IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

33 / 51
オルコッ党の人には謝罪をしなければならない()



#33 可哀想すぎて見ていられなかった

「祟り殺されるだって…!?冗談じゃないぞ…!俺は心優しい食堂のおじちゃんにお別れを言いに来たんだぞ!?あんなハードボイラーなのに逢いにきたわけじゃねーぞ!つーかなんなんだアレ!?どうしてああなった何があった!誰だアレは何が起きた!」

 

 一歩間違えたら殺される。一夏の生存本能のアラートがそう告げている。

 今現在おじちゃんの機嫌は決していいとは言えない、その証拠に現在進行形でおじちゃんは葉巻の火が付いている方を坊主の頭に擦り付けている。

 

 頭に葉巻を擦り付けられている坊主は悶えているが、周りの遺族達にはそういう作法か何かであると認識されているのか異変に気づかれていない。一体坊主が何をしたと言うんだ。

 ラウラが祭壇の方を見ながら呟く。

 

「とにかくこれ以上何か騒ぎを起こすのはマズい。おじちゃんの機嫌を損ねないようになんとか平穏に葬儀を終わらせなければ…」

「あのぅ」

『!?』

 

 不意に一列前に座っていた人物に話しかけられ、一夏とラウラはビクッと背筋を正す。

 

「な、なんでしょうか」

「次、焼香、貴方達の出番ですよ」

「「…………え?」」

「ですから焼香。もう遺族の方も私達も殆ど終わっているので後は貴方達だけ…って、あの大丈夫ですか?」

 

 それを聞いた一夏とラウラはメドゥーサに石にされたように表情一つ変えず固まる。

 

「…おい、いつの間にか焼香の順番が回ってきちまったぞ…。あそこまでいって焼香行かなきゃならないぞ!」

「じょっ…冗談ではない!この距離でもどうにかなりそうなのにあんなゼロ距離まで近づくなど自殺と同義ではないか!!」

 

 身体をガタガタ震わせながら互いに顔を見合わせる。一夏にもラウラにも、顔に絶望という文字が書かれていた。

 

 ちなみに焼香というのは『仏が住んでいる浄土のなんとも言えない香りを含んだそよ風が漂うさま』を目の当たりにするものらしいが、今の一夏とラウラにとって焼香台に向かうことは台風が上陸した港の防波堤に行くことと同じ意味を持っていた。

 

「そもそもまず焼香とはなんなのだ?まずそこからなんだ、あそこに行く行かない以前にまず焼香というものすら知らないのだが。教えてくれ!焼香とはなんなのだ!」

「ちょっと待ってくれ俺もすっげー記憶が曖昧すぎて出来る気がしねぇ。以前ネットかなにかでチラッと見たんだが粉パラパラするとこしか覚えてねぇ!」

「一夏が出来なければ私も出来ない!頼む後生だ!私のために手本を見せてくれ!」

「無理無理無理無理!俺だって今回が初参列なんだよ、葬式ビギナーなんだよ!」

 

 一夏とラウラが揉めている間にも無情にも遺族や関係者の方々は焼香を終えていく。刻一刻と迫る処刑時刻を前に動きがあった。

 

「よし、まず私からいこう」

「!?」

 

 スッと箒が立ち上がり祭壇へと向かおうとする。それに気づいた一夏が慌てて箒の喪服の裾を掴む。

 

「待て箒!早まるんじゃあない!」

「は?早まる?セシリア達が焼香のやり方が分からないというから先に私から行くことになっただけだが」

 

 箒は不思議そうな表情を浮かべながら一夏を見やる。

 箒は焼香の手順が分からないセシリアやシャルに頼まれ最初に焼香を行うこととなったみたいだが、これは一夏やラウラにも光明であった。

 よく考えたらセシリアやシャルもラウラと同じく異国の出身だし、何より箒は神社生まれだ。基本的な焼香のやり方くらいはマスターしている。手本としてこれ以上ない人物である。

 

「やれるんだな、絶対ヘマするなよ!必ず生きて帰ってこいよ、約束だぞ!」

「バカにしているのか。まぁいい、その様子では一夏もやり方を忘れているのだろう。ラウラもよく見ておけ」

 

 一夏の念押しに構わず箒は焼香台まで歩いていく。

 

 焼香台の前に立った箒はまず遺族と関係者はと向かい一礼。お経を続ける坊主にも一礼を行い、おじちゃんの遺影へ向かい再び一礼。数珠を左手に持ち右手で抹香をつまんで額におしいただき、香炉の炭の上に抹香をくべる。そして祭壇へ合掌、最後に遺族の方へ一礼をし、席に戻ってきた。

 

「これが焼香のやり方だ。宗派によっては抹香をおしいただく回数などの作法が細かく違うところもあると聞くが、基本は今のような感じだ。簡単なものだろう」

 

 一連の箒の動きを見ていたセシリアや鈴はおお、と感嘆の声を上げる。

 

「パーフェクトだ箒、この葬式が終わったら祝勝会だ。今度プレゼントも買ってきてやるからな」

「む…プレゼントは嬉しいが…なんなのださっきから、褒めているのか貶しているのかどっちなのだ」

「篠ノ之、お前はまだ福音の時のように激情に駆られる一面があるが、少しは成長して帰ってきたようだな」

「ラウラまでなんなのだ一体。今日はどうした、二人とも少し恐いぞ」

 

 一夏とラウラが箒をべた褒めする中今度はシャルが立ち上がる。

 

「じゃあ次は僕が行くね」

「待てシャルロット!大丈夫だな!?篠ノ之の動きはちゃんと見たな!?絶対失敗しないな!?」

「ははは、ラウラって結構心配性なんだね」

 

 結果としてラウラの心配は杞憂に終わる。シャルは箒が行なった動作を寸法違わず完璧にこなし帰ってきた。

 

「ふぅ」

「よくやったシャルロット。あとでアイアンクロスを頂けるように私から具申しておこう」

「そんなオーバーな」

 

 ラウラの褒め言葉(?)にシャルは思わず苦笑いを浮かべる。その間に祭壇にいるおじちゃんの様子を見ていた一夏は安堵の笑みを浮かべる。

 

「おっ、箒とシャルが上手くやってくれたお陰で心なしかおじちゃんの顔が少し穏やかになったぞ。これなら無事にいけるんじゃないか?」

「そうだな、後はオルコットに凰、それに簪か。どちらかと言えば我々が気をつけなければならないな」

 

 先程まで怒りから青筋を立てていたおじちゃんの顔からは青筋が消え、少し穏やかな表情になっていた。

シャルロットが戻ってきたのを確認し、次に席を立ったのはセシリアだった。

 

「次はわたくしの番ですわね」

「セシリア、お前なら焼香は問題無いと思うがなんか脚元生まれたての子鹿のようにフラッフラだけど大丈夫か?」

 

 一夏の指摘した通り、セシリアは正座をしっぱなしできた脚元の痺れの影響かフラフラと立ち上がっていた。そして慣れない正座による疲労と痺れがキツいのかセシリアの表情も若干苦悶に満ちている。

 

「だっ、大丈夫です。これくらいの痛み、なんてことありませんわ…!」

 

 セシリアは焼香台へと向かうもののやはりその足取りは思わしくない。一夏の脳裏に嫌な予感がよぎったが、直ぐにその予感を払拭する。だが、現実は残酷だった。

 

「確か…まず遺族と関係者の方に…ッ!?」

 

 突如、セシリアの足をこれまで感じたことの無い痺れが襲う。その襲撃への対処が遅れたセシリアは体勢を崩してしまう。

 体勢の立て直しを試みたものの時すでに遅し、無常にもセシリアは派手に倒れこむ。その際に振り上げた右腕が坊主の頭部を見事にクリーンヒットし、坊主の顔が台へ強打する。

 

「「セシリアぁぁぁぁぁぁあ!!」」

 

 一夏とラウラは青ざめながらセシリアの様子を心配するが、おじちゃんの顔つきはだんだんと曇っていく。

 

「あ…えっと…ま…抹香…ゴホッゴホッ」

 

 完全にパニック状態になっているセシリアは壊れかけたブリキのロボットのようなぎこちない動きで焼香を行なっていく(手順ところどころ飛ばしてしまったりやる必要のない動作まで入れてしまっている)が途中で咳込んでしまいその時に抹香や炭が舞ってしまったりして、見ているこっちが辛くなることの連続であった。

 

 

 

 

 一夏とラウラだけでなく箒やシャルなど皆が青ざめた顔つきになっている中、セシリアは憔悴しきった表情を浮かべながら席に戻ってきた。その顔にはハッキリと「やってしまった」と書かれているように見えた。

 

「…セシリア、なんか、その、…ドンマイ」

「この場にいる誰でも良いですわ…誰かわたくしを殺して下さい…」

 

 一夏達だけでなく周りのみんなもなんとかフォローに入るがセシリアはやつれ生気を失っている。

 

「ま、マズいぞ!どんどんおじちゃんの様子が…!」

「つーかなんで坊主!?なんでいちいち坊主に八つ当たり!?」

「おじちゃんの怒りを全てあの坊主が一身に引き受けてくれているんだ!」

 

 セシリアの失態を見て機嫌を損ね始めたおじちゃんは葉巻の先を坊主の頭部に擦り付けている。だから坊主が何をしたって言うんだ!

 

「とにかくこのままでは葬儀に影響が出てしまう。まずは遺族と関係者に一礼、これは変わらん。だが次に坊主の蘇生を加える。そして焼香だ」

 

 ラウラは①の遺族と関係者に一礼と③の焼香の間に②坊主の蘇生を加えることで葬儀の立て直しに図る。

 次に動いたのは憔悴しきっているセシリアの横に座る鈴だった。

 

「じゃああたしが行くわね」

「鈴!いけるな!?足痺れてないよな!?苦しくなったら直ぐに離脱しろ!」

「足が痺れたくらいであたしは倒れないわよ」

 

 一夏の心配を意に介さず鈴はいつもと同じような足取りで焼香台へと向かう。一夏がホッと胸を撫で下ろしていると遺族の男性の横でピタリと止まる。

 

「箒とラウラが言ってた通りにやればいいんだっけ」

 

 次の瞬間、鈴は座っている男性の髪を掴みそのまま髪をごっそり引っぺがす。

 

「何をしてんだお前はァァァ!!え、ちょそれヅラ…!待てホントに何してんだ!?もういい!焼香はいいからせめて坊主の蘇生だけはやってくれ!」

 

 一夏は顔を真っ青にさせながら力なく鈴へと叫ぶ。鈴は引っぺがしたカツラを遺族ではなく坊主の頭部へと優しく乗せる。

 

「ど こ を 蘇 生 さ せ て ん だ よ !」

 

 ちゃっかりと焼香もしっかりと行なって帰ってきた鈴の表情は、どこか誇らしげ。

 

「おいさっきと全然状況変わってねーよ!坊主ものびたままだよ!」

「でもちょっと幸せそうな顔してるわよ?」

「あっホントだぁ、いいコトあって良かったね坊さん…じゃねーんだよ!!」

 

 坊主はカツラを乗せてもらったためかどこか幸福そうな微笑みを浮かべていたが今はそれどころではない。というかなんで周りの遺族達は坊主の異変に気づかないんだ。

 

「これ以上変なことを起こしたら本格的にマズい!このままでは坊主が…!」

「だからなんでいちいち坊主なの!?おじちゃん生前あの坊主と何かあったの!?」

 

 完全にご機嫌斜めになってしまったおじちゃんはライターの火をつけ坊主の頭部にカツラを燃やしている。やめて!坊主のライフはもうゼロよ!

 一夏が頭を抱えていると、ラウラが何かに気づいた。

 

「ん?ちょっと待て!遺体が一体増えているぞ…!あれは……遺族だ!」

「いやなんでだァァァ!!」

 

 見ると鈴にカツラを盗られた遺族の男性が白目を向いて床に倒れていた。いや本当にどういうことなの。

 

「もしかしてヅラ盗られたから!?どんだけメンタル弱いんだよ!つーかなんで周りの遺族は全員ガン無視してんの?気づいてないフリしてあげてるの?それが優しさなの!?」

「次は私がいく…」

「「簪!」」

 

 次に席を立ったのは簪だった。一夏とラウラは救世主を見たような形相で簪を見る。

 簪も何かを察したのか、二人に向け不敵な笑みを浮かべる。

 

「このままじゃ大事な葬儀がめちゃくちゃになっちゃう…。だから私がセシリアや鈴の責任をとって必ず立て直してみせる…」

「簪…お前…」

「大丈夫…。こう見えて葬式には行き慣れてる。焼香もお手の物だから…任せて」

 

 泣きそうになっているラウラへ親指を立ててグッドサインを出した簪は焼香台へと歩を進める。同い年なのに葬式に行き慣れてるという不穏なワードが出てきたが、今はむしろその経験豊富さが一夏とラウラには頼もしく感じられた。

 

①坊主の蘇生

 

「貴方はここに座っていて下さい…」

「それハゲてっけぞ遺族!!」

 

②遺族、及び関係者への謝罪

 

坊主(遺族)の蘇生を成し遂げた簪は続いて遺族への謝罪を試みる。そして遺族が座っていた座布団へとカツラを置いた。

 

「ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

「それ遺族の遺族!!」

 

 簪の暴走は止まらず、最後はずっとのびている坊主をハゲてるという理由だけで坊主役をやらされている遺族の前に配置する。

 

「そして……木魚」(キリッ

「も"う"坊"主"は"許"し"て"あ"げ"て"!!」

 

 遺族が坊主をやり、遺族の遺族が座布団へ置かれ、坊主が木魚役という、どう見ても状況を悪化させただけなのにドヤ顔で簪が帰還してきた。

 

「簪お前よくそんな顔できるな!状況もうカオスの極みじゃねーかよ!坊主だけだよ!微妙に立ち位置変わったの!いいこと何1つもねーよ!」

「というか何故あの遺族は言われるがまま坊主をやっているのだ……」

「多分…一時的な記憶喪失だと思う」

「喪失したの頭の上だろ!」

 

 どうあっても報われない坊主に多少の同情の念はあるものの、今はそれどころでは無かった。おじちゃんの表情はもはや般若のそれでサングラス越しでもその怒りを孕んだ眼力がわかるほどであった。

 

「も…もうこれ以上は限界だ…、ここは戦略的撤退を行う!」

「あっラウラおまっ!一人だけ敵前逃亡するつもりか!?」

「戦略的撤退だと言った!」

 

 とうとう耐えられなくなったラウラが廊下へ駆け出し、口ではラウラを責めるものの内心しめたとばかりに一夏も続く。

 

「待てお前ら!葬式はまだ終わって——」

 

 廊下へ駆け出した一夏とラウラに気づいた箒が慌てて引き留めようとする。が、不意に白目を剥き、力なく前のめりに倒れ込んだ。

 

「………ほ、箒?」

「………篠ノ之?」

 

 箒だけではない。セシリアも、鈴も、シャルも、更には簪まで力なく倒れ込む。周りの遺族達も彼女達の異変に気付いた。

 

「おい、どうしたんだ?」

「あらやだ、足でも痺れたのかしら」

 

 一夏とラウラは、血の気がひいた顔で恐る恐る祭壇で構えているおじちゃんの方へと視線を移す。

 

 おじちゃんの掌の上には、ふよふよと掌の上から溢れないように浮いている5つの白い物体がハッキリと見えた。その5つの白い物体の正体に気付いた一夏とラウラは心の中で絶叫した。

 

((魂、とられたァァァァァァア!!))

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。