三日目の朝が来た。太陽を遮るものが何もない海のど真ん中のため、陽が射すと共に全員が目を覚ました。
とはいえこの目覚めも二回目だから慣れたものである。各自が部屋で着替えた後、甲板に集合。全員そろったのを確認したら早速朝食をとった。今日は広範囲を探索するため、みんないつもより多めに食事を摂るよう心掛けていた。
「じゃあ、みんな準備はいいかい?」
「おう!」
「しずかちゃんとスネオくんは海の中の探索をお願いします」
「わかったわ」
「任せてよ!」
「そしたら、いつもの道具を……と」
ドラえもんはいつもより長くポケットの中に手を入れ、色んなものを探している素振りを見せた。
「きせかえカメラ!」
「エラチューブ!」
「深海クリーム!」
「真水ストロー!」
のび太たちは感心しながらドラえもんが次々と道具を出す様子を眺めていた。
「そして忘れちゃいけない……通信機!」
「と、トレーサーバッチ!」
「あ、ドラえもんも持ってるんだ、通信機」
「いや、ドラミから借りてきた」
のび太がズッコケる横で照れながらベロを出すドラえもん。
「きせかえカメラは僕の出番だね」
スネオが自信ありげに前に出る。
「今度はちゃんと女の子用の水着も描くんだよ?」
ドラえもんがジーッと疑いの目をスネオに向ける。しずかはドラえもんの発言から白亜紀の時を思い出し、赤面しながら胸を隠すポーズをとりスネオを睨んだ。
「あ、あれは、わざとじゃないよ! というか撮ったのはドラえもんだろ!」
のび太、ジャイアンもその時のことを思い出しニヤついた。
「もーっ! みんな知らない!!」
怒って機嫌を損ねてしまったしずかにみんなは平謝りをし、全員なんとか無事に水着への着替えを終えた。
「じゃあ、行ってくるわね」
「空は頼んだよ! ジャイアン!」
「おう! 任せておけ!」
そう言うと、しずかとスネオの二人は同時に海に飛び込んでいった。
「さて、次はジャイアンか。と言っても、これと言って特別なものではないけど……タケコプター!」
「待ってました!」
「あ、通信機とトレーサーバッチを忘れずに」
「おう! じゃあ、行ってくるぜ!」
「よろしく」
勢いよく空に上がったジャイアンの姿はみるみる小さくなっていった。
「さて、ぼくたちは、いつも通り周囲を見渡そう」
「ちぇーっ。でも、ぼくらが基地の役割をしないと、みんなが迷子になった時に大変なことになるからね」
「そうだよ。ある意味ぼくたちは一番重要な役割なんだよ、のび太くん」
「……そっか。そうだよね。よーし! 頑張ってみんなよりも早く大陸を発見してやるぞー!」
『おーっ!!』
のび太は船首に、ドラえもんは船尾に向かいそれぞれ監視を始めた。
◇
ピピピピ……ピピピピ……
小一時間程経過したころ、ドラえもんにしずかから連絡が入った。
「もしもしドラちゃん……聞こえますか?」
「はいはい、こちらドラえもんです。聞こえますよ、どーぞ!」
「しずかです。スネオさんと海の中を探索したけれど、今のところまだ何も発見できていません。今度は船の進む先の方を探索します。どーぞ」
「了解です。引き続き探索をお願いします」
通信機の鳴る音を聞いて、船首で周囲を観測していたび太がドラえもんの下に駆け寄ってきた。
「何にも見つからないって?」
「そうみたい。まぁ、海は広いからね。今度は船の先を調べてみるって」
「そうかぁ」
ピピピピ……ピピピピ……
間髪入れずにジャイアンから連絡が入った。
「おう! 俺さまだ!」
「はいはい、こちらドラえもんです。何か発見できた? ジャイアン」
「上空から全周囲を眺めちゃいるが、今のところ変わったものはねぇな。見渡す限りぜんぶ海だ。少し船から離れて探索するぜ」
「了解です。気をつけて」
「やっぱり何にも見つからないって?」
「……うん」
「そうかぁ、でも、頑張るしかないね! よし!」
そう言って自分を奮起させのび太は自分の持ち場である船首に戻っていった。海中は仕方ないとして、ジャイアンからの情報に収穫がないのはドラえもんとしても意外だった。少し不安を感じたその時、のび太が大声でドラえもんを呼んだ。
「ド、ド、ドラえもん!!」
「どうしたの? のび太くん!」
大きな生物でも現れたのかと思い、ドラえもんは急いで船首にいるのび太のもとに駆けつけた。
「あ、あれ! あれ!」
「一体どうした……うわっ!!」
驚くドラえもんとのび太の目の前には、なんと島の姿があった。しかもそれはほんの数百メートル先にあり、船ですぐに上陸ができる距離であった。あまりに突然の出来事に二人は立ち尽くしボーゼンとした。
「すごいじゃない! のび太くん! 大発見だよ!」
ドラえもんはのび太を褒め称えた。が、のび太はイマイチ乗ってこない。
「のび太くん? 嬉しくないの? ジャイアンとの競争に勝ったんだよ?」
「え? あ、うん……。でもドラえもん……この島、突然現れたんだ……」
「え!!」
「ずーっと前方を見てたら、つい飽きが来始めて、ついあくびをしたんだ。そしたら次の瞬間、目の前にこの島が……」
「なんだって!? そんなバカな!?」
ドラえもんは突然現れたという不思議な島を見ながら色々と考えた。だが、これだけの規模の島に、誰一人気付かないというのはかなり異常な状況と判断し、すぐに考えることを止めた。
「ともかく、みんなを呼び戻そう!」
「うん! そうだね!」
「しずかちゃん! スネオくん! 聞こえますか?」
「な~に? どうかしたの? ドラちゃん」
「船の前方に大きな島が現れたんだ。二人とも急いで戻ってきてくれる?」
「え!? わ、わかったわ! スネオさんと一緒に戻るわね!」
「お願いします! 次はジャイアン……と」
ドラえもんはしずかとの通信を切り、すばやくジャイアンとの通信を開始した。
「もしもし、ジャイアン? 聞こえますか?」
「お、なんだ? どうした?」
「船の前方に島が現れたんだ! 急いで戻ってきて!」
「なんだと!? ほんとうか? ちくしょう! のび太に負けたか! やるじゃねーか! のび太!」
「う、うん……」
「あれ? なんだよドラえもんが見つけのか?」
「い、いや、ぼくだけど……」
「なんだよ! じゃあもっと喜べってんだよ! まったく!」
「と、とにかく急いで戻ってきてくれ!」
「あ? わかったよ」
ジャイアンとの通信を終えると船の右前方の水面から泡が立ち始めた。しばらくすると、その泡の中から船の前方探索から戻ったしずかとスネオが一緒に顔を出した。
「船の前方って何にもないじゃん……うわ!?」
「え……? きゃあ!?」
しずかとスネオは、まるで初めて見たかのような驚きぶりをドラえもんとのび太に見せた。
「? なんで今驚くの?」
「だ、だって……」
「……ねぇ」
「とにかく甲板に上がっておいでよ」
「う、うん」
のび太に促され、しずかとスネオは不思議そうに現れた島を見ながら甲板に上がった。
「それで、なんで驚いたの?」
「それは……」
ドラえもんの問いにしずかが答えようとした時、上空から急降下してきたジャイアンが大きな着地音と共に甲板に降り立った。
ドンッ!!
なんだ!? と驚きながらその音の方を向いたのび太とドラえもんに対して、ジャイアンは走ってきて二人に強烈なげんこつをお見舞いした。
「いてっ!!」
「いきなり何するんだよ! ジャイアン!」
のび太とドラえもんは同時に怒ると、ジャイアンは間髪入れずに言い返してきた。
「どこにも島なんてねぇじゃねえか!」
「ジャイアン……あれ……」
「あ? うわっ!?」
スネオが指差す方向を見てジャイアンは驚いた。
「なんだ! いつの間に!」
のび太とドラえもんはブスくれてジーッとジャイアンを見た。
「あ、あぁ! わりぃわりぃ! へへへ」
「まったく乱暴なんだから……」
「わ、悪かったよ。すまねぇ。このとおりだ!」
拝むように謝るジャイアンを見て、状況が状況なだけに二人は仕方なく許すことにした。
「でもよぉ、上から降りてたときには何も見えなかったんだがな」
「え?」
「そうそう」
「私たちも水中から船の前方を見て……ううん、前方から戻ってきたのよ」
「なんだって!?」
ドラえもんはすぐさまタケコプターを全員分出した。
「確かめよう!」
みんなタケコプターを手に取りうなずいた。さっそく全員で上空に上がり、船の前方を見てみると、なんとそこには島の姿はなく、あたり一面海になっていた。
「なんだって!?」
「島が、島が消えた!」
「どうなってんの?」
「な? ほんとだろ?」
「こんなことって……」
「もう一度、船に戻ってみよう!」
全員、島を見ながら甲板目指して降下し始めた。しかし目に映るのは、波に揺られ陽ざしがキラキラと反射する海面のみだった。やっぱり幻覚か? と皆が感じ始め、もうすぐ甲板に降り立つというその時、島は突然その姿を現した。
「島だ! 島が現れた!!」
「これは一体……」
「どうなってんだ?」
「なんだか怖いわ」
「な、なんなんだよ、これ……」
甲板に降り立ったドラえもんたちは、突然姿を現したその島をしばらく眺めていた。
「おそらく、水平からしかその姿が見えないんだ。しかも近くじゃないと見えない……。これは……高度な文明を持っている島と考えた方がいい!」
「これがムー大陸なのかな?」
「わからない。単純に見てもこれは地図にあるような大陸と呼べる大きさじゃないし……上から全体が見えないから何とも言えないけど」
しばらく沈黙が続いた後、ジャイアンが口を開いた。
「なんだよ、ここに来てビビってんのか? いいじゃねえか。元々謎の島を探してたんだ。これくらいのことでいちいち驚いてられっかよ!」
「で、でも……」
「これは得体がしれないなんてもんじゃ……」
「ったく! だらしねぇなぁ!」
ジャイアンはズカズカとのび太とスネオの間に割って入り、そのまま船首の先へと進んでいった。
「どうするの? ジャイアン」
「決まってんだろ! あの島を探検するんだよ!」
「本気なの!?」
「危険な島かもしれないのに!」
「だからだよ! 冒険の血が騒ぐってもんじゃねえか!? え!?」
こういう時のジャイアンは頼もしいな、のび太とスネオは素直に感心した。