グレートホールは食事だけでなく多目的な用途で使用される王城内の大ホールである。天井はとても高く優に十メートルは超えている。ホール中央上部には円形のステンドグラスが圧倒的な光の芸術を演出していた。
「うわ──ー……すごいなぁ……」
突然現れたその輝かしいゴシック格調美を前に、ドラえもんたちは思わず見上げたまま立ち止まった。ミヨイは席への案内を進めるべく、さ、こちらへ、と一人一人にやさしく声をかけ、各々の席へと誘導していった。
みんなが席に着いたのを確認した後、テラはミヨイと共に自分の席に向かった。目の前のテーブルの上には、一般的なコース料理のための食器類が整然と並べられていた。
「おれ……こういうの苦手なんだよな、ナイフとかフォークとか……」
「ぼくも。なんかこう……緊張するよね」
「ふふん、ぼくは慣れてるからね」
「失礼のないようにできるかしら……」
しずかたちの困った様子を見て、ドラえもんは手をポケットに入れた。
「うふふ、そんな時は……ソノウソホント!」
ドラえもんが突然ひみつ道具を出した瞬間、テラの後ろに立っていたミヨイはすぐさま右腕を上げた。すると周囲の扉が一斉に開き、衛兵たちがテラの周りを囲み防御の構えをとった。他の衛兵も次々とグレートホールに現れ素早くドラえもんたち全員を囲み陣形を組んだ。
「あわわ!」
ドラえもんはたまらず道具を持ったまま両手を上げた。みんな席を立ちドラえもんのところに集まった。その姿は衛兵の威嚇に怯えたものであったが、ジャイアンだけはファイティングポーズを取り戦う姿勢を見せていた。
「全員! 警戒を解いて待機!」
テラが席を立ち、制止するように右腕を横に伸ばし命令すると、全衛兵はその場で背筋を伸ばして直立し、すぐさま待機の姿勢をとった。
「テラ王女!」
「大丈夫よ、ミヨイ」
「しかし……着換えの際の身体検査のときには、あのようなものは確認できませんでした」
怪しげな道具を突然出したドラえもんを警戒し食い下がるミヨイにテラは落ち着つくよう念を押すように、大丈夫、と言葉を添えた。
「ドラちゃんさん、それはどんな道具なのですか?」
「え? こ、これは……おまじないのようなもので……え、えへへへ」
「そうですか。ただみんなが驚いてしまうから、城内で道具を出す場合は私に一声かけてくださいね」
「は、はい! ついいつもの調子で……ごめんなさい。気をつけます」
ドラえもんにしがみついていたのび太たちは、ホッとして自分たちの席に戻った。
テラはミヨイにうなずいて合図を送るとミヨイは全衛兵に目配せした後にゆっくりとうなずいてみせた。すると衛兵たちは一礼してから一斉にグレートホールから退室していった。
テラは物音が静かになるまで待ってから自分の席に再び腰を下ろした。
「それで、その道具はどう使うのですか?」
「あ、ああ、これはですね……」
ドラえもんはソノウソホントを装着し、みんなの方を向いて一言、きみたちはテーブルマナーを知ってる、と言い放ち、ソノウソホントをポケットにしまった。
「これだけです」
「それだけですか?」
「はい。これはみんなが料理を美味しく食べるためのおまじないなんです」
「そうなんですか」
ドラえもんは何とか平静を保っていたが、のび太たちは少し萎縮した様子だった。城門で体感したものとは全く別の気迫ある威嚇、いや殺気のようなものをその身に感じたのだから当然のことといえる。
(せっかくのお礼の場なのに……困ったわ)
テラが食卓のやや暗い雰囲気を気にしている中、それを払拭するかのように後方の扉が開き、次々と豪華な料理がホールに運ばれてきた。それら料理はとても良い匂いをホール中に漂わせ、全員の鼻腔をくすぐり緊張で硬くなっていたみんなの意識を和らげた。
「なんか美味そうな匂いがする」
「いったい何が入ってるんだろう?」
のび太たちはクロッシュ(料理に被せる蓋)の中身が気になって仕方がないようだった。不本意にも恩人たちを萎縮させてしまったテラは、みんなをリラックスさせるために立ち上がり誠意を込めて話し始めた。
「みなさん、驚かせてしまってごめんなさい。少し窮屈な思いをさせてしまうかもしれないけど、心よりお礼をしたい気持ちは本当です。今夜はみなさんに満足して頂けるよう精一杯のおもてなしをさせていただくつもりです。どうか肩の力を抜いて楽しんでください」
テラが言い終わると同時に全てのクロッシュが取り上げられ料理の中身があらわになった。肉類を始め海産物、サラダ、フルーツの面々を綺麗に盛り付けられたお皿たちが、テーブルの上に所狭しと並べられていた。
「うわぁ! 美味しそう〜!」
「ほんと! これほどとは!」
「フルーツもおいしそう!」
「肉だ! でっかい肉があるぞ!」
「さすがにドラ焼きみたいなのはないか……」
『ドラえもん!』
「じょ、冗談だよ! 冗談! でへへ」
緊張が薄れ、ドラえもんたちにいつもの笑顔が戻った。その様子を見て少し安心したテラの顔には、良かった、と笑みが浮かんでいた。
「お待たせしました、みなさん! どうぞ召し上がってください!」
『いただきまーす!』
一波乱あったものの、ドラえもんたちを歓迎するという名目の晩餐会はようやく開始の運びとなった。
外は日も沈み、徐々に漆黒の闇に包まれ始めていた。その暗闇の中、何かを運んでくるかのように、風が不規則に木々を揺らしていた。