ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》 作:和狼
《ソードアート・オンライン》――通称《SAO》。
全百層から成る、石と鉄で出来た空飛ぶ巨城《アインクラッド》……その浮遊城を舞台に、数多のプレイヤー達が、立ちはだかる数多のモンスター達を倒しながら頂上たる第百層を目指す、VRMMORPG(仮想大規模オンラインロールプレイングゲーム)。
あらゆる物事がリアルに再現された仮想空間で行われるそれは、数多くのプレイヤー達によって楽しまれる“はずだった”。……そう、“はずだった”のだ……。
――二○二二年十一月六日、日曜日。
――その日、世界は大きく揺れ動き、多くのプレイヤー達が人生を大きく変えられた。
――絶望的な方向へと。
◆ ◆ ◆
「ごちそうさま」
二○二二年十一月六日、日曜日、午後十二時二十分。
昼食を食べ終えた俺―綾野和也(あやの かずや)は、使った食器を流し台へと運び、言葉少なに自室の有る二階へと足を向ける。
「あたしも、ごちそうさまでした!」
そんな俺を追い掛けて来るかの如く、我が妹―綾野珪子(あやの けいこ)も俺同様に食器を片付け、速足で階段を上がって来た。
「もうすぐだね、お兄ちゃん!」
「ああ」
「すっごく楽しみだね!」
「そうだな」
そう、もうすぐ始まる。この後午後一時より、世界初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》……その正式サービスが。
「でね、お兄ちゃん……」
不意に、二階の廊下で俺を追い抜かした珪子がこちらへと振り返り、その大きな双眸で俺を見つめて来る。こういう仕草をする時は、大抵何か頼み事が有ったりする。さて、今回は何をお願いしてくるのだろうか?
「ん?」
「始めるまでの間、お兄ちゃんが纏めたSAOのやり方ノートをもう一度読ませて?」
SAOのやり方ノート――それはその名の通り、SAOのやり方や敵モンスターなんかの情報を俺が簡単に書いて纏めた、所謂SAOの攻略ノートの事だ。
何故その様なものを書けたのかというと、それは、俺が奇跡的にも正式サービス開始前の稼動試験――ベータテストのテスターの一人に選ばれたからなのだ。
募集人数はたったの千人に対して、応募総数はなんと十万人。そんな中から選ばれたのだから、奇跡的だの幸運だのと言っても過言ではなかろう。
「あぁ、アレな。構わないぜ?」
「ホント! ありがとう、お兄ちゃん!」
さて。俺がノートを貸す事を許可すると、珪子は俺に笑顔を向けてお礼を言い、俺の部屋へと入って行く。遅れて俺も自室へと入ると、珪子は俺の机から目当ての物を見付け出し、傍に有る俺のベッドに腰掛けた所だった。
普通は自分の部屋に持ってって読むもんじゃねーのか? と思いつつ、開始までまだ大分時間が有るが、ノートを読む珪子の隣でSAOを始める為の準備を始める。余裕を持っての行動だ。
「お前も早めに準備しとけよ?」
準備が終わった所で、珪子にも早めに準備をする様にと声を掛ける。すると、珪子は「はーい!」と返事をしてから、直ぐ様行動に移るべく俺の部屋から出て行った。
その様子を横目で見ながら、暇潰しに小説でも読もうと携帯を手に取り、サイトを開こうとした。が、その行動は途中で止められる事となった。
ガチャリ
そう、珪子が再び俺の部屋に入って来たのだ――
――その手に“SAOをプレイする為の準備一式”を抱えて。
「……何…してんだ…?」
頭の中に一つの明確な答えが浮かんでしまってはいるが、そうではないと願いつつ、恐る恐る珪子へと問い掛ける。
「何って、SAOの準備だよ? お兄ちゃんが早めに準備しろって言ったんじゃん」
「……悪い、質問を変えよう。珪子…お前何処でSAOをやるつもりだ…?」
「お兄ちゃんの部屋でだよ!」
(……嫌な予感が的中したぜ。しかも即答かよ……)
どういう訳なのか、珪子は俺の事を異様なまでに好いている様で、それ故か俺と行動を共にしたがる。出掛けるにしろ、遊ぶにしろ、何をするにしてもだ。挙げ句、時々寝たり風呂に入ったりするのも一緒だ。流石に風呂に関してはお袋達も何度かそろそろやめる様にと注意しているのだが、一向にやめる気配が無い。
今回のSAOだってそうだ。珪子は、俺がやるからという理由で自身もやる事にしたのだ。まあ、元から興味は有った様だが。
余談だが、このSAOには十三歳以上推奨という年齢制限(レイティング)が存在するのだが、現在十二歳と制限未満であるはずの珪子は、「和也が一緒なら大丈夫でしょ」という、俺への責任の押し付けとも取れる様なお袋からの許可の許、プレイする事が出来ちまったりするのだ。
閑話休題。
何が理由なのか未だに分かっていないが、そこまで好かれる様な事をした覚えは特に無い。精々優しく接してやり、よく一緒に遊んでやり、困っている時に助けてやったり、時に珪子を虐める様な奴らから守ってやったりと、その程度の事くらいしかしていないはずだ。
それは今は置いておくとしてだ。とにかく今は珪子を説得して、一緒の部屋でプレイするという状況を出来るだけ回避しなければ。
「そ、そうか。でもな、ベッドに二人で横になるには、ちょいとばかり狭いと思うんだが…?」
俺が一緒の部屋でプレイする状況を避けたい理由……それは、SAOをプレイしている間の身体の状態に有る。
SAOを動かすゲームハードたる《ナーヴギア》は、その構造状、脳から自身の身体に向けて出力される命令を遮断してしまう。つまり、プレイ中のユーザーは現実の身体を動かす事が出来なくなるという事だ。
そうとなれば、プレイ中は椅子に腰掛けるか、ベッドに横になるなどして、身体を楽な姿勢にしておくのが好ましい。で、二人で一緒の部屋でプレイするとなれば、必然的に二人でベッドに横にならなければならなくなる。嫌ではないのだが、出来るだけ避け方が良いと思うのだ。
どちらかが椅子や床でやれば良いのかもしれないが、やはりベッドの方が落ち着くだろうし、何より俺としては珪子に辛い姿勢はさせなくない。
「大丈夫! 何時もみたいにお兄ちゃんにくっついて寝るから!」
「くっ……。け、けどなぁ、そんなことしたら俺の匂いが付いちまうぞ? ……そこまで臭い訳でもないが」
「それも大丈夫! あたし…お兄ちゃんの匂いなら付いても構わないから!」
「なっ…!?」
以上の理由から、色々と理由を付けて珪子への説得を試みるも、全く効き目無し。ていうか、俺の匂いなら付いても構わないって……い、色々大丈夫か、妹よ……。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
などと、珪子の発言に少しばかり引いていると、珪子が俺の許へ近付いて来て、両の大きなお目々で俺を見上げています。ハイ、所謂上目遣いという奴ですね。……てかこれ、かなり不味くないか…?
「お願い、一緒にやろう?」
「うっ…!?」
「一緒に…やろう?」
「くっ…!?」
「――やろう?」
「ッ…!? …………ハイ」
「やったー! お兄ちゃん大好き!」
……ハイ、逆に見事に説得されました。これぞ珪子必殺の説得術『上目遣いで反復お願い』である。
実を言うと、俺は過去殆どこの説得術に勝てていない。想像してみて欲しい。幼げの有る可愛い顔をして、大きな瞳で上目遣いされて、何度も繰り返しお願いされるという状況を……。
……どうして断る事が出来ようか? いや、ほぼ出来まい。
とにもかくにも、許可してしまった以上は覚悟を決めて、一緒に寝るしかあるまい。
◆ ◆ ◆
その後、珪子も準備を済ませてからはそれぞれに時間を潰し、開始時間が近付いた所で、ヘルメット型のハードであるナーヴギアを被り、二人でベッドに横になる。……珪子は宣言通り、俺にくっついてだ。
「いよいよだね、お兄ちゃん!」
「ああ」
「何だかドキドキして来た〜」
「俺も、久々にやるからドキドキしてるよ」
今か今かと、開始時間になるのを興奮しながら待つ俺達。
そして、ついに――
――13:00
ナーヴギアに表示されたデジタル時計が、SAO正式サービスの開始時間たる午後一時へと変わった。
「んじゃ、始めるとしますか?」
「うん! せーの――」
「「リンク・スタート!」」
そして、俺達は二人同時に、仮想空間――SAOの世界へと飛び込む為の魔法の合言葉を唱えるのだった。
――この時、俺達はまだ何も知らなかった。
――俺達が唱えた合言葉が、禁断の呪文だったという事を。
――仮想空間へと続く虹色のリングが、地獄への入口だったという事を。
――二○二二年十一月六日、日曜日……この日が、俺達の人生の大きな変わり目となるという事を。
――俺達は、何も知らなかったのだった。
はい。という訳で始まりました、『ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜』。
プロローグで三千字以上は……やっぱり長いかなぁ?
いやでもですね、自分としては本編はSAOが始まってからだと考えている訳なんですよ。なので、今話をプロローグか第一話にするかで迷った挙げ句、プロローグにする事にしたのです。
さて、タグに有ったオリ主というのは、なんとシリカ(珪子)ちゃんのお兄ちゃんでした。設定を出すかどうか未定なので公開しておきますと、彼の年齢は早生まれの高校一年生(十五歳)です。
そして、シリカちゃんはそんなお兄ちゃんが大好きな子――所謂ブラコンちゃんにキャラチェンジです。いや〜、自分で書いてなんだけど、異常なレベルだなぁ。うん、何が有ったんだろうね?
という訳で、そんな感じで始まりました本作品……下手くそながらも頑張って書かせて頂きますので、以後宜しくお願い致します。