アポロンのことは気になるが、会ってもらうことも難しい状況だったため、後のことはレムリア卿に任せてドラえもんたちは一旦砦を後にすることを決めた。
「しかし驚いたなぁ。あれが、もう一人のアポロンさんか」
「かなりコワイ感じだったよね」
「信じられないわ……」
「……」
テラは何もしゃべらなかった。少し落ち込んでいるように見えるテラに、のび太は優しく話しかけた。
「テラ、元気出して。アポロンさんならきっと大丈夫だよ」
「ありがとう、のび太さん」
そう励まされたテラは少し顔を上げ、のび太に微笑んだ。
「スパイ衛星も付いてるしね。これでアポロンさんの行動は監視できるよ」
ドラえもんがまた得意気になって言った。テラは、まだ事情がよく掴めないのか、微笑むもののその印象は暗かった。
「少し覗いてみようか」
そういってドラえもんはポケットから受信テレビを出し地面に置いた。みんなはどれどれ、というように屈みながらドラえもんの近くに集まった。
「まずは衛星を打ち上げて……と」
ドラえもんがスイッチを押すと、ロケットが天高く飛び上がった。
「これでオッケー。さ、見てみよう」
ドラえもんがテレビの横のダイヤルを操作すると、
そこには何だかわからない映像が映し出された。
「何だこりゃ? おい、ドラえもん!」
「何だかわからないわ」
「どうなってるんだよ!」
「まあまあ、慌てないで。きっと衛星の距離が近すぎるんだよ。こうして半径を広げて……と」
ドラえもんが機械のダイヤルをひねると、徐々に対象物がはっきりとしてきた。そこには椅子に座り、部下と思わしき相手に指示を出しているアポロンの姿が映し出された。
「これは? 兄さん! これはいったい……」
「さっすがドラえもん!」
「これは故障してないようだね」
「しつこいなぁ! もう!」
相変わらずの嫌味なスネオのツッコミに、ドラえもんはさも付き合うように憤慨して返した。
「何を話してるんだろう?」
「あ、待って。音声は……っと」
ポチッ。
「……で……てる?」
「お、聞こえてきたぞ」
「何か聞き取りづらいな……」
「声が反響してるのかしら?」
「洞窟のような場所ってこと?」
「うーん、砦の中には……見えないね……」
受信テレビの画面には、小さめのテーブル、そして椅子に座って話をしているアポロンの姿が表示された。向かいに立って話を聞いているのは、さっき砦であったレムリアらしき人物のようだ。
「では、残るは最終調整のみということだな?」
「はい」
「わかった。ならば俺は部屋で待機している。終了次第連絡せよ」
「はっ!」
そう言うとアポロンは席を立ち、待機するための部屋に向かって歩き始めた。
「……ちょっと遅かったかな?」
「何を待ってるんだろう?」
「うーん、ここから先はあまり情報は期待できそうじゃないね」
部屋についたアポロンはおもむろに上着を脱いだ。どうやらベッドで横になるようだ。
「きゃっ!」
「あわわ!」
しずかの声に反応してドラえもんはすぐさま画面を消した。そこは王子様に憧れる女の子だけあって、少々刺激が強い映像だったようだ。
「ま、まぁ、こんな感じでアポロンさんの監視については問題ないかな。またしばらくしたら見てみよう」
「そうだね」
「何かあったらテラにも連絡するよ」
「はい! お願いします!」
テラは何かしらの情報に期待するように、元気に返事をした。
「さて、それじゃあ……これからどうするか話し合おうか」
「グ〜」
『?』
ドラえもんの話しが終わるとほぼ同時にジャイアンのお腹がなった。みんなの視線を一身に受けたジャイアンは照れくさそうにえへへと笑った。
「俺が言う前にお腹が答えた」
「ぷっ!」
『あはははは!』
「たしかにそろそろお昼だね。ご飯にしようか」
「賛成!」
「テラ、この辺に景色の良いところってある?」 「この辺にですか? ……ちょっと難しいですね……城の近くならとても素敵なお花畑があるのですが……」
遠いから時間がかかるという旨を伝えようとしたら、ドラえもんが自信ありげに答えた。
「じゃあ、そこに行こう!」
『ええ!?』
困惑しているみんなをよそに、ドラえもんはポケットから道具を引っ張り出した。
「どこでもドア!」
「おいおい、ドラえもん」
「そうだよ。どこでもドアは地図がなければ使えないって以前、白亜紀の時に言ってたじゃないか」
ドラえもんはみんなから一斉クレームを受けたが、フフンと鼻をならし微動だにしない。
「たしかに行ったことがない場所には地図が必要です。みんなよく覚えてたね」
「だったら……」
「だけど一度行った場所なら自動でインプットされるのです。僕たちは一度城に行ったから……」
そう言いながらドラえもんはどこでもドアを開けた。そのドアの先にはたしかにドラえもんたちが訪れた王城が見えた。
「すげえ!」
「やるじゃねえか!」
「これは……!? どういう!?」
「ドラちゃんの道具の一つなのよ」
驚くテラにしずかがドラえもんの道具について軽く説明をした。道具には役に立つ不思議な効果があること。そしてそれら道具は無数に存在することを。テラは感動を覚えたように、すごい……とため息混じりに言った。
「さあ、行こうか!」
ドラえもんたちはどこでもドアを通り、城近くのお花畑に出た。緩やかな傾斜となっている広大なお花畑は、この島の穏やかさを雄弁に語っているようだった。ドラえもんたちは、その景色が一望できそうな丘の上に行き、昼食を取るための椅子とテーブルを用意した。
「さ、みんな座ったかな。それじゃあ、いつものやつを……」
そう言いながらドラえもんがポケットを探っていると、ポツリポツリと水滴が肌に当たり始めた。ふと上を見ると、暗雲という程ではないが雨雲が広がっていた。
「ありゃりゃ」
「雨が降ってきたね」
「また壁紙ハウスかな……」
「それじゃあせっかくのお花畑が見えないわ」
「外じゃなきゃ意味ないもんね」
「うーん、どうしようか……」
ドラえもんも雨よけの道具はいくつもあるが、屋外で屋根、壁なしという条件に少し困っていた。そんな中、テラが静かにお祈りを始めた。
「あれ?」
「お!」
「まぁ!」
「すげぇ!」
するとみるみるうちに上空の雲は晴れ、ついには眩しい太陽が顔を出した。お祈りを止めたテラの手には、首から下げていたペンダントが握られていた。
「これ、テラがやったの?」
のび太は空を見上げながらテラに聞いた。
「はい。王族に代々伝わるこのペンダントには、天候を制御する力があるそうです。このおかげで、私たち一族は短期間で大きく繁栄することができたとか」
「たしかに、農作物にしたって台風の被害がないだけでずいぶんと違うよね」
「いやー驚いた。僕のお天気ボックスみたいだね」
「え? じゃあ、それを出せば良かったんじゃないの?」
「いや、その……実はお天気カードを切らしてて……ゴニョゴニョ……」
「なんだ、テラの方が優秀じゃん!」
「うむむ……言い返せない……」
またもやスネオに痛いところを疲れ、ドラえもんは閉口した。そんな様子を見てテラは慌ててドラえもんを擁護した。
「そんな! これは一日に一回しか使えないという制限がありますからとてもかないません! それに、ドラちゃんさんはもっとたくさんの道具をお待ちではないですか。私なんかより遥かにすごいと思います!」
想像以上に激しく擁護するテラを見てみんなは少し驚いた。
「……だってさ」
「良かったなドラえもん!」
「ありがとう、テラ。それに比べてきみたち! 少しはぼくに感謝というものがないのかね! まったく!」
「わりいわりい!」
「感謝してるわ。いつもありがとうドラちゃん」 「ほんとほんと」
「ちゃんと感謝してるからさ! ドラえもん、そろそろアレを出してよ」
「ん、天気も良くなったことだし、そろそろアレを出しますか!」
『待ってました!』
「もう、調子いいんだから……グルメテーブルかけ!」
ふわっとテーブルに広げられたグルメテーブル掛けを見てテラはまたも不思議な顔をした。そのテラの顔が新鮮だったため、ドラえもんたちは含み笑いをした。
「おれカツ丼!」
「ぼくカレーライス!」
「わたしはナポリタン!」
「ぼくはフィレミニヨンステーキをレアで」
「ぼくはどら焼き」
ドラえもんたちが勢いよく喋ったあとすぐに、目の前に食べ物が次々と現れた。テラは見たことのない食べ物が並ぶ様に驚くのと同時に美味しそうなにおいに興味津々だった。食べ物に目がないあたりは王女とはいえやはり女の子だな、としずかは思うのだった。
「テラ、よかったらこれ、食べてみて」
テラはしずかからナポリタンを手渡された。少し酸味を感じる不思議な香りに戸惑った様子を見せたが、それよりも美味しそうな雰囲気の方が勝っていたようで、おそるおそるながらも、食べてみようとフォークを手に取っていた。
「!? 美味しい!」
「でしょ?」
自分の好物をテラに喜んでもらえて、しずかは嬉しそうに笑った。
「それじゃあ私の分も、ナポリタン! あ、あと粉チーズも!」
しずかは、こうするのよ、というように粉チーズをナポリタンにかけてからテラに粉チーズを渡した。
「コクが出て、味もまろやかになるわ」
テラも真似して粉チーズをかけた。また違った味を感じたようで、何とも可愛らしい至福の笑顔がこぼれた。
「うふふ」
「ふふふ」
「あはは」
みんなの笑い声を聞いて我に返ったテラは赤面してうつむいてしまった。
「ごめんなさい。あまりに幸せそうに見えてつい微笑ましくて」
「美味しいんだもん、仕方ないよ」
「そうそう。遠慮なんてしないでどんどん食べてよ」
少し恥ずかしそうにしていたテラだったが、食欲には勝てないようで、食べては笑みがこぼれ、また食べては微笑んで、と頬に手をあてながら繰り返した。
「ドラえもん、紙ナプキンあるか?」
「ん? あるよ、はい」
「それ、テラに渡してやってくれ。食べ慣れてないだろうから」
「え?」
そう言われてテラを見てみると、幸せそうに笑う王女の口の周りには、美味しさを証明するかのようにケチャップによる芸術的な絵が描かれていた。
「ふふ。気が利くのね、たけしさん」
「い、妹がそうだったからな」
少し顔を赤くするジャイアンを見て、しずかはクスっと笑った。そろそろみんな食べ終わりそうな時に、のび太がふと遠目に見える建物に気が付いた。
「ねえ、テラ。あの建物は何?」
城の裏側に見える老朽化した廃墟のような建物をのび太は指差した。
「あ、あれはこの島に古くからある遺跡です。王族が先祖代々受け継いできたものです」
「へー、伝統的な建物なんだね。でも、ずいぶんと壊れているように見えるよ」
「はい。昔はあの遺跡が城の役割を担っていたそうですが、現在の城が建設されてからは、あまり建物の存在自体に重要度はなくなりまして……修理等も後回しになっているのが現状です」
「ふーん……そうなんだ」
のび太は最後のカレーを口に運び、もぐもぐと噛みながら遺跡をじっと眺めた。
程なくして全員が食事を終え、ドラえもんたちは今後の行動を決める話し合いをしよう、という流れになった。
「さて、これからどうしようか?」
「あ、あの……」
テラがおそるおそる手を上げて発言した。
「わたしはこの後に公務が控えているためお城の方に戻らなければなりません。本当はもっとみなさんと一緒に居たいのですが……ごめんなさい」
「そんな! 謝る必要なんてないよ!」
「王女様ですもの。大切な仕事があるなら仕方ないわ」
「また今度、島を案内してね」
「はい! みなさん、ありがとうございました。頼ってばかりで申し訳ありませんが、兄のこと、よろしくお願いします!」
そういってテラは城の方に向かって走っていった。
「何か進展があったらお城に連絡しに行くよー!」
「お願いしまーす!」
テラは立ち止まって振り向き手を振った。それを見送ったドラえもんたちは、再び今後の行動について話し始めた。
「さて、これからどうしよう?」
「ぼくは、あの遺跡が気になる」
「そうだね、ぼくも行こうと思ってた。この島の歴史に関わるヒントがありそうだからね。じゃあ、ぼくとのび太くんはあの遺跡を探検かな」
「俺たちは少し森の中を警備してみる」
「俺たちって……? ぼくも!?」
「なんだ? スネオ。行くよな?」
「も、もちろんだよ、ジャイアン……」
「しずかちゃんは?」
「わ、わたしは……その……」
しずかは少し照れながら話し始めた。
「ここのお花畑をもっと見ていたいんだけど……だめかしら?」
「全然いいよ!」
「ここならお城も近いから安全そうだしね。いいんじゃない」
全員の意見がまとまったところで、ドラえもんは切り株形状の椅子から飛び降りた。
「じゃあみんな、念の為、身を守るためにさっきまで使ってた道具はそのまま持っててね」
「おう。あとドラえもん、きびだんごはまだあるか?」
「え? きびだんご? あるよ……えーと、はい」
「サンキュウー」
「でも……なんでまた?」
「あ? この森を確実に安全にするためだよ」
俺がずっと護衛することはできないからな、という言葉が続くんだろうなと、みんなはジャイアンの言葉を聞いてそう思った。
「なんだ、テラのためか。ウフフ」
そんな中、ドラえもんは今までの鬱憤を晴らすかのように嫌らしく笑った。
ゴスッ!
「ここの街の人のためだよ!」
頬を赤くしたジャイアンの鉄拳がドラえもんの頭部に真上から突き刺さった。
「まったく……冗談が通じないんだから……」
「あははは」
「あとは、通信機を渡しておくね、はい」
「それじゃあ、大体ニ時間後くらいにもう一度ここに集まろうか」
『オッケー!』
「じゃあ、行ってくるぜ!」
「とほほ……」
「みんな、気をつけてね!」
「行ってきまーす!」
「じゃあしずかちゃんはここで待っててねー!」
「はーい!」