ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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エピローグ『?』篇

 ◆エピローグ:参 『?』篇

 

 

 崩壊が始まっている島の洞窟の中。さっきまでドラえもんたちがいたその場所には人の気配はなく、ただ地鳴りの音が鳴り響き、不定期に地面が揺れていた。

 壁際で崩れた天井らしき岩盤の下からは四本の線が伸びていた。その線は、かなり先にある別の壁にもたれ掛かっている一人の老人の元へと続いていた。

 地震が鳴り止まぬ洞窟の中、崩落も恐れずその線を辿り、余裕をもった足どりでその老人の元へと向かう二つの人影があった。彼らが老人の元にたどり着くと、上官と思わしき人物が部下に命令した。

 

「全て回収しろ」

「え!? 老人だけでなく、このロボット二体もですか?」

「そうだ」

 

 部下と思われるその男は、上司の命令に驚いたかのように咄嗟に聞き返した。二体のロボットは、老人の身体を守るように互いに向き合った姿勢で首元を合わせスクラムを組むように覆いかぶさっていた。

 決して老人に圧をかけないように……その身体に触れないように……崩落から守るように……残された片腕を補助の支えとして使い、不格好ながらも懸命に強固なアーチ状を保っていた。地面に刻まれていた四本の線は、完全に停止しているその二体のロボットの膝にそれぞれ繋がっていた。

 

「では運びます」

 

 部下の男が片手を前に出すと、老人とロボット二体がフワッと空中に浮いた。手も触れずにそれらをそのまま軽々と移動させ、自分たちが通ってきたであろう空間のトンネルに難なく運び入れた。

 部下が言い渡された仕事をしている時、上官は周囲を念入りに見回していた。

 

(プロテクトの盾と……ノンプロテクトのマント、リング。ひみつ道具のルーツの数としては問題ないな。石ころぼうし、ラジコンねんど等は回収済み。あとは……タイムふろしきか)

 

「上官殿! 急いでください!」

 

 上官は部下からの声を聞くと、ゆっくりと向きを変え空間トンネルの方に向かって歩き出した。

 

「何をなさってたんですか?」

 

 そう聞かれた上官は、部下が運び忘れていた老人の杖を持った右手を見せた。

 

「あ! も、申し訳ありません!」

 

 部下の肩をポンと軽く叩き、入れ替わるように上官は空間トンネルの奥に入った。部下が空間のトンネルを閉じると同時に、洞窟内には大きな揺れが起き巨大な天井が落ちてきた。凄まじい轟音と共についに洞窟は崩壊し、かすかに炎がくすぶる調査船と共にその姿を消した。

 

 □

 

 洞窟より運ばれた老人とロボット二体は、とある部屋に運ばれ、それぞれの台の上に寝かされていた。その部屋は台以外には何もない、とても簡素で無機質な部屋だった。

 老人たちを台に寝かせ終えた部下は、上官に問いかけた。

 

「上官殿、このあとはどのように?」

「まずはこの老人を生き返らせる」

「!? この世界での時間操作は禁じられているのでは?」

「「この世界」ではな。ここタイムパトロール巡視艇の中は「この世界」ではない。治外法権というやつだ」

 

 そう言って上官が台にあるボタンを押すと、横のランプが赤く灯った。しばらくしてランプが赤から青に変わると、隣のもう一つのボタンを押した。

 

「あ、でも逆時計だと記憶まで戻ってしまうんじゃ……?」

「だから最初に記憶だけ複製しただろ?」

 

 上官は最初に押したスイッチを指さして説明した。

 

「あ、なるほど……」

 

 老人を戦う前の状態にまで逆時計で戻した後、最後のスイッチを押して記憶の更新を行った。

 

「でも、なぜ記憶を更新するのですか?」

 

 その問いかけを聞いた上官は軽く顔を上げ、部下の方を見て答えた。

 

「この老人にはこの後も生きていてもらう必要がある。だが、自分の国は滅びの道を辿ったという事実だけは知っておいてもらわなければならない」

「はぁ……」

「この老人を別の大陸に運ぶのが今回の我々の任務の一つだ。大陸に運んだ後に自分の故郷である島を探しに旅に出られては困るからな」

 

 老人への処置が終わり、台のランプが全て消えた。しかし老人は動かない。

 

「……動きませんね……」

「眠らせてあるからな、当然だ。我々の姿を見られても困る」

「そういや、そうですね」

「あとは……名前だな」

「名前ですか?」

「そうだ。この老人の記憶を改ざんし、名前を変える」

 

 そう言いながら上官は指で空中に文字を書き、老人の頭にその文字を投げ込んだ。

 

「ゼウス? って、あのゼウスですか?」

「ほう……お前にしてはよく知ってたな」

「長くに伝わる伝承ですからね。流石に多少は聞き覚えが」

「そうか」

 

 仕事を終えた上官は、部下の言葉にはあまり興味なさそうに軽く返事をしながら台から離れ、部屋の出口に向かって歩き出した。

 

「あれ? ロボットの方はいいんですか?」

「ロボットはそのまま、また別の場所に運ぶ」

「別の場所ですか?」

 

 老人のみの対応は予想してなかったのか、部下は上司についていくように急いで部屋を出た。二人は話しながらコクピットに向かう廊下を歩き出した。

 

「この時代から更に一万八千年前のとある惑星だ」

「別の惑星……また何でそんなところまで……」

「さあな。上が言うには、また彼らに繋がるとのことだが……それ以上は俺も知らん」

「はぁー……大変な子供達ですね」

「まったくだ。頭が下がる」

「そういえば、あの場から一人逃げ去った男の処分はどうするのですか?」

「あの男は放っておいていい」

「大丈夫なんですか?」

「史実には常に語り部が必要だからな。現実離れした話は自然と伝記に変わる」

「あぁ……なるほど」

 

 廊下を歩く二人の足音が繰り返し響く中、任務に納得していたと思われた部下の足音が突然止まった。

 

「……? どうした?」

 

 不自然な止まり方が気になったのか、上官も足を止めて部下の方を振り返った。

 

「いえ、伝記で思い出したんですけど……ゼウスとアポロンはいいんですが……何で妹がテラなんですか? 確かアルテミスじゃ?」

 

 上官は滅多に見せないやや驚いた表情で部下の顔を見つめた。

 

「な、なんですか?」

「いや、よく知ってるな、と感心してたところだ。まさかお前がそういった伝記に興味があるとは……」

 

 意外だな、と口元を緩めながら上官は再び歩き始めた。

 

「なんですか、もー」

 

 部下も再び上官に追いつくように、やや急ぎ足で歩き始めた。

 

「アルテミスか……狩猟の女神というイメージだが……あの少女からはそんな気配は微塵も感じなかったな」

「ですよね。まぁ、伝記なんてそういうものかも知れませんね」

 

 たしかに、と上官はフッと軽く笑った。

 

「……添え名というのを知ってるか?」

「添え名……別名のことですか?」

「そう。アルテミスにも幾つか添え名があってな」

「へー」

「その一つが「アルテミス・アグロ……」」

 

 そう話しながら、二人はコクピットに繋がる階段を上がっていった。

 


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