ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第十二章 『アポロン』

 突然ホールに現れたその人物は、美少年という形容がよく似合う、少し年上の雰囲気を漂わせる男の子だった。

 

「お兄様!」

「アポロン!」

『え!? テラのお兄さん!?』

 

 ドラえもんたちは驚いてその男の子の方をまじまじと凝視した。テラの兄となれば、すなわち王子様である。その王子は姿勢正しく流れるように国王の傍に近づいていった。

 

「お父様、只今戻りました。失礼ですがこの方たちは?」

 

 アポロンが言葉を発すると同時に、国王とテラは一瞬ホッとする表情をみせた。しずかはその様子に違和感を覚えた。

 

「テラの友人の方々だ。ずいぶんと危ないところを助けて頂いたようでな。お礼をさせて頂いているところだ」

「テラを!? そうでしたか」

 

 スッと自然な所作でのび太たちの方に身体を向き直したアポロンは、自己紹介と共にお礼の言葉を述べた。

 

「みなさん、はじめまして。テラの兄のアポロンと申します。この度はテラを救ってくださりありがとうございました。本日はどうぞ心ゆくまで楽しんでいってください」

 

 アポロンの立ち振る舞いをみていたしずかは、気がつけばその瞳を輝かせ、王子様に憧れる乙女の姿になっていた。きっと「素敵な王子様〜」とか心奪われているんだろうな、とのび太は少しふてくされて輝く目をしたしずかを横目で見ていた。

 

「お兄様もご一緒にいかがですか?」

 

 アポロンを食事に誘うテラのその言葉は、心なしか少し嬉しそうに思えた。

 

「いや、今宵は遠慮しておくよ。来賓の方々に余計な気を遣わせてしまうだろうからね。ミヨイ、ぼくの分は部屋の方に運ぶよう伝えてもらえるかい?」

「かしこまりましたアポロン様」

 

 ミヨイにそう告げたアポロンはドラえもんたちに一礼しホールから立ち去ろうとした。爽やかな空気を残しながら扉へと向かっている中、国王がアポロンを呼び止めた。

 

「アポロンよ、レムリア卿は一緒ではないのか?」

 

 その言葉を聞いたアポロンは、歩みを止めスッと振り向いた。

 

「はい。レムリアは残務があるとのことで今夜は砦の方にて過ごされるとのことです」

「そうか」

「何か急ぎお伝えすべきことでも?」

「いや、大したことではない」

「そうですか。では、失礼します」

 

 そう言ってアポロンは再び一礼をしホールから退室した。扉の閉まる音が鳴ったしばらく後、国王が大きくため息をついた。その様子を横目にテラも軽く目を閉じながら小さくため息をついた。二人の様子はホッとしているとも困っているとも受け取れた。

 

(ドラえもん。「卿」って何?)

(宰相のことだよ。王様の側近で政治を行う人のこと)

(あ、そういう意味なんだ、へー)

 

 ドラえもんとのび太のヒソヒソ話を横目に、国王の様子が気になったしずかは、気遣うようにやさしく話しかけた。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「あぁ……心配をかけたようだね、大丈夫だ。ありがとう」

「お力になれるかどうか分からないですけど、よかったら王様の抱えている悩みを話してくださいませんか」

 

 しずかのその言葉を聞いたテラは、懇願する眼で国王の顔を見た。その意を察した国王は、ゆっくりと髭を撫でながら頷いた。

 

「恥ずかしながら、悩みというのは先のアポロンのことでな……どうもここ最近、あいつの心の内が見えなくてほとほと困っておるのだ……」

 

 国王のその言葉にテラも頷いた。その予想外な言葉にドラえもんたちは驚きながら顔を見合わせた。

 

「あんなに紳士的な彼のどこに不安があるんですか?」

 

 しずかは完璧なまでの王子様を見たせいか、いつもより強い口調で質問した。「その問いには私が」と言うようにテラは会話に割って入ってきた。

 

「はい。さっきのお兄様が、私たちの知っている"優しい"お兄様です」

「え?」

 

 しずかは二人が言っている意味がわからなかったが、先刻アポロンが現れた時に、国王とテラがホッとした瞬間があったことを思い出した。

 

「ここ最近ですが、お兄様の様子がおかしいのです。いえ、おかしい時がある、というのが正しいのかも知れません」

「それはどういう?」

「それは……攻撃的な面を強く見せる時があるのです。抵抗するものには容赦しないというような荒ぶりを見せたり、と……。優しかったお兄様とはとても思えないような時があるのです」

 

 そういって目を閉じたテラの手は少し震えていた。

 

「なんだかんだで男だからなぁ……でもやりすぎは良くないよな」

「なんか悩みでもかかえてるとか?」

「でも、何でも自分で解決しちゃうような雰囲気のある人だよ?」

「う~ん、何でだろう??」

「彼のようなステキな方が……とても信じられないわ……」

 

 無理もない、というように国王は肩を落としゆっくりと瞼を閉じた。

 

「信じてもらえないのも無理はありません。兄の変わり様を実際に見た私でさえ、そう認めるまでには時間がかかりましたから……」

 

 やるせない気持ちを込めたテラの言葉を聞いて、ドラえもんたちも何も言えなくなってしまった。

 その後しばらく続いた沈黙を破ったのはホールの扉が開く音だった。みんなが頼んだ追加の料理たちが芳醇な香りを乗せ次々とホール内に運び込まれてきた。

 

「どうしても場を暗くしてしまうわね……本当に申し訳ありません。この話はここまでにしましょう。さぁ! 今夜はお腹いっぱい召し上がってください!」

 

 テラは場の空気を変えようと精一杯の笑顔をつくった。ドラえもんたちもその気持ちを汲んで、今は目の前の豪華な食事を楽しもうと気持ちを切り替えるのだった。

 その後、終始明るい話題で盛り上がった晩餐会は、当初の目的であった御礼という目的を無事に果たし、和やかに終わりの時間を迎えた。食卓の上に残され、やや煩雑な配置になった食器たちは、そこにあった料理の美味しさを物語っているようだった。

 

 ◇

 

 食事を終えたドラえもんたちは、ミヨイに案内され迎賓館の客間に再び移動していた。寝室の準備が整い次第、お迎えが来てくれることになっている。お腹も満たされた面々は、椅子に座ってメイドが用意してくれたお茶を飲んでくつろぎ、その時が来るまで話をしながら待っていた。

 

「すごい美味しかったね!」

「中華とかフランス料理に似てたね。でもこの時代であの味はスゴイよ! ホント!」

「フルーツも食べたことがない味があって、とっても新鮮だったわ!」

「俺はやっぱ肉だな! 肉がうまかった!」

「美味しかったけど……ドラ焼きも食べたいな……」

『ドラえもん!』

 

 談笑の中、しずかは視線を窓に向けた。窓からは城が見え、部屋と思わしき幾つかの場所から灯かりが漏れていた。その灯かりを見てしずかはふと、アポロンのことを思い出した。

 

「アポロンさんのこと……気になるわね……」

 

 窓の外を眺めて発したしずかのつぶやきがみんなの談笑を止めた。

 

「でも……想像できないよ、あんなに頭の良さそうな人が」

「そうそう。出木杉くんタイプに見えたもんね」

「確かにそんな感じだったよな」

「うん」

「テラの話を聞いていると、ただ感情的になって態度が変わったというような印象ではなかったわ。そう、別人になってしまうかのような……」

「まさか二重人格とか!?」

「のび太にしてはいい線いってる。ありえる話だね」

 

 スネオはのび太の推測に素直に賛同した。

 

「でもさ、二重人格って言っても、それもアポロンさんの性格なんだよね?」

「それはそうだけど……王様とテラが困るほどの変貌というのが気にはなるわ。せっかく仲良くなれたんだもの。何とか力になれないかしら」

「やっぱりしずかちゃんは優しいなぁ……って待って!? まさかしずかちゃん!? アポロンさんのことが気になってるの?」

「そ、そんなこと!」

 

 とっさに否定したしずかではあったが、その頬は赤くなっていた。乙女に王子様という組み合わせは伊達ではないらしい。

 

「まぁまぁのび太くん。実際、かっこいいんだから仕方ないよ」

「フォローになってないよ! ドラえもん!」

「のび太。あの王子様と張り合うのか? 大変だな」

「ほんと、無謀を通り越してるよ」

「なんだよ、みんなまで! ふーんだ!」

「もー! そんなんじゃないってば!」

『アハハハ』

 

 大きな笑いに割り込むように扉が開き、ミヨイが部屋へと入ってきた。

 

「大変お待たせいたしました。寝室の準備が整ってございます。どうぞこちらへ」

 

 ドラえもんたちは男性と女性、それぞれ別々の寝室に通された。そこには人数分のベッドが用意されており、とても一万二千年前とは思えない錯覚に陥りそうになった。みんなが感心している中、ミヨイは速やかに退室するべく扉の傍に立ち、ドラえもんたちの方を振り返った。

 

「それでは明日の朝、またお迎えに上がります。

 夜分何かありましたら廊下に巡回しているメイドがございます故、そちらにお申し付けください。それではどうぞゆっくりとお休みくださいませ」

 

 そう言ってミヨイは軽くおじぎをし、静かに扉を締めた。足音が徐々に小さくなっていくのを感じると、ドラえもんたちは島を発見してから今に至るまでの疲れにドッと襲われた。さらに満腹感も手伝って、みんなベッドに入るや否や深い眠りに着くのだった。

 

 ◇

 

 ズズ……ン……。

 

 ドラえもんたちが眠りについてからだいぶ時間が経った深夜。国王のいう崩落が起きたのか、晩餐会の時のようにまた部屋が少し揺れ、のび太は目を覚ました。月は雲に隠れていて窓の外はかなり暗かった。部屋にはいつの間にかロウソクが灯されていた。肌寒さを感じておしっこをしたくなったのび太は、その灯かりを頼りに扉を開け廊下に出た。

 

「たしか巡回しているメイドが居るとかミヨイさんが言ってたけど……その人にトイレの場所を聞こう」

 

 不安を感じながら暗い廊下を歩いていると、何やら城の方が騒がしくなっていた。なんだろう? と窓から城の方を見ると、誰かが城の窓から庭に飛び降りた様子が見えた。

 

「まさか泥棒!?」

 

 のび太はその人物を懸命に目で追っていると、その人物はみるみるうちにこちらに近づいてきた。

 ドラえもんたちの寝室も一階にあるため、このままだとぼくたちも危ない! と判断したのび太は、とっさに窓下の壁の部分に身を隠した。なるべく気配を消すように慎重に呼吸を整えてからそ〜っと顔を出し、窓の外を覗くような姿勢へと移り変える。

 城の方はところどころ明るかった。そのため迎賓館の方が暗がりになっていた。その状況から、相手にはぼくの姿が見えないはず、とのび太は安心してしていたが、不運にも雲が晴れ月の光が辺りを照らし始めた。月の光はのび太の姿とその怪しい人物の姿を徐々に露わにしていった。やや逆光であったが、城から出てきたその人物は、眼つきが鋭く獰猛さを感じさせるオーラを持ったアポロンその人であった。

 

(アポロンさん!?)

 

 のび太はアポロンと眼があったが、その変貌ぶりに驚いてピクリとも動けなかった。

 のび太に気付いたアポロンは一瞬足を止め、不敵な笑いを見せてからすぐにその場を立ち去った。

 

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