IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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#4 それホントに出席簿か…?

「こうかな、上手く歩けてる?」

「そうそう、今度はもう少し速く歩いてみようか」

 

 代表候補生をリーダーとしたグループは各自動作を確認しながら実習を進めていく。

 その中でもシャルロット班へと注がれる尊奉の眼差しは大きい。

 理由は単純、シャルロットの教え方が上手いのだ。セシリアのように具体的なわけでもなく、鈴や箒のように雑でもない。初心者にも熟練者にも分かりやすいコーチは純粋に人気が高い。一夏もシャルロットは教えるのが上手だと褒めていたのもあってか現在進行形で人気が上がっている。

 

「ふう、やっぱデュノアさんのところが1番良いかも。分かりやすいからそのぶん気楽に乗れるからね」

「そう言ってくれると僕も嬉しいな」

「さっきの模擬戦も良い動きしてたしね」

「あはは、ありがと…………うわっ!?」

 

 鷹月からの言葉にシャルロットは照れくさいのか頭に手を当てる。周りからも笑顔を向けられる。先程の模擬戦の内容を称賛してくれた人にもお礼を伝えようとした時、シャルロットは驚きながら一歩後ろへ下がる。

 

「そこまで驚かなくても、ねぇ?」

「びびびびっくりしたぁ〜!えっ今の誰!?と思ったらホントに誰!?ってなったもん!というかさっきの人!?織斑先生に監視されてたハズじゃ……」

「撒いた」

「撒いた…」

 

 模擬戦を称賛し肩をポンポンと叩いた女性、緑葉は不服そうに頬を膨らませる。

 本気で驚いたシャルロットが織斑先生はどうしたのかと聞くと緑葉は撒いたと答え、シャルロットだけではなくグループ内の生徒もポカンと口を開く。

 

「それより実習やらないの?」

「え?あ、あぁ…そうだった。じゃあ次の人乗ってくれるかな」

 

 緑葉に諭されシャルロットは慌てて待っていた次の人に<打鉄>へ乗るように促す。<打鉄>に搭乗した生徒の様子を眺めていた緑葉がポツリと呟く。

 

「素人目だけど、やっぱりいい動きしてるよね」

「分かったりしますか?」

「うん多少はね。でもこの時期って結構差が出たりしない?なんていうか動きとか色々」

「あーそうですね。確かに出たりすることはありますね」

 

 2学期という時期にもなると、ISの操縦に慣れてきた子とそうでない子の差は結構出てくるものだ。慣れた子は苦もなくISを扱うが逆にまだ上手く扱えない子も中にはいる。そういった子達をなんとかするのが自分達の役目でもある。

 

「あの子の名前、なんていうの?」

 

 歩行訓練を行う子が気になったのか緑葉がシャルロットに訊ねる。

 

「1組の相川さんです。相川清香さん」

「相川さんね」

 

 そう言うと緑葉は<打鉄>を纏う相川のもとへ歩み寄り、傍から何か話しかけているのが聞こえる。

 

「ごめんね訓練ジャマしちゃって」

「いえ、あの貴女は?」

「緑葉ナツっていうの。ところでさ———」

 

 しばらく相川と緑葉の会話は続き、一通り言い終えた緑葉は相川が乗る<打鉄>の装甲を軽くポンポンと叩く。

手を叩きながら戻ってきた緑葉にシャルロットが問いかける。

 

「あの子と何を話していたんですか?」

「あぁ、私なりにあの子にちょっとしたアドバイスをね。基本的に動きはいいし文句の付け所はないよ」

「では何のアドバイスを?」

「なんてことはないよ。ただ少し体に力が入りすぎてイレこんでたからリラックスして気楽にやれって言っただけ」

 

 シャルロットは思わず感嘆の声を漏らす。確かに先程までどこか固かった相川に今では少し余裕が生まれたのか表情が緩くなっている。

 緑葉がどんな人物なのかは知る由もないが恐らく只者ではない。経験上どことなく分かってしまうものだ。

 

「すごいですね…」

「弟子を育てる師匠になりたいってわけじゃないけど、ちょっとそういうの好きでね」

 

 シャルロットの心の底からの伝えられた言葉を聞き緑葉は照れ笑いを浮かべる。

 頑張って<打鉄>を操る相川を見つめながら緑葉は思い出したように言う。

 

「あ、そうそう、私は緑葉って言うの。緑葉ナツ」

 

 シャルロットの方を見て緑葉は軽く会釈しながら自己紹介する。そういえば自己紹介がまだだったとシャルロットも緑葉の方へ身体を向け自己紹介を行う。

 

「シャルロット・デュノアです。さっきの模擬戦でオレンジ色のISを纏ってたのが僕なんです」

「しってるよー有名人さん」

「そうなんですか?」

「ここ来るまではこっち関連あんまり詳しいわけじゃなかったからね。雑誌とかで情報集めてたからその辺で名前は知ってるよ。それにそう固くしないしない。畏まられるの苦手でさ、友達の話す感じでいてくれた方がこっちも楽だから、ね?」

 

 緑葉の笑顔を見てるとシャルロットも気が楽になり自然と笑みがこぼれてしまう。一夏は悪い人には見えないと言っていたが、どうやらそれは当たっているみたいだ。

 

 と、緑葉が突然身体をぶるっと震わせ咄嗟にその場から飛び退く。すると先程まで緑葉がいた場所を何かが一閃、シャルロットもびっくりしながら後ろを振り向く。

 

「ほう、今のを躱すか」

 

 そこには右手に出席簿を目一杯握りしめた千冬が立っていた。心なしか出席簿がミシミシと嫌な音を立てているが多分気のせいではないだろう。

 

「何今の!?背中、背中めっちゃゾクゥってしたんだけど!?」

 

 間一髪のところで出席簿アタックを躱した緑葉は尻もちをつきながら身体を震わせる。

 

「仮に貴様がお偉いさんだったとしても、私はもう貴様にはそういう態度は取らんぞ」

「何その決心」

 

 謎の決心を宣言した千冬にすかさず緑葉はツッコミを入れる。なるべく関わらないようにシャルロットが横目で2人の様子を見ていると声が聞こえた。

 

「こんな感じでいいんですかー!?」

 

 声のする方を向くと先程緑葉からアドバイスを受けた相川が緑葉に確認を取るためこちらの様子を伺っていた。

 相川の方へと向いた緑葉は人差し指を掲げ合図を送る。

 

「あと1周したら他の子と変わって!」

「わかりましたー!」

 

 緑葉の指示を聞いた相川はコースを歩き始める。

 

「デュノア、アレはお前の指示じゃないのか?」

「いえ、緑葉さんがあの子にアドバイスしてそれで…」

 

 シャルロットが否定すると千冬は顎を触りながら緑葉を見やる。千冬からの目線に気づいた緑葉はどうにもバツの悪そうな表情を浮かべ目を逸らす。

 

「少し貴様に興味が湧いてきた。あとで一緒に話でもしようじゃないか」

「…………()」

 

 その瞬間の緑葉の全てを諦めきった顔といったらもう言葉にするまでもないだろう。

 

(緑葉さん、気持ちを強く持ってください…僕には祈る事しか出来ません…)

 

 心の中で同情の言葉を投げかけながら、シャルロットは訓練の方へと意識を切り替えるのであった。

 




緑葉「恐いんだよあの人ぉ……」
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