IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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#16 ハルノナゴリ(後編)

「ん……、んぅ…」

 

 いつから寝ていたのだろう。気がつくと私は深い眠りに落ちていた。時計に目をやればすっかり夕方から夜へと変わる時間帯だ。ベッドを這いずり、閉め切られたカーテンを少し開ければ辺りはもう暗くなっている。

 

「…………」

 

 私は何をするでもなく、仰向けのままベッドに横になる。

 

「秋くん……凄かったなぁ」

 

 今の私は一糸纏わぬ、生まれたままの姿、要するに裸である。お腹をさすり、先程の情事を思い出すと、また身体が熱く火照り彼を欲しがってしまう。

 その秋くんは同じく裸姿のまま隣で寝息を立てている。お互い初めてだったから、終わった直後は色んな意味でクタクタになった。

 愛おしげに秋くんを眺めていると、彼はもぞもぞと動きながら目を開けた。

 

「ごめんね、起きちゃった?」

「ん……、あれ、相川さん起きてたの?」

「私もさっきまで疲れて寝ちゃってたよ。誰かさんが激しかったせいで、ね」

「う…、それは、ごめん…」

 

 私がからかうと秋くんは先程の情事を思い出して恥ずかしくなったのか俯いてしまう。

 

「謝ることないよ。私もその、気持ちよかったし……」

 

 いや、本当に凄かったです()

 

「僕も相川さんがあんなに乱れるとは思わなかった」

「そっ…!それは言わないでぇ!」

 

 秋くんにからかわれた私はシーツで身体を巻きつける。そんな私に秋くんは微笑みを浮かべながら頭を撫でてくるから身体に毒だ。

 

「……ねぇ、どうして私のこと好きになったの?」

「えっ」

 

 ふと思い浮かんだ疑問を秋くんにぶつける。すると顔を赤らめて指で頰を掻く。

 

「そ、その…、僕も、ひとめぼれ……だったから」

 

 蚊のような小さな声だったけどなんとか聞き取れた言葉に私も顔を赤らめてしまう。互いに互いを直視できないからか、お互い顔を背けてしまう。

 私は恥ずかしさを紛らわそうと彼の胸に飛び込む。胸が当たろうが、今更知ったこっちゃない。

 

「私も、一目惚れ。秋くんと初めて会った時から、ずっと胸が張り裂けそうでドキドキが止まらなかったの。さっきも言ったけど、キミを思って自分で自分を慰めたことだって何回もある…」

「あ、相川さん……」

「だから今日、今、ここで、秋くんと1つになれたのがすっごく嬉しいの。心が満たされていく気がして、ポカポカしてたまらないの」

「あの…胸、が…」

「……もう、当ててるんだよ?恥ずかしいから言わせないでよ…」

「いやそうじゃなくて、その……」

「えっ……?あっ…………」

 

 ここにきて秋くんの異変に気がついた私は思わず声をのんでしまう。しばらく2人の間に静寂が流れた末、先に口を開いたのは私の方だった。

 

「えっと…、もう1回……する?」

 

 彼はゆっくりと頷くと、私の肩に手を置く。

 

「ごめん…。多分1回じゃ収まらないかも」

「えっ……?キャッ!?」

 

 そのまま私と秋くんは2回戦を開始。2回だけで終わらず結局4回もヤってしまい、汗や何やらでベタベタになりながら私は秋くんに対して絶倫というありがたい称号を授けたのはまた別の話……なハズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 晴れて秋くんカップルとなった私の身に変化があったのはそのすぐ後だった。

 1番変化の大きさを実感したのはスランプを脱した時だ。あれだけ空回りしてしまっていた勉強も歯車が段々と噛み合うようになると少しずつではあるが成績を伸ばしていった。

 

 IS操縦の方も織斑先生などから指摘されていた動きの固さが解消されると、以前とはまるで違う感覚でISを動かすことが出来るようになり、元々身体を動かすのが得意な私が実技の方で成績を盛り返すのは時間はかからなかった。

 

「以前とは別人みたいだな」

「あはは……」

 

 と織斑先生に言われた時はさすがに苦笑したけど、それでもあの織斑先生からそう言われるのは嬉しかった。

 

「最近の相川さんは凄いですね。私達先生の間でも評判になってますよ」

 

 ある時私が廊下を歩いていると山田先生がそんなことを言ってきた。ありがとうございます、と返すと山田先生が口を開く。

 

「そういえば、この時期から成績が右肩上がりですが、何かキッカケとか、はあるんですか?」

「えっ!?」

 

 内心私はドキッとした。何故なら山田先生が言う『この時期』というのは、丁度私が秋くんと繋がり、恋人同士になった時だったからだ。

 

「な、なんでそんなことを私に聞くんですか……?」

「確かに私は先生ですけどIS操縦者でもあります。だから相川さんの操縦の動きが変わったキッカケというか、そういうのがあれば聞いてみたいんです。私自身、スランプとかを経験したことありますし。合コンでもうまくいか……、あ!ななななんでもあああありませんよ!!?いいいい今のは関係ありませんので!!」

「は、はぁ…」

「でででですので!何か特別なことをしているのであれば、是非参考にしたいんです!」

 

 一体どっちが先生でどっちが生徒なのか。

 しかし困ったなぁ、確かに吹っ切れたキッカケというのは存在する。ただ内容が問題なのだ。

 だって言えるわけないじゃん。彼氏と両想いだったのが判明してそれで悩みが吹き飛んで、勢いでエッチして、今もよく彼氏とイチャイチャしてるとか話した瞬間に純粋無垢な山田先生は卒倒する。

 

「で、でも私のはあまり参考にならないかと…」

「そんなことありません!スランプとかに陥っている時に他人の意見や考えを聞くこともまた大切なんです!」

 

 それとなくやんわりと断ったけどなんか火をつけてしまったのか山田先生の顔がズズズイっと私に迫る。これが私と同じ学年の子ならまだしも相手は先生だからなぁ……。

 

「山田先生、少しいいかしら?」

「あ、はい」

 

 そこへフランシィ先生がやってきて山田先生に声をかける。これを好機と見た私が取った行動は1つだ。

 

「ではこれで失礼します」

「あっ、じゃあまた〜」

 

 山田先生にお辞儀をしてその場から立ち去る。うん、多分これが正解。

 

 

 

 

 夏休み、学園生活から開放された私が秋くんに会う日は当然多くなった。

 海に行って、山に行って、街へ繰り出して、とにかく色んな体験をしたし、会えなかった空白の日々を埋めるように互いに激しく求め合い愛を育んだ。

 

 2学期になってからは<天照>の開発も佳境を迎え、残りの調整は学園内の秘密ハンガーで行うことが多くなって成田工房へ足を運ぶ機会は少なくなった。私自身学園祭などの準備に追われたりして、しばらく秋くんと会えない日々が続いた。

 そして秋の学年別トーナメントのおよそ1週間前、ついに南井先生の悲願だった<天照>が完成した。しかし私と秋くんはその場には居なかった。

 

「秋くん……」

「清香……」

 

秋くんに会うのは2学期に入ってからは今日が初、つまり1か月ぶりに彼の顔を見たことになる。そしてその間私はずっと欲求不満の状態になり、ルームメイトから大丈夫かと心配させられたりした。

 それは彼も同じだった。私を部屋に連れ込んでドアの鍵を閉めるとベッドへ私を押し倒して蹂躙するような激しいディープキスが私の唇を襲った。

 

「なんか、今日の秋くんすごい」

「僕もずっと我慢してきたから……そろそろ、いい?」

 

 1か月ぶりの再会で、もうとっくに理性の糸なんて切れている。私がゆっくりと首を縦に振り、お互いに着ていた服を脱いで生まれたままの姿で抱擁を交わす。布団に包まり、彼に主導権を握られたまま1か月間の我慢を吐き出すように激しい一夜が幕を開けて——

 

 

 

 

 

 

 

 

 学年別トーナメント。私は<天照>に乗り込み、数週間前から学園に客員として招かれている緑葉さん、龍驤さん、藤川さん、<天照>の開発に尽力していた南井先生、そしていつの間にかひょっこりと開発に協力していた本音ちゃんと共に飛び入り参加という名の強襲をかけた。

 

「相川さん、機体の調子はどう?」

「良好です。ところで緑葉さんの機体ってどこの会社が作ったやつなんですか?」

 

 カラーリングは緑、<打鉄>とはまた違ったフォルムをしている見慣れない機体に緑葉さんは身体を預ける。

 

「鶴屋が作り上げた新型ってのは聞いた」

「へぇ、ていうか緑葉さんIS乗れたんですね」

「え?まぁー言ってもシミュレーションと実機で少しだけだから練度は相川さん達より劣るよ」

 

 という内容の会話をしていたことを思い出しながら緑葉さんの戦いっぷりを横目で見ていた私の気持ちはもう複雑なものだった。

 

 そして結果敗北。最初のうちは一夏君を圧倒していたけど、私がつい彼の挑発にノッた結果戦況は逆転、最後は気絶という呆気ない幕切れに終わった。私を回収してくれた緑葉さんには感謝しかなかったけど、その緑葉さんが後でとんでもないことを引き起こすんだから人生って面白い。

 

 その日の晩には自分自身の意向で私が<天照>の搭乗者だとカミングアウトした。想像してたより概ね好意的に受け入れられた私はあっという間にクラスメイト達の質問攻めにあった。

 そんな時、食堂にやってきた織斑先生によって南井先生共々一夏君達専用機持ちの前に連行され、南井先生、食事の最中だった緑葉さん達と共に事の顛末を話した。

 

 私達と戦った一夏君達専用機持ち、織斑先生や山田先生、他のクラスメイト達に語っていると、次の瞬間緑葉さんが私の地雷を踏み抜いた。

 

「それにしてもさぁ、まさかねぇ、相川さんが彼とねぇ……。あっ」

 

 その一言で周りの人達の間に一斉にどよめきが起こる。緑葉さんもヤバい、と思ったのか瞬時に口を塞ぐ、が遅かった。

 

「今何かとっても重要なワードが飛び出した気がする!」

「彼!?今彼って言った!?間違いなく彼って言った!間違いようがない!」

「どういうことかじっくり吐いてもらおうじゃないの清香ちゃん!」

「きよひー有名人〜」

 

 たちまちみんなの話題は<天照>ではなく完全にそちらへシフトしていた。織斑先生は盛大な溜め息をつき、山田先生は山田先生で静かにして下さいと言っているがその目は続きの台詞を望んでいるし。

 

「ふ〜ん、なるほどねぇ〜」

 

 一夏君達の場合は困惑が優っていたが、鈴さんだけはニヤニヤ笑っていた。イヤだなぁあの笑み、絶対わかってるやつじゃん。

 というかそれ以前の問題がある。え?いた?緑葉さんが?あの場に?確かに緑葉さんが作業場に行かずにずっと1階の和室でお酒呑んで源一郎さんと話に興じていたって後から龍驤さんに聞いたけど……

 

 そんなわけないですよね?と望みをかけて私は恐る恐る緑葉さんの方へと涙目になった瞳を向ける。が、私の視線に気付いた緑葉さんは気まずげに目を逸らした。ハイ確定、私死んだ。

 え?もしかしなくても聞かれちゃった?というか廊下に音漏れてた?私の嬌声が、激しくまぐわうたびに起こるベッドの軋む音が。

 

「これは取り調べしないといけないわね!」

「なんなら緑葉さん、もっと切りこんでもいいんですよ!?」

「緑葉君キミどう落とし前つける気だいコレ!」

 

 段々と収拾がつかなくなってきてしまっていた。つい口を滑らせてしまった緑葉さんを始めとした先生ら大人達が同級生らを諌めている。普段ならここで怒号を飛ばすであろう織斑先生も、内容が内容なだけに「忘れろ」とか「とっとと部屋に戻れ」とかやんわりと諌めている。

 

 ふと、私の気持ちの奥底に眠っていたある思いがふつふつと浮かんでくる。

 

 もし、ここで私と秋くんの関係を言ったらどうなるんだろう、と。

 純粋な興味から湧いて出たほぼいい方向へ転がる望みのない博打。だけど、だけど伝えたいみたい、伝えてやりたい。この場にいる全ての人に自慢してやりたい。愛しい秋くんのこと。優しい彼のこと。

 そんな想いが口元までこみ上げていた時、1人のクラスメイトの言葉が耳に入る。

 

「ひょっとして付き合っt」

「お前達いい加減にしろ!相川が嫌がっているのがわから——」

「付き合ってるもん!!」

『!?』

 

 織斑先生が飛ばしかけた怒号を遮り私は持てる力を振り絞りつい叫んでしまった。やってしまったと思っても、もう自分では止められる気がしなかった。

 

「秋くんには…一目惚れで…!ずっと、ずっと想いを伝えられないで…!両想いだって分かった時は嬉しくて…!!

いっぱいお話もしたし!いっぱい一緒に遊んだ!!それに…それに…っ!

 

 

 

 

いっぱいいーっぱい愛し合ったもん!!」

 

 勢い任せに言葉を出し尽くちゃって、なんだか息も絶え絶えになってしまって身体がガクリと項垂れてしまう。でも、なんか心なしか気が楽になったかも…

 

 ……でもあれ、今私すごい恥ずかしいこと暴露した気がする。

 「あ…」と恐る恐る顔を上げると、皆どんなリアクションをしていいのか分からないといった表情をしていた。あぁ、これは本当に私死んだかもしれない。というかもういよいよもって死にたい。穴があったら入りたいってよく言うけどこういうことなんだね。

 

「あーー、えーー、その〜。と、まぁその後学園内でも調整を続けられた<天照>は今日行われた学年別トーナメントで初陣を飾ったわけです。ハイ」

 

 ものすごく気まずい雰囲気の中緑葉さんは強引に話を終わらせる。質問は、って言ってもこの状況で質問を投げかける子なんているはずもなく、ただただし〜んとした空気だけが流れる。

 

「あの……その…、えっと…」

「相川」

「はい…」

 

 私がオドオドと周りの人達の様子を見ていると織斑先生が話しかけてきた。あぁ、これは確実に怒られるやつ。絶対出席簿アタックが飛んでくるやつ。

 でも正直、ここで話の流れを変えてもらって私はさっさと逃げるように布団に潜り込みたかった。

 そんな私を見て、織斑先生はただ一言、シンプルな案件を告げた。ものすごい清々しい笑みを浮かべながら。

 

「避妊は怠るんじゃないぞ」

「〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ!!!!」

 

 織斑先生、この場でそれはあんまりです…

 




「絶対織斑先生はあの状況楽しんでたと思うで」

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