IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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#10 天照降臨

 数分の間続いた民族舞踊も終わりを迎え、一夏はウトウト微睡んでいた鈴の肩を叩く。

 

「ん、何よ…ってアレ、終わった?」

「みたいだが……」

 

 蹲った鈴は一夏の方へ顔をあげるが、その一夏は浮かない表情を見せる。鈴も恐る恐る一夏が見つめる方向に顔を向ける。

 <打鉄>はランスの先端を地面に突き刺し片膝をついている。そしてアンノウンに変化が起きた。目を覆っているバイザーに1つの赤色の光点がグポン、と低い音を発し点灯する。

 

「どうやら、あっちはやる気になったみたいだな」

 

 一夏は単眼の明天を宣戦布告と捉えた。その証拠にアンノウンは右手にライフルを持ち、<打鉄>はランスを持ち直す。

 

「織斑一夏君」

 

 不意にアンノウンが一夏の名を呼ぶ。ただしその声は変声機によるであるが。

 

「なんだよ」

「私は<天照>。みど——時間を浪費したくないから単刀直入に言おう。一夏君、私は貴方に決闘を申し込む」

「俺に?」

 

 アンノウン改め<天照>からの提案に一夏は若干困惑しながらも不敵な笑みを浮かべる。

 

「そう、君に。前から興味があったの」

「そいつはありがたいな。いいぜ、俺と決闘したいんだろ?なら受けて立つぜ」

「ちょっと!いいの!?」

 

 一夏はあっさりと<天照>からの申し出を飲んだ。それを咎めるように鈴は一夏の右腕を掴む。

 

「どうせ俺が断ったところでアイツはタイマンに持ち込むさ。売られた喧嘩は買えって言うだろ?」

「へぇーよく分かってること」

 

 <天照>のパイロットからお褒めの言葉が届く。鈴は観念して彼へ背中を向ける。

 

「……ならあたしは<打鉄>をやるわ。だけど約束しなさい、…絶対負けないって」

「勿論」

 

 相手がどんな顔をしているか、背中越しでも分かる。絶対負けるな。鈴の想いを受け取った一夏は両手で雪片を握りしめる。

 

「………………そうこなくっちゃ」

 

 バイザー越しでその表情を捉えることは出来なかったが、<天照>の口元を緩んだような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 管制室の手伝いを任された簪を除き、セシリア達はピットへ向かって走り出していた。

 彼女達は専用機持ちにして代表候補生。外野席で固唾を飲みながら戦闘を見守る立場ではない。

 

「私とシャルロットは第2ピットに回る。オルコット達は第4ピットへ向かえ」

「分かりましたわ」

 

 セシリアと箒は頷き、ラウラとシャルロットと分かれる。

 ピットへ辿り着いた4人はそれぞれ<ブルーティアーズ>、<紅椿>、<シュヴァルツェアレーゲン>、<ラファールリヴァイヴカスタムⅡ>を展開。射出ユニットは使わず、徒歩でピットの先端部まで近づく。

 

 丁度アリーナを見下ろす位置に立った箒は隣でセーフティのロックを解除するセシリアを見やる。

 

「ここからヤツを狙撃できるか?」

「お安い御用ですわ!」

 

 セシリアはスターライトMk.Ⅲを<天照>に構え、照準を合わせる。決闘に水を指す行為はしたくなかったが、この際そのことを気にする余裕はない。

 

「一夏さん!援護致しますわ!」

「そうは問屋がおろさない」

 

 だが、引き金が引かれることはなかった。

 

「ッ!?セシリア!」

 

 セシリアが引き金を引こうとして瞬間、あらぬ方向からワイヤーが放たれる。

 横にいた箒は咄嗟にセシリアを庇うが、右腕をワイヤーに絡め取られてしまう。

 

「くそ!誰だ!」

 

 箒が吼え、ワイヤーの先を見やる。そこには<打鉄>とも<ラファール>とも違う緑色のISが箒とセシリアを見下ろしていた。

 顔には<打鉄>の搭乗者と同じくお面をつけていた。もっとも、こちらは能面ではなく般若の面だ。

 

「新型のISか…?」

 

 箒とセシリアは目の前の新型を<打鉄>のバリエーションタイプと認識していたが、そのフォルムは<打鉄>とはまた違う。

 何より箒もセシリアもこの機体について知らない。そして箒の腕に絡みついているワイヤーを使った武器も彼女は見たことがなかった。

 

「何者だ、お前は」

「さてね。ただ<天照>の初陣に水を指さないでほしいな」

 

 こちらも変声機を使用しているのか、発せられる言葉の質感に機械っぽさを感じる。

 話にならん。そう結論付けた箒は左手に空裂を展開させる。起き上がったセシリアも態勢を立て直しライフルを構える。

 

「こっちもこっちでこの機体は初陣だからね。精々暴れさせてもらおうかな!」

 

 般若のお面越しに女は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 般若女に対し鋭い目線を送っていた箒は右腕に違和感を覚えた。右腕には般若女からのワイヤー攻撃を食らい、今もワイヤーが絡みついている。すると右腕に絡みついていたワイヤーからスパークが走り、たちまち身体中に電流が流れた。

 

「ぐあああああああ!!?な、なんだ!?」

 

 ギリギリのところで耐えた箒は痺れる身体に鞭を打ちながら左手に握った空裂でワイヤーを切り裂く。

 間一髪のところで電撃から解放された箒だったが電撃の威力は絶大で、痺れからか四肢はふらつき歩様はどこかおぼつかない。

 

「箒さん!大丈夫なのですか!?」

「だ、大丈夫かどうかと聞かれたら、大丈夫では、ないが…」

 

 眼前で目撃していたセシリアが唖然としながら般若女を見る。当の般若女は感心しているのかひゅーと口笛を吹く。

 

「まさか海ヘビが破られるとはねぇ」

 

 切断されたワイヤーの先端部分を労わるように触る般若女の口ぶりからは驚いた様子は感じられず、突破されたのは想定内だと言うそれだ。

 

「だけど……これはどうかな!」

 

 般若女は腰にマウントされていたバズーカを担ぎ1、2、3発と発砲。箒とセシリアは散開して砲撃を躱す。

 

「ハァアアアアアアアッ!!!」

 

 箒が空裂を右手に持ち替え般若女へと斬りかかる。対する般若女は斧状の武装を展開、刃の部分を加熱させたそれで空裂と斬り結ぶ。

 

「ヒートホークも正常に稼働」

「くっ…!」

 

 スペックでは確実に<紅椿>の方が上。しかし箒の予想に反し、鍔迫り合いは互角の勝負となっていた。般若女は武装のチェックを行う余裕すら見せている。

 もっとも、箒にはこれ以上押し込むことができないある『事情』があった。

 

(まずいな…このままでは…)

 

 空裂ともう片方の主武装である雨月は実体剣なのに対し、般若女のヒートホークは刃の部分を超高温に加熱させ寸断する武器。やがて鍔迫り合いをしていた箇所が高熱によって徐々に刃が溶け始めていた。そして何より熱い。

 

「箒さん!」

 

 セシリアが般若女へスターライトMk.Ⅲを発砲。レーザーは一直線に突き進むが、般若女は真横からのレーザーを難なく回避。

 

「小癪な、少しは手加減しなっての」

 

 ヒートホークで箒を振り払い、バズーカを連射する。

 

「すまない、助かった」

「礼は後にして下さいな!」

「もちろんだ!」

 

 バズーカの弾を避けながらセシリアも負けじとスターライトMk.Ⅲの引き金を引き、箒もまた空裂を振りエネルギー刃を放出。しかし般若女も相当な技量の持ち主なのか、右へ左へとそれらの猛攻を全て躱しきり、地面に着地し、あまつさえ2人を挑発する素振りまで見せる。

 

「バカにして!」

「へへーんだ」

 

 般若女の挑発に乗りかけているセシリアから一旦意識を外した箒は別のところでも始まっている戦闘へと目を向ける。

 

 すでに一夏と<天照>は戦闘状態に入っていた。鈴と合流したラウラ、シャルロットもまた<打鉄>との戦闘に入っていた。

 

「シャルロット、右だ!」

「任せて!」

「そりゃあッ!!」

 

 ラウラとシャルロットが見事な連携プレーを見せ<打鉄>を翻弄。鈴が2人の間を割って斬りかかっていく。

 敵側はただでさえ2対3という数的に不利だ。第2世代と第3世代という性能の違い、操縦者の腕もあろう。

 <打鉄>の操縦者も大した腕前を持っているのだろうが、さすがに代表候補生3人を相手取るには分が悪いと言わざるを得ない。

 

(むしろこちらが気を引き締めなければ)

 

 ラウラ達の方は恐らく心配はない。むしろ問題は<天照>と般若女だ。

 

 <天照>から放たれるビームを回避しながら一夏が突進をかける。しかし<天照>は一夏の攻撃を軽々と回避するわけでなく、左腕に備え付けられた大鏡からプラズマ化した粒子を放出させ、一夏の攻撃を受け止め弾き返す。

 

 般若女の方は箒達にバズーカを放ちながら脚部に外付けされた三連装ミサイルポッドでラウラとシャルロットを牽制。<打鉄>と鈴の間に入りヒートホークで鈴の横振りを受け止めたりと縦横無尽に動き回っている。

 

「鈴気を付けろ!その般若女なかなかやるぞ!」

「わかってるっての!」

 

 ヒートホークの素振りを躱しつつ砲撃を加える鈴の背後からシャルロットがマシンガンを構え不敵な笑みを見せる。

 

「これはどうかなっ!」

 

 発砲。しかし般若女は左腕に備え付けられたシールドを身体の前面へと押し出し銃弾を弾く。

 

「相手は私だけじゃないよ?」

「チッ!」

 

 背後から迫る<打鉄>へシャルロットは般若女と<打鉄>交互に一斉射撃を展開していく。

 

 

 

 

 

「でやああああッ!」

 

 雪片を握りしめた一夏は<天照>めがけて得物を振るう。対する<天照>はある時は避け、またある時はシールドで受け止めて弾く。

 

(マズいな、読まれてる)

 

 <白式>元来の特性と一夏の性格は、悪い意味でその行動パターンが読まれやすい。

それは周りから散々指摘されて一夏本人も自覚している。だが雪片弐型しか武装がなく、最大の攻撃で絶対防御すら破る一撃必殺である零落白夜を出し渋っている現状、攻めの手を欠いていた。

 一夏は般若女の攻撃を盾で防いでいるシャルロットに近づく。

 

「シャル、1丁でいい、ライフルを貸してくれないか」

「分かった!すぐに…」

 

 頷いたシャルロットはアサルトライフルを出現させ一夏に手渡そうとするが、そうはさせじと般若女がシャルロットへ向けバズーカを放とうとする。

 

「させるかっ!」

 

 そこへラウラの援護射撃が入る。

 ギリギリのところでライフルを受け取った一夏は接近してくる<天照>へ銃口を合わせ引き金を絞る。

 

「当たらなければどうということはない!」

 

 <天照>が叫ぶ。一夏が放った弾丸は全て交わされ、虚空を貫くだけだ。

 

「一夏!ぐう…っ!」

 

 シャルロットが<天照>にライフルを向けるが<打鉄>の猛攻を食らい態勢を崩す。

 そこへ追い討ちをかけるように般若女がヒートホークを振るうが、ラウラのプラズマ手刀がヒートホークの刃を受け止める。

 たちまちアリーナ内はISを使った乱闘の舞台と化し、さすがに様子がおかしいことに気付いた観客や来賓の間にどよめきが広がる。

 

 すると、ギャラリーの様子が気になったのか<天照>の意識が観客席へと向けられた。一夏はそこへ活路を見出した。

 

「今だ!!」

 

 瞬間、雪片弐型の刃が光を纏う。これが雪片弐型の単一仕様能力、零落白夜だ。

 

 これはかなりの博打であった。確かに零落白夜はISの絶対防御すら破る、ある意味では最強と言ってもいい力を持っているが、それ故に欠陥もある。

 まず、これを食らった相手はただでは済まない。下手したら死亡する可能性もある。もう1つ、零落白夜は<白式>のエネルギーを使用して発動させるため、当てても外してもその直後には殆どエネルギーが尽きてしまい、戦うどころでは無くなってしまう。

 比喩でも何でもなく、マジで一撃必殺の技なのだ。

 

 この2つの理由から一夏は今の今まで零落白夜を出し渋っていたが、敢えてここで発動させたのは焦りからではない。

 このスキを逃すわけにはいかない。一夏は身体中に力を込めて叫ぶ。

 

「食らえええええええ!!!」

 

 零落白夜の発動に気付いた<天照>が慌てて一夏へと身体を向ける。しかし背中に鈴の放った衝撃砲が当たり、前のめりによろめく。そこを見逃す程一夏は温情の持ち主ではない。

 

 一夏が振るった渾身の一撃は<天照>の装甲に当たる。搭乗者の身の安全を考えて峰打ちの形になったが、それでも、と一夏は大ダメージを確信していた。

 

「…………!」

 

 零落白夜の放つ閃光を目の当たりにした<打鉄>の駆る搭乗者はその威力に唖然として、その末恐ろしい威力を知っているセシリア達は内心歓喜の表情を見せていた。それは管制室で指揮を執っていた簪や真耶、千冬も同じだった。

 

 だが、この場において不釣り合いな笑みを浮かべている者が2人、愕然としている者が1人いると分かったのはその直後のことである。

 

「う…嘘だろ…」

「なっ!?」

『そんな!!』

 

 一夏の血の気が引く表情に気付いた箒らが悲鳴に近い声を上げる。管制室の真耶もまた信じられないとばかりに声を張り上げた。

 

「零落白夜が……、防がれた……?」

 




「感想など待ってるでー」
「誹謗するようなのは勘弁してね」
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