ドラえもん「のび太のムー大陸伝説」   作:ノンちょろた

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◆第七章 『テラ』

「う、うん……」

 

 ベッドで寝ていた女の子は、瞼を動かし目を覚ました。横にいたしずかは彼女が動いたことに気が付き、優しくゆっくりと話しかけた。

 

「目を覚ましたのね。熱とかは大丈夫かしら?」

 

 しずかが寝ているその子の額に手を当てようとしたとき女の子は怯えて上半身を起こし、後ろに身体をずらして少し距離を取った。

 

「あ、驚かせてごめんなさい。私は敵じゃないわ。大丈夫よ」

 

 しずかは軽いジェスチャーを交えて真摯に訴えかけながら優しくにこりと笑った。慣れるまで少し時間が必要かな……そうしずかか思った時にドラえもんたちがドカドカと大きな音を立てて部屋に入ってきた。

 

「あ! 目を覚ましたの?」

 

 たくさんの男の子が一度に押し掛けて来た様を見て、女の子は怖がって頭から布団を被ってしまった。

 

「もう! 女の子の部屋には静かに入るものよ!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 しずかに思いっきり怒られたのび太たちは、その場でシュン……と小さくなった。

 周りが静かになったのを感じ、そっと布団から顔を出した女の子に対して、しずかは再び優しく微笑んだ。しずかのその様子を見てドラえもんたちも真似ようと思いっきりぎこちない笑みを一斉に作った。

 

「!?」

 

 ドラえもんたちのその笑みが絶妙な気持ち悪さだったのか、女の子は再び布団の中に隠れてしまった。

 

「もー!」

「ど、どうすれば良いんだよ~……」

 

 またもやしずかに怒られ、ドラえもんたちは困り果てた。フゥッと短くやや強いため息をつくしずか。

 

「ドラちゃん、ホンヤクコンニャクをもらえないかしら?」

「あ、そうだね! ホンヤクコンニャク!」

 

 しずかは受け取ったホンヤクコンニャクを食べてから軽く布団をポンポンと叩き、隠れている女の子に呼びかけた。

 

「驚かせてごめんなさい。怖くないわ。顔を見せてもらえないかしら?」

 

 しずかの声を聞き恐る恐る顔を出す女の子。周りを見て安全な空気が伝わったのか、ややうつむき加減でその上半身をゆっくりと起こした。

 身長は僕と同じくらいかな? 年は……ぼくらより少し下な感じに見えるな。のび太は女の子の外見からそう感じた。

 

「わたしはしずか。あなたとお友達になりたいの。あなたの名前を教えてくれる?」

「……テラ」

「テラ……すてきな名前ね。よろしくね、テラ」

 

 しずかは手を出し握手を求めた。テラはしばらく考えたあとにしずかの顔を見ながら握手に応じた。二人は互いに見つめた後、軽く微笑んだ。

 

「みんなわたしのお友達よ!」

 

 しずかはドラえもん達みんなの方を向き、手のひらで示した。

 

「ぼくドラえもんです!」

「ぼくのび太!」

「ぼくはスネオ!」

 

 三人が自己紹介した後に少し間があいた。あれ? と期待した流れにならず妙な空気になったと思った三人は、残ったジャイアンの方をのぞき見た。ジャイアンは腕を組んで入り口の壁に寄りかかり、半身の姿勢でテラの方をちらっと見ていた。

 

「ジャイアン?」

 

 この状況がわかっていないジャイアンにのび太が声をかけると、はっ! と我に返ったジャイアンは顔を赤くして慌てふためいた。が、すぐに照れを隠すように取りつくろった。

 

「お、おれはジャイアン……だ」

 

 わざとらしい咳払いをする見慣れぬジャイアンの振る舞いにみんなはポカンとした。その慌てふためいたジャイアンの姿を見てテラはクスッと軽く吹き出し、その顔は笑顔に包まれた。

 みんなもテラにつられるように笑い、一気に場が和んだ。当の本人であるジャイアンも、後ろ頭を掻きながら自分の振る舞いに思わず笑ってしまった。少し心が落ち着いたのか、テラは自らその口を開き、少しづつ話し始めた。

 

「あの……わたしはどうしてここにいるのでしょうか? たしか、オオカミの群れに襲われていたと思うのですが……」

「あなたがオオカミの群れに襲われていたところをみんなが助けてくれたのよ」

「えへへへ」

 

 そうしずかに言われてみんなはやや照れた。

 

「特にジャイアンは必死だったよね」

 

 スネオがここぞとばかりにからかうようにジャイアンに言った。もちろんげんこつが返ってきたのは言うまでもない。

 しずかはテラとの会話を続けようとしたが、突然何かに気付いたような表情を見せ、みんなに確認した。

 

「みんな! テラの言葉がわかるの!?」

「あれ? そういえば……」

「ホンヤクコンニャクも食べてないのに?」

 

 不思議に思ったしずかは、テラに自分たちの言葉が理解できるのかを尋ねてみた。

 

「はい。みなさんの話している言葉はわかります」

「そうなの……てっきりここでは違う言葉が使われているかと思ったわ」

「はい。違います。え……と、This is the language here」

「英語だ!?」

 

 スネオが思わず叫んだ。

 

「え? 英語なの?」

 

 しずかはホンヤクコンニャクの効果で、テラの話した英語も自動的に日本語に変換されていた。そのため、スネオに言われるまでテラが違う言葉を話していたことに気付かなかった。

 

「テラ……あなたってすごいのね。色んな言葉が話せるなんて……」

「そうなんですか? ここでは普通のことなのですが……しばらく会話を聞いているうちに理解できるようになっていくんです」

「へー……頭いいんだなぁ、うらやましい~」

 

 のび太はテラのその能力を素直にうらやましがった。

 

「あ、あの……”ジャイアン”というのは……?」

 

 テラが少し首をかしげながらしずかに聞き返した。

 

「あ、”ジャイアン”というのは、たけしさんのことよ」

「たけし?」

「えぇ。みんなたけしさんのことをそう呼んでいるの。ややこしくてごめんなさい」

 

 そう言いながらしずかは、壁に寄りかかっているジャイアンの方に手をかざし、彼がたけしさんよ、とテラに改めて紹介した。

 

「たけしさん……助けてくれてありがとう」

 

 テラはその上半身をジャイアンの方を向けて軽くお辞儀をした。

 

「い、いや、まぁその……なんだ、ひ、人が困ってれば助けるのは当然だからな……」

 

 頬を赤くしたジャイアンの言葉は、照れのせいか後半はよく聞き取れなかった。

 

「へぇー……」

 

 本当に~? という疑いの表情でジャイアンの顔を覗きこむ、のび太、スネオ、ドラえもんの三人。

 

「な、何だよ?」

「今度はぼくたちも助けてもらおうね」

「そうだね」

「たしかに」

 

 ゴゴゴン! と低く豪快な音と共に、げんこつ三発が綺麗に決まった。

 

「俺にもあの子みたいな"かわいい"妹がいるから、つい身体が勝手に反応しただけだ!」

 

 たしかにジャイアンは妹にすごく優しい、いや、優しすぎると言っても過言ではないお兄ちゃんだということはみんな知っていた。だからそのジャイアンの発言の中で”かわいい”という点以外にはみんな納得した。

 

「あ、ところでテラ。ここは一体どんな……」

 

 ドラえもんがテラに問いかけようとした時、しずかが質問をかき消すように割って入った。

 

「ドラちゃん待って! わたしたちの質問はあとにしましょ?」

 

 そう言われたドラえもんはハッとした。

 

(そうか……この女の子は全くの未知の空間にいるんだった……)

 

「たしかにそのとおりだね。ごめんね、しずかちゃん」

「ううん、わかってくれてありがとう。テラ、わたしたちに聞きたいことがあったら遠慮なくどうぞ」

 

 しずかのやさしい声掛けにより、テラは少しホッとした表情を浮かべ、いくつかの質問をみんなに投げかけた。

 

「あなたたちはどこから来られたのですか? 見たところ、この島の方々ではないようですが……」

「わたしたちはこの島の外から来たのよ。航海中に偶然この島を発見したの。それで上陸してこの森を探索してたら、あなたの悲鳴が聞こえたの。そこにみんなで駆けつけて……今のこの状況よ」

 

 ドラえもんたちはしずかの発言にうなずきながら二人の会話を見守った。

 

「そうだったんですか、島の外から……服装もみたことないものですし、間違いなさそうですね」

 

 テラは瞼を半分ほど閉じ、遠くを見るような目で少し悲しそうな表情を浮かべた。

 しずかは、なぜ悲しそうな顔をしたのか気になり、思わず聞き返そうとしたが、今はダメ! とグッとこらえた。

 

「他には?」

「あ、あの……ここはどこなんでしょうか? あの森の近くに、こんな部屋のある建物があったという記憶はないのですが……」

「ここはドラちゃんが作った特別な部屋なの」

「えへへ」

「この部屋を……!?」

「ドラちゃんはいろんな便利な道具を持っているの。この部屋もその道具の中の一つなのよ」

「こんなに大きいものを!?」

 

 ドラえもんは待ってましたとばかりにヒョイと一歩前に飛び出した。

 

「見てて!」

 

 そう言ってドラえもんは”もしもボックス”をポケットから出してみせた。小さなポケットから意外なほど大きなものが飛び出した様子を見て、驚きのあまりテラは両手を口にあてた。

 

「このポケットには、どんな大きなものでも入るんだよ。もちろんこれくらいの部屋もね」

 

 ドラえもんは”もしもボックス”をポケットにしまいながらそう説明した。実際にはかべ紙ハウスなので大きさなんてないに等しいのだが、不思議な力を持っているという説明には十分だった。

 テラは、その不思議な光景にビックリした様子ではあったが、すぐに冷静さを取り戻した。

 

「ドラちゃんさんは王族に匹敵するような不思議な力を持ってるんですね」

「でへへ、それほどでも」

 

 少し間を置いた後、テラはまた悲しそうな顔をした。みんな、さすがに質問したくなってきたが、テラが口を開くまで待とう、とその気持ちを懸命に抑えた。

 

「あ、すみません……わけがわからないですよね……。みなさんがとても優しくて……できればお友達になりたかったんです」

「それの何が問題なの?」

「それは……昔からこの島のことは島の外の人たちには知られてはいけないという教えがあるのです」

「なるほど……あれほど発見されないための仕掛けがあったのはそういうことか」

「はい。だから島の外から来た人たちは皆、牢屋に連れて行かれてしまうのです……それが辛いのです……」

「牢屋かぁ……」

 

 やや困った素振りを見せるドラえもんを見て、みんなも少し眉を歪めた。

 

「できればみなさんに助けて頂いたお礼をしたいのですが……衛兵がみなさんの格好を見たらきっと捕まえられてしまうと思います」

 

 自分達の身の上を心配する発言をしたテラを見て、敵意よりも好意を持ってくれたと感じ取ったしずかは、そろそろこちらから質問しても大丈夫かな、と思った。

 

「テラ。私たちのことを心配してくれてありがとう」

「そんな。私の方こそ危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございました。お礼を言うのが遅くなってしまってすみません」

 

 いいのよ、という感じでしずかは首を小さく左右にふった。

 

「私たちからも少し質問させてもらってもいいかしら?」

「はい」

 

 しずかは、あたしが最初でもいいかしら? という確認をするような表情でドラえもん達の方に振り返った。いいよ、という意を込めてみんなはうなずいた。

 

「ここには、どれくらいの人たちがいるのかしら?」

「そうですね……人口は大体二千人くらいだと思います」

 

 村の規模ではあるが、一つの種族が一統制下において暮らすには適している人数であった。

 

「この島にはとても偉い方っているのかしら?」

「はい。全島民を統率している王族が存在します」

 

 先の会話でテラから”王族”という単語が出ていたため、この返答はしずかの予想通りだった。そしてこれは、この島に階級や秩序が存在しているという証でもあった。

 

「ここの人たちは毎日何をして暮らしているのかしら?」

「みんな自分たちに割り当てられた仕事をしています。食べ物を作る人、狩りをする人、品物を売る人、民を守る人、島を守る人、あと、病気などを治してくれる人もいます」

「へぇー、色んな役割の人がいるんだなぁ」

「小さな国みたいだね」

 

 スネオの発言に、そうね、と答えてしずかは少し考えた。

 

(本当に現代とそこまで変わらないわ。となると警察みたいなものが組織としてあるわけで……)

 

「じゃぁ、牢屋に連れていかれた人たちはどうなるのかしら?」

 

 テラの顔が少し曇った。

 

「わかりません……ただ、島の外から来た人とわかった場合は、二度と牢屋の外には出られないのではないかと思います……」

「……」

「できればお礼をしたいのですが、こんなに優しいみなさんが捕まってしまうのは……」

「牢屋かぁ、牢屋に入れられるのは困るなぁ……」

 

 ドラえもんが思いがけないことを言うものだから、のび太たちはドラえもんを不思議そうな顔で見た。しずかだけはドラえもんのその言葉の意味を理解しているようで同意するようにうなずいた。

 牢屋は正直、通り抜けフープがあるので大した問題ではなかった。それはみんながわかっていた。ドラえもんとしずかが困っていたのは、自分たちが牢屋から脱出した後のテラの処遇だった。

 テラが自分たちと一緒にいるところを見られ、しかもその後にぼくらが牢屋に連れていかれたとする。当然、ぼくらは牢屋から脱出しなければならないし、そうするだろう。だがそうすると、ぼくたちを連れてきたテラは周りから非難され、挙げ句疑われるかもしれない。テラに迷惑がかからないように、テラと仲良くなる方法はないものか。ドラえもんがやや長い時間一人で悩んでいると、ふと、のび太が一声発した。

 

「でも、テラも僕たちと同じ黒髪だし、服装以外はそんなに変わらないじゃないか。それを外見だけで判断されるなんて……」

「服装、外見……そうか! ドラえもん、着せ替えカメラを出してくれる?」

 

 スネオはのび太のつぶやきからヒントを得たらしく、得意気になって前に出た。

 

「あ、そうか! わかった! スネオくん、お願い!」

「サンキュー!」

 

 スネオはテラを見ながらその場でサラサラとデッサンを行い、着せ替えカメラにセットした。

 

「さてそうなると、まずはしずちゃんかな」

「カシャ!」

 

 シャッターを切る音がした直後、しずかの服がテラと同じデザインのものに変わった。

 

「髪飾りは少しアレンジしておいたよ」

 

 ステキ! と言いながらくるりと一回転するしずかを見て、テラの顔は驚きながらも少し明るくなった。

 

「さ! 次いくよ!」

 

 スネオはテラの服のデザインを元に男物の服をササッとデザインし、次々とみんなの服装を変えていった。

 

「これでどう?」

 

 スネオも含めて全員の服装がこの島の住民の服装に変わった。男性陣はテラの方を向いて、各々が軽くポーズをとった。

 

「すごい! みなさんはとてもすごい方たちなんですね!」

「ふふふーん」

「これなら怪しまれなくて済むかしら?」

「はい!」

 

 テラは元気よく答えた。これならぼくたちが慎重に行動すればテラに迷惑をかけることはないだろう、とドラえもんも少し安心した。

 

「しずかちゃん!」

「なぁに? ドラちゃん」

「ぼくからも一つ質問させてもらってもいいかな?」

 

 しずかはテラが軽くうなずくのを確認してから、どうぞ、とドラえもんに手を差し出した。

 

「ありがとう。テラ、この島では悪いことをした人たちは牢屋に連れていかれるの?」

「悪い人……」

 

 テラの顔がまた少し曇った。

 

「……テラ?」

「あ、すみません。そうですね……目に余る行為を行うものがいた場合はすぐに牢屋に連れていかれます。ただ、なにぶん小さい島ですから悪事はすぐに報告されてしまいます。こういった環境が抑止力となり、ここには悪い人なんて殆どいないのです」

「すごい平和な島なんだなぁ……すごいね」

「うん」

 

(でも……だとしたら何で困るような顔をしたんだろ?)

 

 ドラえもんはテラの顔の陰りが気にはなったが、何となく訳ありな雰囲気を感じ取ったため、ひとまず納得した。そしてしずかの方を向き、ぼくはもういいよ、と手で合図を送った。しずかはそれを受け、テラに最後の質問を投げかけた。

 

「最後にもう一つだけ。ここはなんて名前の島なのかしら?」

「ここですか? ムーと言います」

『ムー!?』

 

 みんなは思わず揃って大きな声を出した! 

 

「は、はい……あの、ムーだと何か……?」

 

 テラはかなり驚いた様子で聞き返した。

 

「い、いやいやいやいや!」

「何でもないです、はい」

「え、えへへへ……」

 

 下手なごまかしではあったが、そんなみんなの様子をテラは気にせずクスッと笑った。ドラえもん達の妙な笑いが部屋の中でしばらく続くのを見守っていたテラは、何かを思い出したかのように慌ててしずかに尋ねた。

 

「そういえば! 外はまだ日が出てるのでしょうか?」

「夕方になったところね。もうしばらくすれば夜になるわ」

「良かった。わたしが気絶していたのは、ほんの少しの間だったのですね」

「ええ」

「ではこれからわたしと一緒に、うちの方にいらしてくださいませんか? 先ほど助けて頂いたお礼をぜひさせて頂きたいのです」

 

 衛兵に捕まる問題もなくなり、色々な情報もきっと聞けるであろうその誘いを断る理由もないドラえもんたちは、テラの案内に引かれ森を後にした。

 

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