ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第十三章 『苦悩』

 窓にかかったカーテンの隙間から朝日の光がわずかにこぼれ、にわかに鳥のさえずりが聞こえてきた。

 

「みんな! 朝だよ!」

 

 のび太はドラえもんに起こされ、眠い目をこすって身支度を整え始めた。スネオ、ジャイアンは既にベッドから起きて着替えているところだった。のんびりとした動きで着替えているのび太は、ハッと昨晩のことを思い出した。

 

「そうだ! みんな聞いて! 昨日の夜遅くにアポロンさんが!?」

『え?』

 

 その慌てた声を聞いたドラえもんたちは、急いでのび太の近くに集まった。

 

「アポロンさんが城を抜け出したようなんだ。この近くを通ったときに目があったんだけど……すっごく怖い顔をしてて別人のようだった」

「ほんとかよ?」

「寝ぼけてたんじゃないの?」

「違うよ! 本当だってば!」

 

 その会話を遮るように扉をノックする音が割り込み、失礼致します、と断りながらミヨイが部屋に入ってきた。

 

「のび太くん、その話しはまた後で」

 

 ドラえもんはのび太をなだめるようにいった。

 

「みなさま、おはようございます。昨晩はゆっくりとお休みになられましたでしょうか。朝食の準備ができておりますのでホールまでお越しくださいませ」

 

 昨晩の騒動は無かったかのように振る舞うミヨイにのび太は違和感を覚えた。それはドラえもんたちも感じ取っていた。隣の部屋のしずかとも合流し、一行はミヨイのあとに続いてホールへと向かった。

 

「おはよう、しずかちゃん」

「おはよう! のび太さん」

「しずかちゃん、昨日はよく眠れた?」

「えぇ、もうぐっすりよ」

 

 のび太は先頭を歩くミヨイの背中をしばらく眺めてから小声で話し始めた。

 

「昨日の夜、また地震があったんだけど気付いた?」

「ええ。揺れたことは覚えているわ。それがどうかしたの?」

 

 しずかものび太に合わせて小声で答えた。のび太は再びミヨイを警戒し、話すタイミングを伺った。

 

「その時にアポロンさんが城から抜け出したらしいんだ」

「え!?」

 

 思わず漏れたしずかの声にミヨイは足を止めて振り向いた。

 

「どうかされましたか? どこか具合でも?」

 

 ミヨイは心配している様子で話しかけてきた。しずかとのび太は、いえ大丈夫です、と取り繕うように身振り手振りで応対した。

 

「そうですか。それならばよろしいのですが……。皆さまはテラ王女の大事な客人。その客人にもしものことがありましたら、テラ王女に申し訳が立ちませぬゆえ、何か気にかかることがございましたら、些細なことでも遠慮なく私ミヨイ、引いては周囲のメイドにお申し付けくださいませ」

 

 ミヨイはそういって一礼し、踵を返して再びホールの方に歩みを進めた。

 

「のび太さん、その話はまた後にしましょう」

「うん、そのほうが良さそうだね」

 

 二人が話を終えた時、一同はちょうどグレートホールの扉前に到着した。

 メイドが開けたホールの扉を通ったミヨイは、すぐに扉の端に寄って待機の姿勢をとり、ドラえもんたちに中に入るよう手を差し出して促した。みんなは恐縮しながら次々にホールへと入っていた。長テーブルには既に用意された朝食が並んでいた。そこには着席して待っているテラと国王の姿があった。

 

「みなさん、おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」

 

 テラは立ち上がってドラえもんたちに挨拶をした。

 

「はい。とってもステキなベッドのおかげで、それはもうぐっすりと!」

「うん! とっても気持ちよかったよ……です」

「俺んちの布団と違って、ふわふわでとても気持ちよかったぜ……あ! です! でへへへ……」

『プッ。あははは』

 

 ジャイアンの慌てぶりに一同から笑いが起き、ホールの空気を和ませた。その笑いにつられてテラと国王の表情も柔らかくなり口元が緩んだ。

 

「さ、どうぞおかけになって。朝食だって美味しいんだから。ね、お父様!」

「あぁ、そうだな」

「ほんと! 美味しそう!」

「俺、お腹ペコペコなんだよ」

「へ? ジャイアン、昨日あんなに食べたのに?」

 

 そのスネオのツッコミについ、何を! といつもの調子でげんこつを振り上げたジャイアンだったが、テラの視線を感じて、すぐさまその拳を引っ込めた。反射的に目を閉じたスネオは、いつまで経ってもげんこつが飛んで来ないため、そっと目を開けてみてその理由を把握した。

 

「のび太、どうやらテラがいるとジャイアンは優しくなるようだぞ」

「ホントだね」

 

 ジャイアンとテラはそれを訊いて驚きと共に二人共頬が赤くなった。そしてクスクスと笑ったスネオとのび太の頭をジャイアンは軽く小突いた。

 

「あまりお待たせしてはいけないわ。みんな、席に座りましょ」

 

 しずかの呼びかけでみんな急いでそれぞれの席についた。

 

「それでは、いただきます!」

 

 朝食のメニューは晩餐会ほど形式張ってなく、いわゆる洋食のブレックファストのような馴染みのあるものだった。今回はソノウソホントは使わなくても大丈夫だね、とみんなは安心し普通に食事を進めた。

 皆が食事を進めてからしばらくした後、ふと、しずかの脳裏にアポロンの姿が浮かんだ。

 

「あ、あの……アポロンさんは朝食を取られないのですか?」

 

 しずかの問いかけに国王とテラの動きが止まった。

 

「あ、お兄様は急ぎの用事が入りまして、朝早くからお出かけになられたのです。みなさんによろしくとおっしゃっておりました」

 

 テラは困っているような表情をうまく隠せず、ややぎこちなく答えた。

 

「そ、そうですか……」

 

 しずかはアポロンに会えないと分かると、少し残念そうに視線を落とした。

 

「みなさんは商いのため、城下町に滞在するのでしょう? でしたら、ぜひまた城の方に遊びに来てください。兄も喜ぶと思います」

「は、はい!」

 

 しずかは目の中に輝きを取り戻し喜んで返事をした。アポロンに好意を寄せるその姿を見て、のび太は少し面白くない気分になった。しかしこのモヤモヤとした感情とは別に、のび太もテラがアポロンのことを隠しているのは気になった。聞くべきか聞かざるべきか悩んだのび太であったが、若い好奇心は前に進むことを選択した。

 

「あ、あの……そのアポロンさんのことなんですが……」

 

 国王とテラの顔色が再び変わったのを感じたが、止めるまいとのび太はそのまま続けた。

 

「見たんです、ぼく。昨日の夜、アポロンさんが城から抜け出すところを……」

「!?」

「……そうでしたか……」

 

 驚く国王を横目にテラはややうつむき加減で答えた。国王は手の平で目を覆い、そのまま顔をなでおろすように手を下ろした。

 

「では、あの兄を見たんですね……攻撃的な兄を……」

「……はい」

 

 のび太がそう答えた後、ホールにはしばらく静寂が漂った。

 

「あの、よろしければお話してはもらえませんか? もしかしたら何かお役に立てることがあるかも知れません」

 

 しずかの申し出にテラはやや困ったような表情で返した。深入りし過ぎたかしら、と反省の色をみせるしずかを見た国王は、テラに話すことを許した。

 

「お話して差し上げなさい」

「お父様!? でも!」

「良いのだ。私が彼らなら信頼できると判断したのだ。だから気にせずに話しなさい」

「……はい」

 

 そう国王に促されたテラはひと呼吸ついてからドラえもんたちに話し始めた。

 

「兄の様子がおかしくなり始めたのは、ここ数ヶ月のことなのです。機嫌が悪いとかそういう類のものではなく……まるで別の人間になってしまったような……そんな印象を受けます」

「王様やテラの記憶はあるんですか?」

「はい。周囲に関する記憶の乖離は全くないようです。ただ……」

「ただ?」

「優しい兄の時に、怖い兄の時の行動について聞くとおぼろげな感じでした。怖い兄の時の記憶は優しい兄に戻った時にやや薄れるようです。しばらくした後、そういった記憶が兄の中で徐々に鮮明になっていくようで……苦しんでいる様子もありました」

「アポロンさん……さぞ辛いでしょうね」

「何かのキッカケで人格が入れ替わる、ということなのかな?」

「キッカケかぁ……なんだろうね」

「のび太は直接見たんだろ? その時に何か手がかりらしいものはなかったの?」

「そ、そう言われても……あの時は地震で部屋が揺れて目が覚めただけで……」

 

 黙ってみんなの会話を聞いていた国王は組んでいた両手に少し力を入れドラえもんたちを改めて観察するように見つめた。

 

(地震……か)

 

 思考はここにあらずというような表情で国王は心の内で小さく呟いた。そんな中、テラは昨日のことについて話し始めた。

 

「昨日のことも実は、兄のことが心配だったので砦に向かったのです。ただ、父からは反対されていたもので、こっそりと抜け出して……」

「だから護衛も付いていなかったんだ」

「はい。その節は助けていただき本当にありがとうございました」

 

 テラは深々と頭をさげた。

 

「いや、そんな気にしないでよ!」

「そうよ。おかげでこんなステキな王女様と友達になれたんだもの」

「ほんとほんと! ね? ジャイアン」

「そ、そうだな」

 

 少し返答に戸惑うジャイアンを見てスネオの口元が歪んだ。

 

「あれ? 素っ気ないな〜。一番喜んでるはずなのに」

 

 ゴチ!

 

(スネオ〜今回はやけに絡むじゃねえか)

(じょ、冗談だよジャイアン。へへへ)

 

 スネオのおでこに自分のおでこを押し付け、小さな声でジャイアンは怒った。さすがに調子に乗り過ぎたとスネオも少したじろいだ。まあまあ、と二人をなだめたしずかは、気持ちを切り替えるようにキッと顔を引き締めて口を開いた。

 

「あの、アポロンさんのこと、一度私たちに任せてもらえないでしょうか!」

「え!?」

 

 突然のしずかの申し出に国王とテラはあ然とした。

 

「解決とまでは行かないにしても、話すことで何かしらの情報が得られるかもしれませんし、何よりドラちゃんの道具が役に立つかも知れません」

「例の発掘道具か、なるほど……」

 

 国王はしばらく考えた後にゆっくりと立ち上がり、その身体をドラえもんたちに向けた。

 

「実の息子ということで牢屋への監禁を躊躇うという甘い裁定を下してきた私が言うのは恥ずべきことと重々承知しておるのだが……諸君、どうかアポロンのことをお願いできないだろうか」

 

 そういって国王はドラえもんたちに対して深くお辞儀をした。テラもその姿になぞらえ同じ姿勢をとった。

 

「そ、そんな! 頭を上げてください!」

「まだ何の役に立つかもわからないんですから!」

 

 国王はしずかの元に歩み寄り、よろしく頼む、というようにしっかりと手を握った。

 

「でも……アポロンさんは今どこに居るんだろう?」

 

 方針は決まったが、どこに向かえば良いのかわからないのび太は、ふと感じた疑問を口にした。

 

「多分……砦だと思います。今までの経緯からも砦にはよく訪れていたので」

「砦……そこに何かあるのかな?」

「わからないけど、今の状況じゃあまず砦に向かうのが良さそうだね」

 

 ドラえもんの意見にみんな賛成し、おー! と勢いよく腕を上げるみんなを見てテラが割り込んできた。

 

「私も行きます!」

『えー!?』

「また危険な目に会うかもしれないよ?」

 

 ふふ、とテラは笑いその身をクルッと翻し国王の方を向いた。

 

「いいでしょ? お父様。だってこんなにスゴイ護衛の方たちがついてるんだから!」

 

 まあ、確かに……とドラえもんは困りながらも納得したような素振りを見せた。国王は軽く一息ついてから、この娘は言い出したら聞かない性格だからな、と心の内で思い、テラの同行を許可するのであった。

 

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