夏野林太郎は勇者部顧問である   作:うりぼーノック

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リング☆ドリームのサービス終了を悲しむ男!(挨拶


第七回目です。年越し回です。頑張れば書けるものですねぇ……。



本作では「ワタシ」と「アタシ」は「私」に統一させていただいております。


活動報告欄ではリクエストを募集中です。良ければ書いていってくださいな。


ゆゆゆい - 7

 

 

 

大晦日。教師としてだけではなく、大赦の職員としても仕事納め。

早々に仕事を切り上げて、家路につく事にする。

 

 

「あー……しかしうっとうしい……」

 

 

私は久しぶりにつけた大赦の仮面へと思いを馳せる。

しっかりと前が見えるように作られているとはいえ、顔を何かで覆うというのは中々に邪魔くさい。

これ、神樹様にお仕えするうえで必要な事なのだろうか?

 

 

「答えは出そうにないな……」

 

 

勇者部の巫女の面々に尋ねれば、何かが解るだろうか……等と考えていた時だった。

 

 

「やぁ、林太郎じゃないか」

 

「む?」

 

 

振り向けば、久しぶりに見る友人の姿があった。

 

 

「春信じゃないか。 君も今帰りかい?」

 

「そんな所だ」

 

 

三好春信。三好夏凜の兄にして、私の学生時代からの友人である。

 

 

「実際に会うのは久しぶりだっけか?」

 

「連絡は取り合ってはいたが……顔を合わせるのは久しぶりかもね」

 

 

私の問いに春信が答えた。確かにそうだ。前に顔を合わせたのは、この世界に来てすぐぐらいの事だった筈だ。

 

 

「まぁ。お互い忙しい身だからな……」

 

「自分で言うのか?」

 

「少なくとも、君はそうだろう」

 

 

苦笑する春信に、私はそう言ってやる。

彼は勇者システムの制作・改良を受け持つ部署―――サイバー課に所属している。その業務が如何にハードであるかは、私でも察する。

 

 

「……まぁ、ね」

 

 

そして春信は否定しなかった。

 

 

「だが、僕たちの頑張りが勇者様達のお力になると考えれば、ね」

 

「…………」

 

 

勇者様達のお力、か。

 

 

「……妹とは連絡を取っていないのか?」

 

「難しいよ、やっぱり」

 

 

私の言葉に春信が苦笑する。

 

 

 

妹―――勇者部所属の三好夏凜の事である。彼女と春信の間には、多少の確執があることを私は知っていた。

 

 

 

「この世界には君たちの両親は来ていないんだろう? 遠慮することもないだろう」

 

「別に両親に配慮して連絡を取ってるわけじゃないからな……」

 

 

苦い表情で言う春信。この兄妹の確執には、彼らの両親が深く関わっているのだ。

ついでに言うと彼らの両親にとっては、私も気に入らない類の人間であるらしい。

 

 

「君にも、嫌な思いをさせたしな」

 

「私の事は良いんだよ。 というか自分で言うのもなんだが、私はどこの馬の骨とも知れない人間だから」

 

 

幼い頃に両親を亡くしている事に加え、春信と出会った当初はグレている扱いだったからね。

が、私の言葉に春信は苦い顔で言う。

 

 

「そういう事を言うものじゃない。 君は立派な人間だ」

 

「……その真っすぐさで、妹にも当たってみればいいのに」

 

「茶化すな!」

 

「茶化してるんじゃない。 心底からそう思っているんだ」

 

「む……」

 

 

言葉に詰まる春信。

それを見て、私はこれ見よがしに溜め息をついてみせる。

 

 

「……とにかく連絡を取るなら、君からの方が良いのは間違いない。 これまでの経緯を考えれば、妹の方から連絡を取るのはハードルが高すぎると思うぞ」

 

「そ、それはそうだが……」

 

「こういう事を言うのは何だけど……この世界での経験は、元の時代では忘れてしまうのだからさ。 あまり失敗することを恐れなくてもいいと思うよ」

 

「……そうやって割り切れないから、困っている」

 

「それもそうなんだろうけどね」

 

 

まぁ、これ以上言っても栓のない事か。それにもしもの時は、私が何やかんや理由をつけて、二人を引き合わせてやればいい事だ。

戦いの終わりが見える頃だったら、私にも後腐れないしね?

 

 

「話は変わるんだが」

 

 

ここぞとばかり春信が話題を変えてくる。 まぁ、ここは乗ってやろうじゃないか。

 

 

「何だ?」

 

「これから同期の連中と飲み会をやる予定なんだが……君も来ないかい?」

 

「飲み会かぁ……」

 

「同期の連中の殆どはこちらの世界に来ていてね。 君の様子の事も気にかけているんだよ」

 

「知らなかった」

 

「君は殆ど大赦にいないからな」

 

 

そりゃそうだ。大赦の職員としてよりも、中学教師としての勤務時間のほうが断然長いのである。。

しかし飲み会かぁ……久しぶりに同期の顔を見たい気持ちはあるのだが……。

 

 

「残念だけど……今回はパスかな」

 

「理由を聞いても?」

 

「……我が家は今、勇者様達に占領されていてね」

 

「はぁ?」

 

 

心底不思議そうに首を傾げる春信に、私は力なく笑う。

 

 

「年越しと新年のお祝いをするそうだ……」

 

「会場にされているという事か?」

 

「いやぁ、どうだろう……『年越しうどんが伸びるから、早く帰ってこい』的なメールが来ているからなぁ……」

 

「君も一員なんだな……」

 

「光栄な事だとは思うよ」

 

「……まぁ、そういう事なら仕方がない。同期の連中には、君が元気にやっていることを伝えておくよ」

 

「そうしてくれ」

 

「では、良いお年を」

 

「そっちもね」

 

 

という事で私達は別れて―――――と、忘れてた。

 

 

「春信」

 

「何だい?」

 

「今年も三好が晴れ着を着ると思われるんだが……」

 

「写真を頼む」

 

「……解った」

 

 

まったく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我が家に到着。もちろん中の電灯はついており、恐らく勇者部の全員が来ているであろうことは察しが付く。

 

 

「……我が家のセキュリティとは」

 

 

合鍵作られた時点で、諦めてるけどね? 何か納得いかないよね?

そんなことを考えながら、玄関の引き戸を開ける。

 

 

「お帰りなさい、夏野さん」

 

「やぁ、三好」

 

 

開けるとすぐに三好の姿があった。何故か玄関前の廊下を雑巾がけしている。

 

 

「……何をしているんだい?」

 

「料理組以外のメンバーで、家を掃除しているんです」

 

「えぇ……何でぇ?」

 

「お家をお借りしていますから、それぐらいはするべきだと思いまして」

 

「そっか」

 

 

そっかぁ……。 本当に勇者部のメンバーは律儀だなぁ……。

いやいや!家主の許可なしに、大掃除とか始めちゃうのはアリなの!?

 

 

「お帰りなさいませ、先生!」

 

 

そう言いながら奥から現れたのは、国土であった。手には箒とはたきを持っている。

 

 

「そっちは終わった、亜耶?」

 

「はい!もともと綺麗に掃除されていた事もあって、順調に終わらせました!」

 

「そう」

 

「夏凜先輩の方も……ピッカピカですね!」

 

「勿論よ!完成型勇者は掃除も完璧なのよ!」

 

 

完成型勇者は凄いなぁ……。

 

 

「……? どうか致しましたか、先生?」

 

「え?」

 

「いえ、玄関に立ちっぱなしだったので……」

 

「あ、本当……私、邪魔でしたか?」

 

「ああ……いや、そんな事はない。ちょっとボーっとしてた……」

 

 

若しくは唖然としていたというか。

 

 

「では、鞄をお預かりいたしますね!」

 

「私は風に先生が帰ってきたことを伝えてきます」

 

「すぐに年越しうどんか出来上がると思いますから、先生は手を洗ってきてください!」

 

「……解った」

 

 

国土に鞄を預け、台所へと向かう三好を見ながら、私は洗面台へと向かう。

おお……洗面台の水垢がきれいに落ちているのが解る……鏡の反射の仕方も全然違うなぁ!

 

 

「…………いやいや、諦めてなるものか」

 

 

まだ間に合う。これ以上の彼女らからの生活への浸食を食い止めねばならぬ。

もう無理ですよ、とかいう人は嫌いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部の部員が全員揃っている中、私は用意された場所に座る。

目の前には二つの器。一つにはうどんが、一つには蕎麦が入っている。

 

 

「何これ?」

 

「私が作った蕎麦よ!」

 

 

白鳥が胸を張って言った。成程。

 

 

「……解らん」

 

「うたのんが「年越しには蕎麦」と言って聞かなかったんです」

 

 

藤森が苦笑いしながら言う。

 

 

「そうしたら若葉ちゃんが「年越しにうどん」と張り合い始めちゃって……」

 

 

藤森の説明を上里が引き継ぐ。

 

 

「もう収拾がつきそうになかったので、先生にうどんと蕎麦のジャッジをしていただくことにしたんですよ」

 

「申し訳ありません……」

 

 

困った顔で言う上里に、頭を下げる藤森。

ふ、と視線を移せば、乃木若葉と白鳥が顔を突き合わせてにらみ合っていた。

 

 

「年越しといえば蕎麦! これはワールドワイドな常識よ!」

 

「いーや!年越しにはうどんだ!」

 

 

年越しには蕎麦かうどんか、で喧嘩する、伝説に語り継がれる西暦の勇者様二人。

歴史の教科書には載せられないなぁ!

 

 

「……とりあえず食べよう。 では、皆。いただきます!」

 

「「「「いただきまーす!!」」」」

 

 

うどんにせよ蕎麦にせよ、もたもたしていると伸びてしまう。

とりあえず全員で、いただきます、をしてから、私は二つの器に取り掛かることにする。

 

 

「まずは蕎麦からかな……」

 

「ふふん♪」

 

 

先攻を勝ち取ったからか、白鳥がドヤ顔で乃木若葉を煽る。

 

 

「へぇ……」

 

「どう!?私が作った蕎麦はデリシャスでしょ!?」

 

「確かに美味しい」

 

「なっ!?」

 

 

私の言葉に、乃木若葉が愕然とした表情を浮かべる。

 

 

「先生!貴方は四国に生きる人間の魂を失ったのか!?」

 

「そこまでの話だったの?」

 

 

まぁ、それはともかくとして。

 

 

「これが本場仕込みの蕎麦かぁ……神暦の四国では食べられないクオリティだ」

 

「そうでしょう、そうでしょう! 本場の蕎麦を味わえば、四国中のうどんを駆逐する事だって夢じゃないのよ!」

 

「壮大な話だな……」

 

 

うどんを駆逐……白鳥にとって、うどんは敵か何かなのだろうか?

 

 

「次はうどんだ」

 

 

うどんを啜る。うむ。

 

 

「部長が作ったうどんだな……」

 

「勿論!私特製の女子力うどんよっ!」

 

 

私が無意識につぶやいた言葉に、部長が身を乗り出して答える。

 

 

「どう?美味しい!?」

 

「いつも通り、美味しいうどんだよ」

 

「ふふ♪ ありがとう♪」

 

「先生が……」

 

「餌付けされている……」

 

「風のうどんは美味しいからな」

 

 

愕然とした表情でつぶやく三好と楠。そして何故だか自慢げな表情の古波蔵。

どういう事なの……。

 

 

「ちなみに上に乗ったてんぷらは、私が作らせていただきました」

 

「東郷さん特製の天ぷら! 美味しいですよねっ!」

 

「うん、美味しい」

 

 

東郷と結城の説明を聞きながら、天ぷらを食べ、うどんを啜り、また天ぷらを……。

そして完食。ついで蕎麦も完食。そして私が出した結論は!

 

 

「どっちでもいいです」

 

「「ええー!?」」

 

「おいしゅうございました!」

 

 

強引に話題を切り上げた私に、納得のいかない様子の乃木若葉と白鳥が文句をぶつけてくる。

私は騒ぐ二人を言葉をスルーしながら、ふぅ、とため息を吐く。

 

 

「……困ったものだな」

 

「先生! TVのチャンネルを歌合戦に変えていいですか?」

 

「どうぞ」

 

 

等と答える前に、犬吠崎はTVのチャンネルを歌合戦へと変えていた。

君、本当に図太くなったよね……。

 

 

「…………」

 

 

今年が終わる。果たして来年も、このメンバーで年越しを迎えるのであろうか。

それとも全ての決着がついて、我々は元の世界で本来の年越しを迎えるのだろうか。

 

 

――――――この世界での記憶を失って。

 

 

「先生?」

 

「む?」

 

 

気づくと、私の顔を結城が覗き込んでいた。

 

 

「どうした、結城?」

 

「……いえ、何でもありません!」

 

 

えへへ、と笑う結城。

……気を遣わせたか?この子は、人の空気には人一倍敏感だからなぁ。

 

 

「私も、まだまだ未熟者だな」

 

「え?」

 

「こっちの話。 さて、年が明けるまで何をしたものかなぁ」

 

「ボードゲームをしましょう」

 

「うおっ!?」

 

「東郷さん!」

 

「例の倉庫を掃除していたら、色々と興味深いのを見つけたの。 一緒にやりましょう、友奈ちゃん?」

 

「面白そう! やる!」

 

 

東郷の説明に、結城が目を輝かせる。

また勝手に持ち出されている……まぁ、いいんだけどさぁ!

 

 

「先生も一緒にやりますよね!」

 

 

そう言って結城が、私の腕を引っ張る。

まぁ、時間を潰すにはちょうどいいのかなぁ。

 

 

「やろうか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、年明けを迎えたのである。

 

 

 

 

 





来年も本作をよろしくお願いします。


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