IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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 某日常系マンガパロ


#43 暇を持て余した者達の戯れ

「暇だから、ドラクエごっこでもしよう」

「え?ドラクエごっこ?」

「そうだ」

 

 訓練の予定も出かける予定もない休日。ルームメイトのティナも今日は友人とお出かけしている。ゆったり休日を過ごそうということで鈴はラウラとシャルロットを部屋に招いて世間話やゲームを楽しんだ。

 鈴がそろそろお開きかなと考え始めた時、外を眺めていたラウラが唐突にこんなことを言ってきたのだ。

 

 シャルロットが読んでいた本を閉じる。鈴が2人の様子を伺っていると、ラウラは鈴の前に座り込む。

 

「ぼうけんのしょをえらんでください」

「えっ?続きからやるの?」

「ぼうけんのしょをえらんでください」

「2回言わなくていいから。えーとね…」

 

 鈴は暫し考え込む。

 

「じゃあ…冒険の書、2番で」

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラああああああああ近づくんじゃあねぇぇぇぇぇえ!!こいつがどうなってもいいのかぁぁぁぁあ!!」

「ママぁぁぁぁぁあ!!」

「またすごいところから始まったわね!」

 

 恐らく子ども役を演じているラウラと、そのラウラを捕らえている強盗役のシャルロットという突然の超展開に思わず笑いそうになっていると、さっきまで強盗役を演じていたシャルロットが左手で拳銃を構えるポーズを作りながら鈴の隣に滑り込んでくる。

 

「バカやろう新入り!何やってやがる!奴を刺激するんじゃねぇ!」

「新入り!?」

「隊長!自分が奴を引きつけます!」

 

 すると今度はラウラが鈴の右隣に移動して同じく両手を使って拳銃の構えを作る。

 

「無茶だマリナ!命令あるまで待機だ!」

「誰よ!」

 

 鈴が隊長役のシャルロットにツッコミを放っていると、ラウラ改めマリアが立ち上がり、強盗へ突撃をかける。

 

「うおおおおおおおお!!」

「戻れぇ!マリナぁぁぁぁぁあ!!」

「一応聞くけどさ、ドラクエなのよねコレ」

 

 まだ序盤にも関わらず、鈴はハイテンションで役を演じているラウラとシャルロットの2人についていけなくなり始めていた。

 

「よぉーし!今日の訓練はここまで!!」

「訓練!?」

 

 シャルロット改め隊長がそう告げると、ラウラ改めマリナは「ふぅ…」と構えのポーズを解除して肩を下ろす。

 

「どうだ新入り、城の兵としての仕事は慣れたか?」

 

 隊長は展開についていけない鈴(新入り)の肩に手を置き、気遣いの台詞を言う。

 

「隊長…」

「はっはっは!帰りにひとっ風呂浴びてくかぁ!」

「は、はぁ………」

 

 役に徹しすぎてキャラが崩壊著しいシャルロットに引き気味になりながら、新入りの役をこなそうと鈴は隊長の後をついていく。

 

「待て」

 

 風呂屋に向かう途中、行く手を塞ぐようにラウラが現れる。しかし先程の子役やマリナ役とは明らかに雰囲気が異なっている。

 

「ここから先へは行かせん」

 

 鈴はこのプレッシャーを幾度と体験している。模擬戦や試合に臨むあの研ぎ澄まされた鋭利な雰囲気。それをこのお芝居にもってくるのか。

 

「…何者だ」

 

 隊長(シャルロット)もラウラが放つプレッシャーを感じ取り、警戒心を強める。なんとも言えないシリアスな雰囲気がシャルロットとラウラの間に生まれる。

 

「私が何者かなど、どうでもいい。どうしてもこの先へ行こうと云うのなら……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入浴料を払え!!」

「風呂屋かよ!!!!」

 

 今季1番の鈴のツッコミが解き放たれた瞬間である。

 脱力した鈴は無駄にシリアスな風呂屋へ入浴料という名の飴玉を渡す隊長を見ながらせめて脱衣の動きだけでもやろうとボタンに手をかける。

 

「おっとシータ、こっちは男湯だぞ?」

「隊長男だったの!?てかシータって誰よ!」

「何を言っている。シータはお前の名前だろう」

「え?あ、あたしシータって名前なの?」

 

 いよいよツッコミが追いつかなくなってきた鈴のところに爽やかフェイスのラウラがやってくる。

 

「さっさと行こうZE⭐︎シータ♪」

「誰よアンタ」

「な…何言ってるんだよ。同僚のマリナだよ、ずっと後ろにいたじゃないか」

「わっかんないわよ!」

「そしてぇ!あたいは後輩のアンジェリカっす!」

「拙者はティファニーだ」

「待って待っていきなりキャラ増やさないで分かんなくなる」

 

 この時点でこのドラクエごっこの登場人物の役振りは鈴が1役、序盤の子役や強盗役を除けばラウラが3役、シャルロットが2役だ。特にシャルロットは隊長とアンジェリカのキャラが強烈だからか現状キャラ崩壊が激しくなってきている。

 と、ラウラは鈴へ対してここまで何の設定説明がなかったことに気づく。

 

「説明しておこう。我々は魔王と戦っている軍隊の1つなのだ」

「へー、そうなんだ」

 

 無関心そうに頷く鈴。

 

「そして明日ァ!魔王にカチ込みをかける予定っすぅ!!」

「いやだから誰よアンタ」

「アンジェリカっすぅ!!」

 

 とりあえず最低限アンジェリカは覚えとかなければならないわね、と鈴が心の中で溜め息をつく。

 

「だが魔王もバカではない」

 

 ラウラは腕を組みながら神妙な面持ちを浮かべる。

 

「こちらの動きを既に掴み、刺客を送ってくるかもしれん」

「誰よアンタは」

「風呂屋だ」

「なんでついてきてんの!?」

 

 ラウラもとい風呂屋はどこから持ってきたのか眼鏡をかける。

 

「全員揃ったな!?出発するぞ!」

 

 隊長は全員(2人)いることを確かめ、号令をかける。しかしその時、低い笑い声が部屋中に響いた。

 

「ふっはっはっはっはっはっはっは」

「「!?」」

 

 笑い声を発する謎のシルエットを前に、シャルロットと鈴は身構える。と言ってもシルエットの正体は分かりきっているが。

 

「ついに見つけたぞ」

 

 謎のシルエットの女性はそう言いニヤリと口元を緩める。

 

「き…貴様は何者なんだ……?」

「いや、シルエットにしても丸分かりだからね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【前回までのあらすじ】

 

 魔王の影に怯える人々を救うために立ち上がった勇者、シータ(鈴)、隊長(シャルロット)、マリナ(ラウラ)、風呂屋(ラウラ)、アンジェリカ(シャルロット)、ティファニー(ラウラ)、コゼット(ラウラ)。

 の、前に謎の人物が立ちはだかった———

 

 

 

 

「私の子供が、魔王の軍に攫われてしまいました。助けて下さい、勇者さま」

「ええええええええええ!?」

 

 てっきり物語の重要人物の登場から思っていた鈴はまさかのモブに呆れかえる。あの大物感溢れる登場シーンはなんだったのか。シャルロットには特に動揺は見られず、淡々と相槌を打つ。

 

「困っている人を見過ごすわけにもいかん。行くぞシータ」

「誰よ、アンタ」

「隊長だ」

 

 鈴が一応の確認という意味合いを込めて聞いてみたが案の定の答えが返ってくる。

 

「だが聞くところによると、子供は東の島に連れ去られたようです。舟が要りますな」

 

 真剣な面持ちを見せるラウラに鈴はジト目を向ける。この様子なら恐らく何故かついてきた風呂屋だろうが、一応聞くことにした。

 

「誰よアンタは…」

「コゼットだ」

「誰よアンタ!?」

 

 本当に知らない人物名を名乗るラウラに鈴は今日何度目かのツッコミを放つ。

 

「仲間にコゼットなんていなかったわよねぇ!?その辺の設定とかしっかりしよ——」

「ふんっ」

「がふっ!?」

 

 コゼット(ラウラ)は突然無言で鈴に腹パンを繰り出す。鳩尾に食らった鈴は膝をついて倒れ込む。

 

「なんで殴ったの!?ねぇ今なんで殴ったの!?」

「ここが船着き場か」

「ちょ!勝手に話進めんじゃないわよ!」

 

 腹を抑える鈴に構わず船着き場を歩く隊長(シャルロット)のもとに、何食わぬ顔でラウラが近づく。

 

「舟を使いたければ、西の町で発行してる許可証を持ってきな」

「ふむ…、仕方ない。西の町へ向かうぞ、シータ」

「あ、そう」

 

 

 

 

〜西の町にて〜

 

「何ぃ?許可証が欲しい?」

 

 受付にいる人の真似だろうか、ダミ声のラウラはノートをめくる。

 

「じゃあ取引だ。北の山に棲んでるドラゴンを倒してきな」

 

 

 

 

「あのさぁ…、なんで子供助けるのにこんな寄り道しないといけないわけ?」

 

 元々の目的からどんどん逸脱している現状に鈴は溜め息を吐く。

 

「それがぁ、RPGの醍醐味っすぅ!!」

「長く旅が愉しめてよいではないか」

「だから誰が誰だが分かんないっての!」

「着いたぞ。ここが北の山だ」

「なんと、険しい」

「もうツッコミに疲れてきたんだけど」

 

 相変わらず展開についていくのに精一杯な鈴が呆れ果てていると、不意にドアがノックされる。

 

「こ…この音は…!」

「魔王だ!魔王がきたぁぁぁあ!」

 

 素に戻っている鈴は2人に「はいはい」と掌を振る。

 

「誰〜?」

『私だ、手伝ってもらいたいことがあるのだが今大丈夫か?』

「あ、箒?別にいいわよ〜」

 

 来訪者は箒で、鈴に手伝ってもらいたいことがあるらしい。

 

『ところでさっきから部屋の中から叫び声が聞こえるのだが誰か先約がいるのか?』

 

 鈴はベッドに乗りながら慌てふためいている2人を横目で伺う。

 

「ラウラとシャルロットが遊びにきてるのよ。あー…まぁ構わないで」

『そ、そうか』

「ちょっと待っててもらえる?」

 

 箒にそう断りを入れた鈴はラウラとシャルロットをベッドの上から引き摺り下ろす。

 

「何やってんのよアンタ達は」

「急げ鈴!ラストバトルだ!」

「はぁ?てか子供は?」

「子供はさっき誰かが助けたって!」

『鈴大丈夫か?入るぞ』

 

 廊下で待機していた箒が鈴の部屋に入り込んで目にした最初の光景は

 

「よくきたな魔王がぁぁぁぁぁあ!!」

「覚悟してよね!!」

 

 と叫びながら飛びかかってくるラウラとシャルロットの姿だった。そんな2人の背後では鈴が頭を抱えている。

 

「な、な、なんだ!?」

 

 2人の襲撃に戸惑う箒だったが、身体はしっかりと身構えて臨戦態勢を整える。箒の右手がラウラの、左手がシャルロットの手を握る。

 

「あっ」

「うぇ?」

 

 奇襲を破られたラウラとシャルロットは途端にとてつもない痛さを抑え付けられた手に感じた。実はこの時、箒は握る力を無自覚で強めていた。

 

「あだだだだだだだだだだだだた!」

「痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

 想像以上に強い箒の握力を前にラウラとシャルロットはなす術もなく悶える。

 

「たったた助けて鈴〜!」

「収拾を!収拾をつけてくれあだだだだ!」

「………」

 

 ラウラ達に助けを求められた鈴は真顔を崩すことなく、こう言い放った。

 

「………ここで一旦セーブしとく?」

「ん?あ、あぁ…そうしてくれ…」

 

 どう考えても『詰みセーブ』というものだが、ラウラとしてもここらで一区切りつけたかったのだろう。

 

「くっ…くっそぉぉお!」

 

 シャルロットは箒の拘束を振り切り、ベッドの影に隠れる。どうやらシャルロットは続けるらしい。

 

「た…隊長…」

 

 ラウラもシャルロットの意図を感じ取ったのか悲哀に満ちた声で隊長を見やる。魔王と呼ばれた箒は「なんなのだ一体」と困惑している。

 

「隊長…もうこの辺にしましょう。これ以上は、憎しみを、争いを生むだけだ。ここはベトナムではありません、アメリカです!戦争は終わったんです!隊長!」

「あれ?なんか話変わった?」

「……ッ!」

 

 ラウラの説得に隊長(シャルロット)は屈辱から唇を噛む。やがてベッドの影から出てきた隊長は今まで抱え込んでいた思いを全てぶちまけた。

 

「何も終わっちゃいない!何も終わっていないんだ!僕にとって、戦争はまだ続いたままなんだ!!」

 

 シャルロットはわざとらしく鼻を啜る。もはや名演技を超えて怪演技の域に突入している迫力に3人は呆気を取られる。

 

「…自分で買った好きな洋服をディスられている!!」

「?」

「…?」

「???」

 

 上から鈴、ラウラ、箒のリアクションである。その後もシャルロットの魂のこもった独白はヒートアップしていく。

 

「SNS上では『クソダサいw』だのみんな好き放題言いやがる!アイツらなんなんだ!何も知らないクセに!!」

「………服のセンスが悪かったんだ」

「…悪かったぁ!?僕の時代はいつくるんだ!?」

 

 神妙な面持ちでシャルロットと向き合うラウラの横で、鈴と箒は頭を抱えて笑いを堪える。ラウラにも心なしか台詞を引っ張り出すのに少し間があった。

 

「少なくとも、ファッション誌には載っていた服だよ?」

 

 知らねぇよ、と鈴は言葉に出さずともツッコミを入れる。

 

「自称ファッションリーダーがこんなところで死ぬのか?」

「僕、これまで色んな可愛い役やらせてもらったよ?でもイベントに出たら大喜利ばっかりやらされる!!」

 

 シャルロットは枕を引っ掴んでその辺に投げ捨てる。

 

「帰ってくるんじゃなかったぁ…!」

 

 その場に蹲るシャルロットの目には涙が浮かんでいる。ここまでくるとさすがのラウラも困惑し始めてきていた。

 

「な…なんなのだ?シャルロットは何を言っているのだ?」

「スマン、何とかついていこうとしたがさすがにあれは私にも解らん」

「うーんあたしもちょっとねぇ…、まぁ何?もう少し…もう少しだけ、さぁ、あのー聞いててやってくれない?ちゃんとあとで手伝いの方はやるからさ」

「あ、あぁ…私はいいのだが…」

 

 シャルロットの思いなのか、はたまた違う別の事情が混ざっているのか、独白もやがて佳境に入っていく。

 

「チヤホヤされたかった。みんなみたいに…でももう引き返せない場所まできちゃったんだ…!僕は所詮バラエティ担当だよぉぉぉぉぉぉぉ………!!」

 

「うっ…うっ…」と嗚咽を漏らしながら、シャルロットは顔を上げて窓の外を見やる。

 

「……毎日夢を見るんだ、川柳大喜利がスベった時の夢を…。いいじゃないか、自分の好きな服を着ればさ……うっ…うわああああああん……」

「シャルロット……」

 

 シャルロットは今どういう心境で役にのめり込んでいるのか、そもそも本当にただの役なのか。それを深くまで知ろうという無粋なことはしない。

 ラウラは咽び泣くシャルロットを優しく包み込む。慈悲のある微笑みを見せながら。

 

「………これは、ハッピーエンド?でいいのか?」

「さぁ…」

「おい、何をしている」

「えっ」

 

 ドアの方向から聞こえてきた声に鈴は突発的に背筋を正す。箒やラウラ、シャルロットも錆びたブリキ人形の如く恐る恐る振り返ると、休日にも関わらず普段通りスーツを着込んでいる千冬が立っていた。

 箒が手伝ってもらおうと頼もうとしていた手伝いの内容、それつまり千冬の仕事だと鈴が察するよりも早く、誰かが呟いた。

 

「ま……ま……」

「ま?なんだ?」

『魔王だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!』

 

 

 

 

 鈴曰く、後のことはよく覚えていないという。どんなお手伝いだったのかも、どうやってその仕事をこなしたのかも。

 ただ、記憶にある限り最後に見た光景は、千冬が己の頭部へ向けて何かをしならせるように振るう姿と、脳内で形成された【To Be Continued】の横文字だけだった———

 




シャルロットの声帯の広さはクラスメートの間でネタになったらしい
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