目を覚ましたアポロンは、右手を額にあて、ふらつきながらゆっくりと立ち上がった。
「アポロンさん!」
「お兄様!」
近付こうとするテラとしずかを制止するように、国王は杖を横に伸ばし、しばし待つように促した。
ドラえもんは、ひみつ道具が一切効かない現状にかなり悲観的になっていたが、同時に一つの希望も持っていた。
(ひみつ道具が使えないのはかなりまずい……でも、それなら遺跡の洗脳装置も治っているはず……お願いだ! 元のアポロンさんに戻っててくれ!)
焦点が定まらない様子のアポロンは、ドラえもんたちの姿をかすかに認識するとカッと目を見開いた。その形相は闇の心を持ったアポロンそのものだった。
「戻って……ない!?」
「貴様ら……よくもやってくれたな!」
最悪の事態だ、とドラえもんが感じていると、離れた所に落ちていた王家の剣が、あるべき場所へと戻るようにアポロンの右手に吸い込まれていった。
「ハァッ……ハァッ……」
荒々しい呼吸は、アポロンの疲労度が相当なものであることを示していた。しかし、ドラえもんたちにもはや戦える武器はない。その恐怖心はドラえもんたちを少しづつ後退させた。
(あの女だ……あの女の声がもう一人の俺を呼び覚ます……あの女を倒せ! 倒せ! 倒せ!!)
本能的にその考えに行きついたアポロンは、己の鋭い視線をしずかに向けた。ドラえもんたちは怯えるしずかを守るように、恐怖心を抱きながらも素早く前に出て盾となるように身を呈して立ちはだかった。
「そうか……雷光は効かないんだったな……だが今度は油断せぬ! 行くぞ!!」
王家の剣を構えて突進するアポロン。目を閉じて成り行きに任せるドラえもんたち。その間にミヨイ、タミアラがタイミングを見計らっていたかのように奇麗に割り込んできた。
ガ、ガ、キーン!! ……
アポロンは少し押し戻されつつも、二人の攻撃を予測していたのか少しのダメージを受けることもなく体勢を立て直し、再び攻撃の構えをとった。
「……ほう、まだ動けたか」
そのアポロンの言葉と同時に、ミヨイとタミアラの腰が突然落ち、二人共片膝を付いた。
「フッ。あれだけの長時間、戦闘モードでいればエネルギーも底をつくというもの。当然だな」
立ち上がろうにも立ち上がれないその様子を見てアポロンは不敵な笑みを浮かべた。ミヨイとタミアラの身体の一部から確認できる動作ランプなようなものが徐々に消え始め、全てが消灯すると二人は完全に動かなくなった。
キュ──ーン……
「ミヨイ! タミアラ!」
「ミヨイさん! タミアラさん!」
キィ──ン……!!
「グッ!」
しずかが声を発するとアポロンの頭にズキンと激痛が走った。
「あ、頭が……出て……くるんじゃない!!」
「アポロンさん!?」
キィ──ン……!!
「やめろ!! 俺の名を呼ぶな!!」
左手で頭を掻きむしるアポロンに対して、この隙を逃さんと国王が攻撃を仕掛けた。
「アポロンー!!」
国王の王家の杖から雷撃が複数射出された。かろうじて反応し、ジャンプして空中回避に移ったアポロンだったが、予期せぬ方向から飛来してきた雷撃の直撃を受け地面に落とされた。その雷撃はテラの王家の盾により反射されたものだった。
(クッ……また同じ手を食らうとは……)
「終わりじゃ! アポロンよ!!」
アポロンの着地の瞬間を狙い、一回り大きな雷撃を放つ国王であったが、アポロンはその雷撃を渾身の雷光で押し留めた。
バリバリバリ!!
「ヌウッ!?」
「ググッ……うぉ──っ!!」
アポロンの叫びと共鳴するように雷光は瞬時に増大し、その凄まじい威力で国王の雷撃を貫いた。
「何だと!?」
威力の増大した雷光の直撃を受け、国王は激しく後方に吹き飛ばされた。
「お父様!」
『王様ー!!』
キィ──ン……!!
「グァッ!」
しずかの声がアポロンの脳裏に響く。反射的に左手で頭を抑えるアポロンに、間髪入れずムクが飛び込み攻撃を仕掛けた。
グワォッ!!
「!?」
ムクの飛び込みスタンプ攻撃を咄嗟のステップでかわすアポロン。それでも喰らいつくように、すかさず地面からアッパー気味に噛みつき攻撃を仕掛けるムク。ドラえもんたちは常人離れのスピードで展開されるその戦いを目で追いかけるのが精一杯だった。
ガキーン!
ムクは振り下ろされた王家の剣を咥えていた。戦いはそのまま二人の力勝負へと移行した。力の強さならムクに分があるとドラえもんたちが思っていると、戦い慣れしているアポロンは余裕の笑みを浮かべた。
「犬如きが! 俺と対等に戦えると思っているのか? ただでさえデカイ的が止まっててどうする!!」
そう言って王家の剣をパッと離したアポロンは、ムクの顔面めがけて回し蹴りを放った。その攻撃に反応したムクは、即座に口から王家の剣を離してバックジャンプし回避した。
「所詮、畜生の頭などそんなものよな」
回し蹴りをフェイクとしていたアポロンは、そのまま空中に放られた王家の剣を手にし、すぐさま空中のムクに向けて雷光を発射した。
バリバリ……!!
ギャウン! ……
『ムク!!』
雷光の直撃を受け地面に落ちたムクは、国王と同様に大きなダメージを受けていた。
疲労状態で戦闘を続けたアポロンの動きはかなり鈍っていたが、それでもしずかを倒すべく、壁となるドラえもんたちに近づいていった。
「もう止めて! アポロンさん!!」
キィ──ン! ……
「グッ! ……や、やはり、お前だけは何としてでも消さねばならんようだな」
動けないミヨイとタミアラの間を抜けると、そこに王家の盾を構えたテラが割って入ってきた。
「お兄様! おやめください!」
「お前では俺を止めることはできん……どけ!」
「嫌です!」
「アポロンさん! お願い! 目を覚まして!」
キィ──ン! ……
「グッ……その声を止めろー!!」
苦悩の表情を浮かべながらアポロンは両手で王家の剣を地面に突き刺した。するとアポロンの周囲に円形上の模様が浮かび上がり、地面の下からその円形に沿って筒状の激しい雷が間欠泉のように吹き上がった。
「きゃあー!」
『うわーっ!』
ドラえもんたちとテラはその攻撃により足元の地面もろとも吹き飛ばされた。みんなの壁に守られ殆ど被害のないしずかだけが、アポロンの前に取り残される格好となった。
「アポロンさん……」
「ハァ……ハァ……お前の声は、もう一人の俺を呼ぶ……」
「目を覚まして……お願い!」
キィ──ン!!
「グッ! この……消えろ──!!」
アポロンはしずかに向かって雷を纏わせた王家の剣を斜め上から振り下ろした。
「しずかちゃん!」
「しずかさん!」
「アポロンさ──ん!!」
シュバ──ーッ!!
「何!?」
アポロンの名を叫ぶしずかの胸元から眩い光が広がると、瞬く間に周囲一帯を包みこんだ。それはとても優しいぬくもりをその場にいる全員の心に浸透させていった。
「こ、この光は……おぉ……」
国王は懐かしい光を見るかのように一人感銘を受けていた。その光に包まれたムクは、何かに呼ばれたかのように目を覚まし、ゆっくりと顔を上げた。そしてアポロンは、頭の中を爽やか風が通り過ぎるような清々しい感覚を受け、身体の支配権が本来の自分へと戻っていく様を感じていた。
(ぼ、ぼくは一体……!?)
その光はアポロンを正気に戻した。ゆっくりと時が流れるような不思議な感覚の中、広がっていく眩い光の中心に薄っすらと母親の像が浮かび上がった。
(言ったでしょ? きっとあなたを救ってくれるって)
その像を見たアポロンの心は次第に温かさで満たされていった。自分が元に戻ったと実感したアポロンは、今まさにしずかに振り下ろしている己の剣の軌道を強引に反らし、左手方向に勢いよく放り投げた。
「クッ!」
ビュォッ!
飛ばされた王家の剣は調査船の側面に突き刺さり、そこから激しい炎が吹き出した。次第に炎に包まれていく調査船は、もはや航行は不可能と思えるような姿へと徐々に変貌していった。
「しずかさん……大丈夫……ですか?」
「? ……アポロン……さん?」
「良かっ……た……」
しずかの無事な姿を見るや否や、アポロンは身体の力が抜けその場に片膝を付いた。
全員何が起きたのか理解できてはいなかったが、アポロンが自ら途中で攻撃を止めたことと、今までアポロンを覆っていた負のオーラを感じなくなったことから、元の優しいアポロンに戻ったのではないかと希望を募らせた。
「アポロンさん! しっかりして!」
「だ、大丈夫です。それよりも……!?」
ドド──ン……!!
しずかに向けたアポロンの言葉をかき消すように再び大きな地震が洞窟に響いた。激しい地面の揺れを感じると共に、悲鳴をあげるように天井に大きな亀裂が走った。
ビシッ!
ガラガラッ!!
「危ない!!」
「!?」
ドド──ン…………
突如しずかとアポロンの居る場所の天井が崩れ落ち、二人は舞い上がる土煙に包まれ見えなくなった。
「しずかちゃん!」
「しずかさん! 兄様!!」
「いかん!」
全員満足に動ける状態ではなかったが、それでも煙が立ち上がったところに急いで集まろうと懸命に身体を動かした。そんな中ただ一人国王だけは、その疲弊しきった身体を急ぎミヨイとタミアラの方に向けて動かしていた。
「すまぬな二人共……もう少しだけ力を貸してくれ」
動かなくなった二人を前に国王はそうつぶやくと、二人の首の後ろに手を回しそれぞれのスイッチを押した。
キュイーン……
起動音と共に、ミヨイ、タミアラの目に火が灯った。
「……国王様。ありがとうございます」
二人は再び命を灯してくれた国王に感謝の意を告げた。
「予備電源のため長くはもたんが……もう少しだけ二人の力を貸してもらいたい」
「何なりとご命令くださいませ」
「うむ。ミヨイよ。急いで脱出艇までの通路の確保を。タミアラはアポロンを助けてやってくれ」
「アポロン様を? 一体どうなされたのですか?」
「詳しくは省くがアポロンは正気に戻った。ところが直後に天井から岩盤が落ちてきて、おそらく今、その下敷きになっておる。お前の力で助けてやってはくれまいか」
「御意」
「頼みましたよタミアラ」
「わかっている。ミヨイもな」
「ええ。では!」
言うが早いかミヨイは素早く脱出艇の方に向かって行った。タミアラもドラえもんたちの声がする煙の中心に急ぎ向かった。
「アポロンさん!! しっかりして!!」
「お兄様! 目を覚まして!」
『せーのっ! うーん……』
「くそっ! ビクとも……しな……い!」
煙の中心には必死にアポロンに声をかけるしずかとテラ、そして落ちてきた岩盤を懸命にどかそうとするドラえもんたちがいた。しかしひみつ道具が使えない今、彼らは岩盤一つ動かせない只の小学生に過ぎなかった。
最初はアポロンを攻撃しようとした敵意むき出しだったムクも、テラからのお願いにより懸命に岩盤をどけるために鼻先を地面につけ、頭を岩盤の下に滑り込ませようと必死だった。
「くっそ──!!」
ジャイアンが悔しがりながらも重い岩盤を何とか持ち上げようと踏ん張った時、突然岩盤の重さが感じられなくなった。
「なんだ?」
そのままめくり上がった岩盤はジャイアンたちの横に投げ捨てられると、地面に当たって複数の岩に分断された。
「みなさま、ご無事で何よりです」
『タミアラさん!』
頼れる助っ人を目の当たりにしたドラえもんたちの心に安堵感が広がった。
「はっ! アポロンさん!!」
「お兄様!」
『アポロンさん!』
しずかはうつ伏せ状態のアポロンの身体を優しく抱きかかえ、ゆっくりと仰向けに変えた。
「しっかりして! アポロンさん! 私を助けるために……」
アポロンの顔を覗き込むしずかの目から涙が溢れ出た。その涙はしずかの頬を伝って落ち、アポロンの頬へと運ばれていった。
「……ん」
「アポロンさん!!」
「兄様!!」
「アポロン様」
アポロンは目以外の部分はろくに動かすことができない状態だった。みんなの声を聞き徐々に状況を把握し始めたアポロンは、涙を流すしずかの方に目をやった。
「しずかさん……無事でしたか……良かった……」
「ごめんなさい……私のために……本当に……ごめん……なさ……」
泣きじゃくるしずかを見てアポロンは少し悲しい顔になった。
(申し訳ない気持ちなのは……ぼくの方なのに……)
「……すみません……しずか……さん」
アポロンは声を絞り出しながら、震えた右手を少しづつしずかの顔に近づけていった。もう王家の剣も握れないであろうその弱々しい指でしずかの頬の涙をゆっくりと拭うのだった。
「兄様……」
「テラ……すまなかった……弱い兄を……許してくれ……」
「気をしっかりもってください! ……きっと……きっと良くなりますから!」
「そうですよ、アポロンさん!」
「気合入れろ! 兄貴だろうが!」
ジャイアンの喝のこもった言葉を聞き、アポロンはまぶたを閉じ薄っすらと笑った。
「ドラちゃん! ドラちゃんなら何とかできるでしょ?」
「しずかちゃん……」
「前だって……ペロを助けてくれたじゃない! 今回だって!」
「ごめん……ぼくにも、できないことはあるんだ……」
「そんな!」
「それに今は……道具も使えない……なんの力にもなれないんだ……ごめん……」
「ドラちゃん……お願い……お願いよ……ドラちゃん……」
ドラえもんの両肩を掴み泣き崩れるしずかをみんなはただ見守るしかなかった。命の灯火が消えかかっているアポロンの元に、疲弊した国王がようやく到着した。テラに場所を譲られた国王は、やや険しい顔をしてアポロンを見下ろし、そのままゆっくりとその場に屈んだ。
「父上……申し訳ありません」
「……レムリアの謀略を見抜けなかったワシも同罪じゃ。お前を責める資格などない」
「お父様……兄さん……」
「私のせいで……ムー一族が……」
薄っすらと涙を流しながら後悔の念を発したアポロンを見つめながら、国王はその言を優しく否定した。
「滅びはせん」
その柔らかい物言いを聞いたアポロンは、弱々しくも閉じたまぶたをゆっくりと開き、懸命に国王の方へと目を向けた。
「確かに国は滅びるだろうが……ムー一族は滅びはせぬよ。アポロン……今のお前ならきっと大丈夫じゃ」
アポロンを始め、テラやドラえもんたちも、国王の言っている意味がよくわからなかった。なぜ絶命の危機におかれている今のアポロンに期待を寄せるのか。周りがそんな疑問を抱いている中、国王はそっと右手をアポロンの胸の上に置き、皆に言い聞かせるように語り始めた。
「しずかくんだったかな。君の持つ、誰かの助けになりたい、という気持ちはとても素晴らしいものだ。だからこそ、最善を尽くして救えなかったとしても、それは決して悪ではない。だから自分を攻めるなんてことは絶対にしないでほしい」
しずかは泣きじゃくりながら国王の言葉を聞いていた。
「きみのアポロンを救いたいという想いがあのペンダントを発動させたのだ。おかげでアポロンはこうして戻ってくることができた。それは君にしかできなかったことじゃ。本当に……ありがとう」
そう言い終えると国王は手のひらをアポロンの胸に押し付けるように圧をかけた。すると薬指の指輪が突然眩い光を発し、二人の身体が光りだした。
『うわっ!!』
「お父様!? 兄さん!」
ドクンッ!!
周囲にも聞こえるほどの大きな心臓の音と共にアポロンの身体が激しく弾んだ。しばらくしてその光は徐々に消えていき、何事も無かったように場は静まった。
「……!? これは!?」
そう言うとアポロンは素早く上半身を起こした。しかし身体にダメージは残っているらしく、無理に身体を動かした反動で激痛が走り、すぐに表情が歪んだ。
「兄さん!!」
『アポロンさん!』
「……ぼくは大丈夫だ……しかし、これは一体?」
「きっと王様の力です! 王様が手を置いたらアポロンさんが回復したんです!」
「スゴイです! 王様!!」
「父上が? !? 父上!!」
アポロンの復活劇の喜びに浸っていた一同は、その叫びを聞き一斉に国王の方を振り返った。国王はうつ向いた姿勢で膝をついたままだった。アポロンが手を差し出し肩に触れようとすると、身体がゆっくりと傾き始め、さっきまでアポロンが横たわっていた場所に入れ替わるようにして倒れこんだ。
「父上!!」
「お父様!!」
『王様ーっ!!』
場はアポロンが復活し、その入れ替わりで国王が瀕死になるという急展開となった。ドラえもんたちが動揺している中、タミアラは冷静にその場にしゃがみ、国王を仰向けにすると上半身を優しく浅い角度で起こした。
「……無事か……アポロンよ……」
「父上! これは一体!?」
「フフ……お前ならその程度の傷、何とかなるじゃろう……どうだ? 他人に与えた傷は痛かろう?」
「え?」
「この宝具はな……ウッ! 互いの身体の状態を……入れ替えるというものじゃ」
「!?」
「そんな!? お父様!」
『王様!?』
みんなは国王のその言葉の意味をすぐに理解した。しずかはすぐに国王の指輪を確認したが、使い切りの道具のためか指輪は砕けて地面に落ちていた。指輪はもう使えないと悟ったしずかは、国王の顔を見てまた涙を流すのだった。
「王……様……」
「ふふ。言ったじゃろう? ……気に病むことはない、と。国王として……いや……父親として……すべき事をしたまでじゃ……」
そうしずかをいたわった国王は、軽くむせながらもアポロンに目をやり話しを続けた。
「……しかし、お前もペンダントに救われるとは……親子じゃのお……」
「え?」
「昔……ワシも母さんに救われた……もっとも、お前ほどの騒ぎではなかったがな……」
「父上……」
「……アポロンよ、これから成すべきこと……わかっておるな?」
「……はい」
「この星の未来には、このように素晴らしく優しい子供たちが生まれる。それを知っているお前たちならきっと、この時代の民とも……仲良くやっていけるじゃろうて」
「……はい……」
「テラは……いるか?」
「はい……ここにおります」
そこには複雑な心境にありながらも、涙が流れ出さぬように懸命に我慢するテラの姿があった。ゆっくりと差し出された国王の震える手に触れるようにテラが顔を近づけると、そのしわの多い大きな手はぎこちない動きで頬を撫でるのだった。
「アポロンのこと、ムー一族のこと……頼んだぞ」
「……はい……お父様……」
我慢の限界を迎え溢れんばかりの涙をこぼすテラを見て、国王はヨシヨシと頭に手をやり優しく微笑みかけた。
「……みんなも聞いて欲しい……知識とは科学とは……幸も不幸も呼び込む諸刃の剣じゃ。……だからこそ……間違った方向に使ってはならんのじゃ……ゴホッゴホッ!」
「お父様!!」
「父上!」
『王様!!』
「この指輪にしても……つい逆の使い方を思い付いてしまう……それが人間の弱さであり危うさでもあるのじゃ……それを忘れないでほしい……」
逆の使い方にならなくて良かった、と国王は言った。それは国王が自ら致命傷となるダメージをわざと負い、指輪により外傷チェンジを行うことを意味していた。そしてその使い方は、労せずして相手を倒す非情な手段であった。
人を救うこともできれば殺めることもできる。このように便利と思える道具一つとってみても得られる結果は諸刃の剣なのだ、と国王はドラえもんたちに伝えた。
想いを告げた国王は、タミアラに預けている背中の力を抜き、まぶたを閉じてゆっくりと天井を見上げた。
「……未来の子供たちよ……よく見、そして感じてほしい。科学力を持ったムーの行く末を……。そして願わくば、君たち未来人が我々と同じ過ちを犯さんことを……切に願う……」
その言葉を最後に国王は息を引き取った。テラとしずかはその場に泣き崩れ、ドラえもんたちも涙をこらえることはできなかった。アポロンだけが涙を流しつつも、溢れ出てしまう感情を必死に理性で抑え込んでいた。