ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第十五章 『変貌』

 森を抜けると平地が広がっていた。雑草もなく、土があらわになっている場所が続く。その先は崖になっており海も見える。ここは島の外周に位置する場所なのだろう、とドラえもんたちは認識した。少し高台になっている崖の先に砦はあった。ドラえもんたちはまっすぐ砦の入り口へと歩いていった。

 砦へと近づくにつれ、何やら見張り台のようなものが複数視認でき、その上には衛兵が周囲の監視を行っている様子が見えた。衛兵はこちらに向かって歩いてくるドラえもんたち一行に気が付くと、他の衛兵たちと何やら連絡を取り合いながら徐々に砦入り口付近の見張り台に集まりだした。

 

「止まれ! お前たち! こんなところで何をしている?」

 

 頭上から投げかけられる衛兵の言葉を聞き、全員足を止めた。

 

「私は王女テラです。兄、アポロンに伝えたき要件があり参りました」

 

 テラはみんなの前に出て、そう衛兵に呼びかけた。

 

「テラ王女!? し、失礼致しました! しばらくお待ちください!」

「お、おい待て!」

 

 下に降りようとした衛兵を、もう一人の衛兵が呼び止めた。

 

「レムリア様からは、何人たりとも入れてはならぬ、と命ぜられたではないか」

「そうだが……テラ王女を締め出すわけにもいくまい」

「う〜む、一度レムリア様にご連絡すべきか……いや、今は会議中だったか……」

「何を騒いでおるか」

 

 二人の衛兵が問答を繰り返している場に一人の男が割って入ってきた。

 

『タ、タミアラ様!』

 

 二人の衛兵はすぐさま敬礼した。タミアラは見張り台からドラえもんたちを見下ろし状況を察すると振り向きながら命令した。

 

「私が迎え入れます。門を開けなさい。レムリア様には私からご報告しておきます」

『はっ! 承知致しました!』

 

 見張り台の階段を降りていくタミアラを衛兵たちは敬礼で見送った。タミアラの命令により、しばらくした後、砦の門がゆっくりと開かれた。その中央にはタミアラ当人がテラ王女一行を迎えるために立っていた。

 

「さぁ、行きましょう」

 

 そう言ってテラは歩き出し、ドラえもんもその後に続いて一行は砦の門をくぐった。

 

 □

 

「こちらの部屋でお待ちください」

 

 タミアラに案内され、一行は十二畳程の部屋に通された。殺風景なその部屋は、日差しよけの付いた窓が複数あり、あとは最低限のテーブルと椅子が置かれているだけだった。作戦会議用の部屋かな? とのび太は思った。

 

「テラ様、なにぶんこういった場所ですので十分なおもてなしもできませんが、どうぞおくつろぎくださいませ」

「ありがとうタミアラ。迷惑をかけてごめんなさい」

 

 問題ありません、と言うようにタミアラはゆっくりと一礼して退室した。ほどなくして部屋の外から足音が近づいてきた。やや早歩きのようにも感じるその足音は、部屋の入り口の扉の前で止まった。外で待機している衛兵の声が聞こえた後、ドアが開き誰かが部屋に入ってきた。それはアポロンその人だった。

 

「待たせたね、テラ」

「お兄様」

「みなさん、このような遠方まで足を運ばせてしまい申し訳ありません」

 

 アポロンはドラえもんたちにお辞儀をして挨拶をした。みんなは恐縮しながら各々頭を下げた。テラは優しいアポロンを見たからか、少し嬉しそうだった。

 

「しかし、ここは大事な客人の方々をお連れするような場所ではないように思えるが? テラ」

 

 アポロンはやや困り顔でテラをたしなめた。

 

「おっしゃる通りです……返す言葉もございません」

「テラは悪くないよ!」

 

 テラの謝罪を打ち消すのび太の勢いに二人は少し驚いた。

 

「ぼくたちがアポロンさんと話がしたい、とわがままを言ったから……テラが案内してくれるって言ってくれたんです!」

 

 本当なのか? という表情を浮かべ、アポロンはテラの顔を見つめた。テラは目を閉じ小さく首を振った。

 

「経緯は何であれ、みなさまにこちらに向かう道中の警護を依頼をしたのは他でもない私です。お兄様に会いたいという私のわがままのために、大切なお客様であるみなさまを危険な目に合わせてしまった事を深くお詫び申し上げます」

 

 そういってテラは椅子から立ち上がり、ドラえもんたちに深々とお辞儀をした。

 

「そんな! やめてよ、テラ!」

「そうよ。テラが居なかったら、私たちはこうしてアポロンさんに会えたかどうか……」

「俺たちなら全然平気だぜ!」

「ほんとほんと」

「みなさん、ありがとうございます」

 

 両者共に言っていることはおそらく本心なんだろう。その上で互いを思いやっているんだな、とアポロンは目の前でのやりとりを見てそう理解した。そして、確かに経緯は何であれ、今回も大切な妹を守ってくれたことには変わりはないという気持ちからアポロンも頭を下げドラえもんたちに改めて感謝の意を込めてお礼を伝えた。

 

「さて、私にお話があるとのことですが……」

 

 アポロンは、みなさんもおかけください、と恐縮するドラえもんたちを促すように手のひらを前に差し出しながら席に着いた。

 

「……そうだね、先ずはテラの方から聞こうか」

「は、はい。あの……わたしはいつものようにお兄様の様態が、その……心配で……」

 

 アポロンは、やれやれまたか、と肩を上下に小さく動かし軽いため息をつきながらも優しい視線をテラに向けた。

 

「見ての通り元気だよ。相変わらず心配性だな。とはいえ、昨晩は城を抜け出してしまったからな……心配をかけて悪かったね」

「い、いえ。お変わりなければそれで良いのです」

 

 そう答えながらも不安が残るような表情を浮かべるテラであった。それは、踏み込みたくても踏み込めないようなもどかしさを感じるものだった。二人のその様子を見ていたのび太は、アポロンも心なしか苦しい表情のように見えた。ここに来るまでは昨晩のことを質問しようか迷っていたのび太であったが、解決の糸口を掴むべきと口を開くことを決心した。

 

「あの! アポロンさん!」

 

 語気の強いのび太の呼びかけに、アポロンは少し戸惑い気味に応答した。

 

「えと……のび太くんだったかな。何でしょう?」

「はい。昨晩のことです!」

「!?」

 

 その言葉は部屋全体を緊張で埋め尽くした。アポロンは目を細めてのび太を凝視した。

 

「昨晩のこととは?」

 

 試しているのか本当に質問しているのかがにわかに判断つかない素振りでアポロンは聞き返した。だが、そんな駆け引きなどはお構いなしに、のび太はただ素直に質問をアポロンにぶつけていった。

 

「ぼくは昨日の夜、アポロンさんが城から抜け出すところを見ました」

「ほう」

 

 アポロンは目を細めゆっくりと組み合わせた両手をテーブルに乗せ、続けて、と言わんばかりに少し前のめりの姿勢をとった。こちらを見続けているその鋭い眼光に押し負けないようにのび太は続けた。

 

「ぼくは、アポロンさんと目が会いました。覚えていますか?」

「……会っている? 昨晩……」

 

 何かを思い出そうとするように、アポロンの視線がゆっくりと下に流れた。そして右手で目を覆い隠し、少しの沈黙のあとにつぶやいた。

 

「……記憶の共有は不完全ということか……」

「え?」

 

 アポロンは改めてドラえもんたちを見定めた。そしてテラの方を見たあと何かを警戒するように視線を背後のドアにやった。しばらく考えた後、彼らこそが相談すべき真の相手か、と心で呟き話をきり出した。

 

「突然のことで大変恐縮ですが、みなさんにご相談したいことがあります」

「!?」

「お兄様……?」

「おそらく、みなさんは既にご存知かと思いますが、私にはもう一つの人格が宿っています」

「え!?」

「なんだって?」

「ど、どういうこと?」

「お兄様……」

 

 唐突な展開と告白にドラえもんたちは豆鉄砲を食らったような表情へと変わった。アポロンは人差 し指を口にあて、静かに! という仕草をし、後ろの衛兵を目で気にする素振りを見せた。みんなハッとして、慌てて口を手で覆った。

 

「やはり……私の身に起きている異変をご存知だったのですね。父やテラから話しが伝わっているとは思いました。そうでなければ、わざわざこんな場所にみなさんが来る必要もないですからね」

 

 みんなは目線を下げて沈黙した。

 

「みなさんは父やテラから私の様子を伺うように頼まれたというところでしょうか……そして 「頼まれた」ということは、わたしの危惧していたことが今起きているのですね……」

 

 アポロンは背筋を伸ばし、ひと呼吸してから続けた。

 

「もう一人の私が外界侵攻を企んでいるということです」

「!?」

 

 みんな、アポロンの推論をただ黙って聞いていた。のび太はこうも素直に自分の非を認めて話すことができる人がいるのかと感心していた。しかし、攻撃性があるとは聞いてはいたけど悪いことをしているという話は特に聞いてはいない。ましてや外界侵攻なんて大きな話はもってのほかだ。何を思ってそう言ったのかはわからないけど、そこまで自分を責めなくてもいいんじゃないだろうか、と思ったのび太はアポロンを擁護するように否定した。

 

「ううん、それは違うと思う!」

 

 一同の視線はのび太に集まった。

 

「ぼくには、アポロンさんが悪いことをする人だなんて思えない。王様やテラも、最近のアポロンさんをただ心配していただけなんだと思う!」

 

 のび太の発言を聞きながら、しずかも大きく頷いた。アポロンは困りながらも少し嬉しそうな顔をした。

 

「本当に君たちは優しい心を持っているんだね。ありがとう」

 

 真っ直ぐな心が乗ったアポロンのお礼の言葉を聞いたのび太たちは思わず赤面した。

 

「しかし……情けない話ですが、事実である以上対策は行わなければなりません。ある程度想定はしていましたが、私一人の力ではどうにもならないというのも歯がゆいところでした」

「自分の意思での制御は難しいんですか?」

 

 のび太の問いにアポロンはゆっくりと頷いた。

 

「意識してはいましたが、難しいと言わざるを得ません。先程のお話で言えば、城を抜け出たことは私も覚えているのですが、のび太さんにお会いした記憶がないのです。これは、もう一人の私の記憶が共有されていないことになります」

 

「そんな……」

「切り替わるきっかけとかはわからないんですか?」

 

 堪りかねてしずかが割り込んだ。

 

「すみません。それもまだわかっていないのです。わたしも今、そのきっかけの解明を急いでいるところなのですが、残念ながら現状はいつ入れ替わってもおかしくない状況にあります。そこで……」

 

 そういってアポロンは次に続く言葉を一瞬飲み込んだが、意を決してドラえもんたちに懇願するのだった。

 

「そこで、テラが友人として見込んだあなた方にどうか私の動向を監視してもらえないでしょうか」

『ええ!?』

「そして異変、つまり害ある行動を取った場合、もしくはそうと感じた場合は、手段を選ばず止めて欲しいのです」

「お兄様!」

「あなた達は不思議な道具を持っているとミヨイから聞きました。それは王族でも知らない効果だと聞いています。できればそれら道具を使って、私を止めて欲しいのです」

 

 そう言いながらアポロンは頭を下げた。いつ入れ替わっても、という事実を聞いて場は騒然としたが、解明を急ぎたいというアポロンの要望もあり、遠慮した質問をしている場合でもないとドラえもんたちは考えた。

 

「あのーすみません……これから少し踏み込んだ話をします」

「どうぞ」

 

 おそるおそる手を上げたドラえもんに対してアポロンは、当然のことです、というように受け入れた。

 

「なぜ、別の人格が現れるようになったのですか?」

 

 ドラえもんの鋭い質問に息を呑んだアポロンは、どこを見つめるでもない目をしながら答え始めた。

 

「思い当たる節はあります。私が島の外の人間に対して殺意を抱いていた……いや、おそらくは今でも心の奥底では殺意を抱いているのだと思います」

 

 語尾をやや強め、アポロンはキッとドラえもんの方に視線をやった。

 

「そんな!?」

「とてもそんな風には感じないよ!」

「ああ!」

 

 みんなの優しい返答を聞き、アポロンは哀しく遠い目をしながら一度目を閉じた。そして震え始めた手を強く握りながらゆっくりと口を開く。

 

「一年程前……私のせいで、ある方が命を落としました……」

「お兄様! その話は!」

「いいんだ!」

 

 アポロンは激しい口調でテラを制止した。

 

「私には兄のように慕っている人がいました。名をアレスと言います。一年前、そのアレス兄さんの外海調査に同行し、ある大陸に上陸していた時のことです。私達は大陸に住む人間たちの襲撃を受けました」

 

 そう話した後、アポロンは少し間をおいた。気を落ち着けていたのか、一息深呼吸をし再び話し始めた。

 

「アレス兄さんは私をかばい……逃がすために……大陸の人間に命を奪われました」

『ええ!?』

 

 ややうつむいて無念そうに哀しみの表情をしたままアポロンは続けた。

 

「私は……アレス兄さんのおかげで命を取り留め、何とか島へ戻って来ることができました。ですが……」

 

「ちょ、ちょっと待って! そんなのおかしいよ!」

「そうだよ! この島の人が大陸の人間に負けるなんて!」

 

 思わずのび太たちは声を荒げた。これだけの文明の開きがあるのに、大陸の人たちとの戦闘で優位に立てないはずがないと、ドラえもんたちはそう思っていた。その思いがアポロンの話を中断させてしまった。

 

「……掟です」

 

 哀しい表情をしながらテラがポツリとつぶやいた。

 

「掟?」

「はい。この島の掟です。外界の人間に決して手を出してはならない、と……」

「そんな! 自分の身を守るためでも?」

「はい」

 

 のび太は確認するかのようにアポロンの方を見た。だがアポロンも納得の行かない様子でただ頷くだけだった。

 

「アレス兄さんを失い、怒り狂う感情に襲われた私は、この島の掟を呪いました。その憎悪の制御ができず、怒りに身を任せた私は破壊衝動に駆られ、手当たり次第の破壊を繰り返しました……」

 

 ここまで話すとアポロンの手の震えはおさまった。

 

「私は、自分の中でその私怨の件は解決したものだと……打ち勝ったものだと思っておりました。ですが、人の心はそんなに強くはないようです。心に憎悪が残っているのに気付き、自分で何とかしようと試みているうちに精神が分離し、結果、二重人格という現状を招いてしまいました。自分で自分の嫌な面に蓋をしてしまったのです。おそらく……改善には向かわないでしょう」

 

 それを聞いたドラえもんたちは思案を巡らせたが、そんな都合良く解決策など思いつくはずもなく、しばらく沈黙が続いた。

 

「そうなるとやっぱり、監禁とかしかないのかなぁ?」

「スネオさん!!」

「だ、だってさ……」

 

 みんなも失礼だとは感じていたがスネオの意見ももっともだとは感じていた。そのせいもあって、このスネオの発言の後、のび太たちはしばらくアポロンとテラの顔が見れなかった。場に気まずい空気が漂う中、ふふふ、とアポロンが軽く笑った。

 

「いや、あなたの言うとおりです。そしてやはり、監視はあなた達に頼むべきと確信が持てました」

「え? それはどうして?」

「お兄様……」

 

 みんなはおそるおそるアポロンに視線を集めた。

 

「王子である私に言いづらいことをみなさんはハッキリと言ってくださったからです。テラ。監禁はおそらく父も考えていたはず。そうだね?」

 

 アポロンの視線に耐えきれず、テラは一度視線を反らしたが、頑張って再度アポロンと視線を合わせた後、コクリと頷いた。

 

「やはり……息子に対して、という甘さもあったとは思いますが、王子が監禁というのは民に示しがつかないというのと、罪状が不明確というのが理由でしょう」

 

 父親の身内への甘さにやや困り顔となったアポロンはひとつため息をついた。

 

「昨年の破壊行動後ならいざ知らず、これから悪いことをする可能性がある、という根拠の薄い予測だけで監禁というのは、そもそもの秩序を乱す恐れがあります。使い方次第ではただの恐怖政治となりますから」

「疑わしきは罰せず、ね」

 

 アポロンはこのしずかの知的発言に少し驚き、その学の高さに敬意を払うように、そのとおりです、と答えた。

 

「あの……もう一人の人格は、何をしようとしているのでしょうか?」

「おそらく外海の人間を攻撃しようと考えているはずです。私怨に染まった私ならきっとそうする」

 

 躊躇せず断定し、なおもアポロンは話を続けた。

 

「ただ、それに関する情報、記憶は今の私には見えていません。自分のことなのに情けない話です……」

「うーん……なるほど……」

 

 ドラえもんたちは今までの情報を整理した。そんな中、のび太は気になっていたキーワードのことを質問した。

 

「あの……さっきの「掟」についてなんだけど……」

 

 その問にはテラが答えた。

 

「古くからこの島にあるしきたりで、この島の外の人間を支配、殺傷することを全面的に禁じているのです」

「……? 特に悪いしきたりとは思えないんだけど……?」

「はい……あの、この件は後ほどご説明しますので、今は許していただけないでしょうか」

 

 テラはアポロンの方を横目に気にかけながら、のび太にお願いした。

 

「え!? あ!? うん、わかった。ごめん!」

「すみません……」

 

 テラは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「……なるほど。大体わかりました。そういうことでしたら、今すぐにでも監視装置をつけさせて頂きます!」

 

 ドラえもんが椅子から降りて、ポケットから道具を出そうとした。しかしいつも以上に道具の取り出しに時間がかかっていた。

 

「どうしたんだよ? ドラえもん」

「あれ? ちょっと待ってね……えーっと……あった! スパイ衛星!」

 

 ……と言ってもその道具は誰にも見えていなかった。この道具はスゴイ小さいため、目を凝らさないと見えないためだ。

 

「おい、ドラえもん。何にも見えないぜ? 大丈夫かよ?」

「これは本当に小さい衛星なの! 大体、大きかったらすぐに発見されちゃって困るでしょ!」

「そ、そうだな、わりいわりい」

「まったくもう! じゃ、衛生を……と……あれ? あれ?」

「どうしたの?」

「衛生が飛ばない……」

「またぁ?」

「故障ばかりじゃねえか!」

「せっかく頼ってくれてるんだよ? 何とかならない?」

「そうは言っても……あ!? 動いた! 良かったぁ……」

 

 スパイ衛星が動いたようで一同は安堵した。もっとも一番安心したのはドラえもんだろう。 スパイ衛星はアポロンの身体を旋回し始め軌道に乗った。

 

「これで大丈夫。あとはどこからでも様子を見ることができ……」

 

 得意げになって話しているドラえもんの言葉を遮るようにアポロンは勢いよく席を立った。突然のその行動にみんなは一瞬固まり、アポロンの顔を見て驚いた。そこには優しさの微塵も感じられない表情が浮かび上がっていた。

 

「テラ! 俺はこれから大事な用事がある。今すぐ友人たちを連れて帰るんだ」

「そんな! 兄さん! 待って!」

「アポロンさん!」

 

 部屋の異常な雰囲気を察したのか、突然部屋の扉が開き、慌てた表情の男性が一人入ってきた。

 

「アポロン様! どうかなされましたか?」

 

 その男は中年風の容姿をしていて、背には紫のマントがなびいていた。その外観からは、よく居る優しい雰囲気の叔父さんという印象を受けた。

 

「レムリアか。例のものはどうなっているか」

「あ……は、はい。あとニ時間程です」

「そうか。では少し確認するとしよう」

「ははっ! ……あの、この御方たちは?」

「テラの友人だ。要は済んだ。お引き取り頂くところだ」

 

 アポロンはそう一方的に話したあと、誰の言葉にも耳を貸さず、部屋から出ていってしまった。

 

「何だってんだよ、一体……」

 

 不満そうなジャイアンの顔を見てレムリアが言葉を添えた。

 

「みなさま、大変申し訳ありません。アポロン様は本当は心優しい御方なのですが、たまに気性が荒くなる時がございまして……」

 

 レムリアからアポロンの振る舞いに対する謝罪を受け、ドラえもんたちは言葉を発せられなくなった。

 

「わかってるわ、レムリア。兄様をお願いね」

「はい。不肖ながらご尽力致しますゆえ、本日のところはどうかお引き取りを」

 

 テラとドラえもんたちに深々と頭を下げながらレムリアは懇願した。

 

「よ、よしてくださいよ!」

「別に何とも思ってませんから」

 

 のび太が頭を上げてくださいとあまりに一生懸命なので、レムリアはその身体をゆっくりと起こした。

 

「タミアラよりお話は伺っておりましたが……そうですか、あなた方がテラ様のご友人でしたか。どうかテラ様のこと、よろしくお願い致します」

「大丈夫よ、レムリア。この方たちはとても不思議な力を持ってて強いのよ!」

「なんと! そうでしたか。いやはや頼もしい!」

「だから私の方は大丈夫。心配しないで」

「承知しました。では私は引き続きアポロン様のご様子に目を光らせておきます」

「お願い」

 

 テラは切望するような眼差しでレムリアに言葉を送る中、先程アポロンが口にした言葉が気になっていた。

 

「……ねぇレムリア。「例のもの」って?」

 

 レムリアは、あぁ……と思い出したかのように答えた。

 

「実は……アポロン様から造船の命を受けておりまして……」

「造船!? 外界調査は向こう十年は中止となったはずでは……目的はわかっているのですか?」

「名目としてお聞きしているのは、中長期間の海洋漁業用の船だとのことです。ただ……あまりにも突然の造船依頼……アレス様の一件が絡んでいるのではないかと危惧しております」

「……お父様への報告は?」

「既に。しかし造船そのものは兵器の製造でもなく、さらには侵攻を決定付けるものではないゆえ、国王様も動けないご様子です」

「確かにそうね……」

「ただ、アポロン様自身が兵器のようなものでございますので、急ぎ何らかの対策は必要かと思います」

「わかりました。ありがとう。引き続き兄様のこと、よろしくお願いします」

「かしこまりました。では、わたくし実務がありますゆえこの辺で失礼とさせて頂きます。みなさま、テラ様の帰路の護衛、何卒よろしくお願い申しあげます」

「任せてください!」

 

 胸を叩き自信満々に答えるのび太を見て安堵したレムリアは、静かに退室していった。

 

「……しかし、アポロンさんは一体どうしたってんだ?」

「ほんと。人が変わったようだった」

 

 そんなみんなの会話を聞いて、のび太は少し警戒するような口調でつぶやいた。

 

「あの顔だよ……昨夜見た、もう一人のアポロンさん」

『ええ──っ!?』

 

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