ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第二十八章 『脱出』

 無常にも閉ざされた目の前の扉は何も語ることはない。そんなことは誰もが知っていたが、みんなミヨイとタミアラとの突然の別れに泣き崩れていた。

 

「ぼくは……何の役にも立てなかった! 道具さえ……道具さえ使えれば……」

「ぼくのせいで……ぼくがこの世界に……来たいなんて言ったから!」

「あたしだって! 助けられてばっかりでこんな……何も……うっうっ……」

「……」

 

 みんなは自分を責めた。そうすることで少しでも心の苦痛を和やらげたかった。結果どうにもならなくても、己を責めて泣きでもしなければ苦しくてどうにかなってしまいそうだった。

 そんな沈んだ空気の中、スネオは悲しみを抱きながらもみんなに訴えかけるように口を開いた。

 

「……あのさぁ……のび太にドラえもん……しずかちゃんも……」

 

 スネオの呼びかけに応じるように三人はくしゃくしゃになった顔を上げた。

 

「悲しんでばかりいてもしょうがないし……何よりタラレバなんて、言うだけ虚しくなるだけだと思うよ」

「わかってるよ……けど……」

「それに……ぼくたちよりもずっと辛くて悲しいのは……そこの二人だよ」

 

 そう言ってスネオはアポロンとテラの方に視線を向けた。

 

「スネオさん……」

「それこそ自分が許せないなんて……アポロンさんが一番感じてると思う」

「スネオくん……」

「それでも立ち上がって一族の意思を継いで前に進もうとしてる……多分それってすごいことだと思う。少なくともぼくには……絶対にできない」

 

 スネオの意見を後押しするようにジャイアンも前向きになるような発言をみんなに投げかけた。

 

「だな。王様も言ってたじゃねえか。「自分を攻めるな」って」

「……そうだったね」

「うん……」

「俺はバカだけどよ……今起きたことの全てを呑み込んで前に進むということがどれだけシンドイことかくらいはわかる。でもよ……それでも俺たちは進まなきゃいけないんじゃねえかな。感謝の気持ちを持ってさ」

「たけしさん……」

 

 ジャイアンとスネオに慰められるような形になり、ドラえもんたちは落ち着きを取り戻した。そのやり取りを聞いていたアポロンは、かすかな笑みを浮かべ二人に歩み寄っていった。

 

「スネオくん……ありがとう。君の言葉でぼくの心がどれだけ救われたか……」

「い、いえ、そんな……」

「たけしくん。君にはリーダーの資質があるんだな……敬服するよ」

「え!? おれが……ですか?」

「ハハ、そうだよ」

 

 自覚のないジャイアンの肩を笑いながら軽く叩いたアポロンは、まだ座り込み泣きじゃくっているテラの元に戻り手を差し出した。

 

「テラ……行こう外界へ」

「兄さん……」

「約束する。ぼくは絶対に居なくなったりはしない。ムーの意思を継ぎ、真のムーの願いを果たすと誓うよ。だから手伝ってくれ」

「兄さん!」

 

 高ぶる感情のままテラはアポロンの首元に抱きついた。テラの流す涙には悲しさだけではなく、以前から心待ちにしていた嬉しさも含まれていた。

 ドラえもんたちは失意の底から立ち上がろうとするその健気な兄妹の姿に励まされた。二人の力になりたい。そう心から強く思い、その願いを果たすべく島からの脱出へと気持ちを切り替えるのだった。

 

「そうと決まれば、早く脱出しなくちゃな!」

「うん。隔離されてるとは言え、いずれここも沈むだろうからね」

「そうね」

「脱出艇はこの先かな?」

「はい」

「あれ? スネオくんは?」

「さっき奥に向かって走って行ったぜ」

「さすがはスネオくん……ぼくたちも急ごう!」

 

 通路の造りはかなり近代的なおかげで島の崩壊に耐えている感じではあったが、それでも徐々に強まる激しい揺れの前に壁が歪み、塵が落ち始めて来ていた。

 ドラえもんたちが急いで通路をかけ抜けるとそこは開けた空洞になっており、小さな生け簀のようなものがあった。生け簀には現代でよく見るクルーザーに似た外観の脱出艇が浮かんでおり、甲板にはスネオが何かを探すかのように辺りを見回していた。

 地鳴りが少しおさまったタイミングでみんなは急いで甲板に上がり、スネオの元へと集まった。

 

「スネオくん! どう? 動かせそう?」

「うーん、それがね……」

 

 先に脱出艇に乗り込んでいたスネオは何やら難解そうな顔をして答えた。

 

「見た目はうちのクルーザータイプに似てるんだけど、その……エンジンがかからない……というか、どうやって起動するんだろう、これ」

『ええ!?』

「いくら近代的とはいえ起動方法や操縦方法までも一緒とは限らないか……う〜ん」

「そんなぁ……」

「ぼくの道具も使えないし……困ったな……」

 

 自分たちの命がかかっているため絶対に諦めるわけにはいかないドラえもんたちは、何とかならないかと必死に考えた。すると何かを思い出したようにアポロンは船首に向かって歩き出した。

 

「ぼくがやりましょう」

「え!?」

「アポロンさん、動かし方わかるんですか?」

「はい。おそらくですが……」

 

 そう言ってアポロンは目を閉じ、軽く右手を前に出して集中し始めた。のび太たちが見守る中、アポロンの右手に何か棒状の形が現れ始め、その形状があらわになる瞬間、強く眩い光が放たれた。

 

『うわっ!』

「きゃあっ!」

「なんだ!?」

 

 光が収まりみんながアポロンの右手を見ると、そこにはみんながよく知っているものが当然のように納められていた。

 

『王家の剣!!』

「はい。正装を身に纏っていれば、離れていても意識を集中することで呼ぶことができるのです。距離が近ければ軽い念だけで手元に呼ぶことができます」

「そうだったんだ……」

「でも、王家の剣をどうするの?」

「ここのくぼみに差し込むのです」

 

 アポロンの言うとおり船首の床には低い台座のようなものがあり、その中央には何かを指すための穴が開いていた。王家の剣を両の手で逆さに握ったアポロンは、その穴に向かっておもむろに剣を突き刺した。

 

 ゴオン……ゴゴゴ……キュイーン……。

 

 台座に刺された王家の剣は、ぼんやりと光り輝くと、その光が船の中へと流れていくのが見えた。しばらくして脱出艇の起動音らしきものが聞こえ、その音は徐々に静かになっていった。

 

「……止まった?」

「みたいだね」

「ダメかぁ……」

「いえ、無事に起動はできたようです」

 

 後方の操舵室を指差しアポロンが答えるとドラえもんたちは一斉に振り返った。操舵室を見ると、中にあるたくさんのパネルが様々な色の光を発していた。

 

「電気だ! 遺跡と同じだ!」

 

 久しぶりの電気に感動したのび太たちは操舵室に走り込んでいった。操舵室の下にはキャビンのような部屋があり、構造も現代のクルーザーに近いものだった。

 

「オッケー! これなら操縦できそうだ」

 

 操舵ハンドルとレバーを掴み、スネオが自身ありげに答えた。

 

「それではスネオくん。操縦をお願いできますか?」

「任せてよ!」

 

 アポロンから直々のお願いに気を良くしたスネオは、素早く、そして途中からはゆっくりとレバーを倒し始めた。

 

 シュイイ──ン……

 

 スクリューが回り始め船がゆっくりと前進し始めると、みんなから歓声が上がった。

 

「やったあ!」

「スネオくん! スゴイ!」

「ほんとね」

「やるじゃねえかスネオ!」

「いやぁ、それほどでもあるけど」

 

 みんなの歓喜の中、アポロンは船首に立ち何かを待っていた。甲板にいるテラとしずかはムクとじゃれ合い喜びながらも、アポロンのその背中が気になった。

 

「お兄様? どうかなさったのですか?」

「ん? あぁ……最後の仕事が残っているからね」

 

 アポロンは顔だけを後ろにいるテラに向け、警戒態勢を維持したまま答えた。

 

「最後の?」

「ムクだったかな? すまないがテラとしずかさんを頼むよ」

 

 グルル……

 

 言われなくても、と言うようにムクは警戒するように返事をした。いくらテラの大事な人とはいえ、さっきまで激しい戦闘を繰り広げた相手を前にいきなり心を許すのはムクにとっていささか難しかった。そんなムクをテラはヨシヨシ、と喉元を優しくさすりながらなだめた。無理もないか、とアポロンは少し寂しげな表情になった。

 

 ドゴ──ンッ!! 

 ゴゴゴ……ゴゴゴゴ!! 

 

『うわっ!』

 

 外へ通じる水路に振動が生じた。その衝撃で天井から複数の岩がドラえもんたちの船に向かって落ちてきた。

 

「スネオくん! スピードを上げて!!」

 

 アポロンからの指示を受け、スネオはレバーを奥へと押し込んだ。船はさらに加速し、何とか岩の雨から逃れることができた。

 

「さすがスネオくん!」

「け、結構このスピードは怖いんだけどね……は、ははは」

 

 お世辞にも広いとは言えない水路の中をほぼ最高速度で船を操縦しているスネオには、とてもじゃないが調子に乗っている余裕は微塵もなかった。

 

「出口だ!」

「やった!」

「もう少し!!」

 

 みんなが歓喜の声を上げ、出口があと数十メートルの位置まで到達した時、再び大きな地震が起きた。

 

 ドド──ーン!! 

 

 その衝撃で出口の天井が崩れ始めた。今にも落ちそうな岩盤は、目の前の出口を塞ぐに十分な大きさだった。あれが落ちたら助からない。ドラえもんたちもそれだけは容易に想像できた。

 

「くっ! ここまで来て……」

「間に合え──っ!!」

 

 のび太の叫びも虚しく岩盤は天井から離れ、出口を塞ぐべくその落下を開始した。

 

「ダメだ──っ!」

 

 ドラえもんが悲痛な諦めの言葉を叫んだとき、意識を集中していたアポロンが王家の剣を構えた。その時、幻覚なのかその真偽はわからないが、アポロンの眼には空中に浮かぶ国王の姿がハッキリと見えた。

 

「父上!?」

 

(科学とは諸刃の剣。その心を忘れるでないぞ)

 

 安心したようににこやかな表情で薄れていく国王の姿に涙を浮かべたアポロンは、目の前の障壁を打ち砕くべく全身全霊を込めて巨大な岩盤めがけて術を放つのだった。

 

「雷光ーっ!」

 

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