ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第二十三章 『対決』

「アポロンー!!」

「ラ・ムーッ!!」

 

 ガギッ! 

 ギィ──ン!!

 

 アポロンの王家の剣と国王の王家の杖。二つの王家の宝具が激しくぶつかり火花を散らす。互いに距離を取るように後方に飛び退くと、両者はすぐさま宝具から飛び道具を放った。

 

「ハァーッ!」

「ヌェイッ!!」

 

 ガガ──ンッ!!

 

 飛び道具同士が衝突し衝撃波が生じ二人は吹き飛ばされた。国王は壁に打ち付けられダメージを追ったのに対し、アポロンは空気を纏うように空中で体勢を立て直し、そのまま剣を国王の方に向け構えた。

 

「どうした? ラ・ムーよ。もう終わりか?」

「くっ……よる年波には勝てんか……」

 

 片膝をついた姿勢から杖を地面に突き刺し、ゆっくりと立ち上がる国王であったが、体力の差が歴然としているこの状況では好機を見出すのは難しいと考えていた。

 

「殺しはしないが、少し眠っててもらおうか。その杖は何かと厄介だからな」

「ヌゥ……」

「受けよ我が雷を! 雷光ー!!」

 

 バシュシュッ!! 

 ガガガ──ーン!! 

 

 ドドン! ドン!!

 

 国王のいた場所は雷の弾丸による攻撃で辺り一面土煙が充満していた。その煙が晴れようとしたとき、アポロンの後方の壁が何かの攻撃を受けたかのように崩れ落ちた。

 

「なにっ!?」

 

(直撃したはずの雷光が、俺の右頬をかすめていった……これは……)

 

 薄っすらと消えかかる煙の中からは盾を構えたテラと、テラに守られている国王の姿があった。

 

「術を反射する王家の盾……テラ、やはりおまえか……」

「兄さん……止めてください。どうか考え直してはいただけませんか」

「お前はわかってくれると思っていたんだがな……アレス兄さんの一件を忘れたのか!」

「覚えています!」

 

 精一杯の思いを込めてテラは答えた。

 

「とても哀しく、そして悔しい思いを嫌というほど抱きました。だから兄さんの思いは痛いほどわかります」

「ならば!」

「ですが! ……アレス兄様の気持ちもわかるのです……」

「アレス……兄さんの……?」

 

 間接的にアレスの気持ちを問われたアポロンは、一瞬目元を険しくした。

 

「はい……アレス兄様はそれこそ武術の達人でした。そんな方が襲撃にあった中で、なぜ兄さんの脱出を優先させたのか……なぜ払えたはずの襲いくる火の粉を払おうとしなかったのか」

「それはあの馬鹿げた掟のせいだ! あんな教えがなければそれこそ躊躇なくアレス兄さんは!」

「違います!!」

「!?」

 

 テラは激しく首を振り、涙を浮かべアポロンを見上げた。

 

「違います……教えは、所詮教えでしかありません。強い意志があれば、そう、今の兄さんのように掟を破ることもできます」

「……」

「アレス兄様は最初から戦う気なんてなかったんです。いえ、戦わないと決めていたんです!」

「何を馬鹿なことを……戦わないと決めていただと? 何のために?」

「ムー一族のためです! あの教えは……ムーの祖先の願いであり、私たち一族を未来へと繋げる希望なんだと知っていたからです!」

 

 テラの強い申し出に、アポロンは少したじろいだ。アレス兄さんは自分の意思で戦わなかった。アポロン自身、そう考えなかったわけではないが、そう信じたくもなかったからだ。

 

「馬鹿な! あの掟のどこに希望がある!」

「兄さん……」

「外界の野蛮人共は、自分たちの恐怖を打ち消すためにアレス兄さんを殺したんだ! 自分たちが勝手に思い描いた脅威を! 敵を! アレス兄さんが何をした? 何もしていない! 危害を加えてもいない! なのに……それなのに!!」

「兄さん……」

 

 テラは目に涙を溜めながら、震えて憤り叫ぶアポロンを見つめていた。憎悪に包まれた兄の心に自分の想いを届けられないもどかしさと、兄の抱える憤りへの同情とが混ざり、溢れるように大粒の涙を流すのだった。

 

「……もういい……誰が何と言おうと俺は俺の道を行く」

「兄さん!」

「俺の邪魔をするというのであれば、お前にも容赦はせんぞ! そこをどけ! テラ!」

「どきません!」

「ならば! 共に受けよ!」

 

 アポロンが王家の剣を構えた瞬間、テラの横から人影が一つ飛び出した。その人影は目にも止まらぬ速さでアポロン目掛けて突進していった。攻撃の途中だったアポロンもその人影の接近に瞬時に気付き、急遽照準をテラからその人影に切り替えた。

 

「雷光!!」

 

 バリーッ! 

 バシュシュッ! 

 

「なに!?」

 

 その人影は雷光が直撃する瞬間に上下に分離し雷光を交わした。二つに別れた影は前方への勢いを殆ど殺すことなく、それぞれがそのままアポロンの上半身、下半身へと向かっていった。

 

「くっ!」

 

 ババッ! 

 ガシィッ! 

 

 アポロンは咄嗟に身体をひねりオーバーヘッドキックの体勢で上方向から来たネリチャギを右足で受け止め防ぎつつ、 ボディへのストレートも同時に背面飛びの格好で回避した。

 

「ミヨイとタミアラか」

「流石ですアポロン様。我らの攻撃をこうもたやすく防ぐとは」

「無礼とは存じておりますが、今は緊急事態ゆえ、どうかご容赦を!」

「邪魔立てするやつは何人たりとも許さん!」

 

 会話を終えると同時に凄まじい速さでの攻防が空中にいるアポロンに対して行われた。ミヨイとタミアラには空を飛ぶ道具はなく、地面、壁、天井を蹴った反動で突進する時間差攻撃が主な攻撃手段であった。

 しかし、空中を自由に動けるアポロンに対しては、予測可能な直線移動では圧倒的に不利である。にもかかわらず、ミヨイとタミアラが善戦していたのは、空中で互いを踏み台にするように軌道を変えるというトリッキー、かつ不規則なタイミングの攻撃を仕掛けていたからである。

 その二人のコンビネーションによる攻撃は、アポロンを防戦気味にするほどの効果をもたらしていた。しかし……

 

「ハッ!」

「ハァッ!」

 

 高速なコンビネーションで左右両側から同時に攻撃を仕掛けられたアポロンは、動揺する素振りも見せずその身を反らし、いなすように半回転して両者の攻撃を紙一重でかわした。

 

 シュピンッ! 

 

 一筋の円形の閃光が見えたかと思ったその直後、時間差で二人の腹部にアポロンの強烈な蹴りが入れられた。

 

 ドドッ!! 

 ズドドーン……!!

 

 勢いよく吹き飛ばされたミヨイとタミアラは、正反対の方向の壁にそれぞれ激突した。

 

「さすがは我が師範たち。なかなか良い動きだったぞ。だが、余興もこれくらいでいいだろう」

 

 二人は崩れた壁から上体を起こした。が、ミヨイは左腕を、タミアラは右足をアポロンの鮮やかな剣技の一太刀で失っていた。

 

「流石にその姿ではもう戦えまい」

「アポロンーッ!!」

「!?」

 

 二人を見下ろしているアポロンの背後から国王が攻撃を仕掛けるために飛び込んできた。雷を纏った杖をアポロンに直接叩き込むように頭上から大きく振るう。アポロンは咄嗟にその攻撃を王家の剣で受けとめた。

 

 バリバリバリッ!! 

 ガガーン……

 ドドドン!

 

 重なった二つの王家の宝具の接点から強烈な雷が周囲に飛び火した。それら小さな落雷は周囲に弾け落ち、所々地面をえぐっていった。

 

「奇襲をかけるのに声を荒げるとは、老いたかラ・ムー!」

「愚かな息子よ。わしはお前に気付いてもらうために攻撃したのがわからんか」

「なに!?」

 

 ハッと状況に気づいたアポロンは、咄嗟にラ・ムーと距離を取ろうとしたが、その瞬間、背後から強烈な攻撃を受けた。

 

 バリリリッ! 

 

「グッ! ヌヌ……ヌアァーッ!!」

 

 バシ──ン!! 

 

「なに!?」

 

 アポロンは身の回りに強烈な衝撃波のようなものを発し、自分にダメージを与えていた雷の術を弾き飛ばした。近くにいた国王はその衝撃波によって吹き飛ばされ壁に激突し、地面へと落下していった。

 

「はぁ……はぁ……なるほど、反射か。咄嗟にしては上出来だな、テラ」

 

 振り向いて見下ろしたアポロンの視線の先には、王家の盾を構え国王の雷を弾き返したテラの姿があった。しかし攻撃を跳ね返したことで身体に衝撃を受けたテラは肩で息をしていた。

 

「たしかにその盾の防御力は高い。だが、使うお前が戦闘向きではないからな。まさに宝の持ち腐れと言うやつだ」

 

 アポロンの言うことを自覚しているテラは、息切れをしつつも、あと一回だけでも! と意識を集中していた。

 

「ふっ。盾だけのお前など無力なだけよ! ハァッ!!」

 

 掛け声とともに振り下ろされた剣から、雷光がテラ目掛けて発射された。テラはその雷光を反射するために見極めようと意識を集中して構え直す。が、その思いは空虚なものな変わりつつあった。

 

「そんな……」

「無駄だ」

 

 雷光はテラの構える盾の前方の地面に着弾し、その地面の粉砕衝撃でテラは吹き飛ばされた。

 

 ド──ン! 

 

「あぁーっ!」

 

 吹き飛ばされ横たわるテラの手に王家の盾はなかった。王家の盾はテラから五メートルほど離れた場所に無造作に放り投げられていた。

 

「その程度の衝撃に耐えることのできないお前はここに来るべきではない。しばらくそこでおとなしく寝ていろ」

 

 そう言い放ったアポロンは、再び雷をまとった王家の剣を軽く一振りし、テラに向けて迷わず雷光を放った。立ち上がろうと上体を起こしたテラは、迫りくる雷光を見て思わず目を閉じた。

 

 バシィ──ーン! 

 

「なに!?」

「……えっ?」

 

 テラの前で何かが雷光を防いだ。防がれた雷光は四散して弾け飛び空中で暴れる糸のように消えていった。雷光が四散した場所には、安全カバーに包まれたジャイアンとムクが立っていた。

 

「おまえは!?」

「たけしさん!? ムク!」

「大丈夫か? テラ!!」

 

 もう会うことはないと思っていたジャイアンの登場に、テラは言い知れぬ感情が心の内から湧き上がるのを感じていた。彼の参戦は決して良策ではない。むしろ悪手。そう言い切れる選択をしてくれたジャイアンに返事をしながら思わず涙ぐんだ。

 

「ジャイアン! いきなり無茶しないでよ!」

 

 一足遅れてドラえもんたちが洞穴の通路の中から現れ、テラとジャイアンの元に駆け寄ってきた。

 

「あぁ? 防げるってわかったんだからいいじゃねえか!」

「全くもう……こっちがハラハラしたよ……」

「でも、あの攻撃にはドラえもんの道具は効くみたいだね」

「うん、少しは抵抗できそうだ」

 

 予期せぬ助っ人の登場に国王は驚いた。しかし彼らが来なければ、テラは重症を負っていたに違いない。

 

(今の狂気に満ちたアポロンを止めるためには彼ら未来人の力を借りるしかないのか……)

 

 壁への激突、そこからの落下による負傷により、国王は身体を起こすのに必死だった。

 

「君たち……す、すまない……テラを助けてくれてありがとう」

「王様!?」

「大丈夫ですか?」

 

 ドラえもんとのび太は瀕死の状態である国王のもとに駆け寄っていった。

 

「正直、キミたちにあれだけの力があるとは思っていなかった……ウッ!」

「王様!」

「無理しないでじっとしててください!」

「そうもいかん……あの愚かな息子を止めねばならぬのでな……」

 

 そう言って鋭い眼光を向けてくる国王をアポロンは上空から警戒した。

 

(国王はもう虫の息だ。大した驚異にもならないだろう。だが……あいつらは一体何者だ? おれの攻撃を耐えれるものが王族以外にいるだと?)

 

 アポロンは現状を冷静に把握するために、しばし周囲の観察に注力した。アポロンはその瞳に映る対象をゆっくりと変えていった。その中には王家の盾を持ち上げようとするしずかの姿があった。

 

「テラ、大丈夫?」

「しずかさん!」

「今、持っていくわ! うん……あ、あれ? 持ち上がらない?」

「しずかさん、その盾は……」

 

 テラがそう言いかけた時、しずかの横には片腕を失ったミヨイがしずかを見下ろすように立っていた。

 

「お貸しください」

「は、はい」

 

 しずかはスッとその場を離れ、片腕のミヨイに場を譲った。盾の持ち手を掴んだミヨイは、何事もないように軽く盾を持ち上げた。

 

「え!? すごい!」

「この盾は、テラ王女が羽織っているあのはごろもがないと人間には重くて持つことはかないませぬ」

「そうだったんですか……」

 

 盾を持ったミヨイは顔を上げアポロンを威嚇するように睨んだ。それに気付いたアポロンは一瞬ミヨイと目を合わせたものの、どうでもいい、とでもいうようにすぐにその対象を隣のしずかに移した。

 

(アポロン様……しずか様を見ている?)

 

 ミヨイは予想外のアポロンの行動を見て不思議な違和感を感じた。

 

(この方の面影は王妃様のそれに似ているとは思ったが……もしや、しずか様は激情の渦中におられるアポロン様を救う一筋の光なのか……?)

 

 少し懐かしさを感じるアポロンの表情を見て、ミヨイには昔の思い出が浮かび上がってきた。だが今は思い出にふけっている場合ではない、と自分を現実へと戻し気を引き締めた。

 

「では、しずか様。テラ王女のもとへ参りましょう」

「あ、はい」

 

 アポロンはテラの元へ移動する二人への攻撃は行わず、行動の監察を続けた。

 

(少なくとも雷光が効かないとわかった今はイタズラに攻撃すべきではない。それに王族以外に俺と対等かそれ以上の力を持った相手がこれだけ揃うのは想定外だ。警戒し確実に個別撃破と行きたいところだが、その前にある程度相手の能力を知りたい。迂闊に仕掛けるよりもしばらくは様子見が良いか……)

 

 そう考えていた矢先、ドラえもんたちの方に動きがあった。アポロンはその様子を見て驚愕すると同時に背筋が凍った。

 

(なんだと!?)

 

 そこには全快した国王が立っていた。

 

「こ、これはどうしたことだ? 動けるぞ!」

「良かった。お医者さんカバンが効いたんだ」

「これって子どもたちの遊び道具とかじゃなかった?」

「そうだけど簡単な症状なら治せるんだ。打撲や疲労の類だったから効果あったんだと思う。あとはタミアラさんか……」

 

 ドラえもんは走ってタミアラのもとへ向かった。アポロンはドラえもんを目で追い続けた。だがやはり攻撃はしなかった。

 

(ジャイアンの登場と攻撃の無効化、お医者さんカバンによる国王の治療。立て続けの異常事態にアポロンさんはこちらの戦力を警戒しているはずだ。攻めるタイミングを迷っている今のうちに戦力の増強をしないと!)

 

「タミアラさん! 大丈夫ですか?」

「ドラえもん様。私は大丈夫です! それよりも国王様、テラ様を頼みます!」

「そうは言っても戦力は多いほうがいいから……斬られた足はどこに?」

「あそこに」

 

 ドラえもんが斜め後方を見ると、切断されたタミアラの右足がやや遠い場所に無造作に落ちていた。

 

「良かった。ちゃんと存在してるね。アンドロイドにはお医者さんカバンは効かないから……」

 

 ゴニョゴニョと言いながらドラえもんはポケットに手を突っ込んだ。

 

「復元光線!」

 

 ドラえもんは取り出した復元光線をタミアラの右足に照射した。すると切断された右足がみるみるうちに元に戻っていった。

 

(タミアラまでも!?)

 

「おお! 何ということだ! これは一体……?」

「未来の科学の力です」

「未来の……何にしても助かりました。おかげで再び国王様、テラ様を守ることができます! 感謝致します、ドラえもん様!」

「いえいえ。むしろ……ここからが本番です! さぁ! 王様の元へ!」

 

 回復したタミアラとドラえもんは急いで国王の元へと走って合流し、ここにドラえもん・のび太・国王・タミアラの四人のチームが構成された。

 そこから少し離れた場所には、テラ・ジャイアン・ムク・しずか・ミヨイの五人のチームが構成され、それぞれのチームが空中に佇むアポロンの姿を見上げるように戦闘態勢をとった。

 

「役者は揃ったな」

「兄さん! 今一度考え直しては頂けませんか?」

「くどい! 見れば強力な助っ人が参戦したようではないか。理想の未来が欲しければ、兄を倒す以外に道はないぞ? テラ」

「未来……彼らはその未来から来た外界の方達です!」

「何だと!? 外界の……未来からだと?」

「そうです! 彼らがとても優しい心の持ち主なのは兄さんだって知っているでしょう? 私たち一族が外界の人達と仲良くやっていけるという未来が、今ここに示されているのです! どうか考え直してください!」

 

 アポロンは冷ややかな目でテラの言い分を聞いていた。そんなに上手く行くものではない……アレスの一件からアポロンは外界との共存という道は疑惑にしか映らなかった。

 

「……そうか未来から……ならば我らムー一族の未来の顛末も知っていような? 申してみよ未来人」

「!?」

「そ、それは……」

「……」

 

 ドラえもんたちの反応を見て、国王はフー……と深く息を吐き、心の内でつぶやいた。

 

(やはりそうか……)

「……たけしさん? みなさん?」

『……』

 

 驚き慌てふためくテラのその様子をアポロンは上空から愚かしく眺めていた。

 

「答えられないか……ならばそれが答えだな。滅んだのだろう? 我らムー一族は」

「そんな!?」

 

 アポロンの言葉に思わずテラは驚きの声をあげた。国王はじっと目を閉じたままだった。

 

「たけしさん!? しずかさん!」

「……」

「……」

 

(どうして黙っているの? 私たち一族は皆さんと仲良く共存はできないの? ……聞きたい……聞き正したくても……怖くて自分からは……とても……聞けない!)

 

 テラが苦しい葛藤を続けている中、ドラえもんが口火を切った。

 

「そんなことはない! この島の存在は確かに確認できていないが、ムーの子孫とはちゃんと交流があってみんな仲良くやっている!」

 

(ここはでまかせを言ってでも皆の士気を下げるわけには行かない……頼む! ごまかせてくれ!)

 

「仲良くやっている、と?」

「そうだ!」

「ならば、俺を止めなくても問題ないのではないか? 俺が外界に侵攻した結果がその未来ならな」

「それは!」

 

 そう言いかけたドラえもんの肩に手を置き、国王は前に出た。

 

「ありがとう。あとはワシが話そう」

「王様……」

「アポロンよ、よく聞け! お前が外界に侵攻すれば、この島は滅びるようになっているのじゃ!」

「フッ。何を馬鹿げたことを」

「本当じゃ。祖先たちはお前のような考えを持つものが現れたときの為に、そういう装置を予め仕掛けておいたのじゃ!」

 

 国王の発言が嘘ではないことをアポロンは察していた。掟などという信憑性のないものを守るためよりも、島の安全を確保しムー一族を守る、という理由の方が、国王自らが命を懸けるに相応しい理由だからだ。それにただ自分を止めれば良いだけなら理由など必要ですらない。

 

「つくづく愚かな祖先だな……それならば、我々は外界の野蛮人からの攻撃をただ待つばかりではないか!」

「遠い先の未来のことだが、この島が滅びる原因がこの島の装置によるものか、外界からの侵略かはわからん。だが、今お前が外界に侵攻すれば、お前が原因でこの島が滅びることだけは確かだ」

「……」

「そうさせないために、この島を救うために、彼らは未来から来たのだ! アポロンよ!」

「お父様……」

「王様……」

 

(未来が変えられないものなら、俺がどう行動しようが放っておけば良いはず。だが今、目の前に未来人が現れたということは……)

 

「……結局のところ、未来は己の手で掴めということだな。俺も! お前たちも!」

「兄さん!」

「話はここまでだ。どのみち戦いは避けられまい。勝ったものが未来を手に入れられるのだ!」

「愚かな息子よ……安心せい! 我が手でお前の野望を止めてやろう!」

「戦うしかないの?」

「仕方ねぇ!」

「みんな! 気をつけて!」

 

 ゆっくりと腕を上げるアポロンを見上げながら、全員警戒態勢をとった。

 

「行くぞ!! 雷龍翔覇!!」

 

 バリバリバリ! ……

 

 アポロンの眼前に構えられた王家の剣は大気から大量の電気を集め強大な力を蓄えていった。

 

「これは……とんでもない電気の量だ!」

 

 大量の電気エネルギーを蓄えたアポロンは、両手で剣を頭上に掲げ、剣先から一斉に放出した。

 

「ハア──ッ!!」

 

 ガガガン! ガン! ガン! ガン!

 

 狙いなどお構いなしに大量の落雷が無差別に発生し、地面をえぐり取っていった。その様は正に雷龍が地面を喰い削るように見えた。削られた地面から大量の石礫が周囲に飛び散ったが、ドラえもんたちは安全ガスのおかげでダメージはなかった。国王は防御壁のようなものを張って身を守り、テラは盾で防いでいた。

 

「みんな! 大丈夫だとは思うけど、なるべく直撃は避けてね!」

 

 降り注ぐ雷を避けながらドラえもんが叫ぶ。

 

「行くよ! 空気砲! ドカン!」

「空気ピストル!」

「俺は接近戦だ!」

「援護するわ! ひらりマント!」

 

 ジャイアンとしずかがアポロンに向かって飛び出す。

 

「あの野郎! どうしても俺たちとは仲良くできないってのか!」

 

(大事な妹を怪我させようとするだけでなく、願いすらも聞き入れないとは……)

 

 そう考えながらジャイアンはテラの姿を見た後、再びアポロンを睨みつけた。

 

「バカ兄貴め! ぶん殴らなきゃ気がすまねぇ!!」

 

 ドラえもんとのび太の空気の弾丸は落雷に阻まれアポロンには到達できていなかった。時間が経過し、徐々に落雷の量が減っていったその時、ジャイアンがアポロンに飛び込み攻撃を仕掛けていることにドラえもんたちは気が付いた。

 

「のび太くん! ジャイアンの援護を!」

「わかってる! 空気ピストル! バンバンバン!」

「空気砲! ドカン!」

 

 空気砲、空気ピストルがアポロン目掛けて飛んでいく。誰もが命中したと思ったその時、アポロンの身に異変が起こった。

 

 パキキ──ーンンン……! 

 

「え!?」

「何だって!?」

 

 アポロンは両手で剣を掲げたポーズのままだった。術の発動中は意識がないのか、ドラえもんたちから攻撃を受けたという意識も無ければ気にもしてない様子だった。にもかかわらず、ドラえもんたちの攻撃は安全ガスに守られているかのように弾かれ消し飛んだ。

 

「ひみつ道具キャンセラー!?」

「あの服に? まさか!?」

 

 少なくとも自分の道具ではアポロンにダメージを与えられない。そう思った瞬間、ドラえもんは全身に言い表せぬ不安を感じ反射的に声をあげていた。

 

「ジャイアン! しずかちゃん! 逃げて!」

「え!?」

 

 その声を聞いたしずかは、すぐにその場を離脱した。が、ジャイアンは進むのを止めず、そのままアポロンに殴りかかっていった。

 

「たけしさんっ!?」

「ダメだ! ジャイアン!!」

「ここまで来て止められっか! そらよっ!!」

 

 パキ──ン……!

 

 確実にヒットしたと思われたジャイアンの右拳は、アポロンの顔面に触れる直前に眩い輝きを放ちピタッと止まっていた。

 

「な、何だ? 手応えがねえぞ?」

「やっぱり! 早く離れるんだ!!」

「まだだ! もう一発!」

 

 次の左の一撃を構えたジャイアンはゾワッと寒気を感じた。術を終え正気に戻ったアポロンと至近距離で目があったためだ。剣を振るわれたらまずい! そう判断したジャイアンは急いで後退した。だがアポロンはその動きを読んでいたのかのごとく、ほぼ同時に前に踏み込みながら剣を構えた。

 

(やべぇっ!)

『ジャイアンー!!』

「惜しかったな」

 

 アポロンが剣を突き出したその瞬間、高速で移動する物体がアポロン目掛けて飛び込んできた。

 

「何っ!?」

 

 いち早くその物体を察知したアポロンは、スッと身を引きジャイアンから離れ距離をとった。

 

「あれは!?」

「スネオのラジコンねんど!!」

 

 ブ──ーンッ!!!

 

 割り込んできたのは三機のラジコン飛行機だった。ジャイアンはこの隙に一気に距離を取り、しずかと一緒にテラの元に戻った。

 

「サンキュー! スネオ!」

 

 スネオからいつもの調子の良い返事はなかった。おそらく居場所を悟られないための考えなんだろう。従兄弟譲りのラジコンの腕前は伊達じゃねえな、とジャイアンは思った。

 アポロンは即座に気持ちを切り替え、現在の置かれた状況を見極めた。

 

(個体数三。独立かつ不規則な軌道。味方のいるあの至近距離で突撃しにきたということは爆発はしない可能性が高い。攻撃力は小。陽動、撹乱が目的か)

 

「邪魔だ! 雷光!」

 

 バリバリバリ! 

 

『うわっ!』

 

 一瞬みんなは雷光の放つ激しい閃光に目を閉じてしまった。しかしスネオのラジコンは一機も落ちずにアポロンの周囲を旋回していた。その軌道はアポロンを挑発しているようにも見えた。

 

「こしゃくな奴らめ! 喰らえ!」

 

 アポロンの雷光が放たれるよりも前に、スネオの操るラジコンたちは洞窟の奥へと向かって行った。

 

「逃がすか!」

 

 アポロンは剣先をラジコンに向けたが、その瞬間、雷光による攻撃を止めた。ラジコンの向かう先には配備されているアポロンの調査船があった。

 

「!?」

 

 スッと剣を下ろしたアポロンの口元には自然と笑みが浮かんでいた。

 

「船を盾にするとは……なかなかやるな、未来人。さて……」

 

 すぐに冷静さを取り戻したアポロンは周囲を眺め神経を研ぎ澄まし思考を巡らせた。

 

(確か……未来人はもう一人居た。そいつがあの物体を操っている可能性が高い。だが居ない……見えないというのが正しいのか。この一帯で隠れる場所は船の方向しかない。ならば船に?)

 

 アポロンはそう考えた自分に失笑した。

 

(いや……あわよくば俺に自分の船を攻撃させようと考える奴だ。わざわざ自分の居場所に物体を戻して俺の攻撃を受ける危険を犯す程度の奴とは考えられない。あいつらは互いを助け合い思いやる性格だ。ならば!)

 

 アポロンは船とは真逆の誰もいない場所の壁と、その天井に向かって攻撃を行った。

 

「雷刃!」

 

 ビシュシュッ!! 

「!?」

 

 二本の輝く横長の刃の形をした雷が、それぞれ壁と天井を砕き軽い崩落が起きた。

 

 ガラガラガラッ……。

 

「スネオくん!?」

「スネオさん!」

「スネオッ!」

 

 岩崩れがおさまると、瓦礫の中からゆっくりと岩をかき分けながらスネオが出てきた。みんなはスネオを助けるために急いで集まり、周りの瓦礫をどけた。安全ガスはダメージを無効化するだけで、個人の力が上がるわけではないためだ。

 

「スネオくん!」

「スネオ、大丈夫か!?」

 

 瓦礫の中からみんなに引っ張りだしてもらいながら、スネオはジャイアンの方をキッと見据えた。

 

「大丈夫か? じゃないよ全く! ジャイアンが考えなしに突っ込んでいくもんだからひどい目にあったよ! ぼくのラジコン奇襲策をこんなに早く使っちゃったじゃない!」

「う……す、すまねぇ」

 

 さすがのジャイアンも今回ばかりはスネオに何も言い返せなかった。

 

「でも無事で良かったわ」

「安全ガスのおかげでね。石ころぼうしも……もういいよね。みんなと連携ができないから」

「うん。奇襲用だったからね」

 

 安全ガスの後に被ったためか、今の崩落により石ころぼうしは破れていた。スネオは破れた石ころぼうしを脱ぎ瓦礫の上へと置いた。

 

「にしても、こんなに早くぼくの居場所がバレるなんて……ほんとこの世界の出来杉くんだな」

「うん、油断できない。正に強敵だよ」

 

 のび太とスネオは素直に相手の力を認め、慎重に対策を練ろうと考えた矢先、ドラえもんの厳しい一言が挿し込まれた。

 

「それに……アポロンさんにはぼくの道具の一切が効かない」

『なんだって!?』

「そ、それじゃあどうやって勝つんだよ?」

「……わからない」

「わからない?」

「そんな!」

「でも! 邪魔をしたり攻撃を凌ぐことはできる! 今僕たちができるのはそれが精一杯だ。その中で何か活路を見出すしかない!」

「そんな無茶な!」

「だから最初に何度も行ったでしょ! 危険だって!」

「しかし、安全ガスの効果で一切ダメージを受けないというのであれば、確かにやりようはあるのかな?」

「……そうでもないぜ」

「ジャイアン?」

 

 ジャイアンはそう言って自分の脇腹を指さした。みんなが目を凝らすと、完全防御と思われた安全カバーに王家の剣による裂け目が刻まれていた。

 

「これは!?」

「そんな……」

「あの剣にもその……なんだ。無効化する? って力があるみてえだ」

「なんだよ……じゃあもう接近すらできないんじゃない」

 

 スネオがガクっとうなだれたところに、テラとミヨイ、そしてムクが合流した。

 

「大丈夫ですか? スネオさん!」

 

 テラは、スネオがうなだれた理由を先の戦闘によるダメージのものと思ったため、思いやる気持ちがはやり、かなり近い距離に一気に顔を寄せてきた。

 

「うわっ! あ? ああ……へ、平気平気! ははは」

「そうですか……良かった」

 

 スネオも男の子である。さすがにテラの急激な接近にはドキッとした。が、背後のジャイアンから何やらものすごい殺気を感じ、別の意味でもドキッとすることになった。

 

「はあ……少しは役得があってもいいでしょーに……」

「え?」

「い、いや! こっちのこと。ははは」

 

 テラはスネオの笑顔の意味はよく解らなかったが、大事には至ってないことを認識し、にこやかに笑って返した。

 

「ドラえもん様、お願いがあります」

「ミヨイさん? あぁ、腕を治さなきゃね。うんと……はい。復元光線!」

 

 タミアラと同様、ミヨイの腕は復元光線の効果によって徐々に治っていった。

 

「ありがとうございます。これで皆さんと共に戦うことができます」

「頼りにしてます……さて」

 

 ドラえもんはアポロンを見上げて考えた。ひみつ道具キャンセラー内蔵の装備をまとった相手と、どう戦えば良いのか……。

 

(対象がキャンセラーによって守られてるとなると、おそらくソノウソホントの他人の行動を強制する効果の類のものは一切効かないだろう……かといって、ひみつ道具の効果によって作られた物質の攻撃、空気砲や空気ピストルも効かない……何か、何かないのか……)

 

「どうした? 万全の体勢になったのではないのか?」

「ぬ〜……」

 

 アポロンは考え迷うドラえもんを見て大体の状況を察した。

 

(さっき、あいつら未来人の攻撃のうち、いくつかは間違いなく俺に直撃していた……にもかかわらず今の俺には傷一つない。何故かはわからないが、あの眩い光によってあいつらの攻撃を無効化しているように思える。これはこの王家の正装の効果によるものと見て間違いないだろう。そしてすぐに攻撃に転じてこないということは、さっきの俺と同じく攻めあぐねている証拠。ならば状況的に有利な今こそ攻めるとき!)

 

「来ないならば今度はこちらから行くぞ!!」

 

 アポロンは不敵な笑みとともにドラえもんに狙いを定め猛スピードで空中から突進してきた。雷光が弾かれている以上当然の行動ではあったが、剣技に切り替えられたのは先の安全カバーの件を考えるにドラえもんたちにすれば嫌な誤算だった。

 

「接近戦!? まずい!!」

「ドラえもん!?」

 

 虚を付かれたドラえもんは、一瞬回避の反応が遅れた。その時、ドラえもんを庇うようにミヨイが現れアポロンの前に立ちはだかった。

 

「ドラえもん様! お下がりください!!」

 

 ミヨイが両手を腰付近に構えると両太もも側面が開き、中から二本の鉄棒が飛び出した。それらを素早くつなげて伸ばし一本の棒に仕立て、アポロンを迎え打つべく棒術で迎撃する姿勢をとった。

 

「邪魔だ! ミヨイ!」

 

 ガ! キ! ギィ──ン……!!

 

 数回の剣戟を受けた後、両者は地上で鍔迫り合いの状態になった。

 

「今のを止めるか、ミヨイ!」

「わたくしはアポロン様の師範でありました故、全力でのお手合わせはこれがお初となります!」

「ぬかせ!!」

 

 二人はまるで踊っているかのように互いの武器を華麗に激しく交差させた。

 

「ここはミヨイさんに任せて、僕たちは一度王様のもとへ! 体勢を立て直すんだ」

 

 ドラえもんの掛け声に合わせて、みんなは国王のもとへ走り出した。

 

「行かせるか!」

 

 逃すまいとアポロンはミヨイの持つ棒に強烈なキックを見舞い、そのまま蹴り押すと同時にその反動を利用して三角跳びを行いドラえもんたちの方に飛び上がった。

 

「喰らえっ!」

「うわーっ!」

 

 ドラえもんの背後上空からアポロンの剣戟が迫る。

 

 ガキ──ン!!

 

 絶体絶命と思った瞬間、アポロンの剣が弾かれる音が響いた。アポロンは空中で防御体勢を取り、そのまま着地した。

 

「……それがお前の本当の力か……タミアラ」

 

 そこにはドラえもんたちを守るように刀剣を構えたタミアラが居た。日本刀のようにも見えるその剣は紫色のオーラで纏われており、怪しげな雰囲気を漂わせていた。

 

「ドラえもん様、どうか早く国王様のもとへ」

 

 タミアラの言葉を聞き、ドラえもんは国王の状態を確認した。先のアポロンの攻撃を集中的に受けていたのか、治癒したはずの国王は再び重症を負っていた。

 

「そんな! 何で?」

「王家の杖を使い、アポロン様の攻撃の殆どをご自身に引き寄せておられました。可能な限り他方へ攻撃が行かないよう苦慮しておりましたゆえ、あのように……」

「わかりました! 急ぎます!」

「お願い致します」

「ミヨイ! タミアラ! 兄さまをお願い!」

 

 テラはこの場を二人に託し、みんなと一緒に国王の元へ走り出した。「倒せ」とは決して口にしないテラの優しさにタミアラとミヨイは、相変わらず難しいご注文を……と互いに微笑しながら目を合わせた。

 

「ふう……やはりお前たちの方が侮れんな。王家の剣を前にここまでやれるとは思っても見なかった ぞ」

「お褒めのお言葉感謝いたします」

「ならば褒美の一つとして、今一度お考え直して頂くことはできませぬでしょうか」

「ならん。褒美を与える程のことではない」

「残念です」

「止めたければ力ずくで来い!」

「御意!」

 

 後方で再び激しい剣戟と雷光の入り乱れる轟音が聞こえ始めた頃、ドラえもんたちは重症を負っている国王と無事合流した。

 

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