきた。

 

『この章では魔法の属性について前の巻までの復習と本書から新しく登場する6つ目の属性について説明します。

まず、前の巻までの復習から。この世界に存在する2種類の魔法、『マテリアルマジック』、『スピリチュアルマジック』の両方には共通する5つの属性が存在します。それは炎、雷、水、土、風の5つです。『マテリアルマジック』における5属性はそれぞれの魔法石を使うことで理論上誰でも使う事ができます。『スピリチュアルマジック』の場合は体内に宿る魔力の属性によって使える魔法が異なります。基本的に一人の人間の体に宿る魔力は一種類ですが、ごく稀に二種類以上の属性を持つものもいます。

そして、5属性には相性があり、相性が悪い魔法相手だと不利になります。関係性は

 

炎→風→土→雷→水→炎

 

矢印の向いている属性の魔法には優位に立てますが矢印が向けられている属性には不利となります。』

 

 

まあ、ここまでは常識の範疇だな。問題は次のページからだ。

 

『そして、わたしたちが今回新たに見つけた属性は『光属性』です』

 

ページを読み進める。

 

『この属性は特定の属性の魔法に有利というわけではありませんが、その代わりに5属性全てをこえる力を持っています。また、現在魔法石は発見できていません。この魔法はリント村という場所の教会で光神スローネの加護のもと訓練を積んだ者だけが使用できます。ですが、加護を受けられる人間がほんの一握りであり、一般への普及は現在ほぼ不可能となっています。現状判明しているのはここまでです。しかし、新たな属性の発見は必ずこの国に影響を与える事でしょう』

 

そこまで読んで俺は本を閉じる。なるほど6つ目の属性『光』か。そもそもの話し6つ目の属性の可能性なんて俺には考えもつかなかった。さすが一流の研究者、固定概念にとらわれないってことか。

よし、この本買おう。値段は……ちょっと高いけど、それに見合った対価だ。

 

 

 

「ありがとうございました~」

「どうも」

 

本を入れてもらった紙袋をもって、俺はリッカの姿を探す。たしかさっき別れたときは恋愛小説のコーナーに向かっていたな。あいつ、恋愛とか興味あったんだな。そうなると一緒に旅してるのが申し訳ないな。たぶんあいつ俺のこと嫌いだし。

 

だが、恋愛小説のコーナーにリッカの姿は無かった。仕方ないので店内を探してみるとリッカは医療系のコーナーにいた。

 

 

「おい、リッカ」

「ひゃう!?」

 

声をかけられたリッカは素っ頓狂な声を上げる。たちまち店内の客の視線がこちらを向く。

 

「な、なによ?」

 

そう言ってリッカは読んでいた本を戻し振り向く。

 

「いや、買物終わったから……ってその本」

 

リッカが戻した本を指差す。よく見えないが表紙には脳外科がどうたら書いてあった。

 

「ち、ちがうから!これは……その……」

「お前、脳外科とか興味あったんだな。じゃあその本も買うか?」

「い、いらないわよ!買わなくていいから!」

 

リッカはそう捲くし立て俺の背中を押し無理やり本屋を出る。

 

「な、なんだよ?何怒ってるんだ?」

「怒ってないわよ!」

 

どう見ても怒ってる人間の顔なんだけどな。

 

 

 

 

「お、そこのお兄さん、その魔法剣、旅の剣士さんかい?」

 

急に聞こえた声に振り向くと70歳くらいの腰の曲がった爺さんが立っていた。俺の魔法剣を興味深そうに見ている。

 

「え、ええ。まあそんなところです」

「そうかいそうかい、ようこそシルドへ。ワシはそこの装備屋の店主のラスティと言います」

「はあ、それはどうも」

「よかったらお二人とも、うちの店を見て行ってくれませんかの?良ければその魔法剣の整備もしますぞ」

 

ラスティは屈託のない笑みで話す。まあ、ここまで来るのにこの剣でけっこう無茶な戦いしたし、見てもらえるのはありがたいな。

 

「それじゃあお言葉に甘えて。いいよな、リッカ?」

「好きにすれば」

 

まだ不機嫌なのかリッカはそっぽを向きながら答える。

 

「ほほ、ありがとうございます。それではこちらへ」

 

ラスティに案内された装備屋は意外と綺麗な外装をしていて店内にはそこそこ客がいた。

 

「うーむ。こりゃあ結構無理な使い方をしましたなあ」

 

俺の魔法剣をコツコツと指で叩きながらラスティは渋い声で言う。

 

「えーっと、新しいのに変えたほうがいいんですかね?」

「いえいえ、整備すればまだ使えますよ。1日頂ければ」

 

たった一日で整備できるのか。大したもんだなこの爺さんは。

 

「それじゃあお願いします」

「はいよ。じゃあお代は返却時に頂きますのでこの紙にサインだけください」

 

渡されたペンで用紙に名前を書き渡す。

 

「はい、どうも。よければ店内もみてってください」

 

その言葉に従い、俺たちは装備を見て回る。この店には魔法剣や魔法銃といった武器もあれば、ローブやコートなど見に付ける装備も売っている。それぞれの服の素材に魔法石を使用しているらしい。

 

「ライア、このコートはどう?」

 

 

リッカが1着とって俺に見せる。

 

「真黒って……ゴキブリかよ。遠回りな仕返しはやめろ」

「ちっ」

 

今こいつ舌打ちしなかったか?だが心の広い俺は聞こえなかったふりをして自分でも1着のコートを手にとる。それは炎のように真っ赤な色をしていた。それを見た俺は何故か懐かしいと感じた。だが、これといって記憶が戻る気配もない。気のせいか。

 

「うわっ何そのどぎつい赤、あんたセンスないわね」

「ほっとけ。ラスティさん、これをください」

 

コートをレジまで持っていき、お代をはらいさっそくコートを着てみる。

 

「おお、勇ましいですなお兄さん」

「……そうかしら」

 

リッカはまだ不満そうだ。そんなに俺をゴキブリにしたかったのか……。

 

「そう言えばお兄さんたちは何の目的で旅を?」

「えーっと、まあ記憶を取り戻すためですかね」

「ほへ?」

「バカ、ライア。そんな事言っても困るでしょ!」

 

リッカはすみませんと頭を下げる。

 

 

「いえいえ、いいんですよお姉さん。理解ができなかった訳では無くてですね、ちょうどタイムリーだと思いまして」

「タイムリー?」

「ええ、この街の脳外科医オルドが先日新しい本をだしましてね。もしかしたらオルドのところへ行けば何か手掛かりがあるかもしれませんぞ?」

「その方の家はどこに?」

「えーとですな。この通りを真っすぐいって左に曲がったところですな」

「ありがとうございます。言ってみます」

 

なぜかリッカがものすごいスピードで話しを進めて行く。脳外科医にあっても俺の記憶喪失には何の関係もないと思うんだが……。

 

「ほら、行くわよライア!」

「ちょ、急に腕をひっぱるな!脱臼するだろ!」

 

文句をいいつつも俺たちは装備屋を後にした。

 

***

 

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