飼っていた芋虫がモスラとして異世界召喚された話   作:GT(EW版)

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飼っていた芋虫がモスラとして異世界召喚された話

 

 

 ──吾輩はカイコである。

 

 懐古でも解雇でもない。時々転生前の人生を懐かしんだり、その人生では何度となく解雇通告を受けたりした記憶があったりもするが、それらのことは今の人生──もとい虫生にとっていずれも必要ない話だ。

 

 カイコとはカイコガ。お蚕様とも呼ばれる蛾の一種である。

 家蚕(かさん)とも呼ばれ、家畜化された昆虫で、野生には生息しない。っていうか生きていけない。体色は擬態不能な潔い真っ白であり、成虫は立派な羽根があっても自重が重すぎて飛べない仕様になっている。野外に放り出したら一瞬にして外敵の胃袋に収まるだろう。

 野生への回帰能力を完全に失った唯一の家畜化動物である我々は、餌がなくなろうがケースが開いてようが逃げ出すことはしない、あらゆる生物の中で最も人間に依存した存在と言えるだろう。

 

 人間による管理なしでは生育することができない要介護生物──それがカイコである。

 

 そんな我々の取り柄と言っては、何より「繭」の存在だろう。

 カイコが成虫になる為の変態で生成される繭は天然繊維として絹となり、5000年も前から人類に貢献し続けてきた。

 そんな我々はこの日本でも富の象徴としてお蚕様と崇められ、皇居では伝統として現代まで飼育が行われているのだとか。

 

 そう、カイコは偉大なのである。

 繭を作ったら絹を作る為に中身ごと茹でられ、お亡くなりになる宿命にあるのだろうと、我々カイコは偉大なのである。

 

 繭が中身ごと茹でられてしまうのは、中身が成虫になって出てきた後の繭ではカイコガの糞尿や溶解液で傷んでいる為、絹としての品質が落ちてしまうからなのだそうだ。

 そういうわけで家畜用カイコの大半は成虫になることなく繭の中でその生涯を終えていく。繭はそのまま、中身だけ死んでゆけ!という具合に。

 

 

 もう一度言うが、吾輩はカイコである。名前は「レオちゃん」。

 なんだかわからんが人としての生涯を終えた吾輩は、なんだかわからんが気づいた頃には草を這うイモムシになっていた。とんだ人外転生もあったものだが、この地球に存在する無数の生命の中で人間が人間に生まれ変わるよりかは確率的に妥当なのではないかと思う。

 

 さて、そんなカイコのレオちゃんこと吾輩が住んでいるのはエサとなる桑の葉が一帯に詰め込まれたプラケースの中である。それは何を隠そう、吾輩が人に飼われていることを意味していた。

 

 元々つい先日まで魚のエサとして釣具屋で販売されていた吾輩だが、購入以後も釣り針に括り付けられることなく、こうして桑の葉を詰め込まれたプラケースの中で暮らしている。桑の葉うめぇ。

 それは世にも珍しい人の意思を持った昆虫としては、割と恵まれた環境なのではないかと思う。

 

「レオちゃんよく食べるね」

 

 レオちゃん、と。イモムシに付けるにしては立派すぎる名前を与えてくれたのは、吾輩を買い取ってくれた飼い主様である。彼女の家族が言っていた言葉から判断するに、名前は「モラ」と言うらしい。

 何分この身はご覧のイモムシである為に人間全てが山のような巨大さに見えるが、モラは十歳ぐらいの小学生である。彼女は小学校の自由研究目的に吾輩を買い取ったようだが、このケースの中に桑の葉を絶やすことなく与えてくれる優しい少女だった。

 

 そう──カイコとして歩む吾輩第二の人生は、心優しい女子小学生によって管理されることとなったのだ。良い子の皆さんの中には、そこに背徳感を抱く者もいることであろう。

 

 だが吾輩はイモムシである。人間に対してそのような感情を抱くなど、出来よう筈もない。本能的に考えて。

 ただカイコとしての短い一生を釣りエサや製糸場の中で終えるよりは、この子のような無垢な少女の手で育てられる方がモチベーションは高まると言えた。元人間的に考えて。

 

 今時は男子小学生でも虫嫌いの子が多いと聞くが、吾輩の飼い主様は女の子ながら随分と昆虫が好きらしい。

 吾輩が飼育されているプラケースが置いてある部屋の中には美しい蝶のオブジェがいくつか飾られており、本棚には昆虫に関する漫画や本が収められていた。

 カイコの幼虫である吾輩の姿に対しても拒否感を見せることなく、寧ろ時折吾輩を手に乗せたりしては微笑んでいた。

 

「ふふ……」

 

 吾輩が桑の葉を貪る口を止めて彼女の顔を見上げると、モラは今も穏やかな顔を浮かべている。

 するとケースの中に手を入れるなり、今度は吾輩に向かって指を差し出してきた。

 よろしい。吾輩はカイコだが元は人間だ。前世の知識や記憶の多くこそ吹き飛んでいるが、それでもなお猿や犬には負けぬ知性を持っている。

 こないなイモムシ風情に名前を付けてくれたこと、そして毎度エサをくれることに対する感謝の気持ちとして、吾輩はそんな彼女の意図を察し、望みに応えることにした。

 

「あ、登ってくれた!」

 

 むくりと身をくねらせながら移動を開始した吾輩は、複数もの短い足をモコモコと動かしながら彼女の指をよじ登っていく。

 イモムシ故のグロテスクな外見に対して、大多数の少女は気持ち悪く感じるやもしれぬが、飼い主様たるモラはカイコである吾輩に愛玩の情を抱いていたらしい。

 指に触れた途端、まるで子犬がじゃれついてきたような反応を寄越す彼女に吾輩は大満足である。かわいい。

 

「かわいい……」

 

 吾輩に対して変わった感想を放つ彼女には、気障ったらしく「君の方がかわいいよ」と言い返したいところだったが、無論のことながらカイコに人の言葉を話すことはできない。

 今更人間だった頃の人生に未練があるわけでもないが、要介護生物として人との関係を切ることが出来ない今の吾輩にとって飼い主様と意思疎通が取れない事実には、やはり心苦しいものがあった。

 しかしこうして吾輩の反応に一喜一憂してくれる子供の姿には、非常に心温まるものがある。美少女であれば尚のことだ。

 モラの手の平までたどり着いた吾輩は、そんな彼女の思いに報いるべく今の身体でできる精一杯の踊りを披露してあげることにした。

 すると、彼女はくりくりした大きな目を見開き、驚きの声を上げた。

 

「すごい……カイコって、EXILEみたいに踊れるんだ……!」

 

 イモザイルである。曲名は虫虫トレイン。

 吾輩はイモムシ故の身体の可動域を活かし、長い胴体をデコボコな感じにくねらせることによってあたかも複数のイモムシが重なって踊っているかのよう振る舞う。

 そんな吾輩のダンスに対して「わぁ……!わぁ……!」と瞳を輝かせるモラの姿は実に尊い。吾輩も踊り甲斐があるというものだ。

 

 それから一分ぐらい彼女の手の上で踊りを披露していた吾輩だが、しかし身体は虚弱なカイコである。

 慣れない動きをしたせいで一気にエネルギーを消耗した吾輩の身体は、すぐさまグロッキーになってしまった。

 そんな吾輩の姿を見るなり、飼い主様は血相を変えてケースの中に手を運び、桑の葉の上に吾輩を置いてくれた。

 

 かたじけない。桑の葉うめぇ。

 

 

 

 カイコの食欲は非常に旺盛である。

 蛹になるまで絶えず桑の葉を貪り、成虫になるまでの間100gもの量を消費すると言う。

 そして成虫になった後は一切食事を行うことはなく、幼虫時に蓄えたエネルギーのみで生きるのだ。成虫の頭部に口が存在しないのはその為である。故に寿命は極めて短い。

 

 尤も大半のカイコは繭を作り、蛹となった時点で絹を取る為に茹でられ成虫になる前に生涯を終えるのだが……幸いにも吾輩の飼い主様たるモラにその気はないようだった。

 

「はやく成虫になれるといいねっ」

 

 ──うむ、任せておけ。必ずや、立派な成虫になってみせよう。

 

 頬を両手で支えながら屈託のない笑みで吾輩のいるケースを見つめてくる彼女の言葉に、良い飼い主様に恵まれたものだと実感する。

 カイコが成虫に羽化するまでが彼女の自由研究のテーマなのかもしれないが、彼女自身がこうして生き物を愛してくれることが……今の私にはたまらなく嬉しかった。

 脱皮をする度、自分のことのように喜んでくれる彼女の姿に吾輩の心は奮い立つ。

 

 

 

 ……それが、吾輩たちの日常だった。

 

 

 人から生まれ変わったカイコと、心優しき飼い主の少女モラ。

 これはそんな我々がひょんなことから異世界の孤島へ転移し、数奇な運命を辿りながら、やがて「神」と呼ばれていく物語である。




 KOMのモスラはゴジラくんに一途でかわいい。
 総攻撃のモスラはヘタレのギドラくんの背中を押す健気さがかわいい。
 VSモスラのモスラはバトラくんにはビームを撃たなかったのが委員長かわいい。
 平成モスラシリーズのモスラはギドラ族への殺意が魔法少女こわいい。
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