IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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割と「あれこの人誰だっけ?」ってなる


#34 葬式の時は結構初対面の親類と会ったりする

「お連れの方、大丈夫ですか…?」

「だ…大丈夫だと思います」

「でも白眼剥いてますけど」

「多分、ここまでの疲れが祟ってしまったんじゃないですかね…ハハ…」

 

 白眼を剥き壁側にもたれかかりながら座っている箒達の心配をした遺族に話しかけられ、一夏は覇気のない震えた声で答える。

 

 長かった告別式が終わり、葬儀も佳境に入っている。参列者達はみな棺の前に立ち生花を棺の中に飾り付けるなど最後のお別れを行なっている。本来なら一夏達もあそこへ加わり生花を飾り付けるはずであったが、二人は席から一歩も立てずにいた。

 

「ま……まさか魂をとるなんて思わなかったぜ…、おじちゃんヤベェよ…半端ねぇよ…」

「し、しかしアレがオルコット達だと言う確証は無いぞ。アレこそ我々の幻覚かもしれない」

「いや間違いねえって一体メガネかけたやついるじゃん、アレ絶対簪じゃん分かるよ俺」

「なんで魂までメガネかけてるんだ…」

「その辺は一言では言えない事情があるんだろ簪にも」

 

 理由は言わずもがな棺の上に座りながら5体の白い物体—魂—を掌の上でふよふよと漂わせているおじちゃんの霊である。

 そのせいで一夏とラウラも棺のところへ行き最後のお別れをしたいが動けずにいた。

 

「恐らく我々が逃げ出そうとしたからオルコット達の魂を抜き取ったのだろう。こうなったら私達がしっかりと最後まで葬儀に参加するしかあるまい…。そうすればきっと魂も帰ってくるはずだ…」

 

 真っ先に逃げd…戦略的撤退に走り現在の状況を作り出してしまったラウラ。その反省と戒めのためか彼女は『最後まで葬儀に参加すること』を選んだ。そうすれば魂も帰ってくるだろうとラウラはそれに賭けた。

 

「さ、最後まで参加するったって、下手したら俺とラウラまで白眼剥くことになるぞ。そうなったら俺ら全員仲良くゲームオーバーだぞ…!」

 

 最悪の結末を想像し、一夏は頭を抱える。

 

「告別式も終えたのだ…。もう少しで葬儀も終わる。あとはジッとしているだけで時間は過ぎていく…」

「そ、そうだな。これ以上怒りを買うのは避けるしかない」

 

 ラウラと一夏が棺の方を見るとすでに飾り付けも釘打ちも終えていた。後は火葬場まで出棺するだけであった。

 

「それでは、出棺の儀に移させてもらいます。お手数ですが、男性の方はお手伝い願えますでしょうか」

 

 進行役の人が告げ、いよいよ出棺が始まろうとしていた。周りには親族と関係者の人達が集まっているが、一夏とラウラは話し合いの通りジッと席から動かずにいた。

 すると1人の初老の男性が腰をさすりながらチエさんへと話しかけている。

 

「チエさん、スマンが最近腰をやってしまってのう」

「あらそうなの、困ったわね」

 

 どうやら初老の男性はギックリ腰でもやってしまった影響で棺を持てそうに無いらしい。

 

「誰か若い人手伝って貰えないかしら…」

 

 チエさんがキョロキョロと周りを見渡していると一瞬だけ一夏と目が合った。嫌な予感がした一夏は即座に目を逸らしたがチエさんは「あっ」と声を上げる。

 

「織斑君、悪いけど棺桶運ぶの手伝って貰えないかしら」

 

 現実は残酷である。と今日ほど絶望した日はないだろう。

 軽く絶望している一夏は咄嗟にゴホゴホとわざとらしく咳をする。

 

「す…すいませーん、今ちょっと熱っぽくて棺桶持てそうにないです。いや本当に申し訳ありません」

「あら、ごめんね無理言って」

 

 明らかな三文芝居だったがそれでもなんとか誤魔化せたようであった。

 一安心した一夏だったが、おじちゃんが箒達の魂を一つにしてこね回している光景が目に入ってきた。

 

「と思ってたらアレーなんか熱がいきなり引いてきたので棺桶持つの手伝っていいですかぁぁぁぁ!」

 

 そこからの一夏の行動は早く次の瞬間には棺桶の傍に立っていた。

 ラウラを連れて。

 

「あら、ラウラちゃんは別に持つの手伝わなくても大丈夫なのよ」

「あ、これはその…」

 

 チエさんが尋ねてくるが一夏に手を掴まれ連れてこられたラウラにも何故自分が今この場にいるのか分かっていなかった。一夏に手を掴まれたという喜びこそあったもののそれ以上に状況が状況なので困惑のほうが優っていた。

 

 女性は基本出棺の際に棺を持つ方には加わらない。さっき進行役の人が言っていた。

困惑しているラウラを横目に一夏がチエさんへと話しかける。

 

「いやぁ実はですね、俺が棺桶持つのを手伝おうとしたら自分も持ちたいと言いだしてですね。俺がラウラは手伝わなくても大丈夫だと言っても駄々をこねて聞かなくって」

「は!?」

 

 一夏から飛び出した信じがたい言葉にラウラは絶句する。自分はそんなことを言った覚えはない、これはつまり……。

 

「そうねぇ……、じゃあ今回は特別にラウラちゃんにも手伝ってもらおうかな」

「えっ!?あっ、は…はい…、宜しくお願いします…」

 

 驚きながら直ぐに取り繕ったラウラは引き攣った笑みを浮かべチエさんへ軽く会釈し、憎しみをはらんだ眼光を一夏へと向けた。

 

(キサマぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!)

(へっ!気付いたか!そうだよ道連れだよ!なんだよ悪いか?残念だったな!俺は1人で抱え込んで死ぬつもりはない!恨むならおじちゃんの霊が見える自分自身を恨むことだな!)

 

 さっきチエさんに話したのは一夏の虚言。ラウラを道連れにするための嘘。それに気付いたラウラは一夏をこれまで見たことがないほど怒気を含んだ目つきで睨みつける。

 

 一夏も一夏で道連れに成功した達成感を感じ周りには見えない風に笑みを浮かべていた。

 

(ふざけるな!こういう時こそ「ここは俺に任せろ!」とか啖呵を切るところだろう!)

(真っ先に敵前逃亡したヤツに言われたくねーよ!)

(アレは敵前逃亡ではなく戦略的撤退だと何度言えば分かる!)

(お前がそう思ってても周りから見たらただの敵前逃亡だろーが!)

 

 周りに察せられないように言い争いを繰り広げるがこんなことは無意味であると2人も分かっていた。

 

 親族の1人が「じゃあ織斑君とボーデヴィッヒさんは足の方を持って下さい」「せーので行きますからね」と指示を出し始めると、一夏とラウラは覚悟を決め、ふぅ、と息を吐く。

 

「こ…こうなったらやるしかない」

「そうだぞラウラ、もう覚悟を決めるしかねぇ。ここでしくじったらいよいよ俺達終わりだぞ…!」

 

 2人は全ての力を腕へと集めるように棺桶を一点に見続けながら集中する。

 

「はいっ、せーの…」

 

 次の瞬間、2人は腕に込めた全ての力を解き放ち棺を持ち上げる。が、いかんせん2人は力を込めすぎてしまった。

 一気に足の方から持ち上げられた棺は頭が向いている方、つまり親族が持っている方向へ倒れ込んだ。

 

「ぎゃあああ!!何してるんですか2人ともぉぉぉ!!」

「おじさぁぁぁん!おじさん挟まったァ!」

 

一夏とラウラが気が付いた時、そこはもう地獄絵図であった。棺は大きく傾き、畳は突き破られ、棺と畳の間で持ち手である親族の1人がジタバタともがきながら挟まれていた。

 

「早く!早く元に戻して!!」

 

 完全にテンパった2人は勢いよく棺を元の角度に戻そうとするが、今度は足の方へと力を入れ過ぎた。またもや棺は大きく傾き、しかもその勢いの反動でおじちゃんの上半身が棺を突き破り出てきてしまっていた。

 

「おじさん出てきたぁぁぁ!ちょっと何してくれてんの!!2人ともさっきからテンパりすぎ!!」

「ヤバいヤバいヤバい早く戻せ!押し込めぇぇぇぇぇ!!」

 

 親族の叫びを他所に一夏とラウラはおじちゃんの上半身を棺の中に戻そうと押し込む。

 

「ダメだ!全然戻らねぇ!」

 

 バキボキと棺が壊れていく音が聞こえるだけで中々収まらない。

 

「死後硬直が進んでいるんだ!もっと思い切って押し込まねば入らないぞ!」

 

 腕だけでは無理だと焦れたラウラは脚を使い無理矢理棺の中へ押し込もうと踏むつけはじめた。

 

「いやいやいやいや踏んでるから!不謹慎なことしてるから!!」

 

 周りの悲痛な叫びを他所にラウラはひたすら踏みつけ続ける。ようやく上半身が棺の中へと収まった、と思ったら今度は勢いよく棺の蓋を突き破りながら脚が飛び出してきた。

 

「げぇぇ!今度は脚が!押し込め!早く押し込め!」

 

 飛び出した脚に気付いた一夏が腕に力を込めて脚を棺の中へと戻そうとする。

 

「いやいやいやいや無理しないで!バキボキいってるから!めっちゃバキボキいってるから!もう棺ボロッボロになってるから!」

「うらァァァァァア!!!!」

 

 一夏がありったけの力を込め脚を押し込む。が、またしてもおじちゃんの身体の一分が棺を突き破り飛び出してきた。しかもよりにもよって飛び出してきてしまったのはおじちゃんの『ムスコ』であった。

 

「おいぃぃぃ!なんかとんでもねぇモン飛び出してきたぞぉぉぉ!!」

「い…いやぁ、さすが死後硬直ですわ()」

 

 震えた声で一夏が答える。

 

「いや死後硬直ってあんなとこまで固く鳴るモノなの!?」

「つーかありえないトコから飛び出してるんですけどォ!中一体どうなってんの!?」

 

 おじちゃんのムスコがどう考えてもそこから出るはずがない、棺の横から飛び出ているという有り得ない状況に困惑こそした(ラウラはなんか魅入ってた)が、急いで霊柩車まで運ぼうと棺を持ち上げる。

 

「もうこのままでいい!早く運び出さないと!!」

 

 と、棺を担ぎながら廊下へ出ようとしたところで突然ガクッと後ろまで引っ張られる。異変に気付いた一夏は悪態をつく。

 

「なんだ!?一体どうなってやがる…!?」

「引っかかってる!エラいモンが引っかかってる!」

 

 力押しでいこうとする一夏達へ遺族らが叫ぶ。一夏の位置からは見えていないが、どうやら先ほど飛び出してきたおじちゃんのムスコが柱へ引っかかっているらしい。

 一夏とラウラも負けじと力を入れる。

 

「ちきしょぉぉ!!負けてたまるか!!」

「千切れる!おじさんの大事なところ千切れちゃう!」

 

 ムスコが引っかかっている箇所が徐々にミシミシと嫌な音を立て、遺族はもうやめてくれと言わんばかりの悲痛な叫びをあげる。

その時、様子を見ていたチエさんが一夏達へと近寄り声をかける。

 

「ホラホラ、そんなに慌てていっちゃダメよ。もっと落ち着いていかないと」

「あっ、すいません」

 

 チエさんは腕を使った的確な指示で一夏達が安全に棺を運び出されるように誘導する。一夏達も落ち着きを取り戻したのかチエさんの指示に従いゆっくりと棺の角度を変える。

 皆がホッと胸を撫で下ろした時、不意にチエさんがふう、と深呼吸を行なう。

 

「じゃあ、

 

 

折 る わ ね」

 

 次の瞬間、チエさんの蹴りがおじちゃんのムスコへ炸裂し、その衝撃に耐えきれずもげたおじちゃんのムスコは、宙を舞った。

 

「折ったよこの人!旦那さんの大事なところ折っちゃったよ奥さん!」

 

 チエさんが見せた突然の奇行に、その様子を見ていた一夏やラウラ、更には周りの遺族達全員が顔を青ざめていた。

 

「まさか折るとはな……」

 

 驚愕を通り越し若干引いている一夏とラウラにチエさんが振り返る。

 

「これで通れるようになったわね」

「いや確かに通れますけど」

「あの人もきっとこれが本望だと思うわ」

「いや最期にこんな使われ方されるパターン人類史上初じゃないですか?」

 

 兎にも角にも一応通れるようにはなったので一夏達は運び出し作業を再開する。

 

「あらやだちょっと待って、釘が抜けかけてる」

 

 釘が抜けかけているのに気付いたチエさんは硬直しきったおじちゃんのムスコを手に持ちそれをトンカチ代わりにして釘へ叩きつけ始めた。

 

「奥さんんんん!!何!?旦那のアレに何か恨みでもあるの!?」

「…………」コォォォ

 

 ムスコを釘へ叩きつけ続けるチエさん。心なしか汚物を見るような目付きでコォォォと呼吸を発している。

 正直多分もう釘はしっかりと刺しきれたと思うし、もはやおじちゃんの霊よりもこっちの方が怖くなってきたが、途端にチエさんのカッと目を見開く。

 

「波紋ッッッッ!!!」

 

 意味の分からないことを口走りながらおじちゃんのムスコを力を込め一気に叩きつける。その衝撃でとうとう棺の中で眠っていたおじちゃんの身体が勢いよく飛び出してきてしまった。

 

「やべぇぇ!おじちゃん出て来た!」

「このままでは外に出るぞ!!」

 

 玄関の戸は開いたままなため、最悪の場合おじちゃんの遺体が外へ出てしまう。それだけは避けなくては!

 

 棺から飛び出したおじちゃんは勢いよく回転しながら廊下を駆け抜けていく。そしてその後を一夏やラウラ、遺族達が追いかけるという非常にシュールな光景が出来上がる。

 やがて玄関へと辿り着き、一同は周りを見渡す。

 

「どこだ!?どこ行った!?」

 

 一夏が血眼になって辺りを探していると、ラウラが声を上げる。

 

「あそこだ!!」

 

 ラウラが指差した先には一台のトラックが駐車しており、荷台にかけられてあるシートにおじちゃんの身体が突き刺さっていた。しかもよりによって反対車線であった。

 

「うわもう最悪のやつだ!思ってた中で1番最悪なやつきたよもう!」

「しかしまだ発車する様子は無い!取りに行けるぞ!」

 

 ラウラが微かな希望を見つけ、絶望していた一夏も少しだけだが希望を持てるようになれた。

 大急ぎで靴を履き、外へと踏み出す一夏とラウラ。その時、閉め切っていたトラックの窓が下がりスッと何か筒状のものがこちらへと向いた。

 

 その正体に気付いたラウラが目を見開いた刹那、筒状のものから何かが射出され、次の瞬間には爆音と衝撃、土埃が襲いかかっていた。

 しかしそこはドイツ軍人であるラウラ。咄嗟に一夏達を自身の背中へと庇い、<シュヴァルツェア・レーゲン>を右腕のみ部分展開させAICも発動。紙一重で弾道を封じ込めた。

 おかげで土埃にまみれたものの一夏や遺族、そして建物にも被害は無かった。

 

「な…なんだ今のは」

 

 尻餅をつきながら徐々に状況を把握できるようになってきた一夏へ、ラウラがポツリと一言漏らす。

 

「ロケットランチャーの砲撃だ」

「ロケラン!?なんでそんな……!」

 

 ロケットランチャーが何故自分達へと撃ち込まれたのか、そもそも何故こんなところにそんな物があるのか。

 疑問を頭に巡らせていると、不意にトラックの方から女性の声が聞こえてきた。

 

「チッ、運がいいガキだな」

 

 悪態をつきながら肘を窓へ出している女を見て、一夏とラウラはハッとする。

 

「テメェは!」

 

 女の正体に気付いた一夏が叫ぶ。その女こそまさに先程別れたダリルやフォルテの仲間、幾度となく一夏達と戦闘を繰り広げた亡国機業のメンバー、オータムであった。

 

「こんなところまで追ってくるか…!」

 

 ラウラがぼそを噛んでいる間にオータムは窓を閉める。するとエンジンがかかり、今にも逃げ出そうとしている。それを見ていた一夏が後を追おうとする。

 

「あっ!待ちやが…、あっちょっ、待って!ストップ!一旦ストップ!」

 

 しかしあることに気付いた一夏は慌ててばつ印を作る。そう、まだおじちゃんの遺体がオータムが乗り込んでいるトラックの荷台のシートを破り突き刺さったままだ。

 

 先程の様子から見て恐らくオータムは荷台のシートに突き刺さったおじちゃんには気付いていない。

 窓を閉め切っているトラックの座席に一夏の叫び声は聞こえるはずもなく、トラックのエンジン音が響く。

 

「待てぇぇぇ!おいぃぃぃ待てぇぇぇ!」

 

 一夏の必死の叫びも空しくオータムを乗せたトラックはその場から逃げるように猛発進してあっという間に離れていった。しかも発進の衝撃によりおじちゃんの身体はトラックの荷台の中へと入り込んでしまった。

 

「カムバァァァァァァック!!」

 

 みるみるうちに小さくなっていくトラックの後ろ姿を追いながら地に手をついている一夏へラウラがその背中を叩く。

 

「まだ希望はある!追うぞ!」

「…!お、おう!」

 

 ISを完全展開するラウラを見て一夏も自身のIS<白式>を展開する。恐らく始めて間近でISを見ることになるであろう遺族達が思わず「おお…」と感嘆の声を漏らす。

 

「すみません!必ず取り返して無事に葬式を再開させます!」

「頑張ってね、織班君、ラウラちゃん」

 

 チエさんに見送られながら、一夏とラウラは空高く飛び立った。

 

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