ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第二十一章 『合流』

 王室にはテラとのび太、ドラえもんの三人が残っていた。ミヨイはタミアラの修理を行うために既に退室していた。

 

「王様にはああ言われたけど、そうも行かないよね?」

「もちろんだよ!」

 

 のび太とドラえもんは、アポロンを止めに行く気満々で意気込んでいた。その様子を見てテラも気持ちを抑えられずにはいられなかった。

 

「あの! 私も連れて行ってはもらえないでしょうか!」

 

 ドラえもんとのび太は顔を見合わせ、ニーッと歯を見せ合って微笑んだ。

 

「行こう! アポロンさんを止めに! ううん、助けに!」

「はいっ!」

「さて、そうと決まったらまずはみんなと合流しようか。戦力は多いほうがいい」

 

 そう言ってドラえもんは無線機でしずかと連絡を取った。

 

「……でこういう状況なんだ。とにかくアポロンさんを止めないと」

「わかったわ。そうするとあたしが城門に向かった方がいいわね」

「うん、お願い」

 

 しずかとの連絡を終えたドラえもんは、間髪入れずにジャイアンとスネオに連絡を入れた。

 

「あ、ジャイアン? 実はかくかく云々で……」

 

 急いで状況を説明するドラえもんの声を引き裂くようにジャイアンの怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「コラァ! ドラえもん! また道具が動かなかったぞ! こっちは命掛けだったんだからな!」

「まあまあジャイアン、とにかく助かったんだから」

「なんだよスネオ、やけにやさしいじゃんか」

「まあね、道具が使えなくなる状況はつきとめた感じ? ふふん」

「え!? スネオくん、今なんて?」

「だから、ドラえもんの道具が使えなくなる状況がわかったんだって」

「じゃあ、故障じゃなかったのか!?」

「多分ね」

「ど、どうして道具が使えなく……」

「ドラえもん! それよりも今は!」

「あ、そうか」

 

 ドラえもんはテラの心配そうな顔を見て我に返った。

 

「実はかくかく云々で、アポロンさんを止めなきゃいけないんた。それで一度みんなと合流してからアポロンさんを探そうと思うんだけど、二人は今どこにいるんだい?」

「アポロン? ならさっきまで俺たちの目の前にいたぜ」

「ええ!?」

「ど、どこに!?」

「おれたちは今、砦から二百メートルほど離れたところにいる。そんで急にアポロンが現れたと思ったら、いきなり崖から飛び降りてよ。驚いてすぐ追いかけたんだが見失っちまってさ」

「わかった、砦付近だね。しずかちゃんと合流したらそっちに向かうよ」

「おう」

「今はまだどこでもドアも使えるだろうから急いでね」

「う〜道具が使えなくなる理由も聞きたいけど……」

「使えなくなる『状況』だけどね……まぁ、合流したら話すよ。みんなで聞いた方がいいでしょ」

「……そのとおりです……じゃあ! またあとで!」

『おう!』

 

 通信機を切った後、ドラえもんたち三人はしずかと合流するために城門に向かうべく急ぎ王室を後にした。

 

 □

 

(のび太さんたち、もう来てるかしら……)

 

 花畑から急いで城門に向かっているしずかは心の中で呟いた。やや急な勾配の先に見える城門には、ドラえもんたちらしき人影が確認できる。しずかは手を振りながら声を掛け、さらに足を速めた。

 

「はぁはぁ……お待たせ!」

「しずかちゃん、大丈夫?」

「これくらい平気よ。それより急ぎましょ!」

「うん! それじゃあ、ジャイアンたちと合流しようか!」

 

 しずかと無事合流することができた一行は、早速どこでもドアで砦に向かうことにした。スネオの言うように、確かにどこでもドアは使える状態だった。

 

 □

 

 海に面した崖の端に建つ砦を、暑い日差しがジリジリと照らしていた。わずかに吹くここち良い風が潮の香りをジャイアンとスネオに届けていた。自分たちがじっとしてれば波の音しか聞こえない、そんなのどかな風景にの中に突然一枚のドアが空間に現れ、ドラえもんたちが足早に出てきた。

 

「さて、スネオくんやジャイアンはどこかな?」

「おーい! こっちだよー!」

 

 どこでもドアから現れたドラえもんたちを、スネオとジャイアンが発見し、手を振りながら呼びかけていた。

 

「いたいた。あれ? ムクもいる」

「ほんとだ」

「何かあったのかしら」

 

 ドラえもんたちはジャイアンたちのいる崖の方に急いで駆け寄っていった。

 

「まったく! こっちは危なく死にかけたんだぞ!」

「ご、ごめんよ、ジャイアン……」

「でも、ほんと無事で良かったわ」

「そうだよジャイアン。それに多分ドラえもんのせいじゃないよ」

「なにぃ? それでも危険だったのは本当だろうが!」

「ま、まぁ、そうだけど……」

 

 さすがにスネオも、まくし立てるジャイアンは抑えきれず、怒りが収まるまでしばらく待つか、と皆が諦めかけていたその時、場の空気をものともせずにテラの声がそっと入り込んできた。

 

「たけしさん……そんなに危ない目に会っていたのですか? よくご無事で……本当に良かった」

 

 すこし哀しげでもあり、それでいて安堵も感じられるテラの親身な言葉にジャイアンはピタッと止まった。

 

「いやぁ、大したことない、ありませんでしたよ。ちょっと暴れてたクマと闘った程度です」

「まぁ、クマと! お強いんですね!」

「いや、まあ……へへへ」

 

 ジャイアンの手のひらを返したテラへの対応にドラえもんたちはさすがにずっこけた。

 

「まったくテラには調子がいいんだから……大体、追い払ったのはムクでしょ!」

「うっ……ま、まぁそうだけどよ……」

 

 さすがのジャイアンも今回のスネオのツッコミにはバツが悪そうだった。

 

「まぁ、あなたがお二人を守ってくれたの? ありがとう、ムク」

 

 テラは優しくムクの頬を撫でながらお礼を言うと、ムクはテラに会えたのが余程嬉しかったのか、テラを身体で囲うように一周して顔を擦り寄せた。

 

「ふふふ。ムク、嬉しそうだね」

「ほんとだね。あ、それでアポロンさんは?」

「ああ、この崖を飛び降りた後に見失ったんだ」

 

 スネオは近くの崖を指差した。ドラえもんたちはその崖の端に立ち、ぐっと下を覗き込んだ。

 

「この高さから……普通に考えればただの怪我ではすまないね」

「でもアポロンさん、いつもの格好じゃなかったんだよね。正装……というのかな? マントも羽織っていた。そのせいかどうかはわからないけど、なんかフワッと浮いて移動してた感じがしたよ」

「それは……王家の宝具です」

『え!? 宝具?』

 

 みんなの疑問に答えるようにテラは説明を始めた。

 

「私のペンダントのように不思議な力を持つ道具のことです。ただ、王家の宝具はさらに強大な力を持っています。そのため固く使用を禁じられています」

「今回、アポロンさんはその宝具を持ち出した、と……」

「ドラえもんの道具みたいなもんか」

「はい。ですが、ドラちゃんさんの道具には、攻撃的なものにも優しさがあるように感じました。相手の生命を奪わないような措置とでも言うのでしょうか……」

「うん、それはそのとおり。ぼくの道具には生命を奪わないようにするプロテクト、つまり制御する装置が備わっているんだ」

「そうだったんだ」

「たしかに言われてみれば……」

 

 のび太たちは今までのビックライトやショックガンでの戦闘を思い返してみて納得した。

 

「やはりそうでしたか……道具の性質は同じような感じを受けましたが、効力の制御という点ではドラちゃんさんの道具の方が優れているようですね」

「どういうこと?」

「王家の宝具には、その制御がありません。つまり人を殺傷するだけの力を持っています」

「何だって!?」

「そ、それじゃ、ドラえもんの道具で殺し合いになるということか!?」

「はい……」

「だから王様はぼくたちを連れて行かなかったのか……ってじゃあ! 王様はアポロンさんと!?」

 

 そののび太の言葉の意味することを誰よりも早く認識していたテラは、目を閉じてゆっくりと頷くのだった。

 

「でも、ドラえもんの道具があれば大丈夫だよね?」

 

 みんなの不安を代弁するかのように、のび太はドラえもんに問いただした。しかしドラえもんからの返答は期待に反して暗いものだった。

 

「……わからない」

「わからない?」

「未来の道具同士での戦闘は本来禁止されているんだ。もちろん、万が一のためにプロテクトもかかっているんだけど……でも、今回の相手はそのプロテクトがない道具を使ってくる。こっちがダメージを受けるようなことがあれば、それは本当に命取りになってしまう」

「そんな……じゃあ、ぼくたちはアポロンさんを止めれないの? 王様も助けられないの?」

「正直、危険過ぎる。今回は王様に頼るしかないと思う……」

「それに、道具が使えなくなるリスクもあるしね……」

 

 追い打ちをかけるようにスネオがつぶやいた。

 

「そうだ! それは何が原因だったの? スネオくん!」

「原因まではわからないけど……多分、アポロンさんの状態に関係していると思うんだ」

「え? アポロンさんと?」

「わかりやすく言えば、アポロンさんが別人格になっている時には道具が使える、ということ」

『何だって?』

 

 思いがけぬ発言をしたスネオの周囲を取り囲むようにみんなが集まってきた。

 

「なんで? アポロンさんと道具と何の関係が?」

「だから原因はわからないって! 使えなくなる『状況』だって言ったでしょ!」

 

 興奮していたドラえもんは、反論されることで少し落ち着きを取り戻した。スネオは、やれやれ、と軽くため息をついたあと、なぜ自分がその考えに行きついたのか、その経緯を説明し始めた。

 

「思い返してみてよ。ぼくたちが道具を使えなかったとき、アポロンさんは優しかったでしょ?」

「そう言われてみると……」

「そうかも? しれないけど……」

「でも、アポロンさんとはあまり一緒にいる機会がなかったから偶然かも知れない。スネオくんは何でそう思ったの?」

「砦の一件があったからね」

「砦の一件?」

「そう。あのとき、アポロンさんはぼくたちの目の前で人格が変わった。それとほぼ同時に、ドラえもんの道具が使えるようになったじゃない」

「そういえば……たしかに」

「切り替わるタイミングが同じというのは見過ごせないでしょ」

「うーん、仮説としてはたしかに信憑性があるね」

「……スネオさんのおっしゃることはおそらく正しいと思います」

『え!?』

 

 アポロンに関するやりとりを聞いていたテラは、スネオの仮説を裏付けるように自らの考えを伝えた。

 

「この島の遺跡には洗脳装置が備わっていると父は言っていました」

『洗脳装置!?』

 

 スネオ、ジャイアン、しずかの三人は、その情報を知らなかったため、その事実に驚愕した。

 

「い、今も俺たちを洗脳しているってことか?」

「い、一体どんな洗脳を?」

「そんな……怖いわ……」

「まあまあ落ち着いて。そんな恐ろしいものじゃないから……」

「のび太! お前知ってたのか!」

「ま、まあね。でも今は、とりあえずテラの話を聞こうよ……」

 

 ジャイアンは申し訳なさそうな顔をしているテラを見て荒ぶる気持ちを抑えた。

 

「す、すまねぇ……」

「いえ、怖がらせてしまって申し訳ありません。遺跡による洗脳というのは、争わず平和に暮らすことを唱えるものです。ですので元々優しい皆さんには何も影響を与えることはありません」

「なんだ……それならまぁ……」

「良かったわ」

 

 スネオ、しずか、ジャイアンは洗脳の内容を聞いて少しホッとした。

 

「ですが、この洗脳装置がおそらく正常に動作していないのではないかと思います」

「なんだって?」

「あ! 遺跡が破壊されたことで装置が故障したのか!?」

 

 のび太はテラの説明を聞いて、遺跡の破壊された状況を思い出し閃いた。

 

「そうです。私も洗脳装置に関しては今日初めて父から聞きました。洗脳は兄にも働いていたはずです。ただ、あのアレス兄さんの一件で、不幸にも兄が遺跡を破壊する行動に出てしまいました」

「たしかに……そんなことを言ってたね」

「実際石版も破壊されていたし……」

 

 のび太とドラえもんはその破壊された遺跡を見てきたため、しんみりとした気持ちで同情した。

 

「遺跡にそんな装置があることは、今日まで父しか知るものはいませんでしたから、兄も知らずに取った行動なんだと思います。ただそのせいで遺跡の洗脳装置に何かしらの異常が生まれたのではないかと思います」

「正常だったり異常だったり……ON/OFFの繰り返しか」

「たしかにそれならアポロンさんの性格が不規則に切り替わるのもうなずける」

 

 みんなは行き着いた一つの結論に納得し頷いた。

 

「ん? ということは……何故かはわからないが、装置が正常に動作をしているとき、つまりアポロンさんが優しいときはドラえもんの道具が使えなくなるということか」

「タイミングを考えればそういうことになるね」

 

 自分の推理を確かめるようにスネオはしばし沈黙し、ふともう一つの仮説を思い付いた。

 

「……まさか遺跡の装置に、ドラえもんの道具を使えなくするような機能もあったりして」

 

 冗談混じりのスネオの仮説を聞いて、みんなの視線は一斉にスネオに集まった。そのみんなの顔から深刻な雰囲気を感じ取ったスネオは、ハッと我に返った。

 

「え? ……ま、まさかでしょ?」

「……遺跡の科学力を考えると……あり得る」

「そう考えるのが自然ね……」

「でも、何でそんな機能がここに?」

 

 考えても答えは出ない問題に皆が行き詰まっていた時、テラだけには辿り着いた一つの答えがあった。

 

「……おそらくは、発掘道具の抑制機能ではないかと思います」

「発掘道具? ってあの王族に返納する道具のこと?」

「そうです。父の語った内容だけでは、完全に発掘道具の機能を民衆に気付かれないようにするためには不十分です。わたしはその……科学というものに疎いため詳しくはわかりませんが、それら発掘道具の効果を発動させないための妨害する何かを発生させているのかもしれません」

「そんなことができるんだ……」

「推測ではありますが、遺跡の持つ不思議な力を考えれば、ありえない話ではないと思います。そういった保険があるならば、父が発掘道具を厳格に取り締まらなかった理由にも納得がいきます。それにドラちゃんさんの道具は、ここの発掘道具にとても似ていますのでもしかしたら……と」

 

 ドラえもんはテラの話を聞くにつれて徐々に冷や汗をかき始め、その顔はさらに青さを増していった。そしてテラが話し終えると同時に小さく一言つぶやいた。

 

「……ひみつ道具キャンセラー……」

 

「え?」

「何だって?」

「ひみつ道具キャンセラー。ひみつ道具の殆どを使用できない状態にする信号を発する電波のことだよ」

『ええー!?』

 

 みんなが驚き慌てふためく中、ドラえもんは一人苦悩の表情を浮かべていた。

 

「そ、そんな電波がなんでこんなところにあるんだよ!?」

「わからない……でも未来の世界では当たり前のように存在する電波なんだ」

「そ、そうなの?」

「当然さ。ひみつ道具はどれも強力な効果を持っているからね。取り締まる側がいなければ秩序が乱れてしまう。そのためのものなんだ」

「な、なるほどな……」

「たしかに……」

「そして、ぼくの道具の全てがその対象となっている……未来デパートで売ってるものなんだから当たり前だけどね。そのプロテクトを外した道具を使って良いのは取り締まる側、つまりはタイムパトロールのような治安維持組織だけなんだ」

「納得の理由ね」

「と、いうことは……?」

「……ぼくの道具はいつ使えなくなってもおかしくない状況にある、ということ」

 

 ドラえもんは言いづらそうに少し間をおいてから、目を閉じてつぶやいた。

 

「で、でもさ! それならその不思議な力を持つ宝具とかも使えなくなるんじゃないの?」

 

 スネオの言うことももっともだったが、その希望はテラの一言により消えた。

 

「いえ、王家の宝具は……そのプロテクトが外されていると思います」

「そんな!?」

「外敵からこの島を守る時にのみ、その使用が許されていましたから……きっと使用するにあたっての制約はないと思います」

 

 いつもはドラえもんの道具でいくつもの難関を超えてきた彼らにとって、道具が使えないというこの状況は、彼らをただの子どもに変貌させた。

 

「星の未来のため遺跡を破壊してはいけない……」

「そして道具が使えなくなるタイミングは運……か」

「……」

「……アポロンさんが別人格の今なら……ドラえもんの道具は使える。それなら何とか攻撃を凌ぐことくらいはできるかな?」

「ダメ! 危険過ぎる!」

 

 何もできないもどかしさをなんとかしようと懸命に絞り出したのび太の提案にドラえもんは強く反発した。

 

「でも! このままだと王様とアポロンさんが戦いを始めちゃうよ! 親子なのにそんなことさせちゃいけないよ!」

「それでも、ダメなものはダメーッ!」

「わからずや!」

「わからずやで結構! ぼくは、きみたちを無事に未来に返すという約束だけは絶対に守る!」

『!?』

 

 ドラえもんならそれでも何か対策を考えてくれると信じていたのび太たちは、頑なに拒むドラえもんの姿勢に驚いた。

 

「ぼくは、みんなの親から大切なお子さんを預かっている立場なんだ。ぼくを信頼してくれているママさんたちを裏切るようなことは絶対にできない!」

「あ……」

 

 なぜドラえもんがそこまでして拒んでいたのかを、のび太たちはようやく理解した。

 

「ましてや、ぼくの道具が使えなくなるという危険まである……今回の旅は、僕にとって今までで一番危険な旅なんだ。道具があるからこそ、使えるからこそ旅は続けられるんだ。その前提が崩れている今、これ以上の無理は絶対にできない!」

 

「ドラえもん……」

「ドラちゃん……」

「……」

 

 ドラえもんの抱えている心の重さを知り、のび太たちは何も言い返せず、焦点も定まらぬまま肩を落とし地面を見つめていた。

 さっきまで晴れていた空は陰りを見せ、またたく間に暗雲が広がっていった。しばらくすると頭上からポツポツと雨が降り注ぎ、水滴がみんなの頬をゆっくりと伝って地面に落ちていった。

 

「……ありがとう、みなさん」

 

 重く沈んだ静寂の中にテラの一言が注ぎ込まれた。ドラえもんたちは合わせる顔がないと思いながらも、テラの方にゆっくりと顔を向けた。

 

「ここまで親身に考え、そして悩んでくださって……本当にありがとう」

「テラ……」

「ドラちゃんさんの言うことは正しいと思います。みなさん、そんなにご自分を責めないでください。そして、ドラちゃんさんも責めないであげてください。これはわたしたちムーの一族が解決しなければならないことです。ですからどうか、お気に止むことなきように」

 

 ズズズ……ン、ドン……ドンドン……

 

 地面が突然、深い轟音と共に大きく揺れた。明らかに不自然なその揺れから、ついにアポロンと国王との戦いが始まったのだとみんなは感じとった。テラは響く音の鳴る方にゆっくりと目をやりながら答えた。

 

「……わたしはこの戦いの行く末を見届けなければなりません」

「テラ!?」

「そんな! 危ないよ!!」

「わかっています。ですが、わたしも王族です。王族である以上、兄を止めなければならない責務があります。ムーの未来を守ってきた祖先たちのように……」

 

「テラ……」

 

 降っていた小雨が次第に強く肌に当たるようになってきた。徐々に強くなっていく風は、嵐の予感を運んできていた。ドラえもんたちがテラにかける言葉を探していたその時、森の茂みの方から二つの影が飛び出した。その影はまるで忍びを思わせる軽快な半円の軌道を複数描き、みんなの近くに瞬時に移動してきた。

 

「テラ王女、こちらでございましたか」

「ミヨイ! タミアラ!」

『ミヨイさん! タミアラさん!』

「どうしてここに!?」

 

 テラに跪き顔を伏せていたを二人は、スッと立ち上がりドラえもんたちの問に答えた。

 

「無論、アポロン様を止めるためでございます」

「わたしたちは、王族に使える身でありますので」

 

 一切の迷いがないその言葉に、のび太は行動できずにいる自分に罪悪感を感じていた。それはのび太だけではなく、他の全員もそう思っていた。そして、これから強敵アポロンに立ち向かうという覚悟を持ったミヨイとタミアラの姿は、いつものそれとは違っていた。

 

「ミヨイさん……格好がいつもと少し違うんですね」

「はい。戦闘モードに切り替わっております。活動限界は三十分程になりますが、通常の三倍の能力向上が期待できます」

「すごい! それなら!」

 

 期待する発言が来るのがわかっていたかのように、ミヨイはのび太の発言に被せて話を続けた。

 

「それでもアポロン様を止めるのは難しいかと思いますが……」

 

 ミヨイの言葉からは、状況を好転する期待は感じられなかった。ただ、止めなければならないという使命感だけが強く伝わってきた。

 

「ミヨイ、わたしも行きます」

「テラ王女ならばそう決断するであろうこと心得ております」

 

 そう言ってミヨイは空間に「はごろも」と「盾」という二つの道具を出した。

 

「それも宝具なの?」

「はい。わたしに割り当てられているものは、兄のように攻撃するものではないのですが……兄の攻撃は防ぐことができると思います」

「すごい……」

 

 のび太はさっそうと装備を身にまとうテラを見て、思わずそう声が漏れた。

 

「みなさん、こんなことに巻き込んでしまい本当にすみませんでした。わたしはこれから兄を止めに行きます」

『……』

「みなさんは巻き添えにならないよう、どうか速やかに元の世界にお戻りください」

「テラ……」

 

 場の空気を察してか、ムクはテラに付いていこうとする素振りを見せた。

 

「ムク……あなたも森の仲間のところに帰りなさい。お二人を助けてくれてありがとう」

 

 そう言ってテラはムクの首元に軽く抱きついた。ムクはテラの想いを感じ取ったのか、悲しそうな目をしてその場にとどまった。

 

「みなさんと出会えてとても嬉しかった。ありがとう」

 

 そっとムクから離れたテラは、みんなの方を振り向きチラッとジャイアンの方を気にかけた。そのジャイアンは腕を組み、背中を向けたままテラの話を黙って聞いていた。深刻に何かを考えているように見えるその姿からは、振り向いてくれるような雰囲気は微塵も感じられなかった。

 

(……最後にもう一度、お顔を見ておきたかったな……)

 

 そう望んでいたテラではあったが、ジャイアンの心中を察し、振り向かせるための言葉をかけることはせず、黙ってその背中をしばらく見つめるに留めた。

 

「……テラ王女、そろそろ」

「うん……ではみなさん、さようなら。お元気で」

 

 ミヨイが瞬時に高くジャンプした。それに続くようにはごろもを纏ったテラも追従し、二人は崖下に消えていった。その場に一人残ったタミアラは、ドラえもんたちに一礼をしてから、すぐに二人の後を追って崖下に消えていった。

 ドラえもんたちは何の言葉も発することができず、ただその場に立ち尽くすだけだった。

 

 空は完全に暗雲で覆い尽くされ、空の所々に雷が走り始めた。そんな中、テラたちを見送るムクの遠吠えだけが暗い空に哀しく響き渡っていた。

 

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