IS 〜夢のような旅路〜   作:フレイア

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お久しぶりです。こっちで2か月以上空くとは思いませんでした。

今日はファースト幼馴染み、箒ちゃんの誕生日。というわけで今日は箒が主役を張るお話。


#46 可憐に、剣道少女

「はぁ…」

 

 IS学園から離れた繁華街を、篠ノ之箒は溜め息を吐いて歩く。彼女には珍しく、今日は1人での外出だ。

 彼女の手には貰い物が入っている紙袋が握られている。しかし紙袋に目を落とした箒はまた鬱屈そうに溜め息をついた。

 

「本当にどうすればいいのだ…」

 

 紙袋に入った貰い物、緑葉から貰った品物なのだが、いつどこで使うか分からない上に当の緑葉から「まだ家にいっぱいあるんだよ」と半ば押しつけられるようにして貰ったが、正直要らなかった。

 実家の神社に置いておこうかと思っていた矢先に、偶然話を聞いた和田楓から「自分の友人がコスプレイヤーをやっていて、もしかしたらその人が譲ってくれるかも」と教えてくれた。

 貰い物を別の人にあげることには多少気が引けたが、タンスの肥やしになるよりマシだろうと思い立ち、休みを利用し和田の友人が住んでいる街に向かったのだが………。

 

「まさか留守とは…」

 

 和田から住所を教えてもらいアパートまで足を運んだ箒を襲った不運、それは和田の友人が旅行に行ってしまったことだった。

 庭掃除をしていた大家に話を伺うと、なんでも箒が訪ねた約1時間前には出発していたらしい。

 

 貴重な休日を割いてまでやってきた結末がまさかの骨折り損。現在はトボトボと駅に戻っている途中である。

 

「今日はもう帰って、午後はゆっくり休むとするか。最悪返すのも……」

「アレ、もしかして篠ノ之さん?」

 

 気持ちを切り替えた箒の耳に、ふと少女の声が聞こえてきた。

 

「ん?何故私の名を知っている」

「やっぱりそうだ!覚えてない?一緒に道場で剣道習ってた柏木だよ!」

「柏木………?あ、あの柏木か!」

「そうそう!こんなところで会えるなんて奇遇だね!」

 

 柏木と呼ばれた少女は満面の笑顔で箒の手を握る。手を握られた箒も、ぎこちない笑顔を返す。

 柏木咲。幼少期、箒や一夏と共に篠ノ之神社で剣道の稽古をつけていた子だ。同い年だが学校は違い、箒もその時は一夏と一緒に行動していたため柏木とはあまり接する機会はなく、小学4年の頃に引っ越ししてしまいそれきりとなってしまった。あれから数年、まさかこんなところで再び出会えるとは。

 

「柏木はこの辺りに住んでいたのか」

「あ、ううん。今日はおじいちゃん家に遊びにきてるの、今は藍越学園に通ってるよ」

「藍越学園?」

「どうかした?」

「いや、そこに知り合いがいるのでついな」

「へぇ〜そうなんだ!」

 

 少し話が弾んできたところで、柏木はこんな話題を切り出す。

 

「ねぇ、この後時間ある?」

「この後?特に用事という用事はないが」

 

 帰ったところでヒマなだけだ。

 

「じゃあ一緒にご飯食べながらお話にしゃれ込むのはどう?」

 

 柏木からの提案に箒は少し考え込む。

 小中学校時代、全国各地に転校してはまた転校する日々を送っていた箒には一夏以外友達と呼べる友達がいなかった。IS学園に入学してからは専用機持ちを始め、同じ部活の子やクラスメートとも順調に親交を築いている。

 

 ただそんな箒も最近は淡い希望ながら『学園の外部にも頼れる友人が欲しい』と思っていた。その矢先にかつて同門で学んだ柏木と偶然再会した。この機会を無駄にするのはもったいない。

 

「うむ。この機会に柏木とも親睦を深めたいからな」

 

 箒が申し出を快諾すると、柏木は絵に描いたような笑顔を作る。

 

「やった!この先にファミレスがあるからそこにしよ!」

 

 近くのファミレスに入った箒と柏木は積もった話に盛り上がった。

 柏木は今でも剣道を続けていて、去年の全国大会にこそ出場は叶わなかったが県大会の準決勝まで駒を進めたこと、現在は藍越学園の剣道部所属で期待の部員だと期待されているとか。

 

 箒も今はIS学園にいること、剣道もしっかり続けていることを語った。

 ちなみに紙袋の中に入っているモノを柏木の周りで欲しがってるやつはいないか?とも聞いてみたが答えはノーだった。

 

「そっか、篠ノ之さんあの後大変だったんだね…」

 

 柏木は引っ越し後に箒がいた環境がどれほどのものだったのかを察し、箒もまた沈痛な面持ちで言う。

 

「あの時は毎日がつらかった。友達が出来なければ出来てもまた転校の繰り返し。そのせいで私はどこでも孤立していた。仕方ないと割り切ってはいたがまだ子供だ。当然ストレスも溜まる。その結果がアレだ」

 

 去年の剣道全国大会、その決勝戦にて箒は形でこそ完勝した。すごい才能を持った少女が現れたと煽てられた。

 しかしあの時の箒は、剣道を日々の鬱憤晴らし、真剣勝負とは程遠いただのストレス発散にしてしまっていた。

 

「もし過去をやり直したいのなら、何をやり直したいか?と問われれば、私はあの決勝戦だと答えたい。あの時の私は剣道をただの憂さ晴らしのための道具としか思っていなかった。相手は正々堂々剣で挑んできた。しかし私はそんな心意気を踏みにじってしまった」

「篠ノ之さん………」

「正直、もう剣道を辞めようと思っていた。だがそんな私をいつも引き留めてくれたのは一夏の存在だ。剣道を続けていれば、いつかまた一夏と会えるのではないか、そう思ってな」

 

 そして今年、箒は6年ぶりに一夏と再会できた。

 

「自己嫌悪に陥ったこともあったが、今の私には頼れる仲間が…頼れる相棒がいてくれる」

「それが篠ノ之さんのIS?」

「あぁ」

 

 頷きながら、箒は左手首に巻かれた赤い紐を摩る。彼女の愛機<紅椿>の待機状態だ。

 

「奇縁なものだ。私の人生はISによって狂わされたのに」

「面白いね、人生って」

「全くだ」

 

 2人はクスクスと笑う。

 

「ねぇ、今度篠ノ之さんがISに乗ってるところ見てみたいな」

「んー…学園に入れる望みは薄いかもしれないが、出来る限りのことはしてみよう」

「うん!楽しみにしてるね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとう、久々に話せて楽しかったよ」

「私もだ。たまたまとはいえ、柏木と出会えて幸運だった」

 

 あの後も2人で楽しい時間を過ごした箒と柏木は駅前の広場にあるベンチに腰を置く。

 

「あ、良かったらLINE交換しない?篠ノ之さんスマホ持ってる?」

「あぁ。だがやり方が分からない」

 

 箒は基本LINEで友達と話したりはしない。

 友人は学園内の生徒が大半だし話すなら直接面と向かって話すのが常。故にお友達登録のやり方は正直知らない。クラスのグループ登録などはみんな操作に詳しい子にやってもらった。

 今回も柏木にやってもらっている。箒が申し訳なさそうにしていると柏木は「ふふ」と微笑んだ。

 

「篠ノ之さん、織斑君の画像待ち受けにしてるんだ」

「えっ?あっ、まっ!」

 

 一瞬ポカンとしたが、その後は絵に描いたような取り乱し方をして柏木からスマホを取り上げる。

 

 箒は以前友人からこっそり貰った一夏の写真を密かに待ち受け画面に設定していた。完全にそのことを忘れて柏木に手渡してしまった。

 

「み、見るな!人のプライバシーを!全く不躾なやつだ!」

「あははは。大丈夫大丈夫、誰にも言わないから」

「………考えてみれば柏木が言ったところでという話にはなるな。いきなり取り乱してすまなかった」

 

 詫びを入れ、箒はバツが悪そうにする。

 

「へーきへーき、それにしても織斑君がねぇ…」

 

 幼少期、共に剣道を学んでいた一夏の姿を柏木は覚えていた。

 同じ中学に上がってからは生活費を稼ぐためバイトをしていて、柏木と同じく藍越学園に進学するという話を聞いた矢先に、彼がISを動かしたなんてニュースを耳にした時は驚いた。

 

「確か男子生徒は織斑君だけなんでしょ?どんな様子なの?」

「どうもこうもない」

 

 箒は素っ気なく答える。

 

「まぁ大体想像はつくかな。ねぇ、今度私にも紹介してよ」

「うーむ…一応考えておく」

 

 友達として紹介するのなら別に構わないだろう。恐らく一夏も柏木のことは覚えているはずだ。見た限り柏木が一夏に想いを寄せている様子は特にない。会わせるだけなら大丈夫だろう。

 

「そろそろ電車の時間だ。今日は楽しかったぞ柏木」

 

 スッと立ち上がった箒は柏木の方を見てくすりと笑う。

 

「今度は篠ノ之さんの友達ともお話したいな」

「あぁ。いつかタイミングが合えばな」

「約束だよー」

 

 短いやりとりを終えて、柏木は箒を見送り踵を返す。久しぶりに会えた旧友との交流のおかげでステップにも出るぐらいご機嫌だ。

 

 ドンっ

 

「あ、すみません」

 

 と、前から歩いてきた男の集団の1人に偶然肩がぶつかる。柏木が詫びを入れて通り過ぎようとした途端、背後から叫び声が轟いた。

 

「うおおおおおおおお!!痛ええええよおおおおおおお!!」

「え?えっ?」

 

 何が起きたか分からず振り返った先には、先程ぶつかった男が肩を抑えて蹲っていた。

 

「だっ大丈夫かマサ兄ぃ!」

「うぐぉぉぉぉお!か、肩が…!肩がぁぁぁぁぁぁあ!」

「あぁっ!こ、こいつぁひでぇ!完全に折れてやがるッ!」

「痛えーよぉぉお!痛えーよぉぉぉぉお!」

 

 肩を抑えたマサ兄と呼ばれた男の周りに2人の男が集まっている。

 対する柏木といえば、

 

「………………………」

 

 呆れ果てて声も出なかった。

 絡まれるのも面倒だし、無視して行ってしまおうと歩き出した柏木にチンピラの1人から声がかかる。

 

「おい嬢ちゃん、人様怪我させといてシカトかぁ?あぁん!」

 

 見つかった。なんかいつの間にかチンピラが5人に増えている。

 

「お前がぶつかってきたからこんなことになったんだよ。どうしてくれんだよ、あぁ?」

「あの、そんなこと言われても困るんですけど…」

「あ?お前そんなこと言える立場?」

「あーあ、これ肩粉砕骨折しちゃったかなぁー。責任取れやコラァ!」

 

 4人のチンピラに四方を囲まれ、身の危険を感じた柏木は周囲の人に助けを求めるように目を泳がせる。

 しかし周りの野次馬は面倒ごとに関わりたくないのか意図的に柏木を無視、または遠巻きから様子を伺うだけ。助けの希望は限りなく薄い。

 

「や…やめてください…!」

「泣いたって無駄だぜぇ?そうだなぁ、慰謝料諸々含めて500万はもらいてぇなぁ」

「お、コイツ結構良い身体してんじゃん。これから俺らと1日中遊ぶってんなら見逃したって良いぜ。もちろん夜もな!」

「へはっ、いいっすねぇー!」

 

 チンピラからの下卑な態度に屈しないと我慢するも柏木もまだ10代の女子。誰も助けに来ない状況の中、ひしひしと心の支柱が傾き始めていた。

 

(助けて………誰か…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな白昼堂々に女子ひとりを手篭めにするか。言語道断だな」

 

 

 

 

 刹那、柏木にとって聞き覚えのある声が周囲に走る。

 

「あ?うげっ!」

 

 1人のチンピラが声のした方へ振り返った瞬間、その眉間に木刀が叩き込まれる。

 

「マーボー!」

「てめぇ!ナニモンだ!」

「何者、か。お前たちのような屑に名乗る名前などない」

「んだとゴラ!」

 

 チンピラに全く怖気つくとこなく木刀を握る女性。柏木は恐る恐る顔をあげる。

 

(ま、まさか…)

 

 チンピラ達は柏木を放して木刀を持った女性に襲いかかる。対する女性は正確な一撃をチンピラへと打ち込んでいく。

 

「遅い!」

「ぐはっ」

「ぐえっ」

「ぎゃんっ」

 

 一瞬でチンピラ4人を薙ぎ倒した女性は柏木の手を掴む。

 

「周りの野次馬も野次馬だ。か弱い少女が助けを求めているのに見て見ぬ振りか。大人として、否、人として情けないとは思わないのか?」

 

 凛然とした風格を醸し出す女性に遠目で様子を見ていた野次馬がざわめき立つ。

 

「い、いや…今助けを呼ぼうと………」

「言い訳無用!そのようなことを言う前に呼ぶものだろう!」

 

 女性の手を握った柏木は言い知れぬ安心感を覚える。かつて自分と手合わせしたあの姿が甦る。

 

「ふふ………、やっぱり強いな。篠ノ之さんは」

 

 高鳴る高揚感を感じ、小声で呟いた柏木は改めて女性の……箒の顔を見た。

 

「私の友人に、汚い手で触れるな!!」

「でも1つだけ言わせて。その格好何!?」

 

 変な仮面&陣羽織という、明らかに場違いな箒の出で立ちに思わず柏木はツッコミを繰り出していた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在の状況を簡単に整理しよう。

 まずは柏木サイド。箒と別れて帰り道を歩いている途中チンピラに絡まれてしまう。助けも望めない中、颯爽と現れたのがさっき別れたはずの篠ノ之箒本人だった。

 しかし現れた彼女は何故か仮面をつけたり陣羽織を羽織っていた。

 

 続いて箒サイド。柏木と別れ駅構内に入ったが乗るはずだった電車に間に合わず、仕方なく先程までいた場所を適当にぶらついていたら偶然柏木がチンピラに絡まれているのを目撃した。

 助けに行こうとしたが相手は5人。さすがに素手では分が悪いと判断した箒は近くの土産店に駆け込んで木刀を購入。そして、この衣装を身に纏った。

 

 緑葉から貰い、和田の友人にあげようとしていた荷物。それは陣羽織と仮面それぞれ一式だった。仮面は面頬と呼ばれるかつての武士が顔面を守るために装備していた防具をモチーフにしているという。緑葉が使い道に困ると言っていたが、本当に使い道に困るモノだとは思わなかった。

 というわけでいつどこで使えばいいのか分からない代物だったが、変装に使えるとは着こなした箒自身思いもよらなかった。

 

「てめぇ、何さらしとんじゃオラ!」

「つーかなんだそのカッコ!客観的に自分のことが見えねーのか!?今のオメーを鏡で見てみろバーカ!」

「ふん、お前達の方がよほど恥ずかしいことをしていると思うが?」

 

 箒は憮然とした態度で言い放つ。

 

「あの…しのの———」

「今は名前で呼ばないでほしい、私だとバレたくはない。何か別の呼び名で頼む」

「わ、分かった」

 

 小声で話し合う少女達に痺れを切らし、チンピラが喚く。

 

「いつまでコソコソ話してんだ!」

「いつまでも喧しい連中だ。怪我はなかったか、柏木」

 

 仮面越しにだが、箒は確かに安堵の笑みを浮かべていた。

 

「あ、ありがとう…!えーっと………

 

 

 

 

……………【シスター・ケンドー】!!」

「ん!?」

 

 突然の謎ネーミングに箒はつい素っ頓狂な声を上げる。

 この場面で柏木の絶望的なネーミングセンスを思い知った篠ノ之箒改めてシスター・ケンドーは「んん…!」と咳払いをする。

 

「シスター・ケンドー…か。皆勝手にそう呼ぶ、迷惑千万だな」

「リアクションからして気に入ったのかと思ったよ」

「まさか」

 

 仕方ない。この件は後で柏木は問い詰めるとして、今はそう呼ばれてるように演じるしかない。

 

「何ごちゃごちゃ言ってんだ!シスターだかケンドーだか知ら———」

「シスター・ケンドーだ!剣を愛し、剣に愛されし乙女。それが私であり、シスター・ケンドーだ」

 

 チンピラの喚きを無理矢理遮り、シスター・ケンドーが叫び返す。

 

「篠ノ之さん、それ自分で言って恥ずかしくない?今結構イタいこと言ってるよ」

「熟知している。それに羞恥心はすでに吹き飛んだ」

「ホントに大丈夫?キャラ変わってる気がするけど」

「それも自覚している。今はシスター・ケンドーになりきるだけだ」

 

 小声でのツッコミに小声で返したシスター・ケンドーはチンピラ5人の前に立つ。猿芝居を演じていた大将格のマサ兄も戦線に復帰している。

 

「おうおう嬢ちゃんよぉ、あんまりイキってっと痛い目あうぜ?」

「ふむ………。イキる、というのがよく分からんが要するにチョリーッス!とかそういう類いのものか?」

「ちげーよ!チョリーッスとか古りーし久々に聞いたわ!おいコラおちょくるもいい加減にし——」

「唐突に!」

「は?ぐぇっ!」

 

 一瞬で間合いを詰めたシスター・ケンドーの放った打撃はチンピラB(マーボー)の横腹に打ち付けられる。

 

「マーボー!」

「てめぇ!せめて話は最後まで聞けや!」

「聞く耳持たぬ」

「んだとぉ!」

 

 吹っ飛ばされたマーボーに一瞥もせずシスター・ケンドーは残りのチンピラ共に木刀を構える。

 

「来い。その腐った性根、成敗してくれる」

 

 あえて挑発するように手招きをすれば、チンピラ達は面白いようにノってくれた。

 

「上等だコラぁぁぁぁぁあ!」

「そっちのオンナと一緒に遊んでやらぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいぃぃぃい!」

「許してくだせぇぇえ!」

 

 シスター・ケンドーの周りにはコテンパンにされたチンピラがのびていた。対するシスター・ケンドーは無傷。あれから僅か2分である。

 周りの人達から拍手が上がる。まさに千切っては投げ、千切っては投げ、という感じの戦闘だったと野次馬はのちに回顧している。

 

「多勢に無勢。所詮口先だけのやつはこの程度か」

 

 険しい表情を崩さぬまま、シスター・ケンドーはマサ兄と呼ばれたリーダー格のチンピラの眉間に木刀を向ける。

 

「ひっ、ひいっ!」

 

 完全に戦意を失くしたチンピラは見てる方が情けなくなりそうなへっぴり腰を抜かしている。

 

「ふん………」

 

 彼らの醜態に1つ溜め息をついた彼女は、木刀を下げてから言い放った。

 

「ならば斬る価値も無し!二度と私の友人の前に姿を見せるな!」

「う、うわああああああ!!」

 

 情けない叫び声を発しながらチンピラ達は散り散りになって逃げていった。

 

「刀の錆にもならぬ奴らが。全くつまらぬものを斬ってしまった」

「シスター・ケンドーさん!」

 

 木刀を仕舞ったシスター・ケンドーのところに柏木が駆け寄ってくる。

 

「柏木か。その様子ならもう大丈夫そうだな。それともう名前で呼んでもらって構わない」

「あ、そうなの?助けてくれてありがとう篠ノ之さん」

「なに、友達を助けるのは当たり前のことだろう?」

 

 箒はそっと仮面を外す。

 その時、携帯からコール音が鳴り、箒は携帯を取り出す。相手の名前を見ると、そこには【和田楓】と書かれていた。

 

「篠ノ之です」

『あ、箒さん?今電話大丈夫?えっと、さっき私の方に衣装譲ってくれるかもって言ってた人から連絡があってさ、今旅行中って聞いてビックリしちゃって。それで私からその人にこれこれこうだって事情説明したの。ごめんね、折角箒さん自ら足を運んでもらったのに』

「あぁ、その件か」

 

 そういえばこの街に来た理由はこの陣羽織と仮面を和田の友人に譲ることだった。そこまで思い出した箒は、電話越しに首を横に振る。

 

「和田、悪いが今回の話は無かったことにしてくれ。とその人に伝えておいてくれないか?」

『え?』

「そうだな…私自身この衣装に愛着が湧いてしまった、と言っておこうか」

『…分かった、じゃあ私の方からそう伝えておくから』

 

 通話を切った箒は心の底から妙に清々しい気持ちが込み上げてくるのを感じた。

 

「柏木。今日は色々あったが楽しかった。改めてお礼を言いたい。また時間があったら会おう」

「うん!こっちこそ今日はありがとう、篠ノ之さん」

 

 駅に向かおうとした箒は、不意に「あ」と声を出し立ち止まる。

 

「今度からは箒でいい。名字で呼ばれるのはやはりどうも苦手なのだ、むしろそうしてほしい」

 

 箒は照れくさそうに言う。姉の件があってから、どうしても名字で呼ばれることにむず痒い気分になってしまう。だからこれまでも友人達には出来るだけ下の名前で呼んで欲しいと言ってきた。

 

「りょーかい!箒さん!」

 

 そんな彼女に、柏木はニカっと笑った。

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