あの一連の騒動の後、ある意味学園公認のカップルになった私と秋くんはこれまで以上にオープンな雰囲気になった。
以前は人前ではよそよそしい感じだったけど今では手を繋いだり抱きついたり抱きつかれたりなんてのは当たり前。後で秋くんに話を聞いたら、曾祖父である源一郎さんには気付かれていたらしい。
「ごめんね、待った?」
「ううん、僕も今来たところだし。じゃ、行こっか」
「うんっ」
そして今日は秋くんと久しぶりのデート。ベタなやりとりを交わしながら私は自然と笑顔を浮かべながら秋くんと手を繋ぐ。
今日のデート場所は大型複合ショッピングモールのレゾナンス。雑貨から一流ブランドまでを網羅しており、ここに無かったらどこにもない、と言われるほどの品揃えを誇っている。それ故デートスポットとしても定番なほど知名度が高く、周りに目を向けるとそこかしこにカップルの姿が見える。
「な、なんか変に緊張しちゃうね」
彼の手を握りしめると彼もまた私の手を強く握りしめる。ふと秋くんの顔を見ると、その頬はほのかに紅い。
「大丈夫、その…僕もだから」
傍目から見たらかなり初々しいやりとりだからか、数組のカップルの視線を引き、近くにいたマダム的要素を放つおばちゃん軍団は私達を見ながら
「あら、いいわね〜」
「蘇るわね〜、アタシも昔、あんな青春があったわ」
「大野さん、貴女はずっとオトコ食ってきてたでしょ」
「あらやだぁもぉ!榊原さんったらぁん!オホホホホホホホ」
とか言ってるし。なんだか急に恥ずかしくなった私が「い…行こっか」と言うと秋くんもこくりと頷いた。
「手…繋いでるな」
「手…繋いでやがるな」
「ねぇ…なんであたしこんなことしなきゃいけないわけ?」
「バッカお前そこはアレだろ、手繋いでるわねとか言って繋げるパターンだろ」
「いや知らないわよそんなテンプレ」
手を繋ぎながらレゾナンスに入っていく相川と秋の姿を見つめる3人の男女。五反田弾はまじまじと2人の姿を見つめ、御手洗数馬は忌々しげに目を血走らせ、鈴は弾と数馬の様子に呆れ果てていた。正確に言えば数馬にだが。
この3人と一夏の4人組は中学時代の同級生だ。鈴が中国に帰るまでの2年間、この4人と弾の妹である蘭とはよくつるんで遊んでいたし、カラオケやゲーセンなどしょっちゅうだった。鈴と一夏がIS学園、弾と数馬が藍越学園に進学し、この5人で会える機会はめっきり減ってしまったが、今でもたまに会っては他愛もない会話をしたり楽しんでいる。
鈴自身も久しぶりに会う悪友とのなんてことはない会話は昔を思い出せて楽しいが、今日はその限りではない。
ハァ、と鈴は植木鉢の隅から顔を出している数馬を見やる。
「他人の恋仲にまで茶々をかけるとか、随分見ないうちに堕ちるところまで堕ちたわね」
「フッ、お前にだけは言われたくないな」
「何か言った?」
「イエナンデモナイデス、スイマセンシタ」
鈴が睨み返すと数馬はその迫力に怖気づいて顔を背ける。
そもそも鈴が呼ばれた理由だが、秋の彼女が相川だから、というのが大きい。
それとなく鈴が弾に秋との関係性を聞いてみる。なんでも弾と数馬、秋は共に藍越学園に通っていて、しかも同じクラスなんだとか。
1学期が始まった直後、温厚で引っ込み思案な性格が災いしてか、なかなか会話に入れずにいた秋に弾と数馬が話しかけたのが交流の始まり。5月の終わりくらいになると秋は弾と数馬とは話せるようになっていたが、他のクラスメイトとはなかなか交流が上手くいかず、弾もなんとかしなくちゃなぁと思っていたそう。
そんな時、ある時期を境に秋の心境に変化が起こる。引っ込み思案だった面が段々と無くなり、弾達がサポートする間もなく秋は徐々にクラスメイトや他のクラスの子達とも打ち解けていった。その変化ぶりに弾と数馬は大層驚いたそう。彼らは知らなかったが、この『ある時期』というのがまさに相川と結ばれ晴れて交際を始めた時期で、秋が引っ込み思案から脱却していた時同じくして相川もまたスランプから抜け出していた。
夏休みに入ると秋と遊べる機会が少なくなってしまう。そんなある時数馬が
「秋が女の子と歩いてるのを見た!」
と叫びながら弾の家までやってきた。余談だが、弾の家は食堂を営んでいて、鈴や一夏もお世話になったこともある。この時数馬は弾の祖父である厳から「店の中では静かにしやがれ!」と厨房からおたまを顔面に投げつけられるというありがたい一撃を食らった。
その女の子の特徴を事細かに説明した数馬は間違いなく秋の彼女だ!と声高に主張したが弾と秋の話を兄から聞いていた蘭は懐疑的であった。
夏休みなんだし、こっちに遊びにきてる親戚の子かもしれねーぞ、と弾が言うと数馬は「それはそれでいいじゃねーか!」とかよく分からないことを言っていた。
結局決定打が見つけられないまま2学期に突入。弾と蘭がIS学園の学園祭に招待された時、弾が鈴と話をしている時、自然と新しくできた友人である秋の話に移行した。そして夏休みの出来事を話した時、相槌を打っていた鈴がこんなことを口にした。
「似たような子、知ってるわよ。てか多分ここの子よ」
それを聞いた弾の衝撃たるや。学園祭を満喫している中で鈴の言っていた子とすれ違ったが、数馬の言っていた特徴とまさに合致しておりその子でほぼ確定だった。そして弾は数馬の女の子を見る目に色んな意味で畏怖を覚えた。
数週間経った時、ふと休み時間にそれを思い出した弾がそのことについて数馬に話す。それを聞いた数馬は「問いただしてやる」と昼休みに秋に突撃を遂行。弾と数馬の襲来に幸せそうな表情を浮かべながらチャットを楽しんでいた秋はあたふた慌てて携帯を隠したが、その判断は不正解であった。
「今隠したケータイを見せてもらおうか!」
「やめっ、やめてってば!違うから!別にそーゆーのじゃ…!」
「何が違うってんだ何がそーゆーのじゃないってんだ」
「えっあっ今のは……」
「数馬、あんまり手荒にすんなよ」
「分かってるって。ところで弾君、君は何故俺から距離を置いているんだい?泣くぞ?さすがに泣いちゃうぞ?」
揉みくちゃになっている秋と数馬から一歩距離を置いたところで弾は2人の様子を見る。
この御手洗数馬という男は所謂イケメンに属されるが、女子に対するモテたいという願望丸出しで、それが悉く空回りしているという残念っぷりが全面に押し出されているからかなかなか恵まれない。ある意味自業自得であるが。
「いーから見せるだけでいいんだ、よっ!」
「あっ!?」
数馬が秋の身体を揺さぶるとスポーンと勢いよく携帯が飛び出し、地面を転がる。地面を転がった携帯はそのまま弾の足元にまで辿り着いた。
「よくやった弾!今だ!拾え!」
「お、おう」
数馬に言われるまま弾は秋の携帯を拾う。
「あぁ…」と悲痛な声を上げる秋に同情しながら弾は携帯の画面を見た。
『相:今度のデート楽しみだね!(*≧∀≦)』
【秋:はりきりすぎだよ笑】
『相:楽しみなものは楽しみなんだからいいじゃないですか( *´艸`)』
『相:いっぱいいっぱい見て回ろうねっ』
【秋:すごい気合の入れっぷりw】
【秋:僕も久しぶりに会えるの楽しみだよ】
『相:(*/ω\*)キャー!!』
「………………とりあえず、返すな」
何も見なかった。弾は瞼を閉じて携帯を秋に返す。「なんだ!?なんて書いてあるんだ!見せろ弾!」と数馬は秋に馬乗りになりながらチャットを見た。
「クソがぁああああ!!!!」
その日のお昼休み、人一倍甲高い数馬の叫びが藍越学園に響き渡った。そして放課後、数馬は職員室に呼び出された。
「前半いい奴じゃないと思ったあたしの気持ち返しなさい」
「俺じゃなくて数馬に言ってくれ」
説明を聞き終えた鈴が溜め息をつく。
デートするという情報を偶然掴んだ数馬はそっとしとけと言う弾を連れて尾行することにした。鈴を連れてきたのは、秋の彼女である相川がIS学園の子で、鈴なら何かあの子のことについて知っているんじゃないか、あと俺達にIS学園の女の子紹介してくれるんじゃないと淡い期待を抱いて連れてきたのだ。
だが生憎、鈴は同級生を弾や数馬に紹介する気はないし、そもそも体育祭で色々あって1組に簪と共に編入されるまで相川とはクラスが違っていたから彼女のことについては殆ど知らない。会っても1組と2組で合同で行う実技の時だけだ。
「言っとくけど、あたしは別にアンタ達に手貸す気はないからね。バレたら面倒なことになるし」
「へっ、一夏へ絶賛片道一方通行の鈴さんがよく言うぜ」
「何?」
「ナンデモナイデス」
再びギロリと睨まれた数馬は背筋を正す。
「ところで数馬」
「なんだよ」
「もうとっくに居なくなってっけど」
「ふぁっ!?」
慌てて数馬が先程まで秋と相川がいた場所へ目をやると、もうすでにそこから2人の姿は消えていた。
鈴が今までどこを見ていたのよと呆れていると数馬は勢いよく植木鉢の隅から立ち上がる。
「クソッ俺としたことが!そう遠くには行ってないはずだ!行くぜ!」
「お、おう!」
そう言って走り出した数馬の後を追いかけるようにして弾も走り出し、鈴が本日3度目の溜め息をつきながらその後に続いた。
「めっちゃ感動するねこの品揃え」
「ソースだけでこの種類売ってる店関東だと殆どないで」
「当たり前のように業務用のやつが積み重なってる件について」
レゾナンスの一角にあるスーパーで緑葉と龍驤はその品揃えの濃さに感動していた。
メジャーなものからマニアックな地方や海外の食材までなんでもござれだ。ドリアンとかシュールストレミングとかあるんだよやべーよ。ソースなんて大阪のソース専門店並みの層の厚さを誇っている。普通のショッピングモールに内接されているスーパーじゃまず売ってないであろう業務用に使われる缶の容器がエグいくらいに積まれている。
そもそもの発端としては、IS学園にやってきた初日に『1か月立て篭れるように』買い置きしていた食材や飲み物が底を尽きたのがキッカケだ。その際に折角なら他にも見て回りたいと龍驤が言ってきたが、緑葉も龍驤もこの辺りの土地勘がない。知ってる場所といえばそれこそ初日に食料を調達したスーパーくらい。
どこか纏まった買い物が出来る場所がないかと学園にいる人に訊ねてみたら10人中10人が
「それならレゾナンスに行くといい」
と口を揃えて言ってきた。
緑葉自身、レゾナンスの存在や概要は知っていたし、機会があれば1度行ってみたいとも思っていたが、なかなかそういう用事が出来ないしそもそも気が付いたら忘れてる。そしてその日の夜に調べてみたらなんとすぐ近くにあることが発覚。そういえば学園の生徒がレゾナンスに行こうとか言ってた気がする。学園にきておよそ2週間、今更すぎる発見である。
そうと決まれば、という具合で今日レゾナンスにきてみたわけだが、なんというか想像以上であった。何から何まで桁違いというかありとあらゆる客層を逃さない、という気合が垣間見えるレベルだ。
『レゾナンスになければ他の場所にはない』とはよく言うが本当にそうである。ここになかったらよほどの店じゃない限り恐らく他にはない。
コーラだけでも10種類以上はある飲み物コーナーを物色していると、不意に自分達の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「緑葉さん!龍驤さん!」
「あれ、シャルロットさん」
「と、セシリアちゃんやないか」
「奇遇ですわね。緑葉さん達もお買い物で?」
「そうやで、以前買ったのが底尽きてな」
「そういえばそんなこと言ってましたね」
そこにはカートを押しているシャルロットとセシリアの姿が。聞いてみたら今日はショッピングだけでなく主に新幹線の中で食べる軽食などの調達にきたとのこと。
新幹線?と首を捻った緑葉は『京都修学旅行予定地 視察 参加者 専用機持ち生徒ならび一部教員』の文字列を思い出し「成る程ね」と納得の表情を浮かべた。
お菓子コーナーは先程見て回ったがまぁ種類が尋常じゃなかった。
近くに位置するIS学園が国際的な場所でそれを意識してのことなのか、とにかく古今東西ありとあらゆる世界中のお菓子がバーっと棚に陳列されていたのは呆気をとられた。オマケに駄菓子なんかも抜かりなしなのかスーパーにこじんまりと設置されてるやつとは比較にならないほどのバリエーションの多さと規模を誇っていた。
見てみるとシャルロットが押すカートに乗せられたカゴには様々なお菓子や飲み物などが入っていた。まぁこっちもだけど。
「でもこんな荷物いっぱいやと他見て回るの大変やな」
「あ、大丈夫ですよ。住所と名前を書いたら買った商品をレゾナンスの方が家まで届けてくれるので」
「「マジで?」」
レゾナンスすげぇ。だからさっきからそんなに買って大丈夫なの?と心配になるような買い方をする人がいるわけか。
レゾナンスの周りにあるコンビニはみな1年保たず潰れるなんて都市伝説聞いたことあるが強ちホントかもしれない。まぁ実際は夜10時には閉まるレゾナンスと比べてコンビニは単品を買いやすいし行きやすいし、24時間営業というのもありそれなりの需要はある。
でもこのレゾナンス、すぐそこの駅と直結してるんでっせ、エグくない?
「良ければ緑葉さん達も一緒に回りませんか?」
「おお、ええんか」
「うん!みんなで見て回った方が楽しいし」
セシリアが微笑みながらそう誘うのなら、乗らない手はない。緑葉と龍驤はカートを押してセシリアとシャルロットの後をついていった。