IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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How do you like Campus?
#1 連れ去り方がほぼ拉致


 

 

インフィニット・ストラトス。

 

 篠ノ之束博士によって開発され『IS』の通称で呼ばれるそれは、宇宙空間での活動を想定し開発されたマルチフォーム・スーツである。

 ISはその攻撃力、防御力、機動力をもって現行の兵器の全てを圧倒。空も飛べるまさにチートスペックを誇る最強のパワードスーツ。

 

 これは、そんなISと1人の人物が織り交ぜる物語———

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、藤川忠弘はとある仕事のために同伴する連れの女性を連れ、その人物が住む家を訪ねた。

 その人物には敢えて本来の目的は告げずに、電話口で遠出の用意をしておけと伝えておいた。

 

 家の前に到着。どこにでもあるごく普通の一軒家に彼は暮らしている。ただし1人暮らし、将来的に所帯持ちになるため、というがまだ独身である。

 インターホンを押すと声が返ってくる。玄関のドアが開いて、中から1人の人物が姿を現した。

 

「おぉ、またこれはこれは」

 

 仄かに緑色に染まる髪、どこか飄々とした出で立ちの青年。

 

 彼こそ今回のキーパーソンになりうる緑葉ナツ本人である。だが緑葉の顔色は悪く、下瞼には隈ができていた。

 

「緑葉君…その隈は…」

「あの、実は私少し体調悪いんだよ」

 

 苦笑しながら緑葉は頭を掻く。しかしそれで今回の仕事はパァにはならない。

 

「それは追々治していくとして」

「追々治すって何」

「とりあえずまぁ、こちらの方を」

 

 藤川は連れの女性から受け取ったバッグと袋を緑葉に渡す。

 渡されたバッグを地面に置いた緑葉は袋の中に入れられた物を見る。そして入れられた物の正体が分かった緑葉は笑い声を上げながら取っ手を握ったまま地面に崩れ落ちた。

 

「ああ!?ああああああ!?」

 

 わなわなと身体を震わせながら緑葉がバッグの方に恐る恐る指を差す。何が言いたいのか分かった藤川は首を縦に振って肯定。そして更に爆笑した。

 

「ウソだろ!!」

「ホントです。さぁ準備の方を」

「準備の方をじゃねーよ!」

 

 緑葉が中を確かめた袋に入れられていたのは錠剤が入ったケース。以前緑葉が飲まされたとある薬。そして指を指したバッグの中身は緑葉が察した通り、何故か女物の衣服や小物であった。

 

()()()()…もう……」

 

 意味深なことを呟きながら緑葉は天を仰ぐ。

 

「まー堪忍して、諦めてや」

「おぉそうだな。どのみち拒否権ないんだろ?」

「無いです」

「そうか。藤川と会って数年、私もだいぶ成長した!」

 

 関西弁を話す連れの女性、龍驤に諭され緑葉は諦めの乾いた笑みを浮かべる。

 メチャクチャやる人物である藤川に対して抵抗しても無駄だと悟った緑葉はバッグと袋を持って玄関へと向かう。

 

「あ、あの時よりは随分改良されてるらしいですよ」

「何が改良だよバカヤロー」

 

 捨て台詞を吐きながら緑葉が玄関のドアを閉める。

 藤川と龍驤が待つこと数分、再び玄関のドアが開き、荷物を持った緑葉が姿を見せる。だが先程の外見とは明らかに違う。

 ツインテールに髪を結い、何故か巫女装束風の色合いの弓道着を着ている。そして下はミニスカート。バッグに入ってる衣服の中である意味1番お気に入りのものをチョイスしたのだろう。

 

 男の時と比べて多少若返っているのか外見はそれこそ10代後半から20代前半のそれである。なお実際の緑葉の年齢はあと1、2年ほどで三十路である。

 

「さ、準備も出来たところで行きましょう」

「いや行きましょうていうか、まだどこに行って何をするか聞かされてないってさっきから言ってるんだよ」

 

 そう、この時点で緑葉はこれからどこへ行くのかも知らなければ、何をするのかも知らされていない。過去、藤川達に同じようなパターンで旅行やら何やらに連れ出された経験が幾度となくある緑葉はかなり慎重になっていた。

 

 実際、電話で話していた時も藤川からはマジで「遠出の用意を」としか言われていないのである。

 

 国内のどこかか、或いは海外か。不安がよぎる緑葉を他所に藤川と龍驤は車へ向かい、それぞれ運転席と助手席につく。

 覚悟を決めた緑葉はトランクの中に荷物を詰め込み、後部座席に座る。全員乗り込んだことを確認した藤川は車を出発させた。

 

 車を出発させしばらく、高速道路に乗った辺りで藤川は緑葉に今回の仕事の内容をカミングアウトし始めた———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「IS学園に行ってもらいたい」

 

 突然上司である鶴屋竜司に呼び出された藤川はそう告げられた途端、口をポカンと開いた。40代になり1児のパパとしても貫禄が出始めた顔がたちまち呆ける。

 

「あ…あいえすがくえん、ですか?」

 

 鶴屋は黙って頷く。

 

 鶴屋家は古くからの名家で、その影響力はあらゆる分野において絶大である。そして鶴屋竜司は鶴屋家の現当主にして鶴屋グループ総帥であるお方だ。

 齢は50手前、髭を生やしてダンディーという表現が似合う、渋さが漂う壮年の出で立ちである。

 敬意を込めて会長とも呼ばれることもある人が、一介の下っ端である藤川に何の用があって、何故IS学園などに行けと言うのか。

 

「鶴屋重工のことは、知っているだろう?」

「はぁ……」

「そこが近いうちに、というより、すでにIS業界への進出に着手しているのだが、いかんせん順調なスタートではない。仕方ないといえば仕方ないのだが」

 

 あらゆる分野にパイプを持っている鶴屋グループだが、意外にもIS業界に関しての足がかりは未だに持っていない。

 

 

 ISが登場して10年。日本ではすでに倉持技研が<打鉄>などの国産機の開発に成功、フランスのデュノア社が開発した第2世代型と呼ばれるタイプの傑出機である<ラファール・リヴァイヴ>も日本へ輸入されている。そのため業界の競争率が凄まじく現状手が出せていなかった。

 

「すでに、第2世代型試作機もロールアウトされていると工廠から報告は受けてはいるが、なにぶん日本における<打鉄>や<ラファール>のシェアが8割超では、つけいるスキがない。それに、第3世代機のこともある」

 

 鶴屋重工がIS開発に着手したのは5年前。

 1度は第2世代ISの開発に成功したものの<打鉄>とのコンペに敗れ、鶴屋重工は大打撃を受けた。以降は極秘裏に開発を続け、後継機が完成したのはつい数週間前のことだ。

 

 そして今、現在IS業界が欲しているトレンドは第3世代機と呼ばれる国や企業が威信をかけ最新の技術を集めた機体達。鶴屋重工がやっと後継機を完成させたのは第2世代機。言ってしまえば売り手と買い手の思惑が違ってくる。

 

 売り手のニーズに応えなければモノは売れない。故に第3世代機を開発できていないフランスのデュノア社は経営が傾き、存亡の危機にある。すでに開発に成功しているイギリスやイタリア、一歩遅れてドイツが競り合っているのが欧州戦線の展開である。

 

「何から何まで、我々は出遅れてしまっているのが現状だ。哀しいことにな」

「つまり、私にどうしろと…?」

 

 苦笑する鶴屋に、核心を知りたい藤川が慎重に訊ねる。

 

「調べてきてほしいのだ。IS教育の中枢で。第3世代機は勿論、搭乗者達、ISの運用から何までを」

 

 そう言って鶴屋は机の引き出しの中から数枚の書類とパンフレットを取り出す。

 それらを手に取った藤川が流し読みをして、おおよそ読み終えたところで鶴屋の方を見る。

 

「そんな顔をするな。報酬の方はそれなりに考えてあるし弾むつもりだ」

「しかし……」

 

 藤川は複雑な表情を見せる。

 

 IS学園の詳細については藤川も齧った程度なら把握している。

 知識、操縦、整備、ISにおける全ての分野を教えるために日本に置かれた教育機関。ISに関連した人材のほとんどがここで教育され世に出るらしい。

 そしてもう1つ、在校する生徒の99%が女性なのである。理由は単純、『ISは女性にしか扱えない』から。それ故に藤川は学園行きを渋っていた。

 

 ではあとの1%は?となるが、今年の2月末に世界を震撼させるニュースが流れた。

 なんでも、織斑一夏と呼ばれる男子中学生がISを動かした、という内容だ。

 ISは女性にしか扱えない、それは世の常識になってきていた。そんな中で俺IS動かしちゃいましたなんて起きたらどうなるか。

 

 想像の通り世界中大騒ぎ、ISと関係ない人生を過ごしてきた藤川から見たら「おーすげー」程度の認識だったが、それはもう国のトップすら巻き込んだ騒動だった。

 更に一夏君のお姉さんがブリュンヒルデと呼ばれる伝説最強レベルのIS操縦者である織斑千冬だというのもまた騒動に拍車をかけ、遺伝子保護だ人体実験だと騒がれはじめヤバい空気になった時に、彼のIS学園編入が決まった。

 

 なんでも学園の土地はいかなる国家機関に属さず、どんな国家や組織だろうと在学する生徒や学園の関係者には干渉することが出来ない、という規約があるんだとか。

 

 半分保護される形となり、たった1人の男子生徒という思春期の年頃にはつらいであろう状況の中、今日も元気に通っている一夏君のことはさておき、藤川は書類を見やる。

 

「安心しろ藤川。何も君1人だけに行かせるわけじゃない」

 

 そう言われても全く安心などできない。

 

「緑葉も同行させる」

「えっ!?か、彼もですか…!?」

 

 鶴屋の言う緑葉とは誰のことなのか。

 

 緑葉ナツ。彼は鶴屋家に直接仕える従者で、見方としては鶴屋の執事、世話役係というのが近いだろうか。

 そんな彼はこれまで鶴屋から様々なことを頼まれてきた。その中には無茶振りな案件も存在してるが。

 

「うむ。もっとも正確には、()()()()()()()()()()()()

「あっ」

 

 鶴屋の言い方に思い当たる節があった藤川は瞬時に理解する。

 

 度々鶴屋から無茶振りを命じられる緑葉なのだが、ある時『女体化してとある場所へ行け』という意味のわからない仕事を引き受けたことがあるのだ。

 のちに藤川は緑葉と会って話をする機会があったのだが、そのとある場所については一切口に出さなかったが女体化については「なんとも言えない」と言っていた。

 

 女体化された経緯だが緑葉曰く、ある日今の藤川のように鶴屋から呼び出され、錠剤が入った袋を渡され「これを飲んで今日は寝ろ」と言われたそうな。

 そして言われた通りに飲んで寝て朝起きたら女体化してたらしい。何を言っているのか分からないが聞かされた時も訳が分からなかったし、実際に体験談を語った緑葉本人も分かっていなかった。

 

 緑葉が鶴屋に問い詰め、女体化する薬のことについて聞き出すと次のことが分かった。

 正確に言うとそれは女体化させる薬ではなく性転換させる薬、言うなれば男性を女性に、女性を男性にするという代物だった。

 結局それを飲んだ緑葉は数週間の間言われた仕事を渋々遂行。帰ってきた後に解毒剤を飲んで元の姿に戻ったのだ。

 

「また、飲ませるんですか…」

「女性の方が、あそこは自然と溶け込めると踏んでな」

「ちなみにですが、私は…」

「そのままだ」

 

 その言葉を聞いた藤川は心の底から安堵の息をした———

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰らせろや」

 

 今の心境を表すには充分すぎる一言を漏らす緑葉の思いとは裏腹に車は学園がある方向へと向かっていく。

 

「そういえば緑葉君、体調の方は」

「なんか知らないけどだいぶスッキリしたよ」

「そうですか。それと、こちらから言える範囲での注意事項というか緑葉さんに気をつけてもらいたいのは…やっぱりその、言葉遣いの方は…」

 

 今の緑葉は女性になっている。そのため自ずと女口調にしなくてはならない。

 ましてやこれから向かう先は10代女子の園、なおさら言葉遣いには気を使わなければならない。

 

「まぁ、なるべく善処はするよ」

「我々だけなら良いんですけど、人前だとやっぱり怪しまれたら面倒ですから」

「だからなるべく私をイライラさせないでくれる?男口調が出ちゃうのよ」

「……なんかアレだなぁ。妙に感に触るというか」

「何?」

「やめときやめとき、そろそろ見えてくるで」

 

 一瞬険悪な空気になりかけたが助手席に座っていた龍驤が2人の間を取り持つ。

 

 関西弁を喋る龍驤はこの中で唯一の純粋な女性だ。関西弁を喋るが実際は生まれも育ちも関東圏。関西弁もお笑いで身につけた所謂エセ関西人なのだが、緑葉や藤川を始めとした鶴屋家の人々はあまり気にしていない。

 

 ついでに言うと、もう1人男性のメンバーで三崎という人物が緑葉達とくるはずだったのだが、家庭の事情から来れなくなったため、現在新たな人員を探しているのだとか。

 

 IS学園が目の前に姿を現わす。人工島丸々1つ使っているためその規模は計り知れず、東京ドーム何個分とかの次元ではない。

 訓練や試合などに使われるアリーナは大小含めて6つ、学生寮に食堂、大浴場など3年間暮らす上でのありとあらゆる設備が備わっている。

 

「この時間帯だと丁度1、2時限目なのかなぁ」

「にしてもだだっ広いなぁ〜」

「それより駐車場あるんかいなここ」

 

 腕時計を見ながら藤川は駐車場を探して学園内の道路を走らせる。緑葉と龍驤も窓から外をくまなく見回すがそれらしき場所は見つからない。

 

 その後しばらくIS学園のスケールに圧倒されながら車を停められる場所を探しているとようやくゲートみたいな場所に辿り着く。しかし駐車場が見つかりそうにないので止むを得ず路肩に車を停める。

 

「あぁ、風が気持ちいい」

 

 車から出た緑葉は背伸びをしながら周りを見渡す。車の鍵を締めた藤川も周りをキョロキョロ見渡している。

 

「藤川君。これもしかして自分達で来いっていう、そーいうアレかな?」

「どうだろうなぁ、でも迎えの人とか居ても良さそうだけどなぁ…」

 

 藤川の言う通り、本当なら出迎えの1つや2つあってもいいはずだが出迎えなんてないしそれどころか人影すら見えない。時間も間もなく10時を回ろうかとしていた頃だ。少なくともお昼頃には学園のお偉いさんと会わなければならない。

 

「待ってても仕方ないで、歩くか?」

「歩く……」

 

 龍驤がそう提案してきたものの、緑葉の反応は悪かった。その理由は緑葉の真後ろから続く長い歩道にあった。

 

「これを…歩くの?」

「まぁ、これ以上車で近づける道が見つけられてない以上は、そうするしかないな」

 

 藤川にも言われてしまっては仕方がないので緑葉は歩道を歩きはじめる。その後を藤川と龍驤が続いていった。

 

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