「それだったら、ここに泊まればいいよー」
先行き不安な空気が緑葉達に立ち込めている時、のんびりとした口調でのほほんさんこと本音がそう発する。その言葉は緑葉達にとってまさに天からの贈り物でもあった。
「え?それホント?というかいいの?」
「多分おっけーもおっけーだよ〜。いくつか空き部屋あるってたっちゃんから聞いたからそこ使えばいいよ〜」
のほほんと返答する本音を他所に緑葉と藤川、そして龍驤の3人は小声で話し合う。
「どうするよ?」
「そりゃ君アレだろう、ここに泊まれるんならそれ以上のありがたさはないぞ?部屋の写真見たけど設備凄かったぞ」
「でもあの子の言うことホンマに大丈夫なんか?信じてええんか?」
「いやでもそうは言ってもあの笑顔を無下にしたくないよ私は」
3人は改めて提案者の本音を見る。ふわふわとした雰囲気の彼女からの提案は正直鵜呑みにしたくない。そんな彼らの心境を知ってか知らずか本音はニッコリと屈託のない笑顔を浮かべる。
「えーと、一応も1回聞くけどそれ誰か許可できる人がいるとかそういうのある?それとも貴方の独断?」
「んー、でもたっちゃんに聞いてみないと分からない」
たっちゃんって誰だ。
仮にもここに滞在できるのであれば本当にそれ以上のありがたさはないが。しばらくすると本音は手の甲をポンと叩いてドアの方へ回れ右をして
「じゃあたっちゃんに聞きに行こう!」
本音がスタスタと廊下を歩き出す。
慌てて3人も本音の後をついていくが、その足取りからも不安が窺い知れる。
「これは本当に大丈夫なのか緑葉君。もしかしたら俺たちひょっとしたら〆上げられるんじゃないか」
「私に言われても困るよ。そういう時は連帯責任だからな誰かに擦りつけるとか絶対ナシだからね?」
緑葉が藤川に2本と言わず3本ぐらい釘を刺してるのを他所に本音はどんどん前へ進んでいく。
「でもホンマの事言っとる風に感じたけどなぁ」
袖を振りながら歩いていく本音の姿を見ながら龍驤は小声で呟く。緑葉は肩を竦める。
「分からないよ、案外腹黒いかもしれない。全然そんな感じしないけどもさ」
ふっと夕日が差し込む窓から見える校庭の方に目をやると部活に勤しむ子もいれば、ベンチに座り黄昏ている子もおり皆自分の時間を楽しんでいる。古今東西そういった情景は変わらないものである。
そうこうしているうちにとある一室の前に差し掛かったところで本音の足が止まる。緑葉達がドアの上にかけられてある表札を見るや否や怪訝な表情になる。
「生徒会室……?」
「そうだよ〜」
まさか生徒会室に連れて来られるとは思っていなかったため呆気をとられる。
もしかすると本音の言う『たっちゃん』とはこの生徒会のメンバーなのだろうか?しかし例えそうだとしてもIS学園となんの関係もない我々をここに滞在させることが出来るほどの権限があるのか、正直な感想を述べればとてもそうは思えないが。
「たっちゃ〜〜んお客さーん」
そう言いながら本音は普通にドアを開けて生徒会室に入っていく。つーか今ノックしてなかったよね?
さすがの緑葉でも「おじゃまします」と言って入る勇気は無く、閉まるドアをただ見つめるだけだ。
「これ入らなきゃダメ?」
「いや俺は入りたくないぞ」
ドアの前で立ち尽くしながら互いに顔を見合わせる。いやどのみち入んなきゃいけないんだろうけども何故か身体が拒否反応を起こしている。
「よしじゃあせーので入ろう!3人でせーので行こう!」
「待ちたまえ緑葉君、せーので行くのはいいがどのタイミングでいくんだ?せーのの『せ』か?それとも『の』か?言った瞬間かそれとも言った後か?」
「まず誰がドアを開けるか?何ジャンケンで決める?こいよ土壇場強いぞ私」
「俺だって君アレだぞ、こう見えてジャンケン強いから、もう親戚の子に圧倒的な実力つけてる俺に勝てるか君が」
「君のようなやつが最初に出すのは相場が決まってるんだよ大体お前まずグー出すだろグー」
「あぁ!?なんで君が知ってるんだよ!俺教えてないぞどこで見破ったんだ!」
「もうウチ開けるで」
緑葉と藤川がどうでもいい言い争いをする中蚊帳の外に置かれていた龍驤が生徒会室のドアを開け部屋の中へ入っていく。緑葉と藤川も龍驤へ続くように生徒会室へ入る。
「待ちわびたわよ、おかしな来賓さん」
生徒会室へ入った緑葉達を出迎えたのは3人の少女だった。
1人は先程自分達を案内してくれた本音、よく見ると生徒会室の机にベターっと身体を突っ伏してるけど。彼女は生徒会の一員なのだろうか、とてもそうには見えないがその机を見ると『書記』と書かれている立て札があるので多分本当なのだろう。
そして後の2人、丁度自分達にお茶を淹れてくれた子は眼鏡をかけて髪を三つ編みにして知的な雰囲気を感じさせる。彼女も生徒会のメンバーなのだろう、如何にもな感じしますし。
そして水色の髪をなびかせ、机に肘を置き椅子に座る子が1人、なんか手に扇子持ってるし見ると『歓迎』って書いてある。
緑葉達を舐めるように見ていた水色の髪の子はゆっくりと口を開く。
「ようこそ生徒会へ。貴方達のことは理事長や織斑先生から聞いているわ」
案の定ここにも私達のことは伝えられてたみたいである。
「私は更識楯無、生徒会長にしてロシアの国家代表でもあるわ。ヨロシクねっ」
「布仏本音だよー!」
「布仏虚です。生徒会の書記を担当しています。本音は私の妹です」
実のところ楯無という子がロシアの国家代表だということ以上にあのぐだーっとしてる本音が生徒会メンバーだということに3人は衝撃を受けていたのは内緒である。
「あのー…その国家代表ってのはやっぱり腕は確かなんですよね?」
何を今更と思ってしまう質問を藤川が楯無さんにぶつける。
「当然。そして学園を統括する者は何事にも最強でなければならないの」
楯無さんが扇子を開くとそこには『学園最強』と書かれていた。さっきと書かれてる文字が違うというツッコミを心の中に封じ込める。
違う意味で感心する緑葉の横で楯無さんの話を聞いていた龍驤だったがある違和感を覚えた。
「ん?ロシアの国家代表言うとったけどアンタ日本人やろ?なんでロシアの国家代表なれるん?」
「あぁ確かに」
龍驤の言う通り、楯無さんはどう見たって日本人である。こっちの業界について深くは知らないが普通なら自国の人が自国の代表とかになるものだと思うが。
「色々あるのよ、色々と、ね?」
結局はぐらかされる。楯無さんは唇に人差し指を当てながら『秘密』と書かれた扇子を開く。もうアレは気にしなくてもいいやつかな。
ISはその性能、社会に与えた影響などの観点から外交のカードにも使われる。そんなディープな闇の世界に安易に片足突っ込んでとんでもない事態になるのも嫌なのでこれ以上は深くは追求しないことにした。
「それはそれとして、例の話は本音ちゃんから聞いたわ」
扇子を閉じた楯無さんの目つきが変わる。
例の話というのは十中八九我々の滞在についてだろう。ハナから期待していないがいざ無理と言われると別の意味で少し心にくるものだ。
「結論から言うわね、オーケーよ」
「「「……………………え?」」」
緑葉達の予想はあっさりと覆される。なんと許可が降りてしまった。楯無さんはニコリと笑みを浮かべながら『OK』と書かれた扇子を勢いよく開く。
鳩が豆鉄砲を食ったような表情のまま緑葉が聞く。
「真面目に何故?完全外野な私達を」
「うーん…別に深い理由は無いわね。あっても言わないけれど。強いて言うなら私、面白いことが好きなの」
「は、はぁ…」
「緑葉さんから、なんとなく面白そうな雰囲気を感じて」
「…………」
理由になりそうでならない理由を言われて緑葉は曖昧な返事をするしかなかった。それでいいのか最強の生徒会長。
「一夏君やシャルロットちゃん、本音ちゃんも貴方のこと気に入ってるみたいだしね」
楯無さんの目つきに緑葉は思わず身体をビクつかせる。私はあの眼を知っている。あの目つきはからかいがいのあるモノや面白いオモチャを見つけた時のそれだ。
「先生達には私の方から報告するわ、部屋はそうねぇ…」
虚からファイルを手渡された楯無さんはパラパラとページをめくりながら手に持った扇子を回す。
というのも近いうちに秋の学年別トーナメントがあるのだ。本来は予定されていなかったのだが、春に行なった時はとある事情で中止となってしまい、一応の措置としてデータ測定という名目で一回戦だけは執り行ったものの一部の生徒達から不満が殺到し、急遽決まったのだ。
それでもわざわざスケジュールを変更してまで秋の学年別トーナメントを観戦すると各国の要人から連絡が入っているのだからISがどれほどの影響力をもつのかよく分かる。
そのため学園周辺にあるホテルの部屋は全て埋められていて学園内にある来賓用の宿舎も満杯となってしまっている。
「う〜ん、学生寮になるけどそれでもいいかしら?」
「あ、全然大丈夫ですよ。寝る所があれば倉庫でもいい」
「屋根があるところならどこでも」
緑葉が快諾し、藤川も同意する。藤川の言う通りそれこそもう屋根があるところからどこでも良かったので、パンフレットでも見た学生寮の部屋で寝泊まりできるのは非常にありがたかった。
「ふふ、謙虚でよろしい。本音ちゃん、案内してあげて」
「は〜い」
机に突っ伏してほとんど寝ていた本音が寝起きなのかやる気のない声を出して身体を伸ばす。
「ほら本音、しっかりしなさい。失礼でしょ」
「ん〜?ふぁ〜〜」
(あの子大丈夫なのか……)
姉に揺すられながら欠伸をする本音を見て緑葉は一抹の不安を感じたのであった。
「鶴屋家、ね……」
本音が緑葉達を連れて退室した後、楯無が静かに独りごちる。
「やっぱりこの噂は確かだったようね」
このタイミングで鶴屋が学園に人材派遣をしてきた。その事実と自身の耳に入っていたある噂を裏付ける書類を取り出す。
そこに書かれていたのは鶴屋重工が第2世代型の後継機開発に成功したという報告。まだどこにも漏れてはいないが、暗部と呼ばれる更識家、その当主である更識楯無の地獄耳は伊達ではない。
「お嬢様、お茶が入りました」
「ありがとう虚ちゃん」
「いえ、このくらいは」
1つ年上の虚が淹れたお茶は絶品だ。相変わらずの美味しいに楯無は微笑みを作る。
「あら、もしかして茶葉変えた?」
「前の方がよろしかったですか?」
「そんなことないわよ。こっちも美味しいわ、ただお茶菓子があれば良かったわね」
楯無は苦笑しながら普段なら煎餅などが入れられている空の皿へ目を移す。お茶菓子は全て本音が食い尽くしてしまった。
「すみません、本音には言い聞かせておきますので…」
「それこそいいのよ。また後で家の方からどっさりとくるから」
どうせ翌日くらいにはダンボール満杯に入れられたお茶菓子が届く。とても食べきれない量の処理を任せられるのは本音ぐらいだ。
「どうします?あの人達は」
虚が聞いているのは例の緑葉達のことだろう。楯無は暫し考え込み、空になったティーカップを置く。
「とりあえず、まずは様子を見ましょう。いずれ鶴屋家当主と話し合うかもしれないし」
虚は静かに頷く。
「分かりました。…ところでお嬢様」
「何かしら」
「おかわりの方は」
空になったティーカップを前に楯無と虚はフッと笑った。
「そうね、なら頂こうかしら」
唐突ですけど、二次創作における束さんって書き手によって色々なキャラしてるから見てて面白いんですよね。
そのうち束さんは登場します。現段階で束さんが登場する話の下書きをメモアプリでスラスラ書いているのですが、まぁあのキャラクターは中々難しいです笑
あの独特なキャラクターを崩しすぎてもアレだし、かといってあのままだとどうも……多少緩和させようかなとか色々どうしようかなぁと考えながら練ってます。
ホントにまだまだ先、恐らく三十何話後の登場になるとは思いますが、1%でも楽しみにしてあげてください