ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第十四章 『護衛』

 ドラえもんたち一行は、アポロンが居るであろう砦に向かうことにした。それはつまり、テラと遭遇した例の森にまた入っていく必要があるということだった。テラの情報によると、砦に向かう途中にある森は、肉食系の動物が多数徘徊する場所とのことだ。

 ドラえもんたちは全員、上陸の際の装備を再び身にまとい、テラを中心に配置した陣形で歩みを進めた。とはいえ上陸時と違い、人のような知的生命体の出現は皆無とわかっているため、ドラえもんたちの歩く速度は普通のそれと同程度だった。

 

「しかし、こんな危険な場所に……よく一人で乗り込もうと思ったね」

「お恥ずかしい……兄のことでつい感情的になり……後先考えぬ行動だったと反省しております」

 

 のび太の言葉にテラは照れくさそうにうつむきながら答えた。

 

「あ、ご、ごめん! そういうのじゃなくて……ぼくなら怖くて飛び込めないなぁ、と思って。本当にお兄さんを大切に思ってるんだね、テラは」

「はい。本当は優しい兄様ですから……」

 

 そんな会話をしているのび太たちを警戒する眼が多数、周囲に光っていた。その気配をいち早く察知し歩みを止めたジャイアンの背中に、テラと話をしていたのび太がぶつかった。

 

「あいた! もー、どうしたんだよ、ジャイアン!」

「……あんまり気ぃ抜いてんなよ? のび太」

 

 そう言ってジャイアンは後ろののび太を横目で見ながら、周囲を見ろ、と言わんばかりに顎でサインを送った。

 

「ん? ……あぁ!」

 

 全員が状況を理解した。気がつくと昨日テラを襲ったオオカミの群れが周りを囲んでいた。

 

「のび太、数は昨日の倍ほどか?」

「うん、そんな感じだね。しずかちゃん、テラを守ってあげて」

「わかったわ!」

「ジャイアンは前、ぼくは後ろ、のび太くんは左右をお願い。スネオくんはしずかちゃんのフォローをよろしく!」

「任せて!」

 

 グルルル……

 

「性懲りもなくまた来やがるとはな」

「アポロンさんはこの森を一人で抜けられるだけの力を持っているということだよね?」

「そうなるね」

「はい。兄は武術にも長けておりますので、この程度の状況なら難なく切り抜けれると思います」

「ひえー……本当にスゴイお兄さんだなぁ」

「おしゃべりはその辺にして! 来るよ!」

 

 グワオォーッ! 

 

 オオカミは吠えると同時にドラえもんたちに襲いかかった。

 

「行くよ! 空気砲ドカン!!」

 

 その砲撃でオオカミが三匹吹っ飛んだ。周囲のオオカミは一瞬萎縮したが、そんなことはお構いなしにドラえもんはニ発目、三発目を発射した。

 

「ドラえもん、派手にやるじゃねえか! よぉし! 俺も!」

 

 ピシッ! ガンッ! ビシィッ!

 

 ジャイアンは同時に襲いかかってきたオオカミ三匹をジャブ、アッパー、ストレートと派手かつ華麗に葬った。

 

 ピシッピシッピシッ! 

 ウォン! キャン! クーン……。

 

 ジャイアン程の派手さはないが、のび太は全弾一寸の狂いもなくオオカミの急所である鼻先に命中させていた。

 

 ビビビビッ! 

 ギャウンッ! ギャワンッ!

 

 しずかのショックガンがオオカミたちに命中した。しかし、もともと射撃は得意ではないため、全弾命中とまではいかない。

 その様子を見てオオカミたちは標的をすぐにしずかに変えた。ジャイアンとのび太ではなく、しずかとドラえもんに標的を絞ったオオカミたち数匹が隊列後方から迫る。ドラえもんもそれに気付き、しずかと共に攻撃するが、二人の放つ攻撃はオオカミたちの華麗な左右ステップによって空を切った。三匹のオオカミがドラえもんとしずかに襲いかかる。

 

 グワオォッ! 

 

「うわーっ!」

「きゃーっ!」

「しずかちゃん! ドラえもん!」

 

 絶体絶命かと思ったその時、涼しい顔をしてスネオが襲い来るオオカミの前に立ちはだかった。

 

「ほい! ジャイアン!」

 

 スネオはひらりマントでオオカミたち三匹を軽く上空へいなした。意味も分からず宙を舞うオオカミたちは、最も行きたくなかったであろうジャイアンの元に運ばれた。

 

「おうよ! ほらよ、のび太!」

 

 ビシッ! バシィッ! ズドッ! 

 

 ジャイアンは、ジャブ、アッパー、ストレートと丁寧にオオカミたちにお見舞いし、のび太の前方に吹き飛ばした。

 

「任せて! ……バババン!」

 

 のび太の三発速射は空中のオオカミたちの鼻を正確に捉えた。悲鳴ともつかぬうめき声をあげ地面に落下した。

 

『ナイスコンビネーション!』

 

 みんなは勝利を称えハイタッチした。

 

「スネオさん、ありがとう!」

「ありがとう、スネオくん!」

「ふふん。たまには良いとこ見せないとね」

「スゴイ! みなさん、とてもお強いのですね。城の衛兵でもここまでの連携はできませんわ」

 

 いや〜それほどでも、とテラに褒められて力の抜けかかったドラえもんたちの前に、大きな身体をしたボスオオカミらしき獣が、数匹のオオカミを押しのけ奥からその姿を現した。

 

 グルルル……

 

 その身体は他のオオカミよりも二周りほど大きく、風貌はライオンにも見える。毛は銀色で片目は傷ついていた。

 

「いよいよボスの登場か! 腕がなるぜ!」

 

 興奮冷めやらぬジャイアンの横から、ドラえもんが何ともゆるい感じで飛び出した。

 

「なーんだ、やっぱりボスがいるんじゃないか。あ、ジャイアン、しばらく睨みを効かせててね」

 

 おっと? と拍子抜けしたジャイアンを尻目にドラえもんはテラを呼んだ。

 

「何でしょうか……?」

「これを使ってみてよ……え〜と、桃太郎じるしのきびんご!」

「おだんご……ですか?」

「そう。それをボスオオカミに食べさせてごらん」

「え!? で、でも……」

 

 そんなに上手くいくかしら、とテラは心配そうな顔を見せた。ドラえもんは、大丈夫、と言わんばかりにニッコリと笑った。

 

「そういうわけで、ジャイアン、みんな、協力よろしく」

「勝手なこと言いやがって、わかったよ!」

「今すぐ投げたらダメかな?」

「まぁ警戒するだろうね。野生なら特に」

「やっぱり意表をつくしかないか」

 

 そんな話を進めている最中、子分のオオカミたちがドラえもんたちの周囲を取り囲む。両陣営が互いに準備が整った頃合いに、ボスオオカミが開戦の合図とも言える雄叫びをあげた。

 

 ワォ──ーッ! 

 

「まずは雑魚の掃除といこうぜ!」

「おっけー!」

 

 ジャイアンとのび太の攻撃は安定したもので、全周囲の半分程度は二人だけで防衛していた。その逆の位置、すなわちドラえもん、しずかの方面に隙があると見るや、ボスオオカミは素早い動作で二人のエリアまで回り込み、ものすごい勢いで突進してきた。

 

「空気砲! ドカン!」

「あたしも! ええい!」

 

 ドラえもんの空気砲としずかのショックガンがボスオオカミに向けて放たれた。しかしその巨体とは裏腹に高い敏捷性を持っていたボスオオカミは、華麗に全弾を避けてドラえもんたちに飛びかかってきた。

 

「ふふ、飛んだらダメでしょ」

 

 飛び込んだ先にはスネオのひらりマントが待っていた。ひらりといなされたボスオオカミは、今度はのび太の前方へと飛ばされた。

 

「撃つなよ! のび太!」

「え!?」

 

 つい反射的に撃とうとしたのび太は、スネオの声に反応し慌てて前に向けていた手を引っ込めた。

 

「今だ! 着地を狙って!」

「え!? は、はい!」

 

 スネオからの指示を受けたテラは、言われた通りボスオオカミの着地に合わせてきびだんごを投げた。ボスオオカミが振り向くタイミングに合わせるつもりだった。ところがボスオオカミは、その巨体とは思わせぬ柔軟さを見せ空中で半ひねりをし、こちらに身体の正面を向けた体勢で地面に着地をした。着地した眼前にテラのきびだんごが放られてきたが、ボスオオカミはそのきびだんごを避けてかわし食べることはなかった。

 

「猫みたいに身軽な奴だな」

「案外おいしいのに。もったいない」

「へ? のび太、食べたことあるの?」

「気をつけて! もう一度来るよ!!」

 

 ボスオオカミは、軽く吠えて周囲のオオカミたちに命令を送った。命令を受けたオオカミたちが一斉に飛びかかる。それと同時にボスオオカミはドラえもんたちの隊列を分断させるように猛烈な突進を仕掛けてきた。

 

「こいつ! なかなか考えやがる!」

「とりあえず一旦左右に別れた方が良さそうだね」

「いや、その必要もないでしょ」

 

 そう言ってスネオは再びひらりマントを構えた。

 

「また着地されるよ」

「いいんだよ」

 

 そう言ってスネオはさっきと同様にひらりマントを振った。ただし、今度は向かってきた方向にそのまま返すようにマントを制御した。吹き飛ばされたボスオオカミの巨体は空中でまた身体を捻り体勢を立て直す。

 

「ドラえもん! 

 着地する地面をめいいっぱい撃って!」

「地面!? 

 わ、わかった! 空気砲ドカン! ドカン! ドカーン!」

 

 空気砲の着弾により、辺り一面が土煙で覆われた。煙の中に着地したボスオオカミは、周囲が見えないとすぐに判断すると、イタズラにその身を動かさず警戒体勢をとっていた。

 

 シ──ン……

 

 視界を遮る土煙だけが緩やかに動き、何も起こらない状況がしばらく続いた。警戒の緊張も限界に達した頃、ボスオオカミの耳に突然人間の声が飛び込んできた。

 

「こっちだよ」

 

 スネオの声に反応し目標の位置を掴んだボスオオカミは、子分たちに攻撃対象の居場所を伝えるように、その方向に吠えながら突進を開始した。猛スピードで土煙から身体を出したと同時に何かが前方から飛来し口の中に入った。

 

 モグモグゴクン! 

 

 ボスオオカミはテラの投げたきびだんごを思わず食べてしまった。

 

「ま、吠えるにしたって、噛みつくにしたって口を開けなきゃね。あとは頼んだよ」

 

 スネオは何事もなかったようにテラの方を向いて軽く言った。

 

「さ、命令してみて!」

「え?」

「何でも言うこと聞くよ。もう子犬より大人しいんだから」

 

 ドラえもんの言葉をやや信じられないような素振りで、テラはボスオオカミの方を見た。そこには尻尾を振りながらちょこんと目の前におすわりの姿勢で命令を待っている可愛らしいボスオオカミの姿があった。ドラえもんはきびだんごの効果をテラに教えた。

 

「大体効果は一日程度だけど、きびだんごが効いている間に学んだことはそのまま記憶として受け継がれるから、自分のことをよく覚えさせておくのが良いよ」

 

 説明を聞いたテラは接触を試みようとボスオオカミに近づいていった。周囲の子分たちがテラを警戒して威嚇したが、ボスオオカミが子分たちを逆に威嚇し黙らせた。

 

「大丈夫だよ! ほら!」

 

 のび太がボスオオカミの首元に抱きついてみせた。ボスオオカミは嬉しそうにのび太の顔を舐め始めた。

 

「わ! くすぐったい! あはは!」

 

 その光景を見てテラは安心した。自分も撫でてみようと近づき、右手を優しく差し出してみた。するとボスオオカミはその手に頬を擦り寄せて舐め始めた。

 

「ね? 大丈夫でしょ」

「ええ。ドラちゃんさんの道具ってすごいんですね」

「いやーそれほどでも」

 

 やはり褒められるのは嬉しいらしく、ドラえもんのニヤケ顔は止まらなかった。

 

「あら? 腕が……」

 

 ふと見るとボスオオカミの右腕に傷ができていた。あれだけ派手に戦ったんだから当然か、とのび太たちは思うと同時に、大人しくなった今を見て少し罪悪感も感じていた。

 

「ちょっと待ってね」

 

 そう言ってテラは身に着けていたスカーフを外し、傷のある右腕に優しく巻き付けた。

 

「とりあえずはこれで大丈夫かしら」

 

 ボスオオカミはスカーフの匂いを嗅いでから、テラの顔に鼻を寄せ、改めて匂いを嗅いだ。しばらくして匂いを覚えたのか、テラの頬を嬉しそうに舐め始めた。

 

「わ! くすぐったい!」

「君のご主人さまだからね。ちゃんと覚えておくんだよ」

「うふふ、かわいいわね。何だかペロを思い出すわ」

「そうだ! 名前をつけてあげようよ!」

「へー、のび太にしてはいいアイデアじゃない」

 

 テラはのび太たちの盛り上がりに少し戸惑い、しばらくはその成り行きを見守ることにした。

 

「守り神とかなら、ガーディアンとかはどう?」

「何だか可愛くないわ。シロとかの方が馴染みやすくない?」

「それじゃありきたり過ぎるよ。ピョートルとかグリゴリーとかは?」

『全然馴染まない!』

 

 名前候補を上げたスネオに一斉に否定意見が浴びせられた。

 

「ジャイアンは何かないの?」

 

 木によっかかり腕を組んで場を静観していたジャイアンは、突然ののび太の声がけにやや驚いた。

 

「い、いやあ、おれは特には……ないな」

 

 人差し指で顎元を軽くかきながら、そう答えた。

 

「そういえばジャイアンのところにも犬がいたよね」

「あ? ムクのことか?」

「そう! ムクがいいんじゃない! ね?」

 

 のび太は自信ありげに振り向きながらみんなに提案した。

 

「ジャイアンの代わりにテラを守るという意味でピッタリだ! いいんじゃない?」

「ナヌ!? 俺様の代わり?」

 

 やや顔を赤くしてスネオに切り返すジャイアンを見て、しずかはクスと笑いながらその意見に同意した。

 

「そうね。確かにピッタリだわ」

「!? ☆」

「でしょ〜!」

「じゃあ、ムクで決まりだね」

 

 しずかは成り行きをキョトンと見守っていたテラの手を取り、さあ、とその手をボスオオカミの首元に持っていった。

 

「今日からあなたはムクよ。ムク、これからはテラを危険から守ってあげてね」

 

 そう言ってしずかはムクから少し離れ、テラとムクの二人だけの空間をつくってあげた。ムクは再びテラの顔を舐め始めた。テラは喜びながらも、周りのオオカミたちの不安そうな雰囲気を感じ取っていた。

 

「ムク、あなたは仲間たちと自分の住処におかえりなさい」

「え!? 護衛として連れて行かないの?」

 

 テラの決断に驚いたのび太は思わず聞き返した。

 

「ええ。ムクは群れのリーダーです。こちらの都合でリーダーを奪っては、きっとお仲間たちが路頭に迷ってしまうかと」

「……たしかに」

「それもそうね」

 

 テラはドラえもんたちの方を向いて小さく頷き、ムクの首元にそっと手をあて語りかけた。

 

「さあ、お行きなさい。もう人間に悪さしちゃダメよ?」

 

 ムクは寂しそうに顔をテラの頬に擦り寄せた。テラはムクの頭をよしよしと優しく撫で、ゆっくりと自らの身体を一歩引いた。ムクは名残惜しそうな素振りをしながらも、仲間たちを引き連れて森の奥深くへと帰って行った。

 

「行っちゃった。これで良かったの?」

「ええ。ムクが居なくなったら、他の子たちが暴れてしまうかも知れませんから。それよりも、この辺一帯が安全になる方が良いと思います」

「でも、あんな頼もしい護衛もなかなか居ないよ?」

「大丈夫です! 私にはみなさんという、これ以上ないくらい頼もしい護衛が付いていますから!」

 

 テラに讃えられたドラえもんたちは、少し照れくさそうに笑った。

 

「それじゃあ改めて、砦に向かおう!」

『おー!』

「……で、砦はどっちだっけ?」

 

 定番のドラえもんのボケにみんなズッコケた。

 

「ドラえもん!」

「ごめんごめん! こういう時は……人探し傘! アポロンさんはどこにいるの?」

 

 ドラえもんの呼びかけで、傘の上の矢印がアポロンのいる方向を指した。

 

「こっちだって。みんな行こう!」

「ドラちゃんさんの道具って本当にすごいんですね」

 

 先程のきびだんごの効果を体感したせいもあり、テラは改めて心から感心した。

 

「でへへ。もっと褒めてください」

「また、調子にのって」

「冒険っていうと大体故障してるもんね」

「だから! 今回はしっかりと点検に出したの! 

 ちゃんと動いてるでしょ! もう!」

 

 むくれたドラえもんをなだめるように、のび太たちはごめんごめん、と謝りながら道を歩いていった。

 一行は人探し傘の指す方向にひたすら進み、かれこれ二十分程が経過した。周りは木々ばかりでなかなか景色は変わらなかったが、潮の香りを少し感じ取れるようになった頃から道が開けてきた。すると突然、人探し傘が動かなくなった。

 

「あれ? どうしたんだろ?」

「矢印……動かないね」

「やっぱり故障なんじゃないの?」

「そんなバカな! 何の前ぶりもなく動かなくなるなんて……」

 

 ドラえもんは納得行かない顔で傘の矢印部分をチョンチョンと触ってみたが、特に何かおかしいようにも思えなかった。

 

「う〜ん……動かないな……」

「でも、ここまで来れば砦はもうすぐです。ほら!」

 

 テラは遠目に見える砦を指さした。

 

「ここまで全く迷わずに連れてきてくれたんだもの。とてもスゴイ道具だわ。ありがとう、ドラちゃんさん」

「うぅ……テラ、ありがとう〜」

 

 目を潤ませたドラえもんを先頭に、アポロンの居るであろう砦を視野におさめた一行であった。

 

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