ウウゥゥゥ……!!
「どうしたの? ムク」
テラがムクに尋ねるように傍に寄ると、ムクは船のある方に向かって突然走り出し、船尾を隠すように立ち並ぶ岩壁の裏側へとその身を消した。
「な、何だお前は!? は、離さぬか!」
そんな慌てた悲鳴を上げる一人の男を口にくわえ、ムクは崖向こうからのそりと再び姿を現した。
「レムリア!?」
「レムリア! お主、なぜここに?」
『え? レムリアさん!?』
テラと国王に遅れて、ドラえもんたちもその人物を思い出したように反応した。
ムクはレムリアを口にくわえたままみんなの元に運んでくると、パッと口を開きレムリアを国王の眼前に差し出した。尻もちをついたレムリアは、取り繕うように急いで立ち上がった。
「これは国王様、よくぞご無事で!」
「うむ。そなたもな、レムリアよ。我が愚息が迷惑をかけた。すまぬ」
「なんと勿体なきお言葉」
レムリアは膝をつき、忠誠心を示すように国王に平伏した。スネオは崖下でのレムリアの態度が頭から離れず、一人猜疑心の目でその様子を見守っていた。
「さてレムリアよ。なぜそなたはココにおる?」
「はい。誠に申し上げにくいのですが、アポロン様にこの場に留まれと命ぜられまして……」
「ほう。見たところ行動に制限はかけられていないようだが……これだけ危険な状況の中、なぜ逃げようとしなかった?」
「アポロン様の命にありますれば、背くことなどありえません」
淡々と言い終えたレムリアを見下ろしながら、国王は短くフッとため息を吐き次の質問へと移った。
「あの船を見ればわかるように、アポロンは外界侵攻を企てていた。レムリア、お主はなぜこの状況をわしに報告しなかった」
テラは思いもよらないその言葉を聞き、驚きを隠せぬまま国王に告げた。
「お父様。造船の件は既にお父様には伝えてあると聞いておりましたが?」
「なに? そうなのか? レムリア」
「ぼくたちも砦でそう聞きました」
国王はのび太の言い添えを聞き、レムリアに事の真偽を問いただした。
「はい。本来であれば、テラ王女にお伝えしたあの直後に国王様の元へ赴きご報告する予定でございました。ですが、アポロン様より急ぎの命を受けましたゆえ、ご報告に至らなかった次第でございます。ご報告が前後する形になり誠に申し訳ございません」
「レムリア! では造船の名目の話は!?」
嘘だったの? というテラのその疑いの問いには国王が答えた。
「中長期的な海洋漁業が目的……とでも言うのだろう。のう? レムリア」
「さすがは国王様。そのとおりでございます」
「それならば、ワシも納得せねばならぬからのぉ」
「はい。アポロン様ですから、それを見越しての名目かと」
「ふむ」
国王は気絶して横たわっているアポロンに視線を流した。そんな二人のやりとりを聞きながら、スネオはレムリアへの猜疑心を更に高めていた。
(これは……レムリアさんの口を割らせるのは難しいぞ。この人はおそらく嘘は言ってない。だからこそ突き崩せない。でもなぁ……この誠実さが本当ならもっと早い段階で、それこそ造船の指示が出された時点で王様に報告できたはずなんだよな。でもしなかった。そこが怪しいんだけど……多分、その言い訳も用意してあるんだろうな。自分から正直に話すわけもないし……ん? ショージキ?)
何かを思い出したかのように、スネオはドラえもんにコソッと耳打ちした。
「ドラえもん、あの道具ってある?」
「え? あの道具って?」
「えーと……何でも思ってること話しちゃうやつ」
「あー、ショージキデンパね。うん、あるよ」
「それをレムリアさんにかけてみてよ」
「え!? でも別に何か嘘をついているようにも見えないけど?」
「まぁ、ぼくの勘だけどね。でもいいじゃない。勘違いだったとしても何も起きないんだし」
「あ、それもそうか。わかった」
ドラえもんはうなずきながらポケットからショージキデンパを取り出し、レムリアに向けてそっと電波を浴びせた。
「……しかし、アポロン様が倒されるとは……とんだ誤算だな」
『!?』
「レムリア!?」
「レムリアよ、今何と申した?」
自分の身に何が起きたのか理解できなかったレムリアは、驚いた表情で顔を上げ素早く両手で己の口を塞いだ。しかし、ショージキデンパの威力は凄まじく、レムリアはその力に抵抗することはできなかった。
「例え相討ちであっても国王が倒れることが絶対条件の策だったからな。さて、どのようにしてこの場を切り抜けるか」
ショージキデンパを放ったドラえもんは、ボー然としてレムリアの会話を聞いていた。その傍らスネオは、やっぱりね、とでも言うように少し荒い息を鼻から出した。
「アポロンは復讐心に捕らわれていたとはいえ、外界侵攻を目論んではいなかった。レムリアよ! 遺跡を作動させた強い思念の正体は貴様か!!」
国王の目が疑惑から確信へと変わったことを感じとったレムリアは、もはや隠す必要もない、というようにその表情を徐々に悪意の満ちたものへと変貌させていった。
「フフフ……もう少しというところでとんだ邪魔が入ったものだ。それがこんな子供たちというのも驚きだが、まさか発掘道具の使い手とはな……さすがに予見できなんだわ」
「アポロンさんを操っていたのはお前か!?」
レムリアは、もはや意味のないそのドラえもんの追及に取り乱しもせず、余裕をもって答えた。
「操る? ははは、そんなことはしていない。王子のあの憎しみは本人のものだ。まぁもっとも、キッカケは与えたがね」
「キッカケじゃと?」
「そうですよ、国王。例のアレスの事故の件、あれは私が仕組んだものです」
『何だって!?』
ドラえもんたちは驚くのと同時に、心の内から憤りの感情が湧き上がってくるのを感じた。ミヨイとタミアラも、レムリアのその言葉に一瞬身体を動かすほど鋭敏な反応を見せた。
「仕組んだとはどういう事ですか? レムリア!」
テラのやや興奮気味な問いかけにレムリアはフフンと軽く口元を緩め淡々と答えていった。
「簡単なことですよテラ王女。外界で多くの大陸人に襲われた時、あえてアレスだけをそこに置き去りにしたのです」
『!?』
「そう、大陸人に襲われたあの時……」
◆
バシャバシャ
「ハァハァ」
視界も悪く海も荒れるほどの大雨の中、大陸人との戦闘を繰り返しながら調査船に引き上げようと試みるアレスがそこにいた。外界調査の責任者であるアレスは、調査メンバー全員が無事撤退できるよう殿を務めていた。
アレスの戦闘に関する能力はとても高く、そのおかげで殆どのメンバーは被害を受けることなく無事、調査船に戻るための小船に乗り終えていた。
「アレス兄さん! 早く!」
小船の上からアポロンが懸命にアレスへと声をかける。
「俺は後で行く! 早くここから離れろ!! レムリア! アポロンを頼む!」
「ハッ! さ、アポロン様!」
「いやだ! アレス兄さんが!」
「アレス様は後ほど私が迎えに戻ります。ですからどうか!」
「レムリアの言うとおりだ! お前がそこでゴネてると時間がそれだけかかるんだぞ、アポロン!」
「でも……」
「俺なら大丈夫だ! 死にはしない! アポロン、俺を信じろ!」
アレスはそう言うと歯を見せニカッと笑った。
「きっとだよ!!」
「おう! わかったら行け!」
「うん!」
アレスは下手に被害が出ないように小船から離れていった。その際、レムリアに自分がこれから向かう方向を手で指示した。レムリアは落ち合う場所の指示と受け取り、急いでアポロンと共にその場から離れ調査船へと引き返した。
アポロンと調査メンバーを無事調査船に送り届けたレムリアは、アレスを迎えに行くため再度小船を出した。
「ハァハァ……さすがにこの悪条件の下でこの人数をいなし続けるのは難しいか……かといって危害を加えるわけにもいかん……」
逃げながらも懸命に思考をめぐらせたアレスは英断を下した。それは発掘道具による大陸人への威嚇攻撃だった。
(レムリアに預けてあるあの剣の術を発動すれば十分な威嚇効果が期待できる。逃げ出してくれれば御の字、最悪でもこちらへの攻撃を躊躇させることはできるだろう。その隙に船に戻ろう)
アレスがそう考えていると、迎えに来たレムリアの小船が視界に入った。海岸線を走っていたアレスは、足を取られ速度が落ちることも気にせず、浅瀬に侵入していった。
「レムリア! 王家の剣を!」
そうアレスが声をかけると、レムリアの乗った小船はアレスからずいぶんと距離の離れた場所で停泊し、それ以上近寄ってくる気配はなかった。
「どうした? レムリア! 早く王家の剣を!」
アレスに何と言われようともレムリアは微動だにしなかった。それどころか不敵な笑みを浮かべ、これからのアレスの行く末を楽しんでいるようにすら思えた。
大陸人たちのバシャバシャと近づいてくる水音を背後に聞きながら、アレスはそれがレムリアの謀略だということに気が付いた。
「レムリア! きさまー!!」
疲労の中にあったアレスはろくに反撃もできないまま、大勢の大陸人たちとの戦闘を余儀なくされ、その身は静かに水面下へと沈んでいった。
レムリアはその様を遠目で見ながら王家の剣を懐にしまい、自分の声が大雨に消されることを良いことに、高らかに笑いながら調査船へと戻っていくのだった。
◆
「……ということだ諸君」
「その状況で王家の剣を……あえてアレス兄様に渡さなかったと言うのですか!」
テラはわなわなと身体を震わせながら、レムリアに強く問いただした。
「はいそうです。ムーの民は何があっても外界の人間に危害を加えるわけには行きませんから。それが例えアレス様であっても……そうですよね? 国王?」
「……そうだ」
「その結果、王子の心が病んだだけです。仕方のないことだったのですよ」
ショージキデンパの効果で話している以上、この会話に嘘はない。あくまでも掟を守っただけ、と言うレムリアにドラえもんたちは怒りに震えながらも何も言えなかった。がしかし、
「ふーん……で? アレスさんを見捨てた目的は何?」
全員が怒りをあらわにしている中、一人冷静なスネオがレムリアに質問を投げかけた。
「もちろん外界侵攻のためですよ。今のこの状況を見てわかりませんか?」
「なるほどね……アポロンさんを利用するためか」
スネオの明瞭な答えにレムリアはニヤリと笑って返した。
「あなたはなかなか賢い。そのとおりです。王家の剣さえあれば外界の制圧なんてたやすいもの。しかし、アレスも王子も、どちらも外界侵攻なんて考えませんからね。だから私がそうしたくなるよう仕向けたのですよ」
「……なんて奴だ」
「アレスが死ねば王子は怒り狂うだろう。その矛先は当然”外界”へと向く。そして国王は必ずや王子の進撃を止めようとするだろう。王族同士での対決というわけだ。絶大な攻撃力を持ったもの同士での戦い……どう転んでも双方無事では済むまい。ふふふ」
「こいつ……」
レムリアは自分の立てた計画に満足するかのように小さく肩を震わせながら笑っていたが、突然その動きをピタッと止め不機嫌な顔へと豹変した。
「この先、必ず強敵となる国王を何としてもこの場で倒しておく必要があった。私はこの戦いの結果、王子の御身がどうあれ国王は倒れる……そう予想していた。実力から考えれば容易に想像つくことだったが……ここで計算外の事が起きた」
「……」
「国王が亡くなれば、王子の憎しみも更に膨れ上がったことだろう。あとは私がその気持ちをうまく利用し外界侵攻を進める算段であったが……よもや計画が狂うことになるとはな。全く厄介な子供たちだ」
レムリアが事の真相を語り終えたと同時に、耐えかねたミヨイとタミアラが一気に距離を詰め攻撃を行った。
「おのれ! レムリア卿ー!」
「貴殿という奴はー!」
ビキキッ……ギシ……ギシ……
ミヨイとタミアラは、レムリアに近づいた途端に身体が固定された。それはまるでアニメーションの一時停止のように、攻撃姿勢のまま金縛りにあったような、そんな不自然な体勢だった。
「グッ!」
「クッ……」
避ける素振りを微塵も見せなかったレムリアは、ゆっくりと二人に近づき、愚者を見るような目つきでタミアラの顔に右手を添えた。
「お前らアンドロイドは王族関係者には攻撃できないということを忘れたか?」
そう言いながら右の掌を頬をつたらせ顎に移動し、その人差し指でタミアラの顎をクンと軽く上げた。
「お前たちは王子の稽古師範として特別に攻撃を許可されていたに過ぎん。思い上がるな!!」
バシュシュッ!
『!?』
ミヨイ、タミアラは、各々の眼前に突き出されたレムリアの両の掌から発せられた衝撃波でそれぞれ吹き飛ばされた。
ドドッ!! ……
「ミヨイさん! タミアラさん!」
「レムリア! 貴様ー!」
一連の真実を告げられた国王は、耐えかねた怒りがうねりを挙げ、すかさず王家の杖で雷による攻撃をレムリアに仕掛けた。
バリバリ!
ドド──ン!!
『うわーっ!』
「きゃあ!」
王家の杖から放たれた雷撃は、凄まじい威力を物語るようにレムリアに直撃した。
空気の震えがおさまると、ドラえもんたちはまさか、と目を疑った。そこにはまるで何事も無かったかのようにマントを羽織ったレムリアが立っていたのである。レムリアは自身を覆っていたマントを悠々と翻した。
「ヌゥ! 発掘道具か!?」
口惜しそうな国王の言葉を聞いて、レムリアは余裕の笑みを浮かべた。
「はい。王子より授かりました。王家の宝具は私には扱うことはできませんが、この発掘道具ならば使うことができます。マントで術を防ぎ、この両腕のリングで攻撃を行う。物理攻撃には手を焼きますが、そのミヨイ、タミアラは私には攻撃できない……つまり、王子が居なくともこの二つの発掘道具があれば、私だけでも外界侵攻はできるというわけです」
そう言ってレムリアは洞窟内に響き渡るほどに高らかに笑った。
「宝物庫は王族にしか開けられん……そのためのアポロンか。どこまでも抜け目のない奴じゃ」
「こいつ……正真正銘のクズだな……」
「ドラえもん……何とかならないの?」
「うーん……あのマントに空気砲は効かないだろうし……」
「許せない……」
『え!?』
しずかは自分でも信じられないくらいに激しい怒りが波のように全身に広がっていくのを感じていた。肩を小刻みに震わせながら、ジャイアンから預かっていたスーパーてぶくろを力強く右手に装着し、湧き上がる己の感情を握りしめながらレムリアへと近付いていった。
「し、しずかちゃん?」
「危ないよ!?」
のび太とドラえもんがしずかを心配して引き留めようとしたとき、スネオが二人を止めた。
「スネオくん?」
「……多分大丈夫だよ」
『ええ!?』
妙な静けさが漂う中、崩れた岩の中からミヨイとタミアラが姿を現した。レムリアから距離が離れ、拘束が解けた瞬間に空中で体勢を整え、自分へのダメージを最小限に抑えていたのだ。
ミヨイは急ぎ場の状況を確認すると、しずかが一人レムリアに近づいていく様子が見えた。
(……しずか様?)
一人近づいてくる不用意な小娘を一瞬不思議に思ったレムリアだったが、怒りに震えるしずかの顔を見て、考えなしに感情任せで玉砕に来た只の愚か者か、と一笑し大きな優越感に浸っていた。
「何だお前は? まさか私と戦おうとでも言うのか?」
しずかはレムリアの問いかけにも無言を貫き、その進める足を止めなかった、その態度はレムリアの神経を逆撫でするには十分だった。
「クッ! 身のほど知らずの小娘が! 吹き飛べ!」
前にかざしたレムリアの両手から、先程と同じように強烈な衝撃波がしずかに対して発射された。
パキ──ン!
「な!?」
その衝撃波は、しずかの纏う安全ガスによって完全に無効化された。驚くレムリアにさらに距離を詰めていくしずか。レムリアの顔から先程までの余裕はすっかり消えていた。
「ば、ばかな! 王家の正装を纏ってもいないのに!? わ、私の……発掘道具の攻撃が効かないだと!?」
真正面にまで到達したしずかは足を止め、レムリアの顔を見上げハッキリと告げた。
「あなただけは……許せないわ!」
しずかはミヨイのポーズを真似るように、右拳を思いっきり握り脇を締め構えた。
(あの構えは……私の?)
「お、お前たちは……一体……何なんだ……?」
「何って? 私たちは!」
しずかはみんなの気持ち、そしてミヨイとタミアラの想いを拳に乗せ、思いっきり踏み込んだ。
「アポロンさんの友達よ!!」
ズドンッ!!
スーパーてぶくろの威力を乗せたしずかの渾身のボディーブローがレムリアの腹部に決まった。レムリアの顔が一瞬で激しく歪むとその身体はくの字に曲がり、勢いよく後方に吹き飛び壁に激突した。
その様子を見ていたドラえもんたちは、普段見慣れぬしずかの行動に驚き、呆気にとられていた。
「すごい……しずかさん……ミヨイみたい」
「いい気味。いや~、女の子って怖いね」
「な、なんつーか……あんまり見ない光景だな……なぁ? のび太」
「う、うん……」
「しずか様……」
ハッと我に返ったしずかは、周りから注目を浴びていることに気付き、はしたないと両手で顔を隠し恥ずかしがった。
「!? い、イヤだ……あたしったら……」
そのしずかにゆっくりと国王が近付き、やさしく肩に手を置いた。
「しずかくん、ありがとう」
「い、いえそんな、……あの……」
国王は戸惑うしずかに柔らかい笑みを送った後、倒れているレムリアに向かって歩いていった。その姿を見てミヨイも護衛すべく国王の元へと急いだ。その途中、しずかの横を通り過ぎる際にミヨイはそっと一言残すのだった。
「ありがとうございます。しずか様」
「え?」
しずかはその声を聞いてミヨイの方を振り返った。国王の横に並ぶミヨイの後ろ姿は、満身創痍であるにもかかわらず、姿勢は正しくいつも通り凛とした清らかさを漂わせていた。ただ、その言葉を発した時のミヨイは、心なしか嬉しそうな顔をしていたように見えた。
「さて……レムリアの処分をするかの……」
「はい」
壁に寄りかかり気絶しているレムリアの前にしゃがんだ国王は、彼の頬を軽く数回叩き、強引に目を覚まさせた。
「……!? こ、国王! ミヨイ!」
「レムリアよ。発掘道具を返してもらおうか」
「クッ、ふざけるな! この力は私のものだ!」
「確かにその力は強大だ。だがな、彼らには勝てんよ。アポロンがそうだったようにな」
「クッ……」
「この島も直に沈む。これ以上の醜態を晒す前に、この場から早々に立ち去れ。それとも我々とまだ一戦交える気か?」
しずかから受けたダメージも深く、悔しくも観念したレムリアは、装備していた発掘道具である両手のリングとマントを外し、逃げるようにこの場から走り去っていった。
「国王様、よろしかったのですか?」
「うむ。あれでも一応ムーの国民だ。可能な限り、国民には生き延びてほしいという想いは変わらぬ。島が滅びの一途を辿っている以上、あれも脱出するのが精一杯じゃろうて。発掘道具が回収されたことで、もう悪さもできんじゃろうしな」
ドド──ン……ズズ──ン……
遠くから崩落の音が聞こえ、かすかだが地面の揺れが感じ取れる。
「なんだろう? 外が騒がしくなっているような?」
「何にしても急いでここから脱出した方が良さそうだね」
「ぼく、外の様子を見てくるよ」
のび太はタケコプターを使い、入ってきた洞窟の通路に侵入しようとした。その時、
ドドド──ン!!
ガラガラガラ……。
「うわっ!」
突如大きな地震が起き、その通路の天井が崩れ、外に繋がる道が塞がってしまった。
「危なかった〜……でもこれじゃここから出るのは無理だなぁ……」
別の出口を探そうと一旦ドラえもんたちのところに戻ろうとしたのび太だったが、到着まであと少しのところで突然タケコプターが停止し地面に落下した。
「え? うわっ!」
ドスン!
「イテーッ! ……何だよもー!」
「もう、何やってんだよのび太くん」
「そんなこと言ったって……」
ドド──ン!!
ドドド……ドドド……。
「うわっ!」
「なんだなんだ!?」
地響きのような轟音の中、かすかだが天井にも亀裂が走った。
「これは!? 崩壊が始まったのか!?」
「王様!? 崩壊って……まさか遺跡の!?」
のび太の問いかけに国王は静かに頷いて答えた。
「おそらくそうじゃろう。ここまでの揺れは経験したことがない。ましてや止む気配もなく断続的に続いておる……ここもそう長くはもつまい」
「なんで? ここに来て遺跡が正常に動作するなんて……」
「わからぬ……半壊していた遺跡の装置が自然に治ったとは考えにくいが……ムーの祖先が滅びの道を切望しているようにも思える」
偶然にしてはできすぎだ、と疑念を抱きながら聞いていたドラえもんとのび太は、ふと何か引っかかるように首を傾げた。
「ん? 治る?」
「治る……治る!?」
「まさか!?」
『タイムふろしきだ!!』
のび太とドラえもんは向かい合い同時に声を上げた。二人は遺跡で第三の掟を見つけた時、そのあまりの内容に驚いて急いで国王に報告しに向かった。だがその際、コントロールパネルにタイムふろしきを置きっぱなしにしていたのを思い出したのだ。
”遺跡が完全に治った”そう理解したとき、ドラえもんはいつも以上に顔が真っ青になった。
「みんな! これから先、絶対にケガをしないで!!」
「え!?」
「なに?」
「どうしたってんだよ?」
「いいから! ケガだけは絶対にしないで!!」
「どうしたんだよ。安全ガスがあるから平気……」
「遺跡が完全に治ったんだよ!!」
のび太の言葉を遮るようにドラえもんは叫んだ。さすがに全員、ドラえもんが言おうとしている事がわかった。遺跡の”ひみつ道具キャンセラー”が復活しているのだ。そう理解したとき、のび太たちは大きな緊張感と共にゴクリと息を呑んだ。
アポロンが再び戦闘を開始する可能性がある今、「ひみつ道具が効かない」とは口が裂けても言えない。加えて安全ガスも効かないこの状況は、岩でも落ちてきたらそれだけでも大怪我になってしまう。アポロンに悟られないように、かつ迅速に状況を伝える必要があったドラえもんがみんなに送れるギリギリのメッセージだった。
「わかったなら早くアポロンさんから離れて!」
次第に大きくなる地震とドラえもんの悲痛な叫び。それら大きな音と揺れに反応したのか、気絶していたアポロンの目がゆっくりと開いていった。