ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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 タイトルでお分かりかと思いますが、いよいよタグのあの子が登場です。

 それではどうぞ〜。


Chapter.9:会議と絶剣とビーストテイマー

 

 

 SAO開始から半年が経過し、攻略の最前線は第二十五層……つまり、ようやく全体の四分の一まで到達した。

 

 俺達のギルド《月夜の黒猫団》はと言うと、結成から今日までの間に新たに五人のプレイヤーが入団した。その中には、キリトとシノン、エギルの三人も入っている。階を重ねる毎に迷宮区の攻略が徐々に厳しくなり始めて来た為、何度もボス攻略を共にしたよしみから、心配して引き入れる事にしたのだ。特にキリトとシノンは、三層からの大型クエスト終了後に別れて以来、ずっと二人だけで行動していた様だからな。

 因みに、同じく大型クエストの後に別れ、何度もボス攻略を共にしたアスナも誘おうかと思ったが、どうやら先に別のギルドに誘われ、入団していたらしい。そのギルドの影響なのか、最近では笑っている顔の彼女をよく見かける様になった。

 

 さて。現在俺達は、第二十五層主街区の集会所にてボス攻略の会議に参加している。

 俺達のギルドの他には、有力二大ギルドである《血盟騎士団》と《アインクラッド解放軍》。近頃勢力を伸ばし始めて来た《聖竜連合》。ようやく追い付いて来たクラインが率いる少数精鋭ギルド《風林火山》。そして、アスナが所属している、うちとほぼ同じくらいの小規模ギルドと、その他ソロで活躍しているプレイヤー達だ。

 因みに今、件の小規模ギルドのリーダーの妹さんがこちらに向けて笑顔で手を振っており、それに釣られる様にアスナも軽く手を振っている。そんな彼女らにこちらからも手を振り返してから、正面を向いて会議に集中する。

 

「えぇ、ではこれより、第二十五層ボス攻略会議を始めたいと思います」

 

 会議の進行役を勤めるのは、血盟騎士団の副団長である、『謹厳実直』を絵に描いた様な性格――KoBの知り合いの談――だという金髪の青年プレイヤー《レンド》。

 彼は手元の《記録結晶》と呼ばれる、写真や映像を記録する機能を持った結晶アイテムを操作して集会所に映像を映し出し、説明を開始する。

 

「こちらが、先日我が血盟騎士団とアインクラッド解放軍の偵察部隊が調査した、第二十五層フロアボス――《ザ・ヘビィクラッジ・ゴーレム》です」

 

 そこに映し出されたのは、身の丈十メートルは有ろうかという、全身を岩の様なごつごつとした皮膚で覆われた、巨人型のモンスターだった。

 

「動き自体はそれ程速くはありませんが、その分攻撃力は半端ではないとの事。偵察部隊のタンクプレイヤーからの情報によれば、満タンだったHPが一撃でイエローゾーンを超え、レッドゾーンの寸前まで追いやられたとの事です」

 

 レンドさんの説明に、会議に集まった多くのプレイヤーがどよめき、息を呑んだ。

 無理も無い。ボスの攻撃から他のプレイヤーを守るべく、文字通り壁となるタンクプレイヤー達は、防御力に重きを置いた装備やステータスをしている。それが、たったの一撃でHPを半分以下にまで削られたのだ。もしもその攻撃を、ダメージディーラーであるスピードタイプのプレイヤー達が喰らいでもすれば、即死はほぼ免れないだろう。

 

「加えて、ボスの防御は見た目通り頑丈で、ソードスキルを用いた攻撃でも、ほんの数ドット程度しか削れなかったとの事です」

 

 ゴーレム系統のモンスターは基本的に防御力が高く、攻撃力重視ではない片手剣や短剣、槍なんかではあまりダメージを与えられない。普通のモンスターでもそうなのだから、普通のモンスターの何倍ものステータスを誇るボスが相手では、更に困難を極める事になるだろう。事実、映像の中の片手剣使いがソードスキルで攻撃をしても、ボスのHPは殆ど減っていない。

 有効となり得るのは、攻撃力重視の武器である斧やメイス、次いで両手剣といった所だろう。

 

「それと、ボス部屋の奥の方に、巨大なハンマーらしき物が見えたとの事です。恐らく、何かしら有ると考えて間違いないでしょう」

 

 レンドさんの言う通り、そのハンマーは単なるオブジェクトではないだろう。ボス部屋にオブジェクトが置かれているというのは、どう考えても不自然な事だ。恐らく、HPが一定量を超えた際にボスが使う武器なのだろう。それ以外に考えられない。

 

「以上の事を踏まえた上で、今回のフロアボスの作戦を立てて下さい」

 

 レンドさんからの説明が一通り終わり、他のギルドがそれぞれに作戦を検討し始める中で、さて俺達も作戦を考え様かと思った時だった。

 

「黒猫の団長さ〜ん!」

 

「ん? おう、ユウキか」

 

 件の妹さん――長く伸びた濃紺のストレートヘアで、小造りな顔、笑窪の浮かぶ頬に、つんと上向いた鼻、そしてくりくりとしたアメジスト色の大きな瞳をした少女――《ユウキ》が、声を上げてこちらへと駆け寄って来た。

 その後ろからは、アスナを含めた残り九人のギルドメンバーも近付いて来て、そのうちの一人――ユウキと同じくらいの背丈をした少女が、ユウキを窘めた。

 

「こらユウキ、一人で勝手に行かないの」

 

「は、はーい、姉ちゃん……」

 

 少女の名前は《ラン》。ユウキの双子の姉で、件の小規模ギルド――《スリーピング・ナイツ》のリーダーだ。ただし、彼女の顔は双子だという割にはユウキとはあまり似ておらず、顔は小さな卵型、小さいながらもスッと通った鼻筋と、どちらかと言えばアスナに雰囲気が似ている。濃紺の長いストレートヘアと、こちらはサファイア色の大きな瞳はユウキと似ているが。

 

 さて、そんな二人だが、実は驚くべき事にシリカと同じ十二歳なのだ。

 だが、ただの十二歳と侮る事勿れ。この二人……かなり強い。その強さは、攻略組観戦の下行われたデュエルに於いて立証済みで、元ベータテスターの中では豊富な経験を有している俺とキリトと、ほぼ互角にやり合える程……下手をすれば、俺達を上回る程の実力だ。

 一度元ベータテスターの線を疑ったが、本人達曰くベータテストには参加しておらず、元ベータテスターからのレクチャーで得た技術をひたすらに磨いて来ただけとの事。……どうやら二人は、アスナ以上の逸材なのかもしれないのだ。

 

 そんな二人の事を、誰が呼び始めたのか、俺達攻略組はこう呼んでいる。

 

 

 超絶、絶倫、空前絶後の剣の姉妹――《絶剣姉妹》と。

 

 

「そんで、どうしたんだ?」

 

 そんな強者たる二人が率いるギルドが、俺達に何の用なのかと尋ねてみると、代表してランちゃんが答えてくれた。

 因みに、俺がユウキの事をちゃん付けで呼ばないのは、ユウキが実に元気かつ活発で、その上自分の事を《ボク》と呼んでいる為に、ちゃん付けで呼ぶ事に違和感を感じるからだ。

 

「わたし達のギルドは、恐らく何時も通り連合を組んで攻略に参加する事になると思ったので、早々に黒猫団の皆さんと合流したんです」

 

 十二歳とは思えない、とても落ち着いた態度と口調で答えてくれたランちゃんの答えに、俺は直ぐに納得する。

 確かに此処最近のボス攻略では、うちはスリーピング・ナイツや風林火山、ソロプレイヤー達と連合を組んで参加している。やはりと言うべきか、それぞれのギルドの人数が少ないのが理由だ。

 

「ところで、カミヤ君……」

 

 するとそこへ、今まで二人の後ろで黙っていたアスナが、俺に声を掛けて来た。その視線を若干“下”……正確には、俺の“足元”に向けて。

 

「えっと……カミヤ君の足元に居るその“モンスター”が例の……」

 

 そう。今俺の足元には、アスナの言う通りモンスター……漆黒の体毛に部分的な白い毛をしたオオカミと、白銀の体毛に覆われたオオカミが一匹ずつ伏せている。本来、モンスターが《圏内》に居るというのは有り得ない事なのだが、俺の足元に居る二匹は例外なのだ。

 

「そう。俺がテイムしたモンスターで、種族名は《モノクロウルフ》って言うんだ」

 

「やっぱりそうなんだぁ」

 

 俺の答えにそう返すと、アスナはしゃがんで二匹の事を興味津々そうに見詰め始めた。その表情は可愛いものを見る様な、そして何処か羨ましそうなものだった。

 

 テイム――それは、戦闘中、通常は好戦的なモンスターがプレイヤーに友好的な興味を示すイベントが発生した際、餌を与えるなどして上手く飼い馴らす事を言う。勿論の事、全てのモンスターをテイム出来るという訳ではなく、可能性が高いのは一部の小型モンスターくらい。また、《同種のモンスターを倒し過ぎていると発生しない》というのは確実だと言われている。

 そうしてテイムされたモンスターは、プレイヤーの《使い魔》として様々な手助けをしてくれる貴重な存在となる。また、モンスターのテイムに成功したプレイヤーの事を《ビーストテイマー》と呼ぶらしく、現在の所、その貴重とも言えるビーストテイマーは俺を含めてたったの二人だけだ。

 

 俺が二匹をテイムしたのは、二日前の下層の森での事……近々行われる二十五層のボス攻略に向けて武器を強化しようと思い、シリカとサチの三人で素材を集めのモンスター狩りに行った、その帰り道の事だ。

 高価な転移結晶を使うのは勿体ないと歩いて街へと向かっていた時、近くの茂みから二匹のオオカミが現れてこちらに近付いて来た。だが、その二匹が攻撃を仕掛けて来る様な様子は無く、“前例を知っていた”為にまさかと思い、試しに偶然その日に買った袋入りのジャーキーを与えた所、案の定テイム出来てしまったのだ。

 

「ねえ、この子達には名前は有るの?」

 

「有るよ。黒いのが《リト》で、白いのが《スーナ》って言うんだ」

 

「へぇ、リトとスーナって言うんだぁ。何だかわたしとそっちの《黒ずくめ》さんの名前に似てるわねぇ」

 

 こちらに振り向いたアスナの質問に答えを返すと、彼女はくすっと笑い、キリトの事を指差しながら言葉を口にした。

 《黒ずくめ》――髪の毛からコート、インナー、ズボン、果ては武器に至るまで黒一色で統一したキリトのニックネームの事で、攻略組では有名だ。最近では《黒の剣士》とも呼ばれ始めているらしい。

 

「似てて当然だよ。なんせ、キリトとアスナを連想して付けたんだからな」

 

「え…? キリト君と……わたしを連想して…?」

 

 俺の答えに、アスナは目を見開いて驚いた様子を見せる。それもそうだ。いきなり『あなたを連想して名前を付けました』なんて言われたら、驚きもするだろう。

 

「いやな、黒と白を見てると、どうにもキリトとアスナを思い浮かべちまってなぁ。悪いとは思いながらも、アスナの名前から取らせて貰ったんだよ」

 

 事実、アスナの外見は白のインナーに白のコートと、正しく白を連想させるものとなっている。

 

「へ、へぇ。そうなんだぁ……」

 

「許可を取らなかったのは悪いと思ってる。だから、もし嫌だって言うんなら今すぐにでも変えるつもりで――」

 

「う、ううん! 良いの良いの! 何だか愛着が湧きそうだからそのままで構わないわ!」

 

「そ、そうか。ならこのままスーナって呼ぶ事にするよ」

 

 良かったぁ。本人の許可を得ずに名前を使ったから、もしかしたら怒られるだろうと思っていたけれど、どうやらお咎めは無いらしい。けど、今度からはちゃんと許可を取る様にしよう。

 因みに、キリトからはちゃんと許可を得てから使わせて貰った。

 

「う、うん。……そうかぁ。わたしを連想してくれたんだぁ」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「な、何でもないわよ! そ、それにしても、“兄妹揃って”ビーストテイマーになるなんて、何だか凄い事よねぇ」

 

 アスナが何やら呟いた様だか、あまりに小さかった為に上手く聞き取れなかった。聞き返してもはぐらかされてしまったし、しつこく聞き返すのもあれなので此処は諦める事にする。

 

 さて……。

 そうなのだ。俺以外のもう一人にして、そして俺よりも先……つまりは一番最初にテイムを成功させてビーストテイマーになったプレイヤーというのは、実は俺の隣で小さなドラゴンを肩に乗せている、我が妹のシリカなのだ。

 

 シリカの使い魔は種族名を《フェザーリドラ》といい、全身をふわふわとしたペールブルーの綿毛で覆われ、尻尾の代わりに二本の大きな尾羽を伸ばした小さなドラゴンだ。シリカはそのドラゴンに、俺達が現実で飼っている猫と同じ《ピナ》という名前を付けた。

 俺達がピナと出会ったのは、とある層の迷宮区攻略に向けてのレベルアップの為に入った森での事。森に入って早々に遭遇し、攻撃せずに近寄って来たピナへ、シリカが何とは無しに買っていた袋入りのナッツを放った所、それが偶然にもピナの好物だったらしく、運良くテイムに成功してしまった。その日の攻略を終えて街に戻るとたちまち大きな話題を呼び、攻略組のプレイヤー達にもかなり騒がれたものだ。……そういえば、その時もアスナはピナに対して興味津々な態度を取っていたなぁ。

 

「あ、ああ。だよなぁ。俺自身もかなり驚いてる」

 

 勿論の事今回も大分騒がれた。二人目の攻略組からのビーストテイマーというのもあるだろうが、やはり兄妹揃ってビーストテイマーという事の方がより印象的だったらしい。昨日の朝刊にも《驚愕! 二人目はまさかのお兄ちゃん!?》というタイトルで一面に飾られていた。

 余談だが、事の真偽を確かめに来た《鼠》という通り名の情報屋《アルゴ》は、二匹に対して僅かに距離を置いていた。

 

「ねえ、触っても良いかしら?」

 

「構わないけど、今は攻略会議中だから、会議が終わってからな」

 

「はーい!」

 

「あ、ボクもー!」

 

 この後、約束通り会議が終わってからアスナとユウキ……更には他のスリーピング・ナイツのメンバーにも二匹を触らせてあげたのだが、その時のアスナの表情は実に幸せそうなもので、うっかりドキッとしてしまったものだ。

 

 尚、肝心のボス攻略の作戦の方は次の通りとなった。

 ボスの攻撃は盾装備での防御ではなく、スピードタイプのプレイヤーによる回避行動によって凌ぐという事になり、この役目は、スピードタイプのプレイヤーを多く有する俺達連合軍が引き受ける事になった。それでも念には念にをと壁役は用意しておくとの事で、これは攻略組の中でも特に防御に優れた聖竜連合が引き受ける事になった。

 残ったKoBと軍は一部のプレイヤーを壁役に回して、残りは攻撃に専念するとの事だ。

 

 果たして、無事に攻略する事が出来るのだろうか…?

 

「ん〜♪ もふもふ〜♪」

 

 …………それと、アスナがこんなんだけど大丈夫だろうか…?




 はい。という訳で、ユウキに加えてランちゃん達スリーピング・ナイツまで登場しちゃいました! ……まだ二人しか出ていませんが。
 で、アスナさんにはそこに加わって貰い、早々に柔らかくなって貰いました。

 異論? …………し、知らないなぁ、そんなもの……。

 という訳で、次回は第二十五層のボス攻略です。前回のボス攻略よりも上手く描けるかどうか……。

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