夏野林太郎は勇者部顧問である   作:うりぼーノック

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第三回です。間が空き過ぎたような気もしますが、気のせいに違いないです。


今回も「ワタシ」と「アタシ」は「私」に統一させていただいております。
次回以降、ちょっと修正を図っていこうかな……。


ゆゆゆい - 3

 

 

 

定期テスト終了。採点の為に暫く勇者部の活動に顔を出せない日々が続いたが、それも終了。

私はその日の業務もそこそこに部室へと向かう事にした。

 

 

「……うーむ」

 

 

しかし部室に近づくにつれ、段々と私の足は重くなっていく。過るのは英語担当の教師から言われた一言。

うーん……多分彼女達も自覚はしていると思うが……私からも言わないとダメだろうか?

等と考えながら部室の扉を開けると、部員達の一部が机に向かっている姿が目に入った。

まぁ、全教科の答案が返ってきているらしいし……むべなるかな。

 

 

「あら、こんにちは先生」

 

「こんにちは、上里」

 

 

私に気づいた上里が声をかけてきた。

 

 

「定期テストの採点、お疲れ様です」

 

「そんなでもないよ……むしろこの後の生徒のほうが大変なんじゃないかな」

 

 

上里の言葉に私は軽く答える。そして、ふ、とホワイトボードへと目を向けてみる。

そこには「勇者部英語科目教科週間」と大きく書かれていた。

 

 

「……ほら、やっぱり生徒のほうが大変だ」

 

「仰る通りかもしれませんね」

 

 

私の言葉に、上里が苦笑する。

そう、定期テストにおいて我らが勇者部美員たちの多くは、英語教科の成績が振るわなかったのである。

 

 

「確か結城と土居は補修だったか?」

 

「ご存じでしたか」

 

「英語担当の秋山先生に小言を頂いたからねぇ」

 

「あらまぁ……」

 

 

私の答えに、上里は返答に困った様子だ。 深刻にとらえられてしまったか?

 

 

「大したことは言われてないけどね。 一応顧問として注意をされただけだよ」

 

「そうですか」

 

「それにしても……補修組の結城と土居以外も勉強しているんだな」

 

 

机へと視線を向ければ、結城と土居の他にも英語の教科書を広げている部員がいる。

 

 

「部長と犬吠崎と加賀城に山伏……」

 

「ギリギリだったそうです」

 

「へぇ」

 

 

補修じゃなければ別に気にする事はないような……と思ってしまうのは、私が真面目な学生ではなかっただろうか。

そもそもこの世界で勉強をする意味は然程ない。私なら盛大にサボっていただろうなぁ……。

まぁ、教師として、そんな事は口が裂けても言えないのだが。

 

 

「それに、テスト期間の前後にバーテックスの激しい侵攻がありましたから……思うように勉強できない人も多かったようです」

 

「そう言えばそうだったか……どうにも忘れがちだ」

 

 

バーテックス侵攻の際、私は樹海からは切り離されてしまうので、侵攻の多い少ないの実感は湧きにくいのだ。

しかしそれを教えてくれた上里は問題なさそうな様子だ。

 

 

「上里は大丈夫だったのか?」

 

「私は問題なく。若葉ちゃんも完璧ですよ」

 

 

ふ、と視線を向ければ乃木若葉が虚ろな目で、ぼんやりと窓の外を眺めている。そしてそれを見つめる上里は満足げに笑みを浮かべていた。

……まぁ、テストを落とさなかったのであれば教師的には問題ないし!何があったは聞かないでおこうかな!

 

 

「……けれど、他の教科の点数はそこまで落ちてなかったがな。 何で英語だけ?」

 

 

私の担当する数学教科に至っては、全員が平均点以上を取っていたぐらいだ。何故、英語だけが?

その疑問に答えてくれたのは、郡だった。

 

 

「神暦では英語自体を使うことが少ないじゃない?この世界に来てから、英語を主に話す人に会った事がないわ」

 

 

成程、確かに神暦の四国において公用語は日本語である。

そして部員達から聞いた外のありさま。それを考えれば、外国人などが来れるはずもない。

英語を使用する機会なんてそうそうないわけだ。

 

 

「むしろ三百年経っても、英語の授業というものが残っていたことが驚きね」

 

「そうは言っても、いずれ平和な時代が訪れるだろうから。 その時に備えておかなくちゃ、ね?」

 

「そうだよ、ぐんちゃん! 何時の日か勇者が天の神を倒す時代が来るんだよ!」

 

「……そうね、高嶋さん」

 

 

高嶋の力強い言葉に郡が頷く。 私もその日を信じているからこそ、勇者補佐の役目を務めているのだ。

それはともかくである。

 

 

「……で、英語の触れることが多いはずの西暦組の土居はどうして補修なんだ?」

 

「要領が悪いんじゃない……?」

 

「うおぉぉい! それは酷いんじゃないか、千景ぇ!」

 

 

バッサリと切り捨てた郡に、土居が叫ぶ。

 

 

「そもそもバーテックスが悪いんだぞ! ちまちまと侵攻してくるから、タマが勉強する時間が取れなかったんじゃないか!」

 

「そーだよ! ちゃんと勉強する時間が取れていたら、もっと点数が取れたんだよぉ!」

 

 

土居の熱弁に加賀城が便乗してくる。 うーん、確かに激しい戦いの後に、勉強の時間をとれ、というのは酷な話か。

学生と勇者のお役目の両立は、私が思う以上に難しいのかもしれない。

正直教師としては取りたくはない手段なのだが……。

 

 

「……多少、融通が利くように頼んでみるか?」

 

「え!? そんな事ができるんですか!?」

 

「そういうのは早く言ってよ!」

 

 

結城と部長が大きな声を上げた。 というか、部室にいる部員全員がこちらを見ている。

そんなに大変だったのか……まだまだ私の気配りが足りない、という現れなのかな。反省。

 

 

「それは……大赦経由で頼む、という事ですか?」

 

「いや……まぁ、そちらも介すつもりではあるけどね」

 

 

伊予島の問いに私は首を振る。それよりも手っ取り早い方法があったりするのだ。

 

 

「英語の秋山先生は個人的にも親しい人だから。 私のお役目の事も知っているし、何とか頼み込んでみるよ」

 

 

瞬間、部室の空気が凍った。

 

 

「え」

 

 

思わず動揺する私。何だ、今回は何が地雷だったんだ!?

 

 

「先生……」

 

「あ、はい」

 

 

何処か底冷えのする結城の声に、私は敬語で返してしまう。情けない、とは思うが迫力がね?

 

 

「先生って、秋山先生と親しいんですか?」

 

「あ、ああ。まぁ、ね。 よく一緒に呑みに行ったりするよ」

 

 

据わった眼で訊いてくる結城に、私は怯みながら答えた。

ますます冷える部室の空気。 どうしよう……。

 

 

「へー……あの美人先生とねー?」

 

 

部長参戦。 それに続いて神暦の勇者部員達が口を開く。

 

 

「スタイルも抜群ですよね」

 

「胸も大きいですし……」

 

「腰は細くて~」

 

「お尻も大きいわよね」

 

 

上から東郷、犬吠崎、乃木園子、三好の言葉となっております。

すっごく怖い……逃げたぁい……。

 

 

「……雀」

 

「はぇっ!? 何、メブ!?」

 

「しっかり勉強しなさい。 私も付き合うから」

 

「え、でも融通が利くって……」

 

「加賀城……今の楠に何を言ってもダメ……」

 

「しずくさんの言う通りですわ……私達も協力しますから」

 

「せ、せんせぇ~!」

 

 

加賀城が涙目で助けを求めてくる。むぅ~りぃ~。 

あと、何故か国土がこちらへと、にっこり笑いかけているぅ……。

 

 

「ゆ、結城!タマたちは補修なんだぞ!? ここは融通を利かせてもらうべきだろ!?」

 

「勇者部五か条! なせば大抵なんとかなる!」

 

「その意気よ、友奈ちゃん。 私も全力でサポートするわ」

 

「ありがとう、東郷さん!」

 

「私達も頑張るわよ、樹!」

 

「うん! お姉ちゃん!」

 

「あ、杏ぅ~……!」

 

「もうどうしようもないよ、タマっち先輩……頑張ろう?」

 

「……私も協力するわ。 流石に同情を禁じえないもの」

 

「千景ぇ~……!」

 

 

意気込む結城や犬吠崎姉妹とは反対に、涙目で叫ぶ土居が伊予島や郡に慰められている。

混沌としか言いようがない。

 

 

「ホント、先生は面白すぎるにゃー」

 

 

秋原の一言が、何故か私の心を抉った。

 

 

 

 

 

 

結果。結城と土居は補修において満点に近い点数を取った。さらに直近の小テストにおいては、勇者部全員が好成績をおさめたそうだ。

 

 

 

秋山先生からはお褒めの言葉を頂き、祝いの飲み会を提案された。

勿論丁重にお断りした。これ以上の混沌は避けたいのです……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

休日。諸々の生活用品を買い足すために、愛車を駆って買い出しに向かう。

 

 

「ついでに食料品の類も買っていこうかな……」

 

 

カップ麺も栄養ゼリーもストックがあるが、早め早めに買っておくに越したことはない。

等と考えていた時だった。道の向かい側の公園に見知った顔を発見する。

 

 

「あれは……銀ちゃんか」

 

 

三ノ輪銀。今より少し過去からやってきた小学生勇者だ。

その彼女の傍には何やら号泣している女の子がおり、どうやらその対応に苦慮している様子である。

 

 

「何があったのやら……」

 

 

見て見ぬふりはできない。手近な場所に車を止めて、銀ちゃんの下へと向かう。

 

 

「こんにちは、銀ちゃん」

 

「あ、夏野さん……!」

 

 

私に気づいた銀ちゃんの表情が、ぱっ、と明るくなった。助けに船、とでも思ったのだろうか。

 

 

「何か困りごとかい?」

 

「そうなんですよ……実はこの女の子の自転車がですね……」

 

 

泣き続ける女の子の傍らには、自転車が転がっている。

 

 

「私が歩いていたら、この子が泣いていまして。話を聞いたら、転んで自転車を壊しちゃった、っていうんです」

 

「壊した? どんな風に?」

 

「聞けたのはそこまでで……その後はずっと泣き通しなんで、どうにかしてあげたいんスけど……」

 

「そこまで手が回らない、と」

 

「女の子の方を放っておくわけにはいかないですし……それに自転車のどこが悪いのかもわからなくて困っていたんです」

 

「成程……」

 

 

女の子の傍に転がる自転車を持ち上げてみる。

 

 

「あ、ナツホの自転車……!」

 

「心配しなくても大丈夫!」

 

 

声を上げる女の子に、銀ちゃんが笑いかける。

 

 

「この人は私の知り合いで、凄い人なんだ! 自転車なんてすぐに直してくれるよ!」

 

「本当!?」

 

「ですよね、夏野さん!」

 

「……おう!」

 

 

期待の目を向ける銀ちゃんに、思わずどもる。

何かハードルをとてつもなく高く上げられた……。 ともあれ自転車の具合を見てみる。

 

 

「ああ……チェーンが外れてるのね……」

 

 

しかも厄介なことに少しねじれて、絡まっている。

 

 

「な、直りますか?」

 

「これくらいなら、ね」

 

 

心配そうな銀ちゃんに、軽く答える。昔から機械弄りの類は得意なのだ。自転車のチェーンのまき直しなんて、お手の物。

 

 

「……これで良し! ちょっと乗ってみてくれるかな?」

 

「う、うん!」

 

 

女の子が恐々といった様子で、自転車に跨る。私と銀ちゃんもその姿を、固唾をのんで見守る。

 

 

「あ……走れる!走れるよ!」

 

「ほっ……」

 

「あぁ、よかった! 流石、夏野さん!」

 

 

喜ぶ女の子に、ほっ、と安堵の息を吐く。 隣にいる銀ちゃんも同様だ。

しばらくすると女の子は再び私達の下へと帰ってきた。

 

 

「ありがとう、お兄さん!」

 

「力になれて、よかったよ」

 

「よかったな、お嬢ちゃん!」

 

「うん! お姉ちゃんもありがとう!」

 

「どういたしまして!」

 

 

女の子のお礼に、笑って応える銀ちゃんと私。

やがて走り去っていく女の子の背を見ながら、私はもう一度安堵の息を吐く。

 

 

「巧く直ってよかったよ」

 

「すいません、夏野さん。 私の事に巻き込んじゃって……」

 

「これくらいどうって事ないよ」

 

 

申し訳なさそうに言う銀ちゃんに、私は首を振る。

 

 

「それに困っている人を放っておけないのは、銀ちゃんの良い所だものね」

 

「えへへ……」

 

 

私の言葉に照れくさそうに笑う銀ちゃん。その反応に私は懐かしさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

かつて私は三ノ輪家の近所に住んでおり、銀ちゃんとは顔見知りだった。

 

 

すれ違えば挨拶をしたり、時々立ち話をする程度の関係だったが、お互いに知った仲だったので、この世界で再会したときに銀ちゃんは相当驚いた様子であった。

 

 

近所の気やすい新卒のお兄さんが、二年後には勇者の補佐役になっていたのだ。驚くのも無理はない、といったところだろうか。

 

 

 

 

 

 

「夏野さん?」

 

 

銀ちゃんの呼びかけに、はっ、と意識が戻る。

 

 

「え……ああ、どうした?」

 

「いえ、何かボーッとしてたんで……」

 

 

心配そうに私の顔を覗き込む銀ちゃん。自身の悪癖で、要らぬ心配をかけてしまったか。

 

 

「悪い癖でね……何かを考え始めると、すぐに周りが見えなくなってしまう」

 

「考え事ですか?」

 

「大した事じゃないけど、ね」

 

 

心配そうな銀ちゃんに、私は笑って返す。あまり深堀されるとまずい。

話題を変えよう。

 

 

「そう言えば銀ちゃんは、何しにここに? 何処かに出かけるのかい?」

 

「……あ」

 

 

私の問いに、銀ちゃんが、しまった、という表情で固まった。

 

 

「イネスで須美と園子と待ち合わせしてたんだった!」

 

 

また遅刻だ!と肩を落とす銀ちゃん。

そう言えば以前に、遅刻が多くてよく先生に怒られる、と話していた記憶がある。生活態度に問題のあるような子には見えなかったので、その時は不思議に思ったものだったが……。

今日のようにトラブルに巻き込まれては、解決の為に奔走していたのだろうか。遅刻も多くなるわけだ。

 

 

「待ち合わせ時間は?」

 

「えっと……!」

 

 

私の問いに銀ちゃんが答えた時刻と今の時刻、そしてイネスの場所を考える。 ……徒歩では到底間に合いそうもない距離だ。

しかし徒歩でなければ。例えば車なら。

 

 

「私の車に乗っていくといい。イネスまで送るよ」

 

「え!?良いんスか!? でも夏野さんにも用事があるんじゃ……?」

 

「問題ないよ」

 

 

申し訳なさそうに言う銀ちゃんに、私は笑って見せる。

 

 

「どうせ日用品や食材の買い出しに行くところだったんだ。 イネスで買っていけば問題ないよ」

 

「あ……ありがとうございます!」

 

 

話は決まった。早速近くに止めた車へと乗りこみ、イネスへと向かう事にしよう。

 

 

「そう言えば……夏野さんも料理をするようになったんスね?」

 

「え?」

 

 

シートベルトを締めながら銀ちゃんが言う。

料理?何のことだ?

 

 

「だって日用品と一緒に、食材も買いに行くんでしょ?」

 

 

私の戸惑いを余所に、銀ちゃんが一抹の疑いもないまなざしを向けてくる。

ああ、食材ってそういう……うん……うん……。

 

 

「……流石に、食生活の改善は必要かと思って、さ」

 

「そうですよね!」

 

 

何やら嬉しそうに笑う銀ちゃんに、私はあいまいな笑みを浮かべながら思う。

言えない……私の言う食材とはレトルトにカップ麺、栄養ゼリーの事だなんてとても言えない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イネスに到着。銀ちゃんに別れを告げて、一人スーパーへと向かう。

目的の日用品を籠に入れたら、次に目指すはカップ麺のコーナーだ。

ずらりと並んだ商品に、思わず目移りしてしまう……!

 

 

「お、新商品が……カップ蕎麦?」

 

 

うどんとラーメン以外のカップ麺なんて、近所のスーパーではお目にかかれないので思わず籠に入れてしまう。

香川人と言えども、偶には蕎麦も食いたくなるよネ!

 

 

「許せ、乃木若葉……」

 

 

想像の中の乃木若葉が裏切者!と騒いでいるので、謝罪を述べておく。

さて、次はレトルト食品コーナーだ。私は買い物カートを押しながら、ふ、と三人の小学生勇者達の事を考え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年前。私は大赦の庶務課に所属していた。業務は多岐にわたり、入赦したばかりの私は作業にてこずってばかりだった。

 

 

そんな中祭事担当部署から、庶務課に応援の要請が来た。何でも勇者様の一人が、お役目で命を落としたらしい。その葬儀の応援にきてくれ、との事だった。

 

 

それを聞いたとき、私は勇者様の尊い犠牲に感謝はしていたが、悲しみなるものはさほど感じてはいなかったように思う。

きっと勇者様を遠い世界の存在のように思っていたからだろう。

名も顔も知らないが、神樹様に選ばれた勇者という崇高なお役目につく人――――そんなイメージがあったのだ。

 

 

その考えを打ち砕かれたのは、祭儀場にいた夫婦を見た時だった。見知った顔――――そう三ノ輪夫婦である。

体を震わせながらも、悲しみをこらえる夫婦。彼らが抱える遺影には――――つい昨日にも挨拶を交わした少女、三ノ輪銀の姿があった。

 

 

神樹様に選ばれ、人知れず世界のために戦っていた勇者は、私の近所に住む元気な女の子だった――――その事実に私は打ちのめされた。

 

 

幸いと言っていいのか私の動揺は仮面のおかげで気取られることはなかった。

そしてその動揺を誤魔化す様に、淡々と祭事担当の神官の指示に従って葬儀の準備に加わった。

 

 

もちろん三ノ輪夫婦や銀ちゃんの弟たちとも言葉を交わすこともなく。

 

 

そして壇上の前で泣いていた二人の女の子とも―――――――。

 

 

その後の私は以前にも増して、大赦の業務に励んだ。

そしてそれが評価されたのかどうかは知らないが、半年ほど前に勇者補佐のお役目を頂き、今に至ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時から、がむしゃらにやってきた。だからこそ痛感する。

昔も今も……大赦は、いや大人は無力だ。

 

 

「考えても仕方がないんだろうけど……」

 

 

それでも私は行動せずにはいられない。今はこの世界での経験を、どうにか一部だけでも持ち帰る方法を探っている最中だ。

バレたら神樹様への不敬という事で、大赦どころか四国にも居場所がなくなるのであろうが……その時はその時だ。

 

 

「レトルトはOK。後は栄養ゼリー、栄養ゼリー……」

 

 

まぁ、それはさておき。私は本命の栄養ゼリーコーナーの前に立つ。

さぁて、どれを買おうかなぁ……。

 

 

「みぃちゃったぁ~♪」

 

「え?」

 

 

背後から聞き覚えのある声がした。 嫌な予感しかしない!でも振り返る以外の選択肢はない!

果たしてそこには、先ほどまで思いを馳せていた三人の小学生勇者の姿があった。

 

 

「何故君たちがここに……?」

 

「ミノさんから聞いた、ナツリンさんが食材を買う、っていうワードで、面白い事が起きそうな予感がしたんです~♪」

 

 

楽しそうに笑う乃木園子(小)。 面白い事って……何?

 

 

「夏野さん……いや、想像はしていましたけどネ?」

 

 

銀ちゃんが苦笑いしながら言う。 え、最初から信頼されてなかったの?

そして最後の一人、鷲尾須美が怒りの表情を浮かべて言う。

 

 

「……風さんに通報します」

 

「止めよう。それだけは止めよう?」

 

 

恥も外聞もなく小学生に縋る大人を、君はどう思うか。しかし形振り構っていられない事情がある。

これ以上彼女に生活を侵食されたら、本当にダメ人間になっちゃう!

 

 

「こんな食生活をしておいて、今更ダメ人間も何もありません!」

 

 

須美ちゃんの正論にぐぅの音も出ない。でも……!でも……!

 

 

「部長にだけは……部長にだけは言わないでくれ……!」

 

「風さんとの間に、いったい何が!?」

 

 

私の情けなすぎる対応に、銀ちゃんが愕然としている。  嫌だ、語りたくない!

 

 

「大丈夫だよ、ナツリンさん?」

 

「え?」

 

「そのっち?」

 

 

わたわたとやっていると、園子ちゃんが口を開いた。首を傾げる須美ちゃんと私。そして苦笑いする銀ちゃん。

そして彼女は言った。

 

 

「わっしー先輩に通報したから~」

 

「…………」

 

「フーミン先輩じゃないから、セーフなんよ~」

 

「………………」

 

「あ、夏野さんが膝をついた」

 

「そのっち……見事な止めの刺し方ね」

 

「それほどでも~」

 

 

絶望的な事態だ……。 最早打開策は、無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからというもの神暦の勇者部の面々や、楠に国土等と言った面子が度々私の家に来ては食事を作ってくれるようになった。

 

冷蔵庫には常に誰かの作り置きがある。しばらくすると小学生組や西暦組、そして残りの防人組も来るようになってしまった。

 

私の食生活に関する記憶だけは、元の世界に持ち帰ってほしくない。そう思いながら、結城と東郷の合作和風ハンバーグを食べるのだった。

 

……美味しい。

 

 

 

 





ちなみに銀ちゃん他死亡組生き残りルート解放のカギは、この世界でヤンデレる、だったりします。
という訳で頑張れ、夏野。勇者達の幸せの為にヤンデレフラグを乱立させるのだ!

尚この攻略情報の真偽を書く予定はないです。(えー
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