IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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#31 Rabbit Run

#31 Rabbit Run

 

 

 地面に激突しようとしている恐怖に直面したディアドラは身体を震わせ死の恐怖を実感する。とにかく計器を押しまくったり叩いたりを続ける。

 すると運が良かったのか、機器の1つと叩くと操縦系統が回復。大慌てでバーニアを噴出させ落下スピードを殺したディアドラは間一髪のところで地面に激突することを免れた。

 

「このバカヤロウ!!」

 

 一安心と思った矢先に待っていたのは上官であるイーリスからの叱責。繰り出されたグーパンチを顔面に叩き込まれたディアドラは大きく仰け反る。

 

「お前みたいなバカが単独行動を取ったせいでアタシらも迷惑こうむるってことがなんで解らねえんだ!!スコアばかりにしか目に入らず街への被害もお構いなし、それでも軍人か!!」

「も…申し訳ありません、イーリス曹長」

 

 自分がやった過ちの重大さを感じとり頭を下げるディアドラに対しイーリスは冷めるような眼光を浴びせ、鼻を鳴らす。

 

「まぁいい、お前はもう下がれ。ナタル、クインシーの機体をこっちに回してくれ。ディアドラの援護につける」

『何かあったの?』

「被弾したらしい。これ以上の戦闘は無理だと判断した」

『分かったわ』

 

 それだけ言ったイーリスは複雑そうな表情でディアドラを見つめる緑葉を伴って飛び立っていく。ディアドラはしばらくその場に留まった後、基地の方向へ向け飛んで行った。

 

「…あのグーパンチは本気ではないんでしょう?」

 

 ふと緑葉がそう訊ねると、イーリスは目を瞑った。

 

「ディアドラは優秀なやつだ。優秀なんだがいかんせん出世欲がありすぎるのがたまにキズだ」

 

 出世欲があるのはいいことだ。軍という実力社会だと大きなアドバンテージになる。しかし作戦に対してマイナスに作用することもある、先程の蛮行がそれだ。

 困ったように顔をくしゃくしゃさせるイーリスに、思わず緑葉も苦笑いだ。

 

「例えばクインシーなんてのは……おっと」

 

 世間話に入り込もうとした2人の間を一閃のビームが突き抜ける。

 イーリスと緑葉が前方に目を向けると両手にビームサーベルを握りしめた<ユングフラウ>が仁王立ちしたまま待ち構えていた。

 

「武器は?」

「ヒートホーク1本だけど何か?」

「はっ、分かってるじゃないか」

 

 イーリスと緑葉はそれぞれ得物を展開しアシェリーとの距離を少しずつ詰めていく。アシェリーが持つビームサーベルがブォン、と不気味な音を立てる。

 息を整え、3人はいつでも得物を相手に振るえるように握り直す。

 

「ハァアアアアアアアッ!!!」

「オラァアアアアアア!!!」

「でぇぇぇぇ!………………あ?」

 

 アシェリーとイーリスが怒号を上げお互いへ向け突進していく。緑葉も声を荒げて突撃しようとしたが、突如背中に電撃みたいな感覚が突き抜ける。

 何かマズいと察知した緑葉は機体に急ブレーキをかけ後退する。さっきまでいた場所を銃弾が通過していった。

 

『アシェリー!』

「レイナ隊長!」

 

 現れたのは<ラファール>を駆るレイナだ。レイナはすぐにアシェリーをイーリスから引き離す。

 

「作戦は!?」

「作戦は半分成功半分失敗。撤退するよ」

「は、はい!」

 

 言葉短めに言い終えたレイナは緑葉を一瞥して踵を返すと、全速力で離脱していった。

 

「待て!」

 

 一歩遅れて参上したラウラ達が追おうとするも楯無が止める。

 

「気持ちは分かるけど、これ以上の戦闘行動は無用よ」

「…分かりました」

 

 緑葉とイーリスと合流した楯無達は戦闘の終結を確かめたのち、学園に帰還していった。

 

 

 

 

 

 

 IS学園に帰投した緑葉を待っていたのは千冬からの叱責&事情聴取と政府やら学園上層部に提出する報告書作成の嵐だった。

 

 事情聴取は学園の関係者ではない緑葉がISに乗ってテロリストと戦ったことに関しての経緯について、許可を下ろした菅野やフランシィ共々たっぷりと聞かされた。

 なお、龍驤は本音と合流して亡国機業と海上にて戦闘を繰り広げ、敵が撤退していったのを確認し学園に帰投している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所に佇む高級ホテル。亡国機業が買い取ったフロアの一室でレイナはライトの薄明かりの下でロビーで拝借した新聞を読みふけっていた。

 確認するのは昨日起きた自分が起こした学園襲撃とその近辺で起きた市街地戦、そしてスコール達が動いた京都での出来事。

 だが各社の新聞のページを見ても詳細が一切記されていない。テレビのニュースでも取り上げられていなかった。恐らく政府が隠蔽に動いたのだろうとレイナは推測する。

 

 その時、不意にドアがノックされ、1人の少女が返事もせず部屋に入ってくる。

 

「…ノックしてから中の人に入っていいか聞くのがマナーなんだよ。エム」

「ふん」

 

 エムと呼ばれた少女はレイナの言葉に耳を傾けるつもりはないらしい。

 『織斑マドカ』を自称しているエムはレイナと同じように素性が知れない。冷酷無比な性格で篠ノ之束から譲り受けた<黒騎士>を駆り複数人の専用機持ちと渡り合うなど実力はかなりのもの。

 

 何より驚くのはその容姿、素顔など織斑千冬と瓜二つなのだ。他は正直ちんちくりんとコメントしておこう。

 何故あそこまで似ているのかはレイナには知る由もないが、聞いたところでは織斑姉弟に相当執着があるらしく、弟である織斑一夏の殺害未遂もやっている。

 

 前述の性格や理由なのだろう、エムは組織内からも危険人物だとマークされている。そのため身体の中にナノマシンを仕込んで動きを監視しているとスコールが言っていた。

 

「目的も果たせず無様に逃げ帰ってきたそうだな。しかも名も知れないモブに負けてきたと。笑えるな」

 

 エムは嘲るような笑みを見せるが、レイナは無視して新聞を読む。

 

「それで?」

「…………は?」

「聞こえなかったのか…?それで、と言ったんだ。そんなことを言いに私のところまでわざわざやって来たのか?」

「…………!」

「言っておくが、作戦は半分成功したし学園の生徒のレベルは高い。それに……いや、やはりなんでもない」

 

 エムの中で沸々と苛立ちがこみ上げてきたが、こんな得体の知れない奴に力を使うだけ無駄だ。さっさと用件を言って退散しよう。

 

「……スコールが貴様と今回のことや今後のことについて意見を聞きたいらしい。バルコニーで待っていると」

「分かった。この欄を読み終えてから行くよ」

 

 そう言い切りレイナは新聞へと目を戻す。エムも踵を返してドアへ向かっていくが、ピタリと歩が止まる。

 

 エムはレイナが気に食わなかった。レイナは自分より少し前あたりに亡国機業へと流れついた先輩ではあるが、エムはオータムやスコールへ見せるように年長者や目上の者を敬うようなことは一切しない。もっともスコールもレイナは更々気にしていないが。

 とにかく気に食わない。何がそんなに気に食わないのかエムも不思議に思っていたが、とにかく気に入らないのだ。

 

 普段から鉄仮面を被り、名前と日本人であること以外何も分からない謎の人物。

 それなのに、僅か1年ちょっとで周りの人物との信頼関係を次々に築き上げ、スコールから部隊を任せられるまでのスピード出世を成し遂げている。オータムやアシェリーなどからも慕われる様子はエムとは正反対だった。

 

 一体何故あんな得体の知れない女に惹き寄せられる魅力があるのか。エムからしたら不気味で仕方なかった。

 そんな疑問をつい最近スコールに聞いたことがある。京都の作戦前のことだ。何故あそこまでアイツを信頼するのか、など今から思えばレイナに対する当てつけだったのかもしれない。

 

 エムからの質問に対し、スコールは暫し考え込み、やがてこう言った。

 

「エムの言う通り、レイナは不気味よ。だからこそ、彼女には逆らえない」

 

 と。

 あのスコールが、である。実働部隊を率いる幹部である彼女がレイナに逆らえないと言ったのだ。

 

「…………」

 

 エムは裾のポケットから拳銃を取り出し、レイナに気付かれることなく撃鉄を引き後頭部へ銃口を構える。

 

 そもそもスコールや他の奴らはコイツを過大評価しすぎではないか?現にレイナは銃を突きつけられていることに気付くことなく新聞を読みふけっているではないか。隙だらけと言ったらありゃしない。

 というより彼女は本当にスコールのところに向かう気はあるのだろうか。新しく新聞を取り出して読み始めた、しかも俗に言うスポーツ新聞をだ。

 

「どうした?早く行けばいいのに」

 

 お前が早く行けよ、というツッコミを押し留めたエムはレイナが今あの鉄仮面を着けてないことに気付く。

 

 これはチャンスではないか?レイナの素顔を見たいという者は多い、かく言うエムもその1人だ。

 銃口を頭部から左肩へと傾ける。精々ゆっくりいたぶって、その隠れたご尊顔を傷モノにしてやろう。

 

(精々醜く泣き喚け……!)

 

 エムの顔に狂気の笑みが浮かび、ニヤつきが止まらない。好奇心に駆られ、トリガーにかけられた指に力が入り———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなオモチャで、私を殺せるとでも?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「———————ッ!?」

 

 そんなはずはない、私は一切の油断も驕りもしていない。ましてや瞬きなど論外だ。

 椅子に座るレイナから目を離す瞬間などコンマ0.1秒たりとも無かったしありえない。

 

 では、何故彼女は私の背後で佇んでいるのだ?

 

「見事だ。気に入ったよ、エム」

 

 レイナのさえずるような声が背中を舐める。

 

「撃とうとした一瞬、汗もかいていなければ呼吸も乱れていない。冷静だ。さすがは織斑マドカ、スコールが見込んでいるだけのことはある」

 

 すでに仮面を被っているレイナはそれだけ言い残し退室していく。

 確かにエムは汗もかいていなければ呼吸も乱れていない。だがそれはレイナの前で見せた足掻き。やがて全身に嫌な汗がジワリと流れ出し、段々と呼吸が乱れていく。

 

(う……動きが見えなかった…、バカな!?私は一瞬たりともアイツから目を離してなどいない!!)

 

 僅か1分にも満たない間に起きたあまりにも非現実的な出来事にエムの思考が追いつかない。何をどう考えても説明がつかない。

 

(スピードではない…周りのカーテンや新聞紙を少しも靡かせることなく私の背後に…。そもそも人間にあんな動きなどできるはずがない!!どうやって……どうやって私の背後に回った!?足音も布の擦れる音も立たせず、私に気付かれることなく…!)

 

 分からない。どうやって今の芸当をやってのけたのか、まるで分からなかった。

 だが、1つだけ分かったことがある。スコールの言葉の意味、『レイナには逆らえない』の一言に含まれるその意味を、エムはまざまざと実感させられた。

 

 混乱していたエムは1度状況を整理しようと自室へと向かう。所持していた拳銃から弾丸が全て抜かれていることに気付くのにそう時間はかからなかった。

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