ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第二十九章 『別れ』

 スネオは島から十分程離れたところで脱出艇を停泊させた。みんなは甲板に出て脱出してきた航路を振り返ると、至るところから爆炎を上げているムーの島が目に飛び込んできた。

 不規則な爆発を起こしながら、ゆっくりと、そして確実に沈んでいく島の姿をみんなは静かに見送った。

 各々の心には色んな想いが駆け巡り、誰一人として目の前の光景に対して言葉を発することはなかった。一つの冒険が終わろうとしている。そう実感しながらのび太は船の進路の方にふと気をやった。

 

「ん? あれは!?」

「どうした? のび太」

「ブイだ! タイムマシンの入り口があるブイだよ!」

『え!?』

「どこに?」

「ほら! あそこ!」

 

 のび太が指差す先には、確かにこの世界に来たときに浮かべたブイの姿があった。

 

「なんで? 島からは結構な距離があったはずなのに?」

「ブイが流されたとか?」

「そんなことはありえない!」

 

 スネオ、のび太、ドラえもんの三人がいつもの押し問答をしていると、その話を聞いていたアポロンがその謎に関連するかも知れない、と一つの仮説を話してくれた。

 

「それはたぶん、ムーの島が移動しているからだと思います」

『えー!?』

 

 この島が浮いていたことはみんな覚えていたが、まさか島そのものが移動しているとは考え及ばず、ドラえもんたちは驚嘆の声をあげた。

 

「でも、なんで移動なんて?」

「それは、ムーの島が発見されるのを防ぐためだと父からは聞いておりました」

「なるほど……でもそれだと、島から出てしまった場合に戻るのが大変なんじゃ……」

「そうですね。ただ、島から外に出るものには島の航路図が渡されます。島は一年周期で同一航路を辿りますので、星の位置などから計算すれば今どこに位置しているかはわかるのです」

「ふんふん、なるほど」

「? なんだかさっぱりわからないよ」

「のび太は計算苦手だもんな」

「ちぇっ」

『はははは』

 

 スネオに小馬鹿にされたのび太は少しむくれたが、重い場の雰囲気を変えられたことと、久しぶりにみんなの笑顔が戻ったことで「まぁいいか」と快く思えた。

 

「もう必要はないものですが……」

 

 アポロンは船室の中から一枚の羊皮紙を取ってきてのび太たちに見せた。そこには島の航路が太平洋と思わしき場所に描かれていた。

 

「へー、結構な距離を移動するんだなぁ」

「確かにその方が発見されにくいもんね」

「ん? 待って! この形って!?」

 

 スネオの発言にドラえもんたちは今一度、目を凝らして航路を見つめた。

 

「あ!?」

「そう! ぼくたちの知っているムー大陸の形だよ!」

「ほんとだわ!」

「すげー! よく気づいたなスネオ!」

「ふふん、まあね!」

「なるほど。これは島の形ではなく島の航路だったのか。実体が小さな島だとするなら跡形もなくなったと思われるわけだ」

 

 ドラえもんの言葉を聞いてアポロンは未来の詳細が理解できた。自分の罪が消えることはないが、結果として歴史の一事実を辿ったのだと思えることが、わずかだが救いに感じた。

 

「未来にはムーの島はないんですね?」

「あっ! い、いやその……」

 

 バツが悪そうに答えるドラえもんの頭をのび太は軽く肘でこづいた。

 

「いえ、いいんです。少し……救われた気がします」

「でも……ぼくたちさえ来なければ……」

 

 自分たちの思いつきが今の結果に繋がってると思ったのび太は罪悪感にかられ、うつむき加減でつぶやいた。

 

「のび太さん、それは違います」

「え?」

「あなたたちが来てくれたからこそ、ぼくはこうして戻ってこれました。あなたたちがいなければ、ぼくはあのまま鬼神の如く進撃していたことでしょう。その結果、外界は破滅の一途を辿っていたと思います」

「アポロンさん……」

「全ては心の未熟だったぼくにあります。この罪は一生をかけて償っていきます」

「でも、王様は今回の原因はレムリアさんにあったと言ってました。そんなに思いつめなくても……」

 

 のび太の慰めの言葉に対して、アポロンは薄く目を閉じ首を振った。

 

「みなさんとレムリアとの会話は、意識の奥底にいた私にも聞こえていました。ですが、それでもわたしの犯したことは許されることではありません」

「……」

「島を崩壊させたにもかかわらず、自分は無事に脱出し……無関係な島の民たちを巻き込んで……挙げ句は父を……本当に悔やみきれません……」

 

 手すりにかけたアポロンの手は悔しさで振るえていた。テラは震える兄の手にそっと自分の手を乗せて優しく答えた。

 

「兄さま。民たちは大丈夫です」

「テラ!? 本当なのか!」

「はい。父上は島の行く末を知っておりました。そのため城を出る時にミヨイに全島民に声明を出すように命じていたのです。近いうちに島は沈む。速やかに島から脱出せよ、と」

「……そうか……父上の先読みは相変わらず冴えていたのか……いや「洞察力」かな?」

「はい!」

 

 父親の話が兄とできたことになのか、それとも普通に兄と会話ができていることになのか。真意はわからないが、テラは喜びの感情にかすかな涙をのせて元気に返事をした。

 

「のび太さんがそうおっしゃっていた、とミヨイから聞きました」

「え!! ぼ、ぼく!?」

「のび太くん……いつの間に……」

「し、知らないよ? ホントだよ!」

 

 懸命に否定してみせるのび太にドラえもんはさっきの仕返しとばかりに、ジーッと冷ややかな視線を向けた。

 

「たしか……」

 

 ◇

 

 時は国王が出陣を決めたとき。

 王室の扉が開き、中から国王が勇ましく出て来た。のび太、ドラえもん、テラとの話を終え、アポロンの暴走を止めるために出陣を決意する国王の姿がそこにはあった。

 

「きみたちは早く元の世界に戻った方が良い」

 

 ドラえもんたちにそう告げ、足早に部屋を出た国王は、歩きながら後ろについてくるミヨイに対して顔の向きはそのままに指示を出した。

 

「ミヨイ、この戦いはワシ一人で赴く。兵は一切不要じゃ。それから兵も含む全島民に対して、大至急、島からの離脱を命ぜよ。この島は今夜にも海に沈む、とな」

「そんな!? なぜそのような……先の第三の掟が発動すると?」

「まず間違いないだろう」

「承知致しました。ただ一つ。声明を出す前に国王様がそのお考えに至った根拠をお聞かせ願えますか」

「彼だよ」

「彼? のび太様のことですか?」

「うむ。彼はこの島が「沈む」と言った。わしは「消滅する」という情報しか与えていないのに、だ」

「たしかに……」

「ムーの技術であれば空間転移も可能じゃろうし、空から隕石の類が落ちてくるとも考えられる。無論沈むことを考えなかったわけではない。ただわしには選択肢が複数あった。にもかかわらず彼はあの場で迷わず「沈む」と明言した。あれは事実、すなわちムーが滅びる事を知っている人間の発言だとわしは確信した」

「なるほど……そういうことでしたか」

「ミヨイよ。タミアラを修理し急ぎ合流せよ。わし一人では荷が重すぎる相手じゃ」

「承知致しました。それまでどうかご無事で」

「うむ」

 

 ◇

 

「これがわたしがミヨイから聞いた話の全てです」

「あの時点でバレてたのか……」

「さすがにそれはのび太でなくても言っちゃいそうだな」

「ぼくは言ったかどうかも覚えてないよ……」

「でも、のび太さんのおかげで全島民に離島勧告を出すことができたのですから。父に代わりお礼申し上げます。ありがとうございました」

「ぼくもまた一つ心が救われました。のび太くん、本当にありがとう」

「い、いやぁ……失敗したのにお礼を言われるなんて……何か妙な感じだなぁ」

『ふふふ』

『あはは』

「あ! そろそろブイに到着するよ!」

 

 ここ四日程度の事なのに、海に浮かぶブイを見てなぜか懐かしく感じるドラえもんだった。

 

(今回の冒険はいつもと違い本当に危険がいっぱいだった。そのせいなのか、のび太くんたちは元の世界に帰れることを心の底から本当に喜んでいる。ただ……果たして戻れるのだろうか……)

 

 ドラえもんが一人不安がっているとブイが小さな音を立てて船底に接触した。と同時に、タイムマシンの入り口が何事もなかったように空間に姿を現した。

 

「え!?」

「やった! タイムマシンだ!?」

「これで帰れる! ママー!」

「良かったわ」

「なんで……?」

 

 喜ぶのび太たちの横で一人戸惑うドラえもん。

 

「あ! じゃあ、ひみつ道具も!?」

 

 さっそうとポケットを覗くとそこには四次元空間が広がっていた。

 

「ひみつ道具も使えるようになってる! キャンセラーの効果範囲から出た? いや違う! 遺跡そのものが停止したんだ!」

 

 ドラえもんは驚きと興奮で独り言のように話し自己解決に至った。

 

「は〜……良かった〜……」

 

 ドラえもんはみんなとワンテンポずれたタイミングで安堵し、フニャフニャと身体をくねらせその場に座り込んだ。

 

「どうしたんだよ? ドラえもん」

「どうもこうもないよ! 遺跡のキャンセラーが動いていたらタイムマシンだって動かなかったはずなんだ!」

『ええっ!?』

「だから……動いてくれてホッとしたんだよ……良かった……ほんとに良かった……」

「そんな泣かなくても……」

「だって……道具が使えなかったら……ぼくは……ただの短足ロボットなんだ……」

「ドラえもん……」

「みんなをこんな危険な目に合わせてしまって……本当に……本当に怖かったんだ……」

「ドラちゃん……泣かないで。いつも助けてもらってるわ、本当よ」

「そうそう。ぼくたちがここにこうやって居られるのもドラえもんのおかげだよ」

「ううっ! のび太く〜ん!」

 

 ドラえもんは泣きながらのび太に抱きついた。

 

(道具が使えないとわかったとき、一番怖かったのはドラえもんだったんだろうなぁ。頑張ってくれてありがとう、ドラえもん)

 

 波に揺られたブイが船をノックするように船底にぶつかり、不規則な間隔で音を鳴らしていた。その音は「そろそろ帰ろう」と別れを惜しむみんなを急かしているようにも聞こえた。

 

「……では、みなさん。ここでお別れですね」

「……アポロンさん」

「わたしたちはもう大丈夫です。それよりもみなさん、ドラちゃんさんの道具が使える今を逃さないようにしてください」

「……本当はどこかの大陸まで送りたかったんだけど……ごめんね、テラ」

「ううん……みなさんのおかけで、優しい兄さんが戻ってきたんです。お礼を言いたいのはわたしの方です」

「でも……悲しいこともたくさんあったから……その……」

「……はい……でも……今のこの状況はムーにとっての必然なんだと、今は思えます」

「テラ……」

「わたしは……兄さんと共に前に進みます。そしてムーの意思をこれからもずっと……お父様の分まで継いで守っていきたいと思います」

「強いんだなぁ……テラは」

「強いだなんて……わたしは今、たくさんの強い意志に助けられこうして生きています。お父様、ミヨイ、タミアラ……」

「……うん。そうだね」

「そして……最初に助けてくれたのは、たけしさんでした」

「!?」

 

 ドラえもんたちの後ろで聞いていたジャイアンは突然自分が話題に上がり驚いた。テラの視線に気づいたジャイアンは軽く咳き込み、照れながら視線を反らした。のび太たちはその姿をニヤニヤしながら眺めていた。

 

「何か言わなくていいの? ジャイアン?」

 

 ジャイアンの横に立ち軽く肘をあてて意地悪くツッコむスネオ。その頭に例のごとくジャイアンのゲンコツが真上から落とされようとしたその時、しずかが割って入ってきた。

 

「そうよ、たけしさん! ここでお別れになるんだから!」

 

 そう言いながらしずかは自分の思いを伝えるためにアポロンに歩み寄っていった。

 

「しずかさん……?」

「アポロンさん、これ……お返しします」

 

 しずかはアポロンからもらったペンダントを首から丁寧に外しアポロンに手渡した。

 

「お気持ち……とても嬉しかったです。ありがとうございました」

「こちらこそ……ぼくを救って頂き感謝の言葉もありません。本当にありがとう」

 

 しずかはその言葉に笑顔で返した。

 

「そのペンダントは、これから出会う本当に相応しい女性に渡してください」

 

(本当に相応しい……か)

 

 アポロンは少し寂しい顔つきになった。しずかに心から伝えたい言葉があったが、大切な人を変に惑わせたくない気持ちから簡潔に言葉をまとめて答えるにとどめた。

 

「……わかりました。寂しいですが、どうかお元気で」

「アポロンさんも。きっと素敵な方が現れます。あたし、そう思うんです!」

「ありがとう。しずかさん」

 

 二人は向き合って別れの握手を交わし優しく微笑みあった。互いの微笑みの意味は大きく異なっていたが、幸せな時間を共有できたという点に関しては二人共同じ想いだった。

 

「……ドラえもん、ソノウソホントを出してくれ」

「ジャイアン? う、うん。……はい」

「すまねえ」

 

 ドラえもんから借りたソノウソホントを口に装着したジャイアンは、テラたちの前まで歩いていき真剣な眼差しを二人に向けた。

 

「テラ、これは?」

「ソノウソホントっていうドラちゃんさんの道具よ。言ったことがホントになるんだって」

「そんな道具が……すごいんだな未来は」

 

 言い方を迷っていたのか、深く考え込んでいたジャイアンがやっと口を開いた。

 

「ニ人は生きていける島をすぐに発見できる」

 

 そうジャイアンが言葉を発すると、願いがかなう証のオーラが二人とムクの周りを包んで光った。その姿を見てジャイアンは少し安心した表情を浮かべた。のび太たちは後ろで聞きながら、なるほど、と感心した。

 

「ニ人は無事に島に辿り着く」

「二人は島でとても幸せになれる」

「ニ人はこれから先、一切病気にはかからない」

「ニ人は……」

 

 ジャイアンは二人とムクが無事に島に辿り着き、この先この時代で苦労せず生きていけるように言い続けた。

 

「たけしさん……ありがとう……」

 

 テラはジャイアンの優しい言葉を目を閉じながら聞いた。その想いを感じれば感じるほど、これから来る悲しい別れへの辛辣な気持ちが大きく膨れ上がり、こらえきれずに涙が瞼から流れ落ちた。

 

「テラ……」

 

 のび太たちはテラの想いを知っている。その健気に流れ落ちる涙はのび太たちの目も潤ませた。みんなに背中を向けているジャイアンは、テラが涙を流す前から泣いていた。泣きながらも声を震わせないよう必死に耐えながら、二人が無事に生きていけるように言葉を言い続けた。

 ジャイアンの背中にいるドラえもんたちにはジャイアンの涙は見えていない。その意地らしく振る舞うジャイアンの姿をアポロンは目を逸らさずに見つめていた。そして気が付くと敬意を込め、ジャイアンに対して自然と自らの頭を下げていた。

 

「……おれは……これからもずっと……」

「……たけしさん……?」

 

 今まで続けていた言葉とは明らかに違うと思える感情のこもった言葉をジャイアンが言い始めたため、テラはその目をゆっくりと開けた。

 

「ずっと……おれは……」

『ジャイアン?』

 

 ジャイアンはそこまで話してしばらく沈黙した。小刻みに身体を震わしていたジャイアンは、突然ソノウソホントを素早く外し、心の内の想いを大声で叫んだ。

 

「おれはテラのこと……絶対に忘れないから!!」

「!?」

「たけしくん……」

「たけしさん……」

『ジャイアン……』

 

 涙しながらも懸命にニカッと歯を見せる笑顔を作ったジャイアンに、テラは嬉しさのあまり両手で口を覆っていた。

 

(あの笑い方!?)

 

 アポロンは一つの思いを抱きテラを見つめた。テラは溢れる涙をそのままに精一杯の笑顔で答えるのだった。

 

「はい……わたしも絶対に忘れません!」

 

 そう言ってテラは勢いよくジャイアンに抱きついた。予想外の行動にジャイアンは真っ赤になって直立姿勢のまま固まった。ドラえもんたちも驚いた。アポロンはこんな積極的なテラを見るのが初めてのように、普段は見せない意外な驚きの表情を見せた。

 

「……生きる時代が違うということが、こんなに切なく苦しいものだとは思いませんでした……」

 

 テラはジャイアンから離れ一歩下がりながら、そうつぶやいた。

 

「寂しいですが……お別れですね」

「あぁ……元気でな」

「はい。たけしさんも」

「おれは元気だけが取り柄だからな!」

 

 ドンと胸を叩き笑ってみせるジャイアンに、テラも精一杯の笑顔で応えた。

 

「ムク! おれの代わりにしっかりと二人を守ってくれよ!」

 

 ワンッ! 

 

 ジャイアンに頼りの言葉をかけられたムクは、任せろ、と言うように尻尾を目一杯振りながら元気に返事をした。

 

「それじゃあ、行こうか」

「二人共! 元気でね!」

「さようなら! 素敵な時間をありがとう!」

「さよなら!」

「じゃあな!!」

 

 ドラえもんたちは勢いよく次々とタイムマシンの入り口に入っていった。

 

「みなさん! ありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」

「みなさん! 本当に……本当にありがとう!」

 

『元気でねー!!』

 

 その言葉を残してタイムマシンの入り口は閉じた。あの激しい戦いや絶望的な状況が嘘だったように、ドラえもんたちのタイムマシンは普段と同じように一路現代に向かって足早に進む。

 のび太たちは安堵しながらも今回の冒険ほど怖いものはないと心底感じていた。ドラえもんの道具がなければ全てが恐怖に転じる別世界。今回の旅は、しばらく冒険は控えよう、と全員に考えさせるほど強烈なインパクトを与えるものだった。

 

「しずかちゃん……アポロンさんにはあれで良かったの?」

 

 ちょっと嫉妬気味に口を尖らせたのび太は、不本意ながらも我慢できずに直接しずかに聞いてみた。

 

「ええ。一時だけど王子様とのラブロマンスの雰囲気を味わえたんだもの。十分よ」

「そうなんだ、なんか……意外」

「夢は所詮夢よ。それにアポロンさんにはもっと相応しい人が現れるわ。不思議にそう思うの」

「ふーん、そういうものなの?」

「そういうものよ」

 

 しずかの淡白な答えが意外だったのび太であったが、その言葉を聞いて少し安心した表情をみせた。

 

「それより、たけしさん! とってもかっこよかったわ! あたし、聴いててキュンときちゃった!」

「うっ……」

 

 祈るように両手を組んで急に振り向いたしずかの思いもよらぬツッコミに、ジャイアンは赤面しながら慌てて背中を向けた。

 

「うん。さっきもソノウソホントをうまく使ってたしね」

「「いないいないシャワー」での攻撃もね。あれは持ち主のぼくでも思いつかなかったよ」

「ほんとカッコよかったよ。最後、ソノウソホントを”外した”あたりは特にね」

 

 そう言ったスネオの頭には、例のごとくジャイアンの拳が垂直に落とされた。

 

「いたっ! え? なんで? 褒めたのに!?」

「……なんとなくムカついた」

「何それ!? ひどいよジャイアンー」

「うふふ」

「あははは」

 

 道具が使えないとう最大級難度の冒険から帰還した一同は、ここにやっと安心の笑いをあげた。

 笑い声に包まれたタイムマシンは、皆を安全な普通の世界に戻すべくタイムホールを進んでいった。

 

 ◇

 

 ドラえもんたちの別れの言葉を残してタイムマシンの入口は閉じた。それでもテラはみんなを見送るその手をしばらく振り続けた。場の静けさと波の音でみんなが居なくなったことに実感が湧くと、テラは隣にいるアポロンに寄りかかり目を閉じた。小粒の涙がその頬を伝ってゆっくりと流れ落ちる。

 

「テラ……時代は違えど想うことはできる。ぼくたちの想いが彼らの時代にまで届くように、これからできることを精一杯やっていこう」

「はい……兄さん……」

 

 アポロンは哀しみに暮れるテラの頭を優しく撫で続けた。ムクはジャイアンに頼まれた約束を守るように、身体を廻らせ二人を優しく包み込んだ。島を襲っていた雨雲はいつしか消え、これからの航海を暗示するかのように雲一つない空が広がっていた。

 

 ◇

 

 たった四日間の短い、そして最も危険な冒険はこうして終わりを迎えた。

 

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