夏野林太郎は勇者部顧問である   作:うりぼーノック

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第二回目です。キャラ同士の呼称表が欲しい今日この頃。
 
 
前回書くのを忘れたのですが、この作品では「ワタシ」と「アタシ」は「私」で統一しています。
漢字変換するとどちらも「私」で変換されるんですよね……ご了承ください。



ゆゆゆい - 2

 

本日は休日。何しよう!とか考えていると、インターホンが鳴る。

着替えていてよかった、などと考えつつ、私は家のドアを開けた。

 

 

「おはようございます、夏野さん」

 

「おはよう、三好」

 

 

扉を開くと、そこには三好夏凜の姿があった。服はジャージで、肩には木刀が入っていると思われるケースを下げている。

……嫌な予感がする。

 

 

「今日は久しぶりに、夏野さんに稽古をつけてもらいたいと思ってきました。お願いできますか?」

 

「……稽古ねぇ」

 

 

嫌な予感的中。 私の気の抜けた返事に、三好は「はい!」と強く頷いた後、一気に詰め寄ってきた。

 

 

「久しぶりに夏野さんと剣を交えたいんです! どれだけ私が夏野さんに近づけたのか、知りたいんです!」

 

「もう君のほうが強いと思うけどなぁ……そういえば最後にやったのは、勇者最終選考の前日だったかな?」

 

「はい! でもそれ以来、夏野さんと手合わせをしていません。だから……!」

 

 

更に詰め寄ってくる三好。 こうなっては仕方がない、か。 一応の師匠として、弟子の成長を実感するとしよう。

 

 

「解った、用意してくる。 どこで待ち合わせする?」

 

「ここで待ってます!」

 

「……中に入って待つと良い。お茶でも淹れるから」

 

「ありがとうございます!」

 

 

とことん体育会系ノリの三好に、私は苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで私と三好夏凜の関係について語っておこう。彼女は私の高校時代からの友人の妹である。

彼女の兄である三好春信とは妙に気が合う仲で、ちょくちょく互いの家を行き来していた。そんな時に出会ったのが、三好夏凜だったのである。

最初の方はたいして接点はなかったように思う。が何かの切欠で、彼女と言葉を交わすようになり、親しくなった頃に、剣の稽古をつけてほしい、と頼まれた。 当時の私は剣道部のエースだったので、その話を春信から聞いたのであろう。

私は知り合いの道場を借りて、三好と剣を交えるようになった。三好の剣の腕はみるみる上達し――――――何時の間にか彼女は勇者になっていた。ビックリだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

三好に連れられて砂浜へと向かう。いつもここで剣を振るっているそうだ。

到着すると、そこには既に先客たちがいた。乃木若葉に弥勒夕海子。それにもう一人。

 

 

「……三好夏凜」

 

「楠芽吹じゃない……それに若葉や弥勒も? 何やってるのよ?」

 

「訓練よ」

 

 

三好の疑問に答えたのは楠芽吹。防人と呼ばれる勇者候補生の集まりのリーダーである。

防人自体とは担当部署が別なので交流はなかったが、楠の父親は私の恩人であり、その縁で彼女自身とは知り合いだった。

その娘が勇者候補生の一人で、しかも防人と言うお役目についていたことは知らなかったが。担当部署が違えば、案外解らないものなのだなぁ……。

 

 

「夏凜は解るが……先生も?」

 

「あら、先生も木刀をお持ちになっていますのね?」

 

「そう言えば夏凜が言っていたな……先生も剣をかなり使える、と」

 

 

弥勒夕海子――彼女もまた防人の一人――の疑問に、乃木が思い出したように呟いた。

 

 

「当然よ! 夏野さんは、私の剣の師匠だもの!」

 

「夏野さんが三好夏凜の師匠……? どういうことですか、夏野さん?」

 

 

何故か胸を張る三好の答えに、楠がすぐさま反応。私を睨みつけてくる。やっばーい!

 

 

「貴方は私の師匠ではなかったのですか?」

 

「……どういう事?」

 

 

三好までが睨んできた。私はどう答えたものかを思案する。 すぐに結論に至る。

 

 

「よし! 始めるぞ、三好!」

 

「逃げましたわ!?」

 

 

私の、逃げる、という選択肢に、弥勒が愕然とする。 いやだって、どうしようもないよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三好夏凜と夏野さんが剣を交え始めた。三好夏凜の二刀での攻撃を、夏野さんは流し続けている。

 

 

「中々やるな……」

 

「当然よ」

 

 

若葉の感心したような言葉に、私は短く返す。夏野さんが強いことは、私が一番知っているつもりだ。

 

 

「むむっ……しかし防いでばかり。劣勢には変わりがないのではありません事?」

 

「姿勢が崩れていない。劣勢ならば、夏凜は押し切っている」

 

「夏野さんは目が良いの。生半可な太刀筋では、早々押し切れないわ」

 

 

弥勒さんの問いに若葉が答え、私がさらに続ける。そして解る。恐らく三好夏凜も解っているだろう。

 

 

「そろそろ、夏野さんが反撃に転じるわよ」

 

 

私がそういった瞬間、夏野さんが大きく踏み込んで、三好夏凜へと剣を振るった。 しかし読んでいたのか、三好夏凜は身を逸らすことでそれを躱し、すぐさま右の刀を振り上げる。

夏野さんはその一撃を、身をよじることで躱した。

 

 

「あれで姿勢が崩れないか……」

 

 

若葉の言葉通り、直ぐの反撃にも夏野さんは対応して見せた。さらには反撃とばかりに剣を振るい、三好夏凜の左の刀を重い一撃で手放させた。

返す刀で夏凜の首元に、木刀を突き付ける夏野さん。決着がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうにか師匠としての体面を保てただろうか。そう思いながら三好と向かい合い、互いに頭を下げる。

勝負の後は礼儀が重要だ。

 

 

「……勝てませんでした」

 

「いや、私も危なかった。 体格差がなければ、君の圧勝だったと思うよ」

 

 

悔しそうに言葉を零す三好に、私は素直な感想を話す。20半ばの男と中学生の女子では、そもそもの体格差で圧倒的にこちらが有利なのだ。

 

 

「確かに夏野さんは背が高いな」

 

「186cmありますからね」

 

「何で知ってるんですの!?」

 

 

乃木の問いに、さらりと答えを返す楠。それを聞いて弥勒が驚くが、それにも楠はさらりと答える。

 

 

「夏野さんは、私の父の下で大工仕事をしていたの。作業着のサイズを測っていたのを見たのよ」

 

「成程、そういう訳でしたのね」

 

「高校生から大学生までやってたんだよ。親父さんにはお世話になった……」

 

 

その答えに弥勒は納得したらしい。私はと言うと、学生時代にお世話になった楠の父親の事を思い出していた。

 

 

「何かと目をかけてくれて……あの人がいなければ、今の私は無かったかもしれないなぁ」

 

「……その癖にウチの就職蹴って、あっさりと大赦に入社しましたけどね」

 

「う……」

 

 

楠からの恨みがましい視線に胸を抑える。いや、親父さんとはちゃんと話し合いましたしね?解っていただきましたしね?

我ながら言い訳がましい……。

 

 

「夏野さん! もう一本お願いします!」

 

「お、おう! 相手しよう!」

 

 

三好の言葉にここぞとばかりに乗っかる私。 正直疲れているけど、この楠からの視線から逃れたい……!

 

 

「その後は私とお願いします」

 

「私ともお願いいたしますわ!」

 

「私も手合わせ願いたい」

 

「……解った!」

 

 

楠、弥勒、乃木の言葉に、私はやけくそ気味に答える。やってやる!やってやるぞぉ!

 

 

 

結局、全員合わせて10本ぐらいやった。死ぬぅ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教頭から小言をいただいた。曰く「生徒との距離が近すぎます」との事。勇者部の部員だけではなく、全校の生徒に対して、らしい。

試しに「どのぐらいの距離が適切ですか?」と聞いてみる。すると「自分で考えなさい」とのお答。

 

 

「教師と言うのは難しいんだなぁ……」

 

 

新任だと覚えることがいっぱいだ。 などと考えつつ勇者部の部室の戸を開ける。

 

 

「あ、ナツリン先生~」

 

 

私に気づいて、部室内にいた乃木園子が声を上げた。

ちなみにナツリンと言うのは、私に対して乃木園子がつけたあだ名で、紆余曲折の末に部活中限定でその名前で呼ぶことを許可している。

ひょっとしてこういう所で許可してしまうのが、教頭の小言につながるのか?

 

 

「こんにちは、乃木」

 

「こんにちは~。 ところでナツリン先生。私が昨日投稿した小説は読んでくれました?」

 

「読んだよ。 ……と言うか、感想欄に感想を書いたよね?」

 

「確認したくなっちゃいまして~」

 

 

乃木の趣味は小説の執筆。 かなりの実力者のようで、私も彼女の作品は欠かさず読んでいる。

 

 

「え、先生もソノコストだったんですか!?」

 

 

突然伊予島が声を上げた。 そういえば彼女も乃木の小説のファンだったか。しかしソノコストとはいったい?

 

 

「……まぁ、ファンとして欠かさず読んでいるよ」

 

「そうですか! 昨日の投稿もすごく素敵でしたよね!」

 

「そう言って貰えると嬉しいな~」

 

 

熱量のこもった伊予島の称賛に、乃木が少し頬を赤くする。 昨日の投稿、ね……。

 

 

「乃木……あれ『拾った』だろ?」

 

「ぎくっ」

 

「解りやすい反応をありがとう」

 

 

彼女の小説のクオリティは確かだし、読み応えがあるのは確かなのだ。なのだが。

 

 

「あまり周りに迷惑をかけるなよ。 人物のモデルは結城と犬吠崎で間違ってないよな?」

 

「えへへ~……創作意欲が刺激されちゃって~……」

 

「伊予島も程ほどに。 この間なんて土居が相談に来たんだぞ……」

 

「す、すみません……」

 

 

度々周りからメモを取る乃木に、偶に協力してしまう伊予島。これに小学生の乃木園子が加わると、暴走と言っていいありさまとなる。

ちょくちょく釘を刺しておかねば。

 

 

「そう言えば今日のナツリン先生は、部室に来るのが遅かったね~?」

 

「まぁ、ちょっとあってね」

 

 

乃木の露骨な話題転換。 まぁ、折角だし、生徒との距離について彼女たちの意見を聞いておこうか。

 

 

「唐突な質問なんだけど、私と生徒との距離感をどう思う?」

 

「本当に唐突ですね……先生の生徒との距離感、ですか」

 

「勇者部だけじゃなくて~?」

 

「そうだ」

 

 

私の質問に乃木と伊予島が思案し始める。

 

 

「他の先生に比べると……近いかもしれませんね」

 

「やっぱりか……」

 

 

伊予島の答えに肩を落とす。 参考までに、どういう所が距離が近いと思うかを訊いてみる。

 

 

「うーん……休み時間に男子によくサッカーに誘われてるところとか~?」

 

「え、ああいうの断ったほうがいいの?」

 

「そういう先生には会った事がないってだけかも~?」

 

 

そうか……確かに私もそういう先生には会った事がなかったな……。

 

 

「あ、そういえば先生、この間女子生徒達に何かもらっていませんでしたか?」

 

「調理実習で作ったクッキーをもらったよ。 結構くれる子が多いんだよね」

 

 

クラスの男子とかに渡したりとかする青春はないのだろうか。

 

 

「へぇ……」

 

 

そして何故か乃木が目を細め、私の背中に悪寒が走る。 ……きっとメモでも取るんだな!次回作のネタにしちゃうんだな!そうに違いない!

ここは目くじらを立てずに許してやろう!はい、この話題は終了!

 

 

「つまりサッカーの誘いは断り、調理実習の後のおすそ分けは拒否する……そんな感じか?」

 

「他にも色々あるよね~」

 

「……そういえばクラスメイトに聞いたんですけど、先生って生徒からのラブレターに、一つ一つお手紙でお返事をしているとか」

 

「へぇ」

 

 

伊予島の言葉に、再び乃木の目が細る。 待って、伊予島は私に何か恨みでもあるの?言わなくていいじゃん、そういうのは!

 

 

「……全部断りの手紙だよ。当然だけど」

 

「そうですか」

 

 

にっこりと笑う伊予島。何か怖い。気のせいに違いない。

ともあれ、結論は出た。

 

 

「つまり私は生徒との距離が近すぎるという事だな?」

 

「そういう事になるのかな~……?」

 

「悪い事だとは思いませんけど……」

 

「でも、何で急にそんなことを気にしだしたの~?」

 

「うーん……まぁ、ここまで話したんだから言ってもいいか」

 

 

ここに来る直前に頂いた教頭からのお小言を話す。 それを聞いた乃木と伊予島は顔を見合わせた。

 

 

「先生って、そういうお小言を気にするタイプだったんですね……」

 

「今日の伊予島は辛辣だな……」

 

 

そんなに私はお気楽に見えているのだろうか……? また一つ、悩みが増えた。

 

 

「うーん……」

 

「乃木?」 「園子先生? どうかしましたか?」

 

 

一方の乃木は唸ったまま動かない。私と伊予島が声をかけると、乃木は、あ、と呟いて顔を上げた。

 

 

「あの教頭先生って、乃木家の分家の一員だったね~」

 

「乃木家の分家……え、勇者補佐の再選考の関係って事?」

 

「見覚えあるからね~」

 

 

これで得心がいった。 この世界に来て少しした頃、一時私は勇者補佐のお役目を下ろされたことがあったのだ。

原因は初代勇者様達。西暦よりやってこられた偉大な勇者様に仕えることは、夢にも見れないほどの栄誉だ。

そういう訳で名家や派閥等が、どこに所縁がある人間が、その栄誉を得るかを争っていたらしいのだが……。

 

 

「園子先生や若葉さん、ひなたさんにもこっ酷くやられたのに……何というか逞しいですね……」

 

 

伊予島が苦笑するのも当然で、乃木達が相当厳しく彼らに『言いつけた』らしい。何をやったかの詳細は聞いていない。怖いから。

ともかくその効果もあって、三日もしないうちに私はお役目へと復帰することになったのだ。

 

 

「もう一回、ぷんぷん、ってしちゃう~?」

 

「必要ないよ」

 

 

乃木の可愛らしい言葉での提案を私は断る。 だってこの子、目が笑ってないの……。

 

 

「ま、原因も解ったことだし、この話題は終了でいいか……二人とも、今日の予定は?」

 

「ありません~」

 

「私もありません」

 

「今日は勇者部の活動予定もないし……かめやにでも行って、最近出た小説についてでも語り合う? 相談に乗ってくれたお礼に奢るよ」

 

「いいですね、それ!」

 

「私も賛成で~す」

 

「決まりだ」

 

 

という訳で、我々はかめやに場所を移して、様々な小説について語り合うのだった。

 

 

 

翌日、職員室で仕事をしていると、教頭が真っ青な顔で「言い過ぎました」とか言ってきたので、「気にしないください」と返しておいた。

何があったのだろうか……いや、どのような事情があろうとも、私は只々勇者補佐のお役目に邁進するのみだ。それが私の使命だからである。

だから部室に行ったら乃木園子と上里が満面の笑みを浮かべていて、その横で乃木若葉が苦笑いしていたとしても関係ないのだ。ないったらないのだ。

 

 

 





余談ですが夏野は、若葉、園子はそれそれ乃木呼び。園子(小)は園子ちゃん呼びにしています。
若葉と園子が一緒にいるときは、フルネームで呼んでいます。意地でも生徒の事をファーストネームで呼ぼうとしない人なのですね。メンドクサイ。(えー


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