「千冬姉、岡村さんからきてるよ」
「ん。お前にはほれ、宮崎からだ」
「お、サンキュ」
「…………」
お正月、織斑家で年を越したラウラの目の前で繰り広げられる謎のやり取り。炬燵の上にはたんまりと積まれた用紙、それを1枚1枚読んでいく千冬と一夏。
「あ、あの…」
「どうした」
「それは一体何なのですか?」
「ん?あぁ、ラウラは知らないんだったっけ。年賀状だよ」
「ねんがじょう……?」
頭の上にはてなマークを浮かべるラウラへ一夏がランダムに選んだ1枚を手渡す。
見てみるとまず謹賀新年と書かれ、『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』と書かれていた。
「これが年賀状なのか?」
「あぁ、お正月の恒例行事みたいなものかな」
「ふむ……」
ラウラは積まれた年賀状の山から数枚抜き取り、それぞれを見比べる。
「しかし何故こんな面倒なことをするのだ?メールで済むのではないか?」
年賀状の文化がないヨーロッパ圏、というより年賀状の存在すら知らなかったラウラからすれば当然の疑問なのかもしれない。
一夏はラウラの疑問に苦笑しながら答える。
「まぁなんだ、良いじゃねーか。趣があって」
「趣…か。そういえばクラリッサも趣を大事にしろと言っていたな」
そういうものか、とラウラは割り切り年賀状の山から更に数枚引っ張り出す。
こうして見ると人によって書き方が違っていて、それを見るのもまた面白いものだ。自筆のもあればパソコンなどで打ち込んだと思しきものもある。中には可愛らしい絵が描かれた1枚も。
「お、篠ノ之からきてるぞ」
「どれどれ」
差出人の名前を見ると達筆な字で篠ノ之箒と書かれてある。それぞれ一夏と千冬宛に書かれており、2人は箒からの年賀状に目を通す。
読み終えた一夏がしみじみと呟く。
「最近箒からはきてなかったからなぁ」
箒が引っ越していって以来、一切連絡が取れず年賀状でのやり取りも途絶えてしまっていた。それを考えると箒から再び年賀状がきたことは一夏や千冬にとって感慨深いものがあった。
「あ、これは山田先生からだ」
可愛らしいポップなフォントの文字が書かれた真耶からの年賀状も発見。
他にも友人からだったり様々な人物から年賀状が届く中、ラウラはとある人物の名を見つける。
「緑葉さんからきてるぞ」
「え、緑葉さんから?あの人も年賀状書くのか。つかウチの住所知ってたんだな」
「以前庭掃除してもらったりしたから、その時知ったんだろう。ラウラ、見せてみろ」
「はい」
ラウラは千冬へ年賀状を手渡す。内容が気になった一夏とラウラは千冬の両脇に移動し緑葉から送られてきた年賀状を覗き見る。
【ゆるキャン△、楽しみですね】
「全然関係ねぇこと書かれてたァァァ!」
一夏の強烈なツッコミが炸裂する。
「いやこの人年賀状なんだと思ってるんだ!?挨拶のあの字もないよただの願望だよ!!」
「おい、よく見たら緑葉さんからまだ何枚も送られてきてるぞ」
【くぁwせdrftgyふじこlpがどう再現されるのか興味深いです】
【でもやっぱり覇権はポプテピピックと予想します】
【キタサンブラック強かったですね】
【大晦日はガキ使派です】
【今年の大河ドラマとか見たりします?】
「願望と感想しか書かれてねぇし!年賀状と全く関係ねーよこれこそLINEで事済むわ!」
一夏がツッコミのままに緑葉から送られてきた年賀状を破り捨てていると、横にいた千冬が溜め息をつく。
「一夏、もうやめとけ。そんなことをしても無駄だ」
「え?」と困惑する一夏に1枚の葉書が手渡される。見てみると龍驤からだった。
【破っても無駄やで】
「あ、これループしてる!!すげー無駄な用意周到性発揮してる!!」
先程破ったやつと龍驤から送られてきた数枚を並べてみた結果、一夏の予想通り緑葉→龍驤→緑葉→、とエンドレスになっていた。
「もういいや、この人達に構ってる暇はない。えーと次は…ヒカルノさんかぁ、どれどれ」
篝火ヒカルノ、の文字に少し不安を感じたがそれでも緑葉よりはマシだろうと希望を込めて年賀状を見る。
【冬アニの覇権候補ゆるキャン△が楽しみですね。いぇあ】
「アンタもかいィィィィイ!!
こんなことある!?2連続で赤の他人が全く同じ話題振ることってあるの!?しかも年賀状で!」
「もうコイツら芳◯社かあ◯ろ先生にファンレター送った方がいいんじゃないか?」
ヒカルノのからの年賀状を隅へ置いた3人は気を取り直して積み上がった山から何気なく取った1枚を見たラウラの表情が途端に険しくなる。
「教官!」
「家では名前で呼べと言った」
「あっ……千冬さん!一夏!亡国機業からも年賀状が!!」
「「何!?」」
一夏と千冬の目の色が変わる。ラウラの手に握られた年賀状の差出人を見ると確かにレイナとアシェリー、ヘレンにオパールと亡国機業メンバーの名が書かれてあった。
「アイツら何のつもりだ。エクスカリバーからまだ日も経ってないぞ」
「千冬姉、ショッカーだって仮面ライダーに年賀状送ったらしいからあり得ない話じゃないかもしれない」
「もしや、宣戦布告では…?」
「今更か?とにかく読んでみろ」
宿敵からの年賀状という怪しさ満載、訳あり葉書に緊張が走る。ゴクリと喉を鳴らし、覚悟を決めてラウラが読み上げる。
【私達はゆるキャン△を応援しています】
「知るかァァァア!!!!
なんでどいつもコイツもみんなゆるキャン△なんだよ!?そんなにコラボりたいのか!?コイツらホントに悪役?悪役なんだから悪役らしくしてくれ!!」
「というよりこんな悪の秘密結社に応援されても製作陣は困るだけだろ」
ここまでマトモなやつが最初の箒しかないことに段々と3人は疲れてきていた。
「……返事、どうすんの?」
「…もうこれでいいだろ。後で刷っておけ」
筆ペンを取った千冬が白紙の葉書にスラスラと一言『頑張って下さい』と書いてペンを置く。適当以外の何者でもないが、ラウラも一夏もそれにツッコミを入れる気はとうに失せていた。
最初は楽しんでいたのに今では年賀状を読むのが億劫になり始めた頃、ラウラが怪訝な表情を見せる。
「……む、なんか妙な年賀状が来てるぞ?」
「んー?どうせまた誰かのおふざけだろ?」
「いや、ルブラデルシア共和国からだ」
「どこだそれ!?」
「カテドラール・ズーヴァルジド・マングリッドノーグスという人物からだ」
「はい知らないッ!100%知り合いじゃありません!100%知らない人物!!」
「…とにかく読んでみろ」
千冬の言葉にラウラは「わ、分かりました」と若干戸惑いながら、謎の国から送られてきた年賀状を読み上げていく———
【私の名は、御手洗カテドラール・ズーヴァルジド・マングリッドノーグス】
「ただの数馬じゃねぇかァァァア!!何やってんだアイツ!?」
【突然のご無礼に、さぞ驚かせてしまったことを、ここで改めて謝罪申し上げる】
「オイなんか変に畏まってるんだけど。なんか変なモンでも食ったのか?」
【私が何故こうなったのかというと、さる12月24日、私はある言葉を叫んだ瞬間突如として光に包まれ、気がついたら左右に無数の扉がある廊下のような空間に立っていた。
私はそこで『紫』と名乗る眼鏡をかけた人物に遭遇し、彼が「次」と言った瞬間1つのドアに飲み込まれ、ルブラデルシア共和国の地を踏んでいた】
「なんか別の作品が始まっているんだが」
【私は、ルブラデルシアの地を踏む前の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまい、覚えていたのは御手洗という名前と、アンダーバッドという単語だけだった】
「間違ったまま覚えてね?アンダーカットじゃね?」
【カテドラール・ズーヴァルジド・マングリッドノーグスという名前は、私を介抱してくれたジル族の医者が一時的な措置として名付けてくれた名前だ。
それぞれジル族の言葉でカテドラールは者、ズーヴァルジドは低い、マングリッドノーグスは知識という意味だ】
「すげーサラッとバカにされてるんだけど」
【人々は皆、私のことをカズマと呼ぶ】
「結局略されて数馬なのな」
【ジル族は心優しい部族で、得体の知れない私にも気さくに接してくれ、木の実や野菜、狩りで取れた動物の肉を惜しげなく分け与えてくれた】
『ズァ!エグアルーズメ!ゴガッアャ!(意訳:出て行け!この化け物め!)』
『バッズヤジーモィ!バッズヤジーモィ!(死ね!死ね!)』
『カメネメー!ハガリガダグォヤミジ!ガグズルメ、ダマギーゥ!(死神ダマギゥの手下め!消え失せろ!!)』
「どう見ても嫌われてるじゃねーか!!」
【記憶こそ失くしたが、慣れていくにつれここでの生活も充実したものになってきていた。木の実が当たると、気持ちよかった】
「ダメだコイツもう救われねぇわ」
【しかしどんなに生活に満足していっても、どうしても心の中にモヤモヤとした引っかかりを覚えてしまう。この引っかかりは何なのだろう。この感覚の正体を知りたいと感じるのに、そう時間はかからなかった。
この国に来た時に私の手に握られていた謎の紙切れ。この感覚、そして私が記憶を失うことになった理由を知る手掛かりになるかもしれない。私は覚悟を決め、ジル族の首長に紙切れを見せた。首長は以前にもこの紙切れを見たことがあると言った。
ジル族は古来よりユー族、ハグルグ族と呼ばれる部族と争いを続けてきていた。それらを束ねる首長が同じものを持っているのを見たという。
「奴らは貴様と同じく異界より来りし漂流者。奴らはその圧倒的な強さをもって瞬く間に頭角を現し、首長にのし上がった化け物じゃ。ワシらジル族にはとてもじゃないが太刀打ちできん。しかしカズマよ、貴様も同じく漂流者であるのなら、或いは……」
……死ぬかもしれない。正直、死ぬのは怖い。誰だってそうだろう。しかしこのまま何もせず、何も為そうともせずのうのうと生きていく。
それもまた、死んだのと同じなのではないのか?
「貴様!こんなところで何をしている!」
「あんたジル族の者?悪いけどあんたみたいな弱者に用はないわ!」
動物の頭蓋骨で作られた仮面を被り、右手にアックスを持った男と、同じく儀式などで使われるお面を被り弓矢を構える少女がカズマへ問い詰める。
「もうやめようぜ。こんなくだらねーこと」
「下賎な者が口をきくんじゃないわよ!」
「我らが聖戦を邪魔されてたまるか!」
聞く耳を持たない両者へ、カズマは紙切れを見せつける。
「お前らも、私と…俺と同じ志を持つ同志のはずだぜ」
「そっ、それは……!」
「あんた…まさか…!」
カズマが取り出した紙切れに男と女は動揺を隠せない。そんな両者を見て、カズマは静かに語り出す。
「自分が何なのか、何を為すべきだったのかずっと捜していた。志同じくする者を」
気が付くと俺達は抱擁し合いながら、各々肌身離さず持っていた紙切れを見せ合う。それぞれバラバラだったが、この紙切れこそ、俺達のカケラとカケラを繋ぎあう『キズナ』だった。
「首長、戦は…」
「そんなことをしている暇はない」
「では、どうするので……」
「決まってるでしょ?」
お面を脱ぎ捨てた男女がニヘラと笑ったのが横目からはっきり確認できた。
そう、何をするのかなんて、決まり切ったことだ———
——みんなで、年賀状出そう——】
「…………………………」
千冬は年賀状を掴むとスッと立ち上がり、引き出しの中から取り出したライターを持って窓を開ける。ライターの火をつけ、徐ろに年賀状へ近づける。
民族衣装を纏った数馬、弾、鈴とその他謎の黒人モブが満面の笑みを浮かべながら収まった年賀状はみるみる燃えていき、やがて塵と化した。
「…千冬姉」
「…………」
炬燵へ戻った千冬は再び筆ペンを持ち、白紙の葉書へ短めの文章を書いていく。
「一夏、ラウラ。そろそろお昼にしようか」
「お、おう」
「は、はい」
「あ、後でそれ刷って送ってやれ」
千冬は炬燵の中に身体を埋めながら寝っ転がる。ラウラも千冬を見習い猫のように身体を埋める。そして一夏は2人に苦笑いを浮かべながら台所へ向かっていった。
『本年も宜しくお願いします』
2020年も宜しくお願いします。