晩餐会が始まってからしばらくは少しの会話もなく、ただひたすら食器の鳴る音と口にものをほお張る際に漏れる言葉が聞こえるだけだった。
「うめぇ! この肉うめぇな!」
「この魚も美味しいよ、ジャイアン!」
「うーん! あまーい!」
「うわっ! このサラダ、ピーマンみたいな味がする!」
「好き嫌いはだめだよ、のび太くん」
ソノウソホントの効果もあり、みんなは上品に食事を行えていた。みんながとても美味しそうに食べている姿を見てテラは心から嬉しそうだった。
ある程度お腹も膨れてきて食べる速度が遅くなってきた頃、ホール奥の大きな扉がゆっくりと開き、髭をはやした恰幅のよい老人が入ってきた。その老人が姿を見せるや全使用人が姿勢を正しその老人に対して一礼をした。
「お父様!」
テラはそう言って立ち上がった。
『お父様!? ……ということは……王様!?』
ドラえもんたちは驚いて口に含んでいるものを吹き出しそうになったがグッとこらえ、すぐさまテラに続くよう立ち上がって王様、すなわち国王の方にその身を向けた。
国王はやさしく笑いテーブルの方に向かいながら、ラクにラクに、と言うかのように軽く右手を上げ、手のひらを小さく上下に動かした。その合図を受け全使用人は顔を上げ、元の待機の姿勢に戻った。
「みなさん、どうぞご着席ください」
手のひらでみんなの着席を促しながら、テラも自分の椅子に腰を下ろした。
「テラ。この方たちがお前のお友達かね?」
国王はそう言いながらゆっくりと自分の席に腰を下ろした。
「はい。私を窮地から救ってくださった方たちです。山向こうのイスタ街から商いに来ているそうです」
「ほう、発掘の街イスタから。それはそれは……道中うちのお転婆娘が、さぞご迷惑をお掛けしたでしょうな」
「お父様!」
「はっはっはっ」
むくれたテラを見て国王は笑いながらあご髭を数回撫でた。ドラえもんたちは国王の容姿を見て、お父さんと言うよりはお爺さんという感じだな、と心の内で思っていた。
「大体の報告はミヨイから聞いている。無事で良かった。客人の方々、テラを救ってくれて本当にありがとう」
国王直々にお礼を言われたドラえもんたちは、しどろもどろになりながら恐縮した。その様子を見て国王は静かに笑い、ゆっくりとした動作で食事を始めた。
「……砦に行ったのか?」
その問いかけにテラの食事をする手が止まった。無言のまま視線を落とし食器を置くと、その両の手を膝上においた。
「申し訳ありません……」
「良い。お前を止めたわしにも責任はある。次からはもう止めはせん。ただ、今後は護衛と共に行動しておくれ」
「はい、お父様……ありがとうございます」
国王とテラのやりとりを聞いて、ドラえもんたちは何となく状況が掴めた。つまりテラは”行ってはいけない”と釘を刺されていた砦に向かっていたんだろう。しかも周囲には内緒のため護衛を付けず単独で。その途中オオカミに襲われた、ということらしい。
みんなはテラがなぜ砦に向かったのか気になったが、それを質問することはしなかった。テラは自分のことを気にかけているドラえもんたちをみて困ったような微笑みをつくった。
「ごめんなさい。せっかくの会食だというのにまた暗くしてしまって。今夜の料理はうちのシェフが特別に作ってくれた自慢の品々なの。遠慮なんてしないでドンドンお替りしてくださいね」
言われたとおり、やや食べることに遠慮気味になっていたジャイアンが最初に口火を切った。
「じゃ、じゃあ……おれ、このお肉のお替りを……」
その様子を見てスネオ、のび太、しずかも待ってましたとばかりに続いた。
「じゃあ、ぼくはこのスープを!」
「ぼくはこのラーメンみたいなものを!」
「わたしはフルーツの盛り合わせを!」
みんなの勢いに目を点にして驚いたテラは、一息おいた後、穏やかな表情でミヨイに合図を送った。ミヨイは軽くお辞儀をし、扉付近に立つメイドに対して何かしらの指示を送ると、メイドは一礼をしてから部屋を出ていった。
「美味しいからいくらでも入っちゃうね! しずかちゃん!」
のび太は幸せそうにしずかに話しかけたその時、遠くで何か重く響く音がしてホールが軽く揺れた。
ズズ……ン……。
「なんだろ? ……地震かな?」
ふと呟いたのび太の言葉に国王の眉がピクっと動いた。
「まさか爆発とか!?」
「やだ! スネオさん」
しずかの怖がる声を充てられ、スネオはすぐさま、冗談だよ、と機嫌を取るように両手のひらを振って自らの発言を否定した。
「はっはっは。心配しなくても大丈夫じゃ。あれは、遺跡の崩落じゃよ」
国王がみんなを安心させるよう大きく笑いながらいった。
「崩落……ですか?」
それでも不安そうなしずかは、詳しい説明を欲しがるように聞いた。
「うむ。この城の裏には古代からの遺跡があってな。長い年月を経たために老朽化し、しばしばこういった崩落が起きるのだ。心配することはない」
それを訊いたドラえもんたちは互いに顔を見合わせ安心した。
「ところで……そなたたちは商いをしにこの城下街に来たとのことだが、どのようなものを売りに来たのかね?」
「え!?」
ドラえもんが一瞬止まった。そこに助け舟を出すようにテラが割って入ってきた。
「こちらのドラちゃんさんは、様々な効果を持つ発掘道具をお持ちなのですよ、お父様」
「ほう! 発掘道具を使えるのか!? それは興味深いな。ぜひ一つ見せてくれまいか!」
「お父様は珍しいものが大好きなの。何か見せては頂けないでしょうか」
興奮する国王を横目にテラは、やや困り気味の苦笑いをしながらドラえもんにお願いした。
「任せといて!」
そういってポケットに手を入れたドラえもんは、あっ! と思い留まりその体勢のまま恐る恐るミヨイの顔を伺った。ミヨイは右手を口元にあて咳払いを一つし目を伏せるとテラはクスと笑い、大丈夫ですよ。お願いします、とドラえもんに告げた。ドラえもんは安心してひみつ道具を探し始めた。
「あれ? なかなか取れないな……えい! マルバツうらない!」
「ほお!」
不思議な形の道具を見て国王の目が輝いた。
「これは、どんな質問にもマルバツで答えてくれるという道具です。例えば……ここのホールの天上は高い!」
ドラえもんの言葉の後にピンポーン! と勢いよくマルが空中に浮いた。その様を見て、国王を始めホールの使用人全員が、おー……と感嘆の声をあげた。
「うふふ、それじゃ次は……ぼくは背が高い!」
一瞬バツがピクッと動き空中に浮こうとしたが、すぐさまテーブルの上に落ちた。
「あれ? おかしいな?」
「なんだ? また故障かよドラえもん」
「しょうがないなあ、まったく」
「大事な時はいつもこうなんですよ」
「もう、みんな! 今日は調子が悪いのよね」
「うーん……何でだろう??」
しずかにフォローを入れて貰ったドラえもんだが、当人はイマイチ納得してない様子だ。
「そんなスゴイ道具なら故障もいたし方あるまい。いや、良いものを見せてもらった。ありがとう」
国王がそう言うと、ドラえもんは照れながらマルバツうらないをポケットにしまおうとした。ところがしまったと思った道具がポケットからピョコンとはみ出した。ドラえもんがおや? と思い道具を押してみると、今度は素直にポケットの中へと入っていった。
「今度調子の良い時に、別の道具をお見せします」 「それは楽しみだ」
国王はゆっくりと椅子の背に身体を預けドラえもんに微笑んだ。場が落ち着きを取り戻し一段落したところに、扉が開く音がホール中に響き渡った。
ドラえもんたちは、自分たちの背後からゆっくりと誰かがホールに入ってきているのは感じ取れた。振り向いてその姿を確認しようとした時、国王とテラの表情がやや緊迫していることに気が付いた。