夏野林太郎は勇者部顧問である   作:うりぼーノック

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新規連載スタート。手探り状態なので、ご指摘とか頂けると嬉しいです。


ゆゆゆい - 1

 

 

 

 

私の名前は夏野林太郎。大赦の職員兼讃州中学の数学教師。そして勇者部の顧問である。

勇者部と言うのは――――むっ、何だか、これといって説明しなくてもいい予感。私の勘は当たるのだ。

 

 

 

あえてざっくりと説明すると、表はボランティア活動に励み、裏では世界を襲う脅威と戦う少女達の集まり、という事になるだろうか。

 

 

 

そして日々過酷な戦いに身を投ずる彼女たちを補佐すべく、大赦より派遣されたのが私なのである。

 

 

 

――――――色々あった。

 

 

 

部長の犬吠崎風をはじめ、部員たちは年端も行かぬ少女達ばかり。そんな彼女たちが戦場に向かうのを見送るしかない私。

補佐も過酷な役目である、と言ったのは、かつての補佐役である安芸先輩だっただろうか。彼女の言葉が身に沁みて解った。

 

 

 

戦いの日々に消耗していく彼女たちに、私ができる事は数少ない。それでも彼女たちが少しでも日常を謳歌できるように頑張るのが、補佐役たる私の務めであった。

 

 

 

部活動に付き合うのは勿論、勉学のサポートに身の上相談。そして他色々。感情のまま当たり散らされることもあったし、何なら殺されかけたこともあった。

しかし大赦への不信を募らせる彼女たちに、所詮組織の一部である私が何をできるわけでもない。真摯に向き合う、それだけであった。

 

 

 

力になれたとは到底思えない。だが戦いにケリがついたときに彼女たちは、ありがとう、と言ってくれた。それは私の生涯の宝物と呼べるものだった。

 

 

 

そんなこんなの紆余曲折の末に、勇者部に乃木園子が入部。彼女たちのお役目は終わり、補佐役であった私自身も、今後の身の振り方を考え始めた時――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――異世界召喚である。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

異世界――正しく神樹様の内部世界―――に召喚されてから数日。勇者補佐たる私は忙しない日々を送っていた。

詳しい経緯は省くが、この異世界には神樹様によって、様々な時間や場所から勇者様達が召喚されてきている。 彼女たちは一様に勇者部に集っており、元々勇者部所属の勇者を補佐していた私は、新たに召喚された勇者様の補佐も行うようになったのだ。

歴史書に記されるような勇者様の補佐ができるのは、大赦の職員としては光栄なことなのだろうが……。

 

 

(やっぱり普通の女の子たちなんだよなぁ……)

 

 

実際に接してみて解ったことだが、いくら後に偉大と語られるような勇者様でも、結局は神暦の勇者様と同じく、普段は普通の少女達であった。

他と違うのはただ一点のみ―――――神に選ばれたという事だけである。

 

 

(神様と言うのは酷だよ、ホントに)

 

 

少女たちに過酷な運命を背負わせ、私達大人には只々無力感を感じさせる。 神樹様にも何某かの理由があるのであろうが……やはり多少思う所ができてしまうのだ。

我ながら罰当たりなことを考えているとは思う。 しかしこれで罰が当たるなら、私は甘んじて受ける。

そういう思いがなければ、勇者補佐の役目はやれるものではないと思うのだ。

 

 

「難しく考えすぎかな」

 

 

などと思っていると、勇者部部室の扉の前。ごちゃごちゃと考えていたことは頭の片隅に追いやり、私は部室の扉を開く。

 

 

「あ、先生!」

 

 

部室ではミーティングが行われていたらしく、勇者部部長の犬吠崎風――私は部長と呼んでいる――がホワイトボードの前で、何事かを説明している最中だった。

そして振り向く部員たち。数日前から比べて倍以上になった部員たちの視線に、私は思わず部室の扉を閉めた。

 

 

「何でよ!」

 

 

直ぐに扉が開き、部長によって部室に引きずり込まれる私。

 

 

「いい加減慣れなさいよ!この数日間、何度同じことをやるわけ!?」

 

「面目ない……」

 

 

立腹した様子の部長の言葉に、私は返す言葉もない。 中学生に叱られる教師って……。

 

 

「まだ、私達には慣れませんか?」

 

 

そういったのは上里ひなた様。西暦よりやってこられた巫女で、神暦の四国の礎を築かれた方の一人だ。

尚私は、上里様を含めた勇者、巫女様達に、普通の生徒と同じように対応するようにお願いされている。

元々そのつもりだったのだが、ご本人たちの願いであれば、上層部にも言い訳ができるなぁ、などと思ってしまったのは宮仕えの性である。

 

 

「……話を聞きなさい!」

 

「あうっ」

 

 

部長に足を蹴られて、現実に思考が戻る。すぐに思考の海に沈むのは、私の直さねばならないところである。

私は咳払いをしてから、正直な心境を話す。

 

 

「……上里達には慣れたよ」

 

「だったら何故?」

 

「かつてなく高い部室の人口密度に慣れなくて……」

 

 

上里に、何だコイツ、といった目を向けられる。そりゃそうだろう。

 

 

「ホント、しっかりしてよね!」

 

「はい」

 

 

私が反省し、部長が手打ちとしたところで、ミーティングが再開。今日の活動は川の清掃と、迷子の猫探しと、商店街夏祭りの飾りつけの手伝い、らしい。

 

 

(多いな……)

 

 

部長は―――と言うよりも勇者部全員が―――お人よしの傾向があり、頼られると断らずに依頼を詰め込むことが多々ある。

そういう時は私の方で、調整しなければならない。明日以降の予定を部長と話し合っておかなければ。

 

 

「――――と言う訳で、勇者部出動よっ!」

 

 

部長の号令に応じて、部員が各々振り分けられた依頼解決へと赴く。様々な時代から勇者が召喚されようとも、それを束ねる部長の手際の良さは感心してしまう。

大人としてどうなんだ、それは?

 

 

「私達も行きましょう、先生!」

 

「え?」

 

 

気づくと、私の腕を結城友奈が掴んでいた。

 

 

「行くって、何処に?」

 

「え? 先生は私や東郷さん達と一緒に川の清掃に行くんですよね?」

 

「……え?」

 

 

言われて見渡すと、東郷美森に部長、そして高嶋友奈に郡千景、乃木若葉と上里がこちらを見つめていた。

……成程。私も部活動の戦力に数えられていたという事か。

 

 

「……行こうか」

 

「はい!」

 

 

結城の元気のいい返事に、私はこっそりため息を吐く。小テストの採点をしようと思ってたんだけどなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

川から拾い上げたごみを、分別して袋に詰め込む。やや量が多いので、大赦に頼んでトラックでも出してもらおうか。

 

 

「この世界でも、川にゴミを捨てる輩はいるのね」

 

 

同じくごみを分別していた郡が呟く。どことなく寂しげな雰囲気だ。

 

 

「やはり西暦の頃にも?」

 

「もっと酷かったわね」

 

「これよりもか!?」

 

 

私の目の前には積もり積もって、三つになったゴミ袋がある。これよりも多いの……?

 

 

「酷い時には自転車が捨てられたりしていたからな……」

 

「壊れた家電とかも!」

 

「汚れすぎて、生き物が減ったりもしたんですよ」

 

「えぇ……」

 

 

乃木と高嶋、上里の言葉に、私は戦慄する。 何なんだ西暦、どんな時代だ西暦。

 

 

「ふふ……」

 

 

西暦に思いを馳せながら慄いていると、何故か郡が笑いだした。と言うか乃木も高嶋も上里も笑っている。

 

 

「先生は……本当に面白い人ね」

 

「そうだな。 見ていて、感情の揺れ動きが激しいのが解る」

 

「え、そうなの?」

 

「うん!」

 

 

高嶋の返答に、私はどう答えていい物か迷う。

 

 

「ふふ……別に責めているわけではありません。そういう先生だからこそ、私達も何となく信頼がおけるのですよ」

 

「何となく」

 

「はい、何となく、です」

 

 

上里の言葉に困惑する私。何となく……何となく……。

 

 

「じゃぁ、いいか……」

 

「良いんですか……」

 

 

振り向くとそこには苦笑いを浮かべた東郷美森がいた。結城と部長も一緒だ。

 

 

「お、そっちは終わったのか?」

 

「はい!」

 

「バッチリよ!先生たちの方は?」

 

「終わっている」

 

「見違えるように綺麗になったかな!」

 

「よし!これにて依頼完遂ね! お疲れ様!」

 

 

乃木と高嶋の返答に、 部長が満足そうに言う。 積まれたゴミ袋は計六個。仕分け済みなので、収集場に持っていけば、直で引き取ってもらえるはずだ。

これならトラックでなく、私の愛車――軽のワンボックス――で十分。六個は重いが、学校へと持って帰って……。

 

 

「さ!先生も行くわよ!」

 

「え」

 

 

気づくと各々がゴミ袋を持っていた。

 

 

「先生の車に乗せるんでしょ?」

 

「え? 口に出してた?」

 

「言わなくても、先生の考えなんてお見通しなのよ!」

 

「風先輩の先生への理解力はすさまじいですから……」

 

 

苦笑する東郷。 何となくこれ以上口を出さないほうがいい予感。

 

 

「疲れてるだろうに……」

 

「最後までやってこそ部活動でしょ?」

 

 

部長にはかなわないなぁ。 

 

 

「……じゃあ、最後の一頑張り。頼めるか?」

 

 

はーい、と元気よく答える勇者部の部員たち。 では、私ももう一頑張りと行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

地面に鍬を振り下ろす。やってみて解ったのだが、この畑を耕すという単純作業が意外と難しい。

知識だけでは解らないことは沢山ある、という事を実感する。

 

 

「あら、先生もだいぶ様になってきたじゃない!」

 

「白鳥の指導のおかげだよ……」

 

 

白鳥歌野。諏訪よりやってきた西暦の勇者様の一人。今いる畑の主でもあり、私の農業の師だったりもする。

 

 

「鍬を振り下ろすなんて、簡単なことだと思っていたんだが……」

 

「ノンノン! 畑仕事には知識とともにテクニックも必要なのよ!」

 

「お世話をおかけしました」

 

 

自身の最初を思い……出すのはやめておこう。心が折れる。

 

 

「でも先生も大したものよ! 畑にするには最上の、しかも広い土地を見つけてきてくれたんだもの!」

 

「知識はあったからね……」

 

 

この世界にやってきてすぐの白鳥から、畑に適した土地を提供してほしい、と頼まれた際、私は白鳥歌野についての資料の記述を思い出していた。

曰く、諏訪の食糧危機を救った勇者―――――すると彼女が求めているのは、家庭菜園の規模ではない。恐らく本格的な農地であろう。私はその前提で大赦所有の土地を選定した。

やや土地管理の担当部署と揉めることになったが……畑からの収穫を、相応分大赦に収める、と言う文言でどうにか調整がついた。

 

 

「……そういえばこの前、経理担当の同期が、白鳥様にお礼を言っておいてくれ、って。 良質な野菜が神官や巫女様に好評なんだそうだよ」

 

「あら、そう言ってもらえると嬉しいわね! 私の作るベジタブルが、色々な人の役に立つなんて素敵!」

 

「美味しいうえに収穫量も上々……本当に白鳥は凄いな」

 

「ありがとう!」

 

 

笑う白鳥。彼女の畑は収穫量が多く、担当部署も手のひらを返すようにご満悦。

農業王の名前は伊達ではない、という事だろうか。

 

 

「うたのーん!せんせーい!」

 

「あ、みーちゃん!」

 

 

声がする方向へと白鳥が走っていく。その先には、彼女の親友にして西暦の巫女様である藤森美都がいた。

 

 

「お昼ご飯を持ってきたよ」

 

「みーちゃんのお握り! タイミングもナイスよ!」

 

「えへへ……」

 

 

仲良く笑いあう二人に、何となく微笑ましい気持ちに私はなる。 この光景の為なら、上役とやりあう苦労なんて些細な事だ。

……私はお昼をどうするかな。久しぶりに携行栄養ゼリーで済ましちゃおうかな……。

 

 

「お、やってるわね」

 

「こんにちは、歌野さん、美都さん」

 

「あら、風さんに樹ちゃんも来てたの?」

 

「うん、何でも先生にね……」

 

 

犬吠崎姉妹登場。畑の外での急展開に、私は鍬を所定の位置に戻して帰ることに決めた。

 

 

「どこに行くのかしら、先生?」

 

 

決めた瞬間に部長に肩を掴まれる。ふぇぇぇ……。

 

 

「先生?」

 

「いや、作業も終わったし、帰ろうかなって……」

 

「え? 一緒にお昼を食べていかないんですか? 昨日風さんと話し合って、一緒にお昼を作ってきたんですけど……」

 

「みーちゃんと風さんの合作ランチ!? 先生、食べていかないなんて損よ!」

 

「勿論、断りませんよね?」

 

 

退路を塞がれる。と言うか、部長の妹である犬吠崎樹の圧が凄い。

中学生の圧に負ける教師を、君はどう思うか。

 

 

「食べていきます」

 

「よろしい!」

 

 

そう言って部長は、にこっ、と眩しい笑みを見せた。

 

 

「と言う訳で、じゃーん!」

 

「グレイト! みーちゃんのお握りもおいしそうだけど、風さんのお弁当も気合入ってるわね!」

 

「当然です。 先生の健康は、お姉ちゃんの肩にかかっていますから」

 

「先生の健康……?」

 

 

感嘆の声を上げる白鳥に、犬吠崎が自慢げに答える。そしてその答えに藤森は首を傾げた。

 

 

「この人、放っておくと食生活が崩壊しちゃうのよ」

 

 

部長にこの人呼ばわりされた……しかし口を挟むとろくなことにならないような気がする。

もう遅いか……。

 

 

「食生活がブロークンするって?」

 

「三食を携行栄養ゼリーとかにしちゃうの。 信じられないでしょ!」

 

「三食携行栄養ゼリー!?」

 

 

藤森に、何だコイツ、と言うような目を向けられる。傷つく……。

 

 

「いや、休日はカップ麺とかレトルトカレーとか食べるし……サプリも摂取するし……」

 

「それ、フォローのつもり……?」

 

 

白鳥にも、何だコイツ、と言う感じの目を向けられた。

 

 

「という訳で、私がちょくちょくとお弁当を差し入れているわけよ」

 

「ああ……たまに先生に手渡してる包みって、お弁当だったんだね……」

 

 

部長の言葉に、藤森が苦笑する。

 

 

「偶に家にも招きますしね?」

 

 

そして犬吠崎に止めを刺される。 へぇ、と言った感じの白鳥と藤森の表情がいたたまれない。

 

 

「……いただきます」

 

「はい、先生お茶。 水分補給はしっかりとしないとね?」

 

「ありがとう……」

 

 

部長が水筒から紙コップにお茶を注いで、私に手渡してくれる。 お茶、美味しい……お弁当もおいしい……。

何やら微笑まし気な犬吠崎や白鳥たちの視線を受けながら、私は何度目かの自身の生活改善を誓うのであった。

 

 

 

 

 

 





うたのんエミュ難しい……気を抜くとルー大柴さんのノリになる。 もしかしてそれで正解だったりするんですかね……。


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