ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第二十二章 『決意』

 なす術なく崖上に残されたドラえもんたち一行は、しばらくその場で呆然と立ち尽くしていた。

 のび太も今回ばかりは勝算が薄いと感じてか、無茶なことをいう気にはなれないでいたが、気持ちを抑えようとすればするほど、心の奥底から何もできないという自分の不甲斐なさが強くこみ上げてきた。

 

「わ──ー!」

 

 突然のび太は空に向かって大声を出した。行き場のない気持ちを少しでも晴らすための、今できる精一杯のことだとみんなは理解していた。そののび太の声を聞き、しずかの目も潤み始めた。

 ジャイアンは微動だにせず腕を組んだまま、ひとりどこか遠くを見つめていた。しかし、二の腕を掴むその手には、自らの腕をキツく締め付けるほどに力が入っていた。

 元の世界に戻ろう。そう言いかけたドラえもんを制止するようにジャイアンは話し始めた。

 

「……俺は行くぜ」

「ジャイアン……気持ちはわかるけどダメだ。危険過ぎる」

「ダメージを受けなければいいんだろ? なら、そうするまでだ」

「相手の攻撃手段だってわからないのに? そんなことできるわけが……」

「それでもだ!!」

 

 ジャイアンの気力溢れる一括で場が一瞬にして静まった。その言葉にはテラと同じように何かを守ろうとする決意のようなものが感じられた。

 

「俺は妹を悲しませるバカな兄貴を殴りに行く。おまえらはタイムマシンに戻ってな」

「待ってジャイアン!」

 

 崖に向かって歩き始めたジャイアンをのび太は呼び止めた。

 

「ぼくも行くよ!」

「あたしも行くわ! アポロンさんを助けたいの!」

「え!? えぇ〜……」

 

 スネオは一人あたふたしていた。ドラえもんはみんなが勢いづいたこの状況はどうにもならないと判断し、砂男式催眠機でみんなを眠らせて強制帰還しよう、とポケットに手を入れた。

 

「何をする気? ドラえもん」

 

 のび太はポケットに入れているドラえもんの腕を掴んだ。

 

「そんなことをしたら、みんなドラえもんを恨んじゃうよ……お願いだよドラえもん! 力を貸してよ!」

「ドラちゃん、お願い!」

「ここで何もできないなんて……悔しいよ……」

 

 のび太としずかの懇願とジャイアンの真剣な目を見てドラえもんは悩んだ。スネオは依然として黙ったままだった。

 

「……みんな、これだけは約束して。絶対に無茶はしないと」

 

 そのドラえもんの言葉を聞いて、のび太はドラえもんに勢いよく抱きついた。

 

「ありがとう! ドラえもん!!」

 

 しずかは抱き合う二人を見て、涙を浮かべながら微笑んだ。ジャイアンも、そうこなくっちゃ! と言わんばかりのガッツポーズをとった。

 

「あーあ、やっぱりこうなるのか……やりますよ、やりゃあいいんでしょ!」

「スネオ、別に来なくったっていいんだぜ?」

 

 ジャイアンがスネオに嫌味を言うように横から顔を近づけた。だが事のほかスネオは冷静で、やれやれと両手を腰に当てため息をついた後、ピシッと人差し指をジャイアンに向けて淡々と言葉を返した。

 

「何言ってんの! この中じゃジャイアンが一番心配だからだよ!」

「う……?」

「大体、テラのこととなると見境なしに行動してばっかでさ……付き合うぼくの身にもなってよ」

「く! この、お、おまえな〜!」

「ほんとのことでしょ!! 何か言いたいことある?」

「……ありません……」

 

 照れを隠そうとスネオにくってかかるジャイアンであったが、今回ばかりは強く言い返してきたスネオに軍配があがった。

 

「はいはい、今回はスネオくんの勝ち。言い合いはそこまでにして作戦を立てるよ」

「な!?」

「ふふ」

「うふふ」

「……う〜……」

 

 言い負かされた内容が内容だけに、やや腑に落ちないジャイアンであった。

 

「みんなの安全を最大限に確保するために作戦はぼくが立てます。そして絶対に守ってください。これがぼくのできる最大限の譲歩です。いいね?」

 

 全員がドラえもんの提案を受け入れ頷いた。

 

「まず、攻撃担当はジャイアンだけにします。一番の危険を伴うけど……大丈夫かい?」

「聞くまでもねえ! 任せろ!」

 

 力強い返事にドラえもんはうなずいて返した。

 

「ジャイアン以外は援護担当です。ぼくらはできるだけジャイアンをサポートする立場になります。だげど基本、自分の身を守ることを最優先としてください。これはジャイアンもです」

「うん!」

「わかったわ!」

「任せて!」

「おう!」

 

 ドラえもんは、みんなの真剣な思いを感じ取り少し安心した。

 

「サポート側はぼくを入れて四人いるので、防御とサポートの意識割合は七対三位で十分です。ただ、アポロンの注意を引くことを目的とするので、その都度狙われる可能性があります。そこは十分に注意してください」

『りょうかい!』

「次に装備なんだけど、基本は上陸したときのものでいこうと思う。使い慣れてるしね。他に欲しいものがあれば言って」

「なら、ラジコンねんどをくれる? ぼく、あれも使い慣れてるから」

 

 スネオはいとこの影響を受け、天才的なラジコンさばきができる、いわばラジコン操作の達人だった。のび太とドラえもんは以前のラジコン対決の時の記憶が蘇った。

 

「そうだったね。はい、スネオくん」

「サンキュー。これは陽動にも使えるし、何せ姿を隠せる利点があるからね」

「たしかに」

「さすがスネオさんね」

「まぁ、ジャイアンのためだからね……」

「嬉しいこと言ってくれちゃって! 頼んだぜ! 心の友よ!」

「痛い! 痛いよジャイアン! わかったから!」

 

 ジャイアンが強い力でスネオの肩を抱いたため、スネオは思わず悲鳴を上げた。その光景は、久しぶりにドラえもんたちに訪れた場の和みだった。

 

「ゲホゲホッ! まったく……そんじゃしずかちゃん、これ」

「え?」

 

 首元をさすりながらスネオはひらりマントをしずかに投げて渡した。

 

「これって?」

「ぼくは影からの援護になるから捕捉はされにくいと思うんだ。それにしずかちゃんはアポロンさんを説得するんでしょ?」

 

 しずかは受け取ったマントを握りしめ、スネオにありがとうと伝えた。

 

「さて、次は防御面だけど……安全ガス!」

 

 シューッ! シューッ! 

 

「これで殆どの怪我は防げるはず……あ、ムクにもかけとこうね」

「ワンッ!」

 

 ムクはテラの元に連れてってもらえる喜びを表現するかのように元気な返事をした。

 

「すごいや! こんな便利なものがあるんじゃない!」

「ほんとほんと! 何とかなりそうじゃん!」

 

 のび太とスネオは一筋の希望を掴んだかのように喜んだ。しかしドラえもんの顔は明るいものではなかった。しずかとジャイアンにはドラえもんの顔が、効果があることに期待したい、そんな顔に映っていた。

 

「たしかに……石や岩、落下の衝撃なら大丈夫だと思うけど……アポロンさんの攻撃に対してだけは、正直わからない……」

『え!?』

「これはせめてもの保険。だからこそ、アポロンさんの攻撃だけは絶対に受けてはダメなんだ。そこだけはみんな、本当に注意してね」

「うん! わかった!」

「わかったわ」

「そ、そんなに脅かさないでよ……」

「……」

 

 ジャイアンの無言の返答に気付いた面々は、ハッとジャイアンの方に振り返った。いつにないドラえもんの緊張から、今回の戦闘の危険さを一番感じているのは他でもない。最前線に身を投じるジャイアン自身だった。ドラえもんはキッと目を張りジャイアンに歩み寄っていった。

 

「ジャイアン……一番危険な役を頼んでごめんね」

「なぁに、おれが言い出したんだ。それより、協力してくれてありがとよ」

 

 ジャイアンはドラえもんに向かってニカッと笑った。ドラえもんは申し訳なさそうな顔をしながら微笑した。

 

「最前線で戦うジャイアンには、もう一つこれを……安全カバー!」

「これは……?」

「これは安全ガスよりも高性能の防御力を持ったものなんだ。タケコプターとスーパーてぶくろを着けた状態で安全カバーの中に入ってもらう」

「お! 思ったより動けるな!」

「上の口を塞げば完璧な防御になるんだ。ただ……」

「わかってるよ、アポロンの攻撃には効くかわからないってんだろ?」

「……ごめん……」

「何言ってやがる! 俄然、戦う気力が湧いてきたぜ!」

「あまり無理しないようにね」

「ジャイアン、気をつけてね。サポートは任せてよ! ぼくは射撃で援護するから!」

「あたしは、ショックガンとひらりマントで!」

「ぼくはラジコンねんどで!」

「ぼくはいつもの空気砲で!」

「バウッ!」

「ありがとよ! 見てろ! 必ずこの拳でアポロンをぶん殴って目を覚まさしてやっからな!」

 

 ドラえもんたちは戦場へおもむく覚悟が整い、互いに士気を高めながら円陣を組んだ。

 

「ぼくのできることはここまでだ! でもみんな、くれぐれも無茶はしないでね!」

「おう!」

「はい!」

「うん!」

「やっぱ怖いな〜」

「ワンッ!」

「行こう! テラや王様が危ない!!」

 

 フル装備状態の一行はタケコプターで空に上がり、そのままテラたちが降りていった崖下に向かった。ムクはほぼ垂直な崖の節々に見られる僅かに突出した踏み場を器用に利用し、華麗なステップで崖下まで到達した。

 

「わっ! ムク、すごーい!」

 

 感心するのび太をよそにドラえもんは崖の側壁にある洞穴に目をやっていた。その穴は奥が見えないほど長く続いており、中から時折大きな衝撃音や地鳴りが聞こえてきた。

 

「この奥に……」

「アポロンさんや王様が……」

 

 激しい揺れと轟音を肌で感じたのび太たちは、その戦いの規模を想像し、思わずツバを飲み込んだ。

 

「じゃみんな、準備はいいかい? 行くよ!」

『おう!』

 

 ドラえもんたちは、ただならぬ雰囲気の漂う洞穴の中へ身を投じ、その奥で展開されている壮絶な戦いの場へと進んでいった。

 

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