IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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#42 【急募】知らない人から◯◯が送られてきたときの対処法

 青い機体が疾駆する。操縦者は自分の思うままに躍動する愛機に満悦していた。

 鶴屋重工が所有する土地の一角、今では主にISの稼働試験に使われているここでは、加賀が<瑞雲>のテスト飛行を行なっていた。

 

『加賀さん、武装のチェックをお願いします』

「了解」

 

 言われるままに、加賀は右手にライフルを呼び出し、各所に置かれた的へ構える。放たれた弾丸は次々と的を撃ち抜いていき、管制室では【Good】【Excellent】と表記されるモニターを眺めていたエンジニア達から歓声が上げる。

 加賀へ指示を送っていた明石も満足げに頷く。

 

『次は?』

 

 おっと、喜んでいる暇はないようだ。加賀からしたら「出来て当然」なのだろう。

 

「近接武装を試してもらっていいですか?」

『了解』

 

 加賀は短く答え、新たに実装されたヒートサーベルを左手に呼び出され、熱化したサーベルが柱形の的へ振るわれる。溶断された的の上半分が落ち、ドロドロに溶けた破片が地面へ垂れ、草木を燃やす。

 

「<瑞雲>もだいぶ完成してきたわね」

「おかげさまでね」

 

 夕張と明石が眺めていたモニターには地面へ降り立つ青い<瑞雲>が映っている。

 

「これで稼働試験は終了です!お疲れ様でした!」

 

 明石が朗らかに伝えると素っ気なく『わかったわ』と一言返ってくる。これが加賀という人物だ、クールで感情を表に出さず淡々とこなしていく。

 稼働試験も終わり、エンジニア達が団欒と話し合う傍らで明石はパソコンを使ってとあるデータを開く。

 

「やっぱりおかしいよねぇ〜」

 

 横に立っていた夕張が首を傾げる。

 

「何が?」

 

 そう夕張が問うと明石は「これよ、これ」と顎をしゃくる。見てみるとそれは以前緑葉が送ってきたデータ映像で、丁度<天照>が<白式>の零落白夜をシールドを防ぎ切ったシーンが映し出されていた。

 

「あー…これかぁ」

「うん。どうやっても防げるはずがないんだけどさぁ……」

 

 そもそも白式の単一仕様能力である零落白夜の硬貨は『対象のエネルギー全てを消滅させること』。まさに対IS用の武装であるそれを受け止めたなど眉唾物に等しい。実際南井先生も成田工房の人達もかなり困惑していたし、後に解析した結果を見ても<天照>が一切エネルギーを消費されずその場しのぎで掲げたビームシールドで零落白夜を受け止めきれたことへ対する説明が出来なかった。

 

「たまたま運が良かったとか?」

「そんな虫のいい話がある?」

「それもそうよね…、うーんなら…」

「別の力、とか…?緑葉さんの親戚なんでしょう?この相川ちゃんって」

 

 明石と夕張は、全く同じタイミングで首を傾げた。

 と、モニターに映し出されていた映像に変化が起きた。明石はパソコンをスリープモードにして、モニターへと向き直った。

 

 

 

 

「いい機体だろう、<瑞雲>は」

 

 背後からかけられた言葉に、加賀は眉をひそめる。振り返ると、1機のISが地面へと降り立った。背中に増加装備を抱え、左腰に帯刀した<瑞雲>を纏ったショートヘアーの女性、日向はフッと笑う。

 

「えぇ、さすがは第2世代型最後発」

 

 表情を崩さず言い切る加賀に日向は「だな」と答えた。

 

「<瑞雲>が評価され、成長していけばテストパイロットである私としても誇り高いさ」

 

 日向と、今ここにはいないが彼女とよくつるんでいる伊勢はIS学園の1期生で、卒業後は共に鶴屋重工で<紫電改>、<瑞雲>のテストパイロットとして重工のIS開発を支えてきた古参である。故に操縦センスはピカイチで重工の中では最強と言われている。

 

「ところで」

 

 日向は笑みを崩さず、加賀を見る。

 

「そっちの機体のエネルギーはまだ余裕があるのか?」

「えぇ、問題ないです」

「そうか、なら少し付き合ってくれないか?」

 

 この状況で付き合ってくれ、の意味を察せない鈍感はいないだろう。加賀は注意深く見なければ分からないくらい、ほんの僅かに笑んだ。

 

「構いません」

 

 日向もまた不敵に笑う。

 

「そうか………では!」

 

 加賀はシールドを構え身構えると、日向が両手に携えたマシンガンが火を噴く。銃撃を盾でやり過ごしながら加賀はホバー移動で日向めがけて突撃をかける。

 

「前にくるか、では私も!」

 

 日向はマシンガンを解除し、腰に帯刀していた近接用ブレードを抜刀する。

 

「ハァッッ!!」

 

 鋭い一閃が、加賀の持つシールドへ放たれる。が、シールドを横方向へ真っ二つに斬り裂いた日向は目を疑った。

 

(いない…だが…)

 

 シールドの向こう側にいるはずの加賀がいないことに驚きはした。しかしそこはIS、加賀の位置はレーダーですぐ判別できた。

 

「上かッ!!」

 

 ギン!と鉄と鉄がぶつかり合う反響音が響く。上方から叩きつけるように繰り出された加賀の剣撃は咄嗟にかかげられたブレードに抑えられる。

 日向は剣撃を振り払い、バックステップの要領で後退して距離を取る。その姿を目で追う加賀がアサルトライフルをコール。

 

「【魔法 ファイヤビー】」

 

 ポツリと呟かれた言葉に反応し、日向の<瑞雲>が背負っていたバックパック、その両側スラスターブロック先端部が開く。

 

 鶴屋重工製のISには、時たま開発主任である明石や夕張が調子に乗って作り上げたネタ的武装がいくつか存在する。緑葉が初陣時に使用していた海ヘビもその1つで、日向がテスト中であるブレイズウィザードも例に漏れず明石の夢の結晶体と言われている。

 

 計40発の小型ミサイルが一斉に発射される。<打鉄弐式>の山嵐のような独立稼働型ではないが、元より弾幕形成の撹乱にコンセプトが置かれているため、明石達は一定の成功を確信している武装である。

 

「くっ…」

 

 放たれた弾幕に加賀は顔を顰める。ウィザードシステムについては噂程度には聞いていた。しかしまさかこんなに早く投入してくるとは。

 加賀はSEの数値を横目で見る。いつのまにか消耗したのか、少し心許ない。一瞬だけ目を瞑る。

 

「今日はここまでにしておきます」

 

 結果、ゲリラ的に始まった模擬戦は加賀の一言で呆気なく幕切れとなった。

 

「なんだ、そちらはまだやれるだろ?」

「日向さんの目的は、そのウィザードを試すことなはず。これ以上無駄に装甲にキズをつけては、整備員が泣くだけです」

 

 日向はやれやれとかぶりを振り、ピットへと戻っていく加賀の後に続いた。

 ピットには数人のクルーがすでにスタンバイしていた。その中には明石と夕張の姿も見受けられる。

 

 加賀は最低限スラスターを吹かし軌道を調整、機体に過度な負担をかけない慎重な操縦を見ていたクルーから「割れ物を扱うみたいだな」という呟きが漏れ聞こえる中、静かに着地。日向の<瑞雲>も隣に着地した。

 

「相変わらず、いい腕ね」

「ありがとうございます」

 

 気さくに話しかけてきた人物の方を一瞥しながら加賀は<瑞雲>から降りる。

 

「無愛想な方も相変わらずかー。もう少し笑ってよー」

「キャラじゃないので」

「いいじゃない、ギャップ萌え。今けっこー需要あるよ?」

「どの層にですか……」

 

 加賀は右から左から顔を近づけてポニーテールを揺らしてくる女性、伊勢へジト目を浴びせる。

 

「こら伊勢、加賀も訓練で疲れているんだからあまりちょっかいをかけてやるな」

 

 背後から近寄ってきた日向は伊勢の首根っこを掴んで加賀から引き離す。日向は伊勢より年下なのだが、落ち着き払った性分に伊勢がこんな感じだからか年上に見られることが多々ある。

 

「伊勢は私が抑えているからシャワーでも浴びてこい」

「分かりました。日向さんは?」

「こいつを持ち場に戻して、明石に一言二言報告してから向かうとするよ」

 

 こいつというのは伊勢のことなのか<瑞雲>のことなのか。日向は首根っこを掴まれ悶えている伊勢を引っ張りながら明石の元へと去っていく。

 加賀を見送った日向は伊勢を掴んでいた手を離し、明石と面する。

 

「どうでした?ブレイズウィザードは?」

「上々だ。機動力アップというのは確かなようだな」

「ウィザードには外部ジェネレーターも内蔵してあるのでビーム兵装も使用可能になっています。ただパージしちゃったり破壊されると使えなくなりますが」

「問題ないさ。元より<瑞雲>の取り柄はバランスの良さだ。ウィザードをつけていなくても優秀だし、武装面も実弾で充分だろ?」

「それもそうですね」

 

 明石は日向から伝えられる内容をノートに書き殴る。伊勢がノートに書かれた文字を盗み見るがすぐやめた。ノートあるある『自分にしか解読できず他人にはなんて書いてあるか判らない文字』で書かれていたから。

 

「緑葉のところにも、ウィザードを送るのか?」

「その予定です、明日にでも届くんじゃないかなーと」

「別のウィザードをと聞いたが」

「スラッシュの方ですね。試作品の近接戦闘特化型」

 

 スラッシュウィザードもまたブレイズと同じく明石と夕張の開発チームが作り上げたロマンと夢の結晶。こちらは近接戦に主眼を置いており、ウィザード本体には【ハイドラ】と呼ばれるガトリング砲を2門、大型アックス【ファルクス】を固定装備として搭載している。ただし原作とは違いガトリング砲は実弾、アックスは実体剣になっている。

 

 初陣でこそ奇襲という形で専用機持ちと渡り合った緑葉だが、自ら生徒に頼み込む形で模擬戦を交えていくうちに実力もおおよそ把握され、今では『他の生徒と比べてちょっと上手いかな』という評価に収まっている。

 よくもまぁ適性Aを出したなとか亡国機業の新型と戦えたなと色々ツッコまれたが、緑葉を知る者からは大体「緑葉さんだから、あの人よく分かんないから」と曖昧な擁護もされた。

 当初緑葉にはブレイズウィザードが回されることになっていたが、近接戦で悪くない結果を出していたことを受けて、急遽スラッシュウィザードが回されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。IS学園の第3アリーナにて。

 

 昨日の夜、つまり加賀と日向が模擬戦をした日。突然明石から電話があり「明日新装備送るんでそれのレポート頼みますねー」とだけ伝えられ、朝目を覚まして食堂で定食を食べていたら

 

「緑葉さん宛てになんか荷物きてますよ」

 

 と谷本に言われたものだから荷物搬入口と呼ばれる場所まで行ってみると、確かに自分宛てに荷物が届けられていた。それで中身を開けてみると本当にISの装備が鶴屋重工から届いていた。

 そこから頑張ってタイミングを作って、IS使用の許可取ってアリーナ使用の許可取って、放課後南井先生と相川、谷本に協力してもらう形でテストにこぎつけることができた。

 

「緑葉さーん、準備おっけーですよー」

「あいよ」

 

 ガシン、と背部に搭載されたハイドラが音を立てる。狙うは空中に投影されたバーチャルの的。横一列、全部合わせて20個。

 

「ハイドラ砲、いっけぇぇぇえ!」

 

 緑葉の雄叫びに呼応するように、2門のガトリング砲が火を噴いた。

 銃身が回転し、けたたましく轟く銃声音は一定の音程を奏でながら次々と仮想的を貫いていく。最後の2つを残した辺りで緑葉はガトリング砲の掃射をストップ、腰部にマウントさせておいた大型アックス【ファルクス】を展開させる。

 

「お、サンライズ立ち」

 

 特徴的なポーズを取る緑葉に相川は控えめな拍手を贈る。何故か周りで小規模な爆発が起きたことはさておき、緑葉はファルクスを振るい、2つの的を纏めて斬り裂いた。

 

『おぉ〜〜』

 

 拍手を送る谷本と相川に迎えられながら緑葉はピットへ帰還、<瑞雲>から降りると真っ先に「お疲れ様」と穏やかな笑みを浮かべて装甲をぽんぽんと撫でる。

 労うように装甲を撫でるこの仕草は今ではすっかり緑葉のルーティンになっていて、それを見習う生徒も出てきた。

 

「いいな〜追加装備。訓練機にもつけれたらいいのに」

 

 出迎えた谷本がそんな思いを吐露する。

 

「明石が言うには、やろうと思えば<打鉄>や<ラファール>にも装備できるらしいけど」

「えっ、ホントですか」

「ダメですよ」

 

 管制室で仮想的の操作を請け負っていた南井がピットへと現れる。希望を一蹴された谷本は「ちぇ〜っ」と口を尖らせる。

 

「緑葉さぁ〜ん南井せんせぇーなんとかならないんですかぁ?」

「私に言われても…。緑葉さんサイドなら多分オーケーは出すと思いますけど、倉持技研が許してくれるとは…」

「向こうからしたら勝手に他社の兵装をつけられるわけだしね」

 

 恐らく<ラファール>も同じように難しいだろう。競争が激しいIS産業、この辺はシビアである。

 

「じゃあ、鶴屋重工のISを回してきてくださいよ」

「んな無茶な…」

 

 谷本の無茶ぶりに相川と南井は苦笑する。

 

「緑葉さんなら出来まーす!」

「無理でーす」

「しゅん……」

 

 確信たっぷりに胸を張る谷本だったが緑葉に即答で返され肩を落とした。

 

 あっはっはと笑う緑葉は谷本と南井を引き連れピットから出る。

 相川も後をついていこうとするが、不意にハンガーにかけられている<瑞雲>の傍に置いてある段ボール箱が目に入った。さっきまでなかったから、緑葉が持ってきて忘れていったものだろう。

 

「あれ、緑葉さん?」

 

 忘れ物ー、と呼びかけてみたがもうそこに緑葉はいない。

 「いいのかな?」と呟きながら相川は段ボール箱を持ち上げる。上下に振ってみる。とにかく軽い、中身はなんだろうか。

 

(差出人は………ん?)

 

 差出人の名を見た相川は首を傾げる。

 

【カッパ工房】

 

 そう書いてある。なんとも可愛らしい名前だが、取り出した携帯を使っていくら検索にかけてみてもヒットしない。結局相川は緑葉の知り合いが使ってる匿名名義か何かだろうと結論つける。

 

「あれ、開いてる」

 

 よく見ると既に封が切られていた。つまり葉は1回中身を確かめたことになる。

 

(だったら別に中身見てもいいよね)

 

 こういう時は大概好奇心が勝る。もう中身だけ取り出されて空っぽかもしれないが、しかし、途端に相川は困惑することになる。

 

「え、なにこれ」

 

 段ボール箱の中に入っていたのはなんとお札、それも1枚ポツンと。どうりで重さを感じず軽いわけだ。

 しかしなぜお札?緑葉が怪しい宗教にハマってる様子は全くないし、何か得体の知れない霊的なものを恐れてる素振りもない。あくまで相川の推測だが、一応中身を確かめたはいいけれど気味悪がって放置しておいた、といった線だろう。

 

 お札を見るが、なんて書いてあるかが全く読み取れない。1回取り出そうと相川の手がお札に触れた瞬間、指先に電流が走るような痛感を覚える。

 

「ッ!?」

 

 相川は咄嗟に身構える。

 慌てて手を離したせいで段ボール箱が地面に落ちる。目を白黒させ、恐る恐るお札に触れる。しかし今度は何ともなく、普通に触ることができた。

 

「びっくりしたぁ…もーなんなのさ〜」

 

 改めてお札を見るも、なんの変哲もない普通のお札だ。しかしさっきの衝撃といい、確かに気味が悪い。ドッキリの類いにしてもよく分からない。

 

(これ以上弄るのはやめよう…)

 

 相川はお札を仕舞いこんで段ボール箱を元あった場所へ置き、足早にピットから出ていった。

 

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