ドラえもんたちはテラのあとに続いて森の道を歩いていた。先程のオオカミの件もあり、移動陣形はテラを囲むようにとられた。
ただテラの話によれば、獣はいても盗賊のような悪い事をする人たちはこの島にはいないとのことだったので、ドラえもんの道具を身に着けている彼らにしてみれば警戒の軽い護衛という程度のものだった。
「そういえば、テラはなんで一人で森なんかにいたんだい?」
「ある場所に向かっていたんですけど……途中でオオカミに襲われてしまって」
「そうだったんだ……その用事はもういいの?」
「はい。今日じゃなくても大丈夫ですので。あ、森を抜けますよ」
森を抜けるとそこには、田畑、民家、街並みと行った景色が広がっており、中世を彷彿させるような優美な情景がみんなの目に飛び込んできた。
地形は緩やかな傾斜の丘状になっていて、その傾斜にそって街並みが立ち並ぶ。その街並みの中央を、頂きに続く一本の道が蛇のようにうねりながら走っており、その終点となる頂きには気品漂わせる王城がそびえ立っているのが見えた。
「うわぁー! きれいな街だなぁ!」
「お城があるなんて素敵ね~」
「テラの家はどのへんなの?」
「こっちです」
そう言ってテラは嬉しそうに街の方に歩き出した。ドラえもんは、怪しまれないように急いでみんなから道具を回収した。
夕方ということもあり、街中は商店の賑わいを見せていた。テラはフードを被って顔を隠し、ついて来てと促すようにドラえもんたちの方を振り返り、その賑わいの中に溶け込んでいった。ドラえもんたちもテラを見失わないように街中に入っていった。
街の中央通りは活気で満ちていた。商店があり、街の人たちは通貨を用いて物を購入していた。その風景はとても一万二千年前とは思えないほど、ごく身近に感じる日常の様相に見えた。
「おい見ろよ! うまそうな肉があるぜ!」
かぶりつきたくなるような肉を目の当たりにしたジャイアンは、その肉を指差してのび太たちに言った。
「たけしさんはお肉が好きなんですか?」
「あぁ! やっぱし男は肉だよな! なんつーかこう、パワーがみなぎってくるぜ!」
「ジャイアンらしいよね」
「他にも色々な食べ物があるのね」
「見て、見て! あの果物、おいしそうだね!」
「みなさんの好みがわかって嬉しいです」
土地の活気に興奮しながら、ドラえもんたちはテラを先頭に歩を進めていった。
しばらく進むと街の賑わいも途切れ、一同はずいぶんと丘の上の方にまで来ていた。もうそろそろ完全に日が暮れる。家並み、人影も次第に少なくなり、ドラえもんたちはやや不安になってきた。
「テラのお家ってこの辺なの?」
「はい、もうすぐです」
「もうすぐって……ここは……」
目の前には、高さ三メートルはある巨大な王城の正門が立ちはだかっていた。正門から横に伸びる外壁も二メートルはあるだろう。侵入を阻むように外壁の上には鋭利な装飾も施してある。みんなが驚いて正門を見上げていると、正門横の小さな扉が開き、数人の衛兵たちがドラえもんたちに駆け寄ってきた。みんなは驚きながら身体を寄せ合い、あっという間に取り囲まれてしまった。
「You guys, what is it like here! (お前たち、ここになんのようだ!)」
衛兵は背丈ほどの槍を構えてドラえもんたちに質問した。
「あわわわ! あ、怪しいものではありません!」
両手を上げて無抵抗をアピールするドラえもんにみんなその身を寄せた。みんなは震えながらこの場の流れに身を任せていると、扉から出てくるもう一つの姿があった。その男は両手を腰の後ろで組み、胸を張る堂々たる姿勢でこちらにゆっくりと近づいてきた。風格からしてどうやら上官のようだ。
(牢屋に入れられるわけにも行かないし、どうしたら……)
みんなが怯える中、何とか助かる方法をドラえもんが考えてるとき、テラが手を横に伸ばし衛兵に命令した。
「槍を引きなさい!」
「何だと! ここを王城正門と知ってのことか!」
「この方たちはわたしの命の恩人です」
テラはフードを取って衛兵に顔を見せた。
「こ、これはテラ王女!? し、失礼しました!」
相手が王女とわかった途端、衛兵たちは機敏な動きで槍を引き直立姿勢を作り、テラに向かって力強く敬礼した。
『王女!?』
「黙っていてごめんなさい。私が外に出ていることが住民に知れ渡るのを避けたかったんです」
「い、いや、それは別に……」
「ご友人の方々とは露知らず、大変失礼致しました!」
「い、いえ、そんな!」
全衛兵がドラえもんたちに向けて深々と頭を下げ謝罪しているその最中、遅れて出てきた男がテラの前で立ち止まった。
「これはどういうことですか? テラ様」
「タミアラ。この方たちはわたしを救ってくれた恩人なのです。その御礼にと城の晩餐会にご招待したく、ご同行願った次第です」
「この者たちが? そうでしたか。この度はテラ様をお救い頂き感謝申し上げます」
「い、いえ! そ、そんな大したことでは!」
ドラえもんたちは立て続けの感謝の言葉に、ただただ慌てふためいた。
「タミアラ。くれぐれも丁重に迎賓館までのご案内を頼みます。私も身支度を整えましたらすぐに赴きます」
「承知致しました。ときにテラ様。ミヨイが探しておられましたぞ。あまりご心配をお掛けなさらぬよう、どうかご配慮のほどお願い申し上げます」
「そうですね……皆に心配をかけて申し訳なく思っています。ミヨイにはわたしの方から……」
そうテラが言いかけたところに一人の女性が別方向から走り寄ってきた。
「テラ王女!」
「ミヨイ!?」
「またそのような身なりに変装なさって……砦に行かれたのですね……そちらの方々は?」
「紹介するわ。わたしを救ってくださった恩人のみなさんです」
「恩人……」
そう言ってタミアラの顔を伺うミヨイに、タミアラは特に何も言わずただ目を閉じて応えた。
「そうでしたか……この度はテラ様を身の危険からお救いくださり本当にありがとうございました」
「あ、い、いえ……そんな本当に、大したことではないので……」
次から次へと感謝されるこの状況は、テラの高貴な育ちを証明するものだった。しかしドラえもんたちはこの感謝のループにそろそろ疲れ始めていた。
「それでねミヨイ。タミアラにも言ったんだけど……」
「承知しております。迎賓館の手配と晩餐会のご準備でございますね」
「そう! さすがミヨイね。それじゃお願い!」
「かしこまりました」
「それではみなさん、また後ほどお会いしましょう!」
そう言ってテラはタミアラと、タミアラ率いる衛兵たちと共に正門横の通用門をくぐり城の中へと入っていった。ドラえもんたちはあっけにとられてその場にたたずんでいた。
「それでは皆さま、わたくしについて来ていただけますか。お疲れを癒やして頂くためのお部屋にご案内させていただきます」
『は、はい!!』
ドラえもんたちは恐縮しながらミヨイの後をついていった。この時代に来て冒険を始めてから三回目の夜を迎える一同であった。