魔銃使いは恋に堕ちた 作:魔法少女()
終わりに近づいた勝利を祝う
ロキファミリアから放たれた同盟の提案。
隷属でも、配下となるでも、庇護下に入るでもない。対等な関係としての同盟提案。挙げられる問題としては、派閥の主神たる神ロキとヘスティア様の友好関係。そして規模の差からどうしてもロキ派閥の行動方針に従わなくてはならない点。
後は────俺がフィンに嫁ぐことになる事、ぐらいか。
「さて、答えを聞かせて貰えるだろうか」
ヴェルフは酔い潰れていてとてもではないが話し合いに参加できなかったこともあり、他派閥からの増援組は
結果として主神のヘスティア様、団長のベル、副団長の俺、団員のリリルカの四人での話し合いとなった訳だが。特に反対意見が出る訳でも無く、俺の意思に委ねられることになった。その答えを、今ここで口にしなくてはならない。
後ろに並ぶヘスティア様、ベル、リリルカの三人。その更に後ろに増援として所属している一年限定所属の
正面には胸を張って団長としての威厳を振り撒くフィン・ディムナ。その左後ろで見守る主神ロキ。二人の左右を固めるリヴェリア・リヨス・アールヴとガレス・ランドロック。そしてティオネ・ヒリュテを抜いた幹部の者達。
第一級冒険者全員の視線が俺に集まっているのを意識しつつ、フィンの前に歩み出る。
彼の妻となる。という事に思うところが無いかというと、少し不安はあるが────此処に居ない
それを除けば、ヘスティアファミリア────
受けない理由は、無い。
「【
ピンと張っていた空気を震わせる俺の声。それを受けたフィンの表情が和らぎ、安堵の吐息を吐いた。
彼は静かに歩み寄ってきて、目の前で跪いて忠誠を誓う騎士の様な厳かな雰囲気を纏いながら、言葉を放つ。
「ロキファミリア団長、フィン・ディムナよりヘスティアファミリア副団長ミリア・ノースリスへ婚姻を申し込む」
一連の動作に一瞬見惚れ、差し出された手に自身の手を重ねて、返事を口にする。
「お受けいたします」
此処に同盟と、婚姻は成り立った。
それを証明するのは互いの派閥の主神たち。そして各々の派閥の仲間達。
酒が入っているのか若干赤い頬をしたフィンに見上げられ、小さく笑みを浮かべた。
会場の片付けが進むのをバルコニーの長椅子に腰掛け、眺める。
周囲に人は居ない。少し考え事をしたいと人払いをして、一人にして貰ったのだ。
前世の時点で性別に対する考え方が少し、いやかなり希薄だった覚えはある。けれど女性の裸体に対して人並みに性的な興奮を持つ程度には、男性的であったはずだ。記憶の中で女性と性交をしている場面を思い浮かべ────大半が演技の上で、仕方なくと言った嫌々女性を抱いていた事を思い出した。
かといって、男性に抱かれる、という姿はどうにも想像がつかない。そも、この身に成ってからの日々は余りにも波乱万丈ともいえる日々で────性別について考える機会はあまりなかった様に思う。
普段、ベルからの照れた反応等から、一応この身は女性であるという考えは頭の片隅にはある。だからといって男性を異性と認識するには少し時間がかかりそうな気もするが。
同盟の提案を受け、フィンのお嫁さんとなったのだが……はてさて、夫婦生活とやらは上手くいくのだろうか。派閥の団長として大忙しな彼を支える、という意味では今までベルを支えてきたのを変わりないかもしれないのだが。規模が全く違うし、勝手も違うだろう。
ヘスティアファミリアとの同盟もあるし、定期的にヘスティア様の元へ顔を出して。フィンとの生活となる訳だ。
不満があるか。と言えばそうでもない。そも、男性に嫁ぐことに対して忌避感があるなら断るに決まっている。
グルグルと浮かぶしょうもない悩みを梱包材をぷちぷち潰す様に処理していると、バルコニーの入口からフィンが声をかけてきた。
「やあ、考え事かい?」
「【
少し戸惑った彼は、室内とバルコニーの境界を踏み越えて近づいてきながら微笑んだ。
「これからはフィン、と呼び捨てにしてくれ────婚約者同士なんだからね」
彼の言葉に、その通りだなと頷いて呼び直す。
「ですね。改めてよろしく、フィン」
「あ、ああこちらこそ、よろしく」
ほんの一瞬、フィンが言葉を詰まらせた様な気がするが。あの派閥の長を務める団長がそんな風に言葉を詰まらせる印象が似合わず、気のせいかと首を傾げる。それを見たフィンが長椅子の端に立って口を開いた。
「ここに座っても?」
「……? ええ、どうぞ」
何処か遠慮がちに、三人掛けの長椅子の端に座る俺に対し、反対側の端に腰掛けたフィン。婚約者同士であるのなら一人分────小人族で言うと二人分近い距離────を空けて座るのはおかしいのではないだろうか。
疑問を覚えて端に座ったフィンをちらりと見てみると、彼は空を見上げながら呟く様に声をかけてきた。
「邪魔だったかな」
「え?」
「いや、仲間から離れて一人でいたからね。もしかしたら邪魔をしてしまったかなと思ってね」
それを気にするのは、少し遅いのではないのだろうか。そんな疑問が浮かび────フィンの頬に若干朱がさしているのが見て取れた。酒に酔っているらしい。
「いえ、別に邪魔だとは思っていないですよ。それよりも少し話したいなとは思ってましたし丁度いいかなと」
「……僕と話したい事、かい?」
意外そうな表情を浮かべ此方を見たフィンに対し、俺の方から距離を詰め、間に拳一つ分開けて座り直した。
「隣失礼するわね」
「どうぞ」
柔らかく落ち着いた笑みを浮かべたフィンに、違和感を覚える。若干、声が震えてる様な気がしてまじまじと隣に腰掛ける人物を観察していると、彼は小さく小首を傾げた。
「それで、話したい事って?」
「そうですねぇ。私ってあまり女性らしくない。と思うんですよ」
しいて言うなれば、羞恥心があまりないとでも言えば良いだろうか。例えばの話、全裸で街中を徘徊する事に対して羞恥を感じるよりは、周囲との差異を気にしてしまう。とでもいえば良いのか。
裸を見られるよりは、異物として見られるかもしれないという部分に恐怖を感じる。
そういった細々とした小さな差異。異物感。
食欲、睡眠欲、性欲。三大欲求とも呼べるこの三つが上手く機能していないのもそうだし。並べ立てていくと俺はだいぶ異質な人間という事になってしまう。
前世の頃からほんのりと自覚はしていた。周囲の友人と呼べる男友達が成人向けのグラビア雑誌なんかを持ち寄って、この胸エロいよなと話しているのを聞いて、指し示された雑誌に映る女性を見てもあまりそういった欲求が浮かんでこない事とか。彼女との初めての行為の際、向こうから雰囲気を作った二人きりの部屋であからさまに誘ってきてるな、と空気を読んで彼女との行為を行ったとか。
一つ一つは大したこと無い事かもしれないが、どうにも性別に関しての考え方が歪んでる。
「普段から女性っぽい振る舞いはしてる積りなんですけどね」
しかし、中身としてはそうではない。
今この場において、婚約者となった異性────フィンを異性として見るのに違和感はあるが────を隣にしても。どうにも実感がわかない。裸体を鏡の前に晒して、己の身が女性であると認識はしている。けれど、心までそうかというと、どうだろうか?
「変な話を聞かせて悪いですね。どうにも、こういうのには慣れてなくて」
空を見上げれば、満天の星空に月が浮かんでいた。
真ん丸、ではないけれど星空の海を行く月がほんの少しだけ羨ましい。気楽な一人旅、地上から見守られ、何処へと行くのだろう。
「一つ、聞かせて貰っても良いだろうか」
神妙な声色で此方に問いかけてきたフィン。
月の光に柔らかく輝く黄金色の髪が揺れる。
固く引き結ばれた口と、赤らんだ頬。思い悩む様に身を揺らし、彼は口を開いた。
「キミは、僕の事が嫌いだったりしないだろうか」
彼の質問を受け、ふと自身の発言を振り返る。
婚姻を受け入れておきながら、それに思い悩む様な発言。それは、彼に対してだいぶ失礼な発言であったのではないだろうか。そう思ったところで、首を横に振る。
「いえ、貴方の事が嫌いな訳ではありません。むしろ好意を抱いていると断じても良いぐらいには、良く思っていますよ」
繰り返すが、彼に対して嫌悪感は全く抱いていない。それこそ、最初の出会いは最悪の形ではあったが、今となっては笑い話として笑い飛ばせてしまえる程度の出来事だ。
彼の志す『小人族の復興』は、もし手を貸せるなら俺だって協力は惜しまない事を誓える。
「そう、か……」
小さく吐息を零し、彼はぱっと立ち上がった。
突然の行動にどうしたのかと首を傾げると、フィンは軽く深呼吸をしながら俺の正面に回り込んで、片膝を突いて此方を見上げてきた。
「ミリア、僕は君が好きだ」
真っ直ぐ、目を一切逸らす事も無く告げられた告白の言葉。酒精によるものか赤らんだ頬と、揺れる瞳。けれどその奥には力強い意志が見て取れる。嘘や演技の含まれていない、真っ直ぐな言葉だった。
それに対し、肩から力を抜いて微笑んだ。
「私も、貴方が好きですよ」
少なくとも、返事としては間違っていない。そのはずなのだが────フィンの瞳に、悲し気な色が宿る。
深く、重苦しい溜息を零した彼が立ち上がった。
「やはり、と言うべきかな」
「えっと、どうしたので?」
何か、気に食わない事でもあっただろうか。少なくとも百点満点な返事は出来たはずだと自分の返事に自己採点しつつもダメだった点を探してみるが、いまいちよくわからない。
こちらを見下ろしたフィンが、肩を竦め────俺の手を取った。
「行動で示さないと、どうにもダメみたいだ」
「え?」
半ば強引に引っ張られて立ち上がり、俺はフィンの腕の中に納まっていた。
ドクドクと激しく音色を奏でる鼓動の音を感じ取りながら、フィンの腕の中で目を白黒させる。
「もう一度、言わせて貰うよ。僕はキミが好きだ」
大きく鼓動が跳ねて乱れ────気付いた。今大きく響くこの激しく早鐘を打つ鼓動は、俺のモノではない。
俺の心臓は、平常心である事を示す様に一定の
「何度でも、僕は言わせてもらう。キミが好きだ」
耳元で囁かれる告白の言葉。その度に、聞こえる鼓動は激しさを増し────ようやく気付いた。
フィンからは、酒の臭いがしない。今日の
「僕は」
「フィン、少し放して貰っても────」
「嫌だ」
胸に抱かれる様に、フィンに力強く抱きしめられる。息苦しさは感じないが、フィンの顔を見る事が出来ない。
腕の中から見える僅かな景色と、早鐘を打つ鼓動の音色。突然の出来事に戸惑っていると、フィンは小さく呟いた。
「【
知っている。それは過去に聞いた話だ。
自ら逃げ道を塞ぎ、
「僕は一族の再興を何としてでも成し遂げたい」
知っている。それを語るフィンの真っ直ぐな力強い意志は、とても美しいモノだったから。
「これから生まれてくる同胞たちの為にも、僕は止まれない」
彼が、どれほどその悲願に身を賭しているのかを、俺は知っている。
「人並みの幸せというものに関心は無かった。いや、持たない様にしていた」
フィンの胸に抱かれたまま、彼の胸の奥から響く激しい鼓動を聞きながら、独白に耳を傾ける。
「関心を持ってしまったら、ここまで歩んできた道を全てが無駄になってしまう」
肩を掴まれ、真正面から向き合う。
美しい碧眼が湖面の如き光を宿し、俺を真正面から見つめていた。
その奥に宿された、固く、崇高な、一族への献身の意思。見惚れる程に美しい、その力強い意志。
己の全てを賭して挑む生き様。それは自身の全てを捨てる事に等しく、孤独な茨道だ。
「繰り返そう、僕はキミが好きだ」
もし、共に歩める仲間が居たら。
もし、この茨道を行く己を支えてくれる者が居たら。
もし、それが心の底から愛せると誓える者だったら。
────どれほど幸せな事だろうか。
「能力や、技能。そういったモノだけを見て、キミを選んだ訳じゃない」
────とてもではないが、敵うはずもない難敵に立ち向かう為に全てを賭すキミに見惚れた。
もし、願いが叶うならば。キミと共に歩みたい。キミに支えて欲しい。
「
キミと一緒になら、その茨道を乗り越えていける。
「何度でも、僕は口にしよう。────キミが好きだ」
力強く告げられたその言葉に、彼の語る生き様に、心打たれた。
ただの打算ではない。心の底から惚れた人に、共に歩んで欲しい。それは、とても身勝手な考えだと思う。
其処に俺の意思が、無い。けれど────真っ直ぐに告げられたその想いは、俺を動かすのには十二分に過ぎた。
「フィン、
知るはずもない言葉だろう。それに、この言葉を告げるべきは男性側であって、女性側である俺ではない。
「キミのためなら死ねる。とでも返せば良いのかな?」
少し、言葉が違うが。なんとなく意味は同じだろうか。
俺の知る知識では日本のとある文豪が英語の『I love you』を訳した際に『月が綺麗ですね』と訳せと言ったのが始まりだとか。返す台詞の定番は『死んでもいいわ』だとか。
神々が伝えたのだろうか。疑問はあるが、意味が通じているのなら構わないか。
「むしろ、僕が言うべき台詞だと思うけれどね」
肩にかかっていた手が俺を離れ、フィンが再度俺の前に片膝を突き、あたかも誓いを告げる騎士の様な、厳かな雰囲気を纏った彼が、俺を見上げてくる。
美しい湖面を思わせる碧眼が真っ直ぐに俺の姿を映し、彼は口を開いた。
「
笑みが零れ落ちそうになりながらも、彼の手に自らの手を重ねる。
少し、自覚が足りなかったみたいだ。フィンが抱く想いがどれほどのモノなのか、ようやくわかった。
己の心臓が早鐘を打っているのを自覚しながらも、言葉を告げる。
「
依頼の、品……あれ、なんか違う? いや絶対違うなこれ。
恋愛って事で告白の場面をロマンティックに書こうとしたけど、やっぱ私じゃ無理だ。
色々と申し訳ない……。
皆が浮かべる『恋愛』っていうのは男女がいちゃいちゃする奴なんだろうなぁ……そんなん書いてたら砂糖吐いて死にそう(白目)