突然だが、IS学園には個性的な子が多いと思う。
緑葉がこのことに気付いたのは学園にきたばかりの時だが、改めて思い返してみる。
世界唯一ISを動かせる男性操縦者である織斑一夏はもちろんそうなのだが、セシリアに鈴、ラウラやシャルロット、箒に更識姉妹と俗に言うヒロインズの面々なんてまさにそうだ。そして生徒の交流を深めていくうちに分かったのが、所謂モブに隠れがちな子もまた個性的な生徒ばかりであったこと。
筆頭に挙げるとすればのほほんさんこと本音だろう、語るべくもない。
真面目なくせして小粋なジョークが好きな鷹月、自称7月のサマーデビル谷本にウザキャラ岸原、山岳部に所属し何故か怖い話が好評を博している如月キサラなどなど。夜竹さゆかのように特徴のない普通の子もいるが比率で言えば普通じゃない子の方が多い。
やはり各国から選りすぐられた(学園に在籍する半分は日本人だが)才色兼備なエリートJKだと変人が多いのかもしれない。
今回ご紹介する2人の生徒も、そんな子達である。
「なんの騒ぎだ」
「あ、織斑先生」
休み時間、廊下を歩いていた千冬は何か言い争いをしている2人の生徒を見つける。千冬に気付いた生徒が状況を説明する。
「私も経緯は分からないんですけど、気が付いたら言い争いを…」
生徒からの報告を聞いた千冬は大層面倒そうに溜め息をつく。そうして近づいていっていつもの出席簿アタックを浴びせた。
「っう……お、織斑先生…」
「何をしている、菱田、和田。状況を教えろ」
「聞いてください織斑先生!和田さんは私の地元をバカにしたんですよ!」
涙目になりながら必死に訴える菱田凛菜は和田楓に指を指す。
「なるほどな、何となく状況は分かったがそれだけでここまでの言い争いになるのか?」
1学期が始まったばかりの頃、セシリアと一夏が戦うことになった一因も互いに自分の祖国を侮辱されてのことだった。だから自分の地元をバカにされての口論も分からなくはないが、いささかヒートアップしすぎている。
「あんた達、地元どこなのよ」
騒ぎを遠巻きから眺めていた鈴が菱田と和田に聞くと両者は一瞬目を合わせるとそっぽを向く。
「大宮」
「浦和」
素っ気なく出された地名に鈴や千冬、周りの生徒はピンとこず首を傾げてしまう。
大宮と浦和が埼玉県なのは関東出身の生徒には分かったが関西や九州などの遠方、他国出身の子には何故それで言い争うのか理解できずにいた。そもそもまずこの2つの場所を知らない子だっている。
「なるほど…大宮と浦和ですか……。合点がいった」
と、そこへ緑葉も合流してきたが、その表情は何か閃いたのか笑みを見せている。
「緑葉、何が分かったのだ?」
「織斑先生、これは戦争ですよ」
「は?」
説明しようっ!大宮と浦和とは、埼玉県さいたま市を形成する区である。
元々この2つの区は大宮市、浦和市と分かれていたのだが2001年に大宮、浦和、与野市が合併。2005年には新たに岩槻市が合併し、現在に至っている!
そして大宮と浦和だが、その腐れ縁というかライバル関係は時たまネタにされ様々な火種を生んできた。某テレビ番組が取り上げて主に埼玉県民を中心に盛り上がったのは記憶に新しい。
例えばサッカー。大宮アルディージャと浦和レッズ、2つのチームが対決するさいたまダービーは地元民を熱狂させているがその背景では毎度仁義なき戦いが繰り広げられている。
その他にも様々な火種は多くあるが、とにかく大宮と浦和は互いにライバル視しているのだ。
「——そんなテンプレみたいなのが今ここで繰り広げられてるわけ?」
「くだらん…………」
鈴は苦笑し、千冬はその理由に呆れて頭を抱えている。
「とにかく菱田さんも和田さんも仲直りして」
「県庁とかいう普段縁のない場所を自慢にしてる人なんてたかが知れてるよ」
「そっちこそ新幹線があるくらいでお高く止まってるんじゃないわよ」
「ちょっと前まで湘南新宿ラインが止まらなかったくせに、新しく浦和に駅できたせいで利便性少し落ちたんだけど?」
「少しでしょー?たかたが2分くらいじゃないのー」
溜め息をついた緑葉はちょいちょいと野次馬の中に紛れていた子に手招きする。手招きされるままに1人の生徒が緑葉に近づく。
「菱田さん和田さんよ。この子の前でいつまでもそんな争いが出来る?」
「え?」
緑葉の傍らに立つ子は大人しめでどう考えてもこの騒ぎを収束できるとは思えない。菱田や和田だけでなく千冬でさえ首を傾げる。
「松山さん、貴女地元どこだっけ?」
「……………………与野」
ガシッ
「ごめんなさい和田さん。私どこか図に乗ってたかも」
「ううん、こっちこそごめんね菱田さん」
「はいこれで一件落着」
『ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!』
菱田と和田が固い握手を交わし、何事もなく締めようとした緑葉へこの場にいた全員から待ったがかかる。
「なんで!?なんであの空気から一転して仲良くなってるの!?」
「おい緑葉、貴様何をした!?」
鈴と千冬がまくし立てる。そんな2人を地理が詳しくないと見た緑葉がニヤニヤ笑う。
「織斑先生、さっき私、さいたま市は計4つの市から構成されてると言いましたよね」
「あぁ」
「その中の1つ、与野市がどこにあるか、ご存知ですか?」
「…………?」
「与野市はね、大宮と浦和に挟まれてたんですよ」
『あっ』
何かに納得したように皆ハッとする。もっとも何に納得したのか問われれば誰も答えられないであろうが。
「まぁとにかくこれで一件落着ですよ。言い争いも収まりましたし」
「ん?あ、あぁ……なんとも腑に落ちんが」
菱田と和田は与野出身の子を囲んで何かを話している。とにかく一件落着で三国同盟みたいな友情ができたのは確かだった。
余談だが、与野には何があるんだと言われたらその時は『さいたまスーパーアリーナ』と答えよう。今でこそ合併してさいたま市だけど合併前は与野市にあったんだヨ。緑葉お姉さんのおかげでまた1つ詳しくなったね。
「せっかく出身地の話題になったから少し聞きたいんだけど、みんなどんなところから来てるの?ホラ、IS学園って色んな国から来てるじゃん」
唐突に緑葉は話題を変え皆に訊ねる。千冬も生徒の出身地に関して書類では見ていたが特に深入りすることはなかったため、正直少し興味があった。
「私カナダ!」
「秋田の大館ってところ!」
「北海道の北の北の北!稚内だよ!」
「北九州!」
「わたくしはイギリスのロンドン郊外、ウィンザーと呼ばれる場所の生まれですわ」
皆一様に出身地を述べていく、ちなみに最後のはセシリアだ。
「やはりこうしていくと日本が多いか…。少し変わった場所から来てるって子はいないの?」
「うーん…それなら畠山さんかな」
「今ここには居ないけど、あの子の実家って秋田の山の中だって」
「なんでもお父さんやおじいちゃんが猟師なんだって〜」
マタギは主に東北や北海道などで狩猟を生業とする者で、普通の猟師とはまた違う価値観を持っていると聞いたことがある。
肝心の畠山本人はいないが、いずれ会ったらマタギの話を聞いてみたいものだ。
「あ、まだいるよ変わったところから子」
「へぇ、どんな場所から?」
「誰だったか忘れたけどバチカン市国から来てるって」
「バチカン市国」
バチカン市国といえば世界一面積が小さい国として知られている、ローマカトリックの総本山。面積なんてそれこそ東京ドーム何個分という話だが、病院などの公共施設が一通り揃っているというから驚きだ。
「他にもシベリアとかから来てる子とか居ますよ。そういう緑葉さんはどこの出身なんですか?」
「私は茨城県の水戸だよ。水戸黄門の水戸」
「あ、じゃあ同じだ」
緑葉の言葉に反応する人物が1人。声がした方へ緑葉が振り向くと、そこには彼もよく知るもはやお馴染みになった相川がいた。彼女も野次馬の1人だったのだろうか。
「相川さん最近出番多くない?」
「え?」
「あ、こっちの話」
忘れろ、と緑葉がポーズを取る。
「それで、私がというかお母さんが水戸の出身なんです。ちなみに私は東京の西側の生まれです」
「へー、これは縁があるね。お母さんはどの辺りに?アクアワールドには?」
「お母さんの実家はジャスコの近くなんです。アクアワールドにもジャスコにもよく行きました」
「ジャスコなら私の実家も近いね。そういえば相川さん知らないのか。あのジャスコもう潰れたよ」
「え、そうなんですか?」
緑葉と相川が話を弾ませていると徐ろに千冬が「んんっ」とわざとらしく咳払いをする。
「いつまで世間話をしているバカ者。授業が始まるぞ」
千冬に言われ時計を見るとあと2分ほどで授業が始まろうとしていた。ちなみに1組の次の授業を受け持つのはここにいる千冬。もし遅刻したら出席簿の嵐が吹き荒れる。
「あっじゃあ緑葉さん!私はこれで!」
足早に相川が教室へと戻っていく。中には走っている生徒も、そんな生徒へ千冬が「走るな、慌てず急いでいけ」とか矛盾を抱えた支離滅裂なことを言っていたが緑葉は聞かなかったことにして退散した。
「私は新潟県です。中心部からは少し離れた田舎なんですけど」
「そういえばしばらく実家には帰ってないわねぇ。私の実家はカナダのバンクーバー郊外なの。長い休み取れたら1度戻ろうかしら」
そんな調子でお昼休み中賑やかに話す真耶とフランシィ。あの後話の内容がどんどん広まり、いつの間にか先生達も地元談議に花を咲かせていた。
月◯から◯ふかしは面白い
そして県民の日スペシャル、また別の県verでもやってみたいです