目の前に姿を現した島はとても美しかった。
ドラえもんたちはその未知の島に上陸するための準備に取り掛かっていた。まずは体力を回復するためにしっかりと食事を終え、その後、各自各様の装備を念入りに確認していた。
「みんな! 準備はいいかい?」
「いつでもいいぜ!」
「うん!」
「いいわ!」
「オッケー!」
滞りなく準備を整え元気よく返事をしたのび太たちは、自分の道具を構えながらドラえもんに返事をした。
「今回は故障はないんだよな? ドラえもん」
「当たり前だ! ちゃんと点検に出したんだから!」
「あはははは!」
「もう……じゃあ、そろそろ行こうか!」
「おーっ!!」
ドラえもんたちを乗せた帆船は上陸するべく、白波を立てながら徐々に未知なる島へとその距離を縮めていった。接岸できるほどの距離に近づいたとき、しずかが何かに気づいた。
「あ、あそこを見て!」
「どこ?」
「海面との境目よ! 浮いてるのわ、あの島!」
『ええ!?』
確かにその島は海面から少し浮いていた。ホバークラフトのようなものかと一瞬ドラえもんは感じたが、それでも海面に一切の影響がないのはおかしいと思い直した。
(光学迷彩といい、どうやら、かなりの科学技術を持っている島らしい……これは油断できないぞ)
ドラえもんたちは上陸する場所として、浜辺から少し離れたところの船を隠せるくらいの高さがある崖を選んだ。船を島へと近づけるに連れて周囲は徐々に霧に包まれていった。
「この霧は助かるな」
警戒心を強め、密かに上陸しようとしていたドラえもんは、この偶然の霧に感謝した。船を崖の壁際につけ、全員が上陸したのを確認したドラえもんは、見つからないようにすばやく船をポケットの中にしまった。
上陸した彼らの目の前には立派な木々が立ち並ぶ広大な森が広がっていた。環境が良いためなのか、高さも十メートル近い木々がほとんどだった。
空に近いほど葉っぱも生い茂るため、森の中にはあまり日が差し込まず、やや暗い印象を受ける。耳を澄ますと、かすかに鳥や動物の声が聞こえてくる。何かしらの生態系はいるようだ。それは全員が感じ取っていた。
スーパー手袋のジャイアン、二丁空気銃ののび太、ショックガンのしずかにひらりマントときびだんごのスネオ、そして空気砲のドラえもんという布陣で森に挑む。いつになく攻撃色が強い布陣なのは、それだけドラえもんが相手を警戒しているという現れだった。
「それじゃみんな、行くよ!」
「おう!」
ジャイアンを先頭に、のび太、スネオ、しずか、殿にドラえもんという直線陣形をとり、とにかく島の中央を目指そうと目標を立ててゆっくりと歩みを進めた。
「今のところは……何もないね」
「”普通の森”という感じね」
「油断しないで……何が起きるか全くわからないんだから」
全員が意識を集中しながら慎重に歩みを進めていたその時、斜め前方から女の子の悲鳴が聞こえた。それを聞いたジャイアンとのび太は、いち早くその声の元へと駆け出した!
「ぼくたちも行こう!」
反応が遅れた三人も慌ててジャイアンたちを追いかけた。
小道に飛び出したジャイアンの目の前には、オオカミの群れに追われ一生懸命逃げている女の子の姿があった。
足がもつれた女の子は、ついにつまづいて転んでしまった。そこをオオカミが襲いかけたその時、ジャイアンのストレートがそのオオカミの頬に炸裂した。突然勢いよく吹き飛ばされた仲間のオオカミを見て、他のオオカミは動きを止め一斉にジャイアンの方を睨んだ。
仲間がやられたのに萎縮もせず、そのオオカミたちはジリジリと警戒しながら徐々に距離を詰めてきた。十秒近くにらみ合っている状況が続いたが、オオカミたちは自分たちが飛び込める射程に入った途端、次々にジャイアンへと飛びかかった。
「きやがれ! ぶっ飛ばしてやる! おらーっ!」
右フック、左アッパーと機敏な動きで次々と襲い来るオオカミを殴り飛ばすジャイアン。しかしオオカミの数が多かっためジャイアンの反応にも限界があった。虚を突いて二匹のオオカミがジャイアンの背後から同時に襲いかかってきた。
背後からの攻撃に気付いたジャイアンもさすがにダメージを受けるのを覚悟した時、空中の二匹のオオカミが悲鳴を上げてバランスを崩し、突然地面に落下した。ハッと横を向くとそこには、空気ピストルの指先に息を吹きかけているのび太の姿があった。
「ジャイアン大丈夫?」
「助かったぜ! 心の友よ!」
「ジャイアンはその子を守って!」
「お、おう! わかった! だけどお前はどうするんだよ!」
そうジャイアンに言われたのび太は両手をピストルのように構え振り向き、自信の笑みをもって答えた。
「ここはぼくに任せてよ」
ジャイアンはのび太の射撃の腕前を思い出し、少し嬉しそうに笑った。
「頼むぜ、のび太!」
オオカミはのび太を警戒してか周りを囲みはするがなかなか襲っては来なかった。襲い掛かるタイミングを見計らっているその時間が少しづつ経過していく中、草むらからのび太たちの名を呼ぶ声が聞こえた。
「のび太くん! ジャイアン!」
ドラえもんたちが草むらから飛び込んできたその音を合図に、全てのオオカミがのび太とジャイアンに襲いかかった! ……と、ほぼ同時に全てのオオカミがさっきと同じように次々と地面に落下した。それは正に”一瞬”というにふさわしいほどののび太の早撃ちがオオカミたちを捉えたのだ。オオカミたちはよろめきながら起き上がった後にのび太を睨みつけた。だがのび太は構えを解くことなく警戒を維持していた。
相手が悪いと感じたのか、オオカミたちはしばらくのび太を睨んだあとに一匹、また一匹と逃げ出していった。
周囲からオオカミたちが居なくなったことを確認した後、ふう……とのび太が一息ついた。ドラえもんたちはしばらくその光景に呆気にとられていたが、最初にスネオが感嘆の声をあげた。
「すげぇ……」
「かっこよかったわ、のび太さん!」
「さすが、のび太くん!」
「ほんと助かったぜ、のび太! ありがとよ!」
「い、いやぁ〜それほどでも」
みんなに褒められて体をくねらせながら照れるのび太。
「あ! それよりジャイアン! その子、大丈夫?」
「あ? あぁ、気絶してるみたいだが大きな怪我はなさそうだ……な!?」
ジャイアンは気絶しているが故に自分に身体を預けてくる女の子に対してかなり戸惑った。しずかはその様子を見てクスッと笑い、その女の子の傍に寄って行った。
「女の子なら私が見ないとね。たけしさん、素敵なナイト役ご苦労さま」
「ナ!? ……そ、そんなんじゃねえよ!」
しずかにナイトと言われ赤面したジャイアンは、ぎこちない動きで女の子をしずかに預けその場からさっと離れた。
「あれ? ジャイアンが照れてる」
珍しく照れるジャイアンを見て、ここぞとばかりにスネオが茶化した。当然スネオはジャイアンのげんこつを食らうことになった。
「いってー! って、スーパー手袋は外してよ! もう!」
「だからすご~く軽く触れただろ?」
「ちぇっ」
「あはははは」
「……と、そんなにゆっくりしてはいられないな。さて、これからどうするか……」
「それなりの騒ぎだったからね。他の誰かが気づいたかもしれない」
「そうだね。とにかく見つからない安全な場所が必要だな……えーっと……」
ポケットの中を覗き込みながらドラえもんはゴソゴソと手を動かした。
「かべ紙ハウス! と……片付けラッカー!
まずはかべ紙ハウスを木にかけて……。さ、みんな急いで中に入って!」
みんなが入ったあとに片付けラッカーをかべ紙ハウスにかけると、かべ紙ハウスはすぐに透明になり全く見えなくなった。ドラえもんは周囲を見回して誰からも見られていないことを確認すると、すばやくかべ紙ハウスの中に入っていった。