さて、今話からは第2章がスタートします。舞台は秋の学年別トーナメント。原作にはないオリジナル展開ですがそんなメタ発言は置いておいて、本来予定されていなかった行事にも関わらず世界中から要人が集まりアリーナは既に超満席。ISに対する関心の高さが伺えます
さぁそれでは参りましょう、秋の学年別トーナメント編、スタートです!」
緑葉達の突然の来訪から1週間後、兼ねてより準備が進められてきた秋の学年別トーナメントがついに開催当日を迎えた。
本来組み込まれていない行事であり、急遽開催が決まったのも1ヶ月前という急ぎ足となったが会場は例のごとく満席。来賓席も例外ではなく、世界各国から企業や政府の要人が来校してきている。
またこの学年別トーナメントは2日間に渡って行われることになっており、1日目は2、3年生などの上級生らによる試合が計10試合行われ、熟練の腕前となった彼女らの熱い戦いは熾烈を極め会場を大きく湧かした。
2日目となった今日は、1年生らの試合が組まれており、中でも専用機持ち達代表候補生らによる試合は注目を集めていた。
「おや、貴方は確か鶴屋グループの」
小太りの男性から声をかけられ、椅子に座っていた男は帽子を取り、丁寧な仕草で頭を下げる。
今回学年別トーナメントを観戦しに学園へやってきた要人の中で特に注目を集めていたのが彼、緑葉の上司に当たる鶴屋竜司である。
日本有数の大財閥である鶴屋家の知名度は世界規模、IS学園に来たのは始めてというのもあり既に各国の政府や企業の要人からはしつこく声をかけられ、今やっと椅子に座って休んでいたところである。
かく言う小太りの男もIS関連の企業の関係者であり、鶴屋の顔は当然知っていた。周りに座っていた生徒達もニュースなどで鶴屋のことを知っていたのか、あるいは学園の者ではない人物(ましてや男性)がいることに困惑しているのかヒソヒソ声で話し合っている。
「鶴屋グループは今年も業績を伸ばし続けているらしいじゃないですか。うなぎ登りとはまさにこのこと。羨ましい限りですよ」
「ありがとうございます。ただ今日はプライベートで来ているので、あまりこの場で仕事の話はしたくはないのですよ」
「それは失礼しました」
小太りの男は申し訳ないと頭を下げる。
今日の鶴屋は仕事で来たわけでなく、あくまでプライベートで学園へ来たのだ。鶴屋グループもIS業界へは参入してきているので当然仕事も入るには入るがそれ以上に純粋にISバトルを楽しみたいと思っていた。
その証拠に彼は要人らに用意された来賓席ではなく、緑葉曰く「闇取引(正攻法で勝ち取った)」で手に入れた生徒席の椅子に座り観戦する。
「しかし貴方のような方が、何もここでということは…、なんでしたら席の方、私が計らいますが」
「お気遣い結構。しかし折角私がワガママを言って、部下が取ってくれたのです。使わないわけにはいきません」
鶴屋がフィールドへ目を向けながら言うと小太りの男は「ほぉ」と感心の声を上げる。
この小太りの男は鶴屋が言う部下がそんなゼロに等しいチケットを上司のために必死の努力で取ってくれた、と思っている。実際緑葉は必死の努力をしていた訳だが1つだけ違うのは、緑葉が『外部から』手に入れたのではないという点であるが。
ちなみに鶴屋がやってきたと知ったIS学園側は大慌てで席を用意すると言ってきたものの鶴屋は緑葉が取ってくれた席を無駄にしたくなかったのでその申し出は断った。
「それを言うのなら、貴方も貴方では?」
鶴屋を再び小太りの男に目を向ける。
「あ、いや、私は娘を見に来ただけですので」
「娘さんが、この学園に?」
「ええ。もし良かったら、声をかけてやって下さい。娘も喜びますので」
そう言って小太りの男は自身の名刺と娘の名前が書かれた紙を手渡し、「では」と去っていく。
鶴屋やそれらを鞄の中に入れ、スマホを取り出してLINEアプリを起動。先日交わした緑葉とのチャットを見返す。
『緑:席取った』
『緑:焼き土下座しまくった』
【鶴:よくやった。百万石無税】
『緑:うるせえバーカww』
どう見ても友達と交わす他愛ない会話のそれだが、この裏では緑葉が並々ならぬ努力をしてきた。
まぁその努力というのはチケットを既に購入していた生徒へ直談判して「お願いします!譲って下さい!言い値で買うから!」と何度も生徒に対し頭を下げたらしい。頭を下げた回数は自分でも分からないという境地に達した時、譲ってもいいという子に巡り会えて晴れて鶴屋はこの席に座れているわけだ。
そんな緑葉の姿を藤川が写真と動画で送ってきた時は思わず家族全員で笑ってしまったものだ。
鶴屋は思い出し笑いを浮かべ、緑葉の土下座姿が激写された写真を見ながら第一試合の開始時間を待った。
「相変わらず凄い人だな」
一夏がポツリと呟く。
選手控え室に設置されたモニターには超満員となった観客席が映し出されている。1学期にも感じた事だがやはりそれだけ関心は高いという裏返しでもあるのだろう。
2日目の開会式も終わり、現在試合に出場する生徒達は選手控え室に集まっていた。周りでは出場する子やそれらをサポートする子などが行ったり来たりしており慌ただしい。
「確か急遽決まったんだよなこれ」
「うん、だから政府も企業も慌てて予定を変更したとか聞いたよ」
一夏の横でモニターを眺めていたシャルロットが答える。
「1学期のやつは中止になっちゃったし、それに簪さんの<打鉄弐式>や篠ノ之さんの<紅椿>もかなり注目されているからね」
2人はモニターから目を外し、簪と箒の方へ見やる。簪は性格上こういった舞台に立つ事が苦手であり、今にも緊張で飲まれそうになっている。というかもう飲まれてる。
対照的に箒は目を瞑り座禅を組んで、いつでも試合に臨めるように精神を整えている。あれなら心配は無さそうだ。
幼馴染みとして多少気にはかけていた一夏だったが杞憂に終わりどこかホッとするように息をついた。
「注目されているのは、わたくし達だけではありませんわ」
一夏とシャルロットの背後から近づいてきたセシリアがモニターから目を離さず、真剣な趣きで言う。
一夏とシャルロットもモニターを見るとそこに1人の男性が映し出される。2人もその人物を見たことがあり、一夏も怪訝な表情を見せる。
「あの人どこかで見たことあるな」
「そりゃそうでしょ、日本有数の大グループのトップだもん」
「鶴屋竜司。鶴屋グループの総帥ですわ」
いつのまにか隣にいた鈴とセシリアが簡単な解説を入れてくれたお陰で一夏も「あぁそれだ」と思い出す。テレビのニュースとかで何度か見たことがあった。
それにしても、そんな超VIPな人物でもある彼が何故一般席に居るのだろうか。見ると近くに座っていた生徒達と親しげに会話を交わしている。
「あ、あれ緑葉さんと一緒にいた人じゃないかな?ホラ、隣のおじさん」
「ん?」
シャルロットが指をさした辺りを一夏達が見ると鶴屋が座っている席の隣の通路に藤川が立っているのに気付いた。
「あぁ、あのヒゲか」
「ラウラそれ本人の前で言っちゃだめだからね」
彼も楽しげに鶴屋と会話を交わしており、どんな内容の話なのか分からないが共に大口を開けながら爆笑している。
「もしかして緑葉さんって鶴屋の関係者だったりするの?」
「いや、どうだろ…」
「まさか…」
「アレを見てもそうとは思えませんわ」
鈴がそう呟くと一夏、シャルロット、セシリアは3人共全く同じタイミングで同じようなリアクションを見せる。
この1週間で緑葉の名前は学園中にすっかり知れ渡り、1年だけでなく2年や3年の上級生のところにも顔を出し積極的にコミュニケーションは図っていた。
それが功を奏したのかは分からないがみんなからは「変わった人」という緑葉曰く「1ミリも嬉しくない」評価を頂いていた。
しかし同時にあることが気になり始めた。ここ数日緑葉達の姿を見かけることが少なくなっていた。事実昨日は少し姿を目撃してはいたが今日はまだ一度も出会っていない。
どこか引っかかりを覚える一夏だったが、直後に画面が切り替わったモニターを見て気持ちを切り替える。第一試合は彼と鈴の対決だ。
「ま、あんな変人今はどうでもいいわ。それより一夏!あん時のリベンジここで果たすわ!首洗って待ってなさい!!」
試合開始時間が近づき、鈴と一夏はそれぞれが出撃するためのピットへ向かう。
鈴は今回の学年別トーナメントでの対決を特別なモノとして捉えていた。理由は1学期のクラス対抗戦にある。彼女と一夏はクラス代表として争ったわけだが、とある事情で対抗戦は中止、結局どちらが勝ったか分からずじまいでうやむやになってしまったのだ。
その後は実習中や放課後の模擬戦などで何度か戦ったが公式試合ではクラス対抗戦以来の対決になる。故に今度こそという気持ちは大きい。
「おう!受けて立つぜ!」
売り言葉には買い言葉。一夏も鈴のこの試合に対する気合いを感じ取っており、お互いに健闘を誓い合う。
(にしても鈴、緑葉さんに対して変人は少し可哀想だろ)
一夏はそう思うものの、実際やってることはまさしく「やばい」の一言で済むのだから何も言えない。一夏からすればもっと変人な女性と出会っているので、アレと緑葉を同じ変人扱いさすがに可哀想である。
後でチクっておこうかな、そんなことを考えたながら一夏はピットへと向かった。
ピットから出撃した一夏は右手に唯一の武装である雪片弐型を握り、<甲龍>を展開した鈴と対峙する。
「鈴、せっかくなら負けた方が勝った方に何か奢るってのはどうだ?」
「面白そうじゃない。軽くコテンパンにしてたっかいやつ要求するから」
「あんまり高すぎるやつは勘弁な。俺の財布が保たない」
「大丈夫よ。銀行にある預金もお年玉も使わせるから」
「いや普通に鬼だなお前」
お互いに軽口を叩きながらも臨戦態勢は万全だ。一夏はハイパーセンサーを使用し観客席を見回す。
注目の一戦なだけあり観客のボルテージは最高潮に達しているが、やはり緑葉と龍驤の姿はない。先程鶴屋の隣にいた藤川も同様に居なくなっていた。
もしかしたら単に観客席にいないだけなのかもしれないが、いつまでも彼らのことを気にしている時間は無い。一夏は眼前の鈴を見据える。
マゼンダのカラーリングの<甲龍>は安定性を念頭に置いて設計されたバランスタイプ。
手には双天牙月と呼称される大型の青竜刀を2基連結させており、左右に浮遊する棘付きの球体と腕部には『龍咆』と呼ばれる衝撃砲が備え付けられている。空間に圧力をかけて砲身を作り出し、その圧力で作り出された衝撃を撃ち出す、空気砲のメッチャ強いやつと考えた方が分かりやすい。
しかも厄介なことに衝撃砲はその砲身から砲弾まで目視では確認出来ない。360度上下左右どこにでも撃てるというオマケ付き。
そのため<白式>とは相性が悪い。というか雪片しか持てないため飛び道具を持った機体とは基本相性が悪いのだが。
「あん時のリベンジここで果たすわ!ぶっ飛ばしてあげるから!」
「上等だ!」
『試合開始』
試合開始を告げるブザーが鳴り、2人はスラスターを噴出させ突っ込んでいく——
「ほぉ、すごいな」
観客席にて、鶴屋は激しい斬り結びを繰り広げる一夏と鈴の戦いに魅了されていた。
ISの試合は映像で見たことはあったが、やはり生で見るとまた一段と迫力がある。魅了される人が多いわけだ。
鈴が衝撃砲を放ち、見えない弾頭が一夏の横を掠める。
『わあああああああああああああ!!!!』
「おっ」
地鳴りが轟くほどの大歓声が上がり、鶴屋も声を上げる。
一夏が仕掛けた。雪片弐型と呼ばれる剣を振るいながら鈴へと肉薄する。
「ああ、惜しい」
一夏の剣先は惜しくも鈴に届かず、逆に腹部に蹴りをお見舞いされる。ここからでは正確な表情は見えないが、一夏はキッと鈴を睨みつけている。
(いい眼だ。流石はブリュンヒルデの弟)
絶対に諦めない、絶対に勝つ。一夏の眼差しから其れを感じ取った鶴屋は口角を上げ「ふっ」と笑う。
このままいけばどちらが勝っても必ず名勝負と称えられるだろう。それくらいに試合はヒートアップしていた。
鶴屋は席を立ち、人通りの少ない通路で壁に寄りかかると再びスマホを取り出し、どこかへ電話をかける。
「私だ。そろそろ時間ではないか?」
それだけ言って、鶴屋は電話を切り席へと戻っていった。
「少し横槍を入れさせてもらうぞ」