強い夏の日差し。鳴りやまないセミの声。子供たちにとって待ちに待った夏休みが始まった。
終業式が終わった放課後の家に向かう帰り道。のび太は喜びと同時に気持ちが沈んでいた。理由は至って単純で、日常とは比べ物にならないほどの大量の宿題が控えていたからだ。
「じゃぁ、後でぼくの家に集合ね」
スネオが別れ際に放った言葉を思い出す。のび太は歩きながら大きな溜息をついた。あ、と気がつくと重い雰囲気漂う自分の家はもう目と鼻の先だった。
玄関の前で息を呑み、物音一つ立てないように気を遣って動き出す。帰宅したことをママに気付かれないように玄関のドアを静かに開け、そーっと二階に上がっていく。部屋のふすまを開けると、そこにはいつものようにドラえもんが座っていた。
「おかえり、のび太君」
のび太は横目にその言葉を聞きながらランドセルを降ろして溜息をついた。
「どうしたの?」
「これからスネオの家に集まることになってるんだ」
「それで?」
「この通知表を見せたら、ママはきっと怒って「勉強しなさい!」って言うだろうからさぁ……」
通知表をドラえもんに渡しながら、のび太はまた深い溜息をついた。
「これはまた……芸術的というか壊滅的というか……」
「のび太? 帰っているの?」
ドラえもんの顔が曇った直後、ママが階段を上がってくる足音が聞こえた。
「あわわ! ドラえもん! どうしよう? どうしよう?」
ドラえもんものび太と一緒に慌てながらも、何とかするべくジタバタと小回りしながらポケットに手を突っ込みひみつ道具を出す。
「わすれろ草!」
「いるんじゃないの。のび太、通知表は?」
ママがふすまを開けた瞬間、ドラえもんがママに”わすれろ草”のにおいをかがせた。
……ポワ~ン……
「……何をしてたのかしら?」
わすれろ草の効果で何をするのか忘れてしまったママに、ドラえもんはすかさず嘘の情報を吹き込んだ。
「さっき、これから買い物に出かけるって言ってたよ」
「そうそう、そうだったわ。ありがとう、ドラちゃん」
そう言って下に向かおうとするママに、チャンスとばかりにのび太は話しかけた。
「あの、ママ! これから自由研究の話し合いを……スネオの家で行うことになってるんだけど……」
のび太は勢いよく話し始めたが、最後の方は自身なさげなトーンで恐々とお伺いをたてる口調に変わっていった。
「あら、そうなの。遅くならないようにしなさいね」
ママは顔をのび太の方に向け、軽い笑みを浮かべてそう答えた。
「うん!」
ママが階段を降りて行ったのを確認してから、ドラえもんに抱きつくのび太。通知表のことは頭の片隅にもないママを見て、のび太は改めてわすれろ草の効果とドラえもんに感謝した。
「ありがとう! ドラえもん!」
「ふふふ。のび太くん、気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってきまーす!」
のび太は元気に階段をかけ降りて行った。