緑葉・龍驤 フードコート(セシリア達と行動中)
セシリア・シャルロット フードコート(緑葉達と行動中)
ラウラ・簪 TSU◯AYA
箒・鈴 1階中央通路(一夏達とは離れている)
一夏・弾・数馬 1階中央通路
相川・秋 1階中央通路
ちなみに鈴は弾らとはぐれて洋服店で箒と会うまでの間フードコートで無料の水飲んでました。
「なんですのこれ。具が崩れていますわ」
「あーよくあるやつやな」
「セシリアは運が悪かったね」
「それ言うならみんなそうだけどね」
フードコートにてセシリア・シャルロットと行動を共にする緑葉・龍驤は軽い軽食を摂っている最中であった。
軽食はシャルロットが食べてみたいとリクエストした◯ックのセットを頼んだ。ハンバーガーに馴染みの薄いセシリアは四苦八苦しながら頬張っているがその表情はどこか不満げ。
というのもセシリアの食べているハンバーガーだが、練度の足りていないバイトの子が作ったのか具材がだいぶ崩れてしまいごちゃごちゃになってしまっている。緑葉と龍驤、シャルロットのハンバーガーもまた同じような有様である。
友人から聞いた話だが、こういったところだと割とよくある話らしい。上手い人は本当に上手く具材を乗せられるらしいが下手な人はとことん下手。
緑葉にそのことを語ってくれたその友人もまた◯ックでバイトの経験があり、なんでも20連勤とかしたり店舗に寝袋持ってきて泊まり込んだこともあるのだとか。
「セシリアさんってこういうフードコートみたいなとこで食べたことあるの?」
紙ナプキンで口元を拭っているセシリアへ緑葉が訊ねる。
「あまりございませんわ。それこそこちらに来てから皆さんに誘われてですので、イギリスでは1度もありませんでした」
「となるとこれ初◯ック?」
「いえ、夏頃ショッピングをした際に1度だけここで」
「確かその時はラウラが言い出したんだよね。行ってみたいって」
「ちなみにシャルロットちゃんはなんで今日ここリクエストしたんや?」
「ポテトが気に入っちゃって…」
「わかる。定期的に食べたくなるよねこのポテトは」
はははと照れながらポテトを摘むシャルロットに緑葉と龍驤はうんうんと頷き同意。
「あんまり食べすぎると太っちゃうから気をつけなアカンなぁ」
「なかなかキツいですね」
「そーなの?別にそこまで気にするアレじゃ…」
「ナツは太りにくい体質やからそーゆーの言えんねん!なぁナツや!」
「え?あ、あぁうん」
いいな〜、とシャルロットが羨望の眼差しで緑葉を見つめる。もっとも緑葉の場合は男性目線から言った台詞であり、龍驤もそれは言い方で分かった。
「気ぃつけや。いつかボロ出るで」
「大丈夫だと思うけど…」
「バレたら色々説明めんどいやろ。それにこの手の話題は女の子にとっちゃヒッジョーにデリケートやねん。ナツも今は女の子なんやから察する努力せえ」
「うーん、まぁ出来る限り善処はする」
身を屈んでヒソヒソ声で会話をする緑葉と龍驤の前に、シャルロットとセシリアは頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
「やっと見つけたぞ」
小物店で雑貨を見て回り、次はどこに行こうかと話していた私と秋くんの後ろから突然そんな声が聞こえてきた。
声がした方向へ振り向くとそこにはだいぶ走り回っていたのか息も絶え絶えになりながら肩で息をしている男性が、外見から見て多分私達と同年代かな。
「数馬君?」
知っている人なのか、秋くんは目の前にいる男性へ声をかけた。
「知ってる人?」
「うん。僕が通ってる学校のクラスメイトの数馬君なんだけど、なんでここに?」
数馬君と呼ばれた男性に秋くんがそう訊ねると、バッグの中からミネラルウォーターを取り出しそれをあおる。半分くらい飲んだところで口を放すとこう叫んだ。
「なんでここにいるのかって?それはお前が原因だぁ!さぁ今日という今日は説明してもらうぞ!お前のそばに居る可愛い女の子との関係を!!」
「「ハァ!?」」
思わず私と秋くんは全く同じリアクションをとり素っ頓狂な声を上げてしまう。
いやいやなんで?なんでいちいちそんなことを他人の男子高校生に説明しなきゃならないの?私としてはなんのメリットもないから絶対にイヤなんだけど。
「ちょっと待ってよ!なんで数馬君に説明しなくちゃならないわけ!?」
「へっ、友達として気になるだろ?」
「……本音は?」
「だって悔しいじゃねえかよぉおお!!なんだって1番影が薄いお前にかっかの、彼女なんてよぉ!」
改めて他人から彼女とか言われるとドキッとして意識してしまうが、すぐに気をとりなおし眼前の数馬君を見つめる。
その数馬君は色々理由を述べている最中らしいが、まぁおおよそからかいとか嫉妬とかが吐露されている。
「それにな、今回は俺1人じゃないぞ!さぁこい!俺の頼れる仲間達よ!」
数馬君が大仰に手を広げたら、柱の影から2人の男性が登場するが、その足取りは心なしか重い。
「なぁ、せめて他の場所でやろうぜ。めちゃくちゃ人の目引いてるんだけど」
「俺無実じゃん、帰らせろよ…」
バンダナをつけ、まさに紅蓮と呼べるような真っ赤な髪が目を引く男Aの方は周囲に目をやりながら大層気まずそうに言う。
男Bの方はそもそもやりたくないらしい。だけど2人ともあちら側の人物なら注意すべき対象だ。特に男Bは。
「…………織斑君?」
自分でも気づかないうちに、抑揚を抑え絶対零度のような声色で彼の名を呼ぶと、織斑君は思わずギョッと後ずさる。「彼が?」と秋くんが聞いてきて、私は黙って頷いた。
「なんで織斑君がいるの?」
「いや待て相川さん、とりあえず事情を…」
「こう見えて俺と一夏、弾とは昔からのマブダチでね。こうして俺の頼みに駆けつけてくれたってわけだ」
「ばかおまっ、ふざけんなちちちっ、違うぞ相川さん!俺は強制的に参加させられただけだ!ある意味俺も被害者だ!」
「ふーん」
私の目が笑っていないことに気付いた織斑君は慌てて弁明を図る。
…………なんか最近、秋くんが愛おしいばかりに段々とヤンデレ化が進んでる気がしてならない。私としてはヤンデレ化上等って思っちゃってるけど、度が過ぎるといけない。
反省の意味を含めて1回深呼吸。うん、多分大丈夫。
「とにかく僕が君達に言うことは何もないよ!」
「まだ言うか!さぁ吐いてもらおうじゃないか!それはもうタップリと!」
秋くんの正論を意に返さず数馬君はジリジリと私達に近づいてくる。他2人も一応の体裁だけは保つつもりなのかこっちに近づいてくる。織斑君ほとんど動いてないけど。
このまま捕まったら絶対ロクなことにならない。そう感じた私は秋くんの手をとった。
「走って!」
「えっ?うわっ!?」
次の瞬間には秋くんの手をとりながら全力疾走に入る私がいた。背後から「あっおい待てコラ!」という叫び声が聞こえたが知らんぷり。私と秋くんは2階へ続くエスカレーターを駆け上がった。
「あっおい待てコラ!弾!一夏!俺達も続くぞ!」
そう言っている時にはすでに数馬は相川と秋を追いかけて走り出していた。失敗するなという確信はあったが清々しさすら感じる断固とした拒否っぷりだった。むしろあの反応が当たり前なのだが。
「こうなったらやるしかねえな!」
「知らねえ!俺もう知らねえ!」
相川と秋を追いかける数馬を追うために弾と共に一夏も走り出す。だから絶対ロクなことにならないと感じたのだ。そしてそれは今回も当たった。
半分ヤケクソな状態で駆け出した一夏の背後数メートルのところにある柱からそんな彼の様子を見る女性の姿が2つ。鈴と箒だ。
「一夏は一体何をしているのだ?」
「あたし達もいくわよ!」
「おっおい待て鈴!」
事情を説明される時間がなかったため、何がなんだかよく状況を把握できていない箒だったが、困惑している間にも鈴は既に駆け出している。
箒もそんな鈴と更に前を行く一夏を追うために走り出すが、更にその数メートル後ろの通路でその様子を偶然見つけた者がいた。結局お互い目当てのDVDが見つけられず意気消沈していたラウラと簪である。
「む?あれは篠ノ之と凰か?」
「誰かを追ってる…?」
「なるほど、つまりは隠密任務か」
遠からずとも正解である。しかしラウラは鈴と箒が走り出したのを見るや否やその表情が変わる。
「しかしダメだな、まるでなっていない」
「え…?」
どうやらラウラは鈴と箒の動きに不満があるらしい。
「ここは私が1つアイツらに隠密任務がなんたるかを教えてやるしかないな。ついてこい簪軍曹。貴様にも尾行の基礎というのを教えてやる」
すっかりその気になったラウラは鈴と箒の後を追い始める。ただ走るのではなく、どちらかというと早歩きである。
「や、やー」とぎこちない敬礼を見せた簪に一瞥したラウラに倣って、簪もまた早歩きでの尾行を始めた。
場所は変わってフードコート。相川と秋が逃走を開始し、それを追いかける数馬達らの後を追う鈴と箒と、更に彼女達を尾行するラウラと簪というカオスな光景が1階で出来上がった中、3階にあるフードコートの一角でもまたカオスな光景が出来上がっていた。
「それにしても緑葉さんだいぶ食べるよね」
若干引き攣った笑みを見せながらシャルロットが緑葉のもとに並べられた食材を見る。セシリアもまたそんな緑葉に引いている。
先程ハンバーガーとポテトを食らった緑葉が次に持ってきたのはたこ焼き。そしてそれも食らった3番目に持ってきたのはデザートのつもりなのか某アイスクリームチェーン店のアイスだ。それも3つ乗ってるやつ。
「ナツの食い意地には毎度びっくりさせられるわ」
「君だってちゃっかりアイス食べてるじゃない」
「スイーツは別腹って言葉あるやろ?」
「うん」
「あれと同じや」
そう締めた龍驤は2段に積み重なったアイスが崩れないように慎重に口に運んでいく。
ドン引きしているシャルロットの横ではセシリアが数枚の写真を眺めていた。
「これ全て緑葉さんがお撮りになりましたの?」
「そうそう」
セシリアが眺めている写真は緑葉が撮影して現像した写真の一部だ。だけどこの写真群には1つの特徴がある。全部競馬が関連している写真という点だ。
「お好きだと言うのは以前少し聞きましたがまぁ相当な……」
「今住んでる家から結構近い場所にあるから、開催日はほとんど毎週行ってる」
「ナツは常々言うとるんよ。『競馬は人生』ってな」
「側から聞けばその、ギャンブル中毒者のそれですよね」
そう言われた緑葉と龍驤は高笑いを見せる一方で、セシリアやシャルロットは緑葉が撮影した写真をまじまじと眺めている。
レースの写真は勿論、激戦から帰ってきた馬を労う厩務員の姿。どう乗ればいいかと作戦会議を開く騎手と調教師の姿。ホースから出る水を勢いよく馬体にかけられ気持ち良さげにしている馬の姿など、実に多様なシーンが捉えられている。
「意外と奥が深いものですわね」
「セシリアさんもいつか馬持って走らせたらいいさ。競馬は貴族の嗜みってよく言うし」
「ふふ、考えておきますわ」
満更でもなさげなセシリアに緑葉がニカッと笑みを見せる。
ちなみに本場イギリスではダービーやキングジョージなどが行われる有名な平地競走よりも障害競走の方が庶民からの人気が高い。
『平地は主に貴族などにあるレースで、障害は庶民のためのレース』とはよく聞くがまさに売り上げがそれを示している。
「ナツは1度語り出すと中々止まらんで」
龍驤の忠告通り、さぁまだまだと意気込んでいた緑葉だったが、突然話をやめ、あらぬ方向へと目を向ける。
突然話をやめた緑葉に訝しむ龍驤にセシリア、シャルロットもまた緑葉が見つめる方向を見やる。目を向けた方向には2人組の男女が何かから逃げるように走っている。
「アレ?相川さんだ」
その男女の女性の方はクラスメイトである相川であった。その相川と男の子は固く手を繋いでいるがそこにプラトニックな雰囲気は微塵も無い。
「何しとるんやろ。走ったら危ないで」
「男の子の方は例の彼氏かな?おおうやるねー」
「この時間帯やしデートしててもなんの不思議もないやろ」
彼氏、デートというワードに思わずシャルロットとセシリアはドキッと胸の高まりを感じ改めて相川を見る。
相川は活発なスポーツ少女だが、彼女が連れてる男の子はどちらかというと相川が口を滑らせた通り優しそうな、大人しげで文系という雰囲気がある。
それに比べて我々は、とセシリアとシャルロットは項垂れる。
彼女らも恋する乙女。一夏への想いは本物だが彼の異常なほどの朴念仁とヒロインズの遠回しなアプローチが悪循環を生んでいた。
しかしそれとこれはまた別である。セシリアは席を立ち上がると、相川らが走り去っていった方向へと歩き出した。
「何が起きているかは分かりませんが、あの様子ではとても困ったことが起きているのでしょう。なら手を差し伸べるのが、高貴な者の義務でありましょう?」
本来の意味合いとは少し違うかもしれないが、困っている相川らを助けようするセシリアの心意気は紛れもなく本心であろう。
「なら僕もいくよ。もっとも力になれるか分からないけど」
苦笑いを見せながらシャルロットもセシリアに続く。
一方、緑葉としても龍驤としても1組のカップルに対し最大限の配慮と陰ながらの応援をしていくつもりなのだが、セシリアらに続いて席を立てない事情があった。
「龍驤、袋もってきてくれない?」
たこ焼きの容器を持ちながら、緑葉は苦笑した。
緑葉ナツという人物にとって私が入れたかった個性が『大の競馬好き』なので少し言及しました。作者のツイッターを見ればアレですが緑葉の競馬好きはまさに作者から来ています。
そしてセシリアもまた英国貴族、緑葉の見立て通りニューマーケットの地で馬を走らせることになるかも知れませんね