ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》 作:和狼
それはともかくとして、とうとうアニメSAOⅡが始まりましたね♪
動いているシノのんを見れるのが実に楽しみです!
世界初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》が正式サービスを稼働し、日を同じくして《茅場晶彦》を名乗るゲームマスター──巻き込まれたプレイヤーの一人である少女《アスナ》曰く、本当の名を《須郷伸之》というらしい──によって引き起こされたデスゲームの開始から一年と五ヶ月の月日が経った今日──二○二四年四月二十二日。
つい数日前にフィールドボスを倒した事によって挑める様になった、現在の最前線である第五十九層の迷宮区を攻略するべく、アスナを含む五人のギルドメンバーと共に迷宮区を目指そうとする俺。
因みに、シリカとサチは今日は新人や下っ端メンバーの育成担当で、何故かアスナに向けて羨望の眼差しを向けていた。
さておき、一日でも早い解放の日へ向けて、さあ今日も頑張ろうかと意気込んでいた訳だが……
……その意気込みは、出鼻から思いっきり挫かれる結果となった。
「…………」
「…………」
「スゥ……」
「ムニャ……」
転移門を潜り五十九層の主街区《ダナク》へとやって来た瞬間、突然俺の使い魔のオオカミであるリトとスーナが何かを感じ取ったのか、俺の指示も無しに何処かへと駆け出してしまった。とは言っても、二匹が向かった先は五十九層の主街区転移門を取り囲む低い丘の一画という、大して距離も開いてない近場だった。
直ぐに追い付く事が出来た俺達がそこで見たのは、木の下で仰向けになって寝転がっているキリトと、その両隣で横になっているシノンとユウキの三人の姿だった。しかも、シノンとユウキに至っては寝息まで立てて熟睡しているという感じである。
「「くうぅ……」」
更にそこへリトとスーナまでもが加わり、キリトの腹を枕代わりにして眠り始める始末である。
どういう経緯でこうなったのかは本人達に聞いてみなければ分からないが、恐らくはキリトが主犯で間違い無いだろう。シノンは割と真面目な方だし、ユウキもキリトと似た様な思考や行動をする事が有るが、大抵はキリトに触発されてのものだ。
とはいえ、こうしてキリトと一緒になって寝ているのは、ほぼ間違い無く彼女達の意思によるものだろう。シノンは真面目ではあるのだが、キリトの誘いには意外と弱かったりするし、何よりシノン自身にキリトと行動を共にしたがる節が見られる。ユウキは先程も言った通り思考や行動がキリトと似ている所が有る為、今回の事もキリトの考えに共感してのものだろう。
と、
とはいえ、全く訳が分からないという訳でもない。どうにもリトとスーナ、それにシリカの使い魔であるピナには、そのアルゴリズムにイレギュラー性が存在する様で、時折アルゴリズムから外れた行動を取る事が有るのだ。今回の事も、それが関係しているのかもしれない。
と、そんな事はこの際どうでもいい。今はこの様な状況に至っている経緯を確かめるのが先だ。
「キリト、起きてるか?」
それには先ずキリトに起きて貰わなければならない為、起きているかどうか本人に問い掛ける。
「ああ、カミヤか。起きてるよ」
眠りは浅かったのか、反応は意外と速く返って来た。
直後、閉じていた瞼を開いたキリトは、自身の腹に頭を乗せているリトとスーナを確認すると、二匹を起こさない様にそのままの姿勢で話し掛けて来た。
「……どうなってんだ、こりゃ?」
キリトの言葉が指しているのは、間違い無く二匹の事だろう。だが、主人である俺にも理由がさっぱりである為、「俺にも分からん」と答えるしかなかった。
「そんな事より、何こんな所で昼寝なんかしてるんだ?」
そして、再び浮かんだ疑問を脇に置いて、今この状況に至っている経緯についてキリトに問い掛ける。ギルドの方針に於いて自由行動を認めている為、別にキリト達に対して怒っている訳ではない。……怒ってはいないが、一応理由は聞いておきたいと思ったのだ。
「いやぁ、今日はアインクラッドで最高の季節の、更に最高の気象設定なんだもんだからさぁ、こんな日に迷宮に潜っちゃ勿体無いって思ってなぁ」
で、返って来た答えがコレだ。
アインクラッドの四季は現実と同期しているのだが、その再現度はかなり忠実。夏は暑くて冬は寒いという気温設定は勿論の事、雨や風、湿度や埃っぽさ、果ては小虫の群れなどといった気象パラメータが山の様に存在し、どれかが好条件でも他のどれかが悪かったりするのが常──キリトの談──らしい。
だがしかし、今日に限ってはそれは違うらしく、どうやら全ての気象パラメータが好条件な様だ。周囲に意識を向けてみると、降り注ぐ日差しは暑過ぎもせず柔らかで、吹き抜けるそよ風には湿気も埃っぽさも無く、更には小虫の羽音も聞こえないと、確かに最高で完璧な気象設定だと言えよう。
「だそうだ。今のを聞いて自分もって思った奴…………構わん。攻略を休んでも良いぞ?」
「だ、団長!?」
故に、俺同様に周囲に意識を向けてこの最高の気象を感じている他のメンバー達に対し、俺は選択の自由を与えてやる。
「よ、宜しいのですか? 多くのプレイヤー達が一日も早いゲームクリアを願っているというのに、攻略組である自分達が攻略を休んでしまっても……」
「他の奴らが何と言おうと、団長である俺が良いって言ってんだから別に良いんだよ。それに、いくら攻略組つっても、俺らだって人間だ。休まにゃ身体が保たん」
「そういう事だよ。頑張る事も大事だけど、それで倒れちゃったら元も子も無いからね。時には休む事も必要だよ?」
当然の如く、他のメンバー達は俺の言葉に懸念の表情を見せるが、俺と、更にはアスナの説得により、全員が納得の表情へと変える。
「で、では、団長方のお言葉に甘えさせて頂いて……」
「俺も……」
「わたしも……」
「おう、休め休め。何なら他の連中にも声を掛けても良いぞ? 勿論今日休んだ分、明日からはしっかり頑張って貰うからな?」
「「「はい!!」」」
そして、恐る恐るといった感じで休暇を申し出るメンバー達に許可と忠告をすると、俺とアスナ以外の四人は軽く頭を下げた後、揃って転移門の方へと戻って行った。
しばらくその後姿を見送った後、さて俺も自由に行動しようかと反対方向へと振り向き歩き出そうとするが、片方の腕を何かに掴まれて動きを止められてしまう。振り解こうと試みるが、俺の腕を掴む力が意外にも強く中々振り解けない。
「何処へ行くつもりなのかなぁ? カミヤくん」
振り返って見ると、其処には満面の笑みを浮かべて俺の腕を掴んでいるアスナが居たのだが…………何故かその笑顔は笑っている様には見えなかった。寧ろ怖いものを感じた。満面である分余計にだ。
「何処って、迷宮区の攻略にだが?」
本能的に危険を感じてか、彼女の問い掛けに素直に答えるが、彼女から感じる恐怖は薄れる事は無く、寧ろ更に強くなってしまった様な気がする。
「他の皆にはお休みさせておいて、自分は攻略?」
「正確には、休んでも良いっていう選択肢を与えただけであって、それを選ぶかどうかはそいつの自由だ」
理屈的な意見で以ってアスナを説き伏せようとするが、彼女の顔に納得の色は殆ど見られない。
「…………休みなさい」
「ん?」
「攻略を休みなさい! 今日はわたしもお休みするから、君も一緒に休みなさい!」
「はあっ?」
そんなアスナは、俺の意思など無視するかの如く、俺に今日の攻略を休む様にと命令して来た。
「わたしが攻略に行かない以上、今の君は一人で攻略に向かう事になる。けど、一人で最前線の攻略なんて危険過ぎるわよ? スーナちゃん達も行くかどうか分からない様子だし」
「安全マージンはちゃんと取ってあるし、スーナ達が居ない分トラップにも充分気を付ける。もし危なくなっても何とかして脱出するから、多分大丈夫だろ。それに、どっちかって言うと、俺は一人で行動する方が気楽で好きなんだけどな」
「多分じゃ駄目! 行かせられません! ……それに、君も少しは休まないと身が保たないわよ? 知ってるんだから……君が全然休暇を取らずに、殆ど毎日の様に攻略やレベル上げ、レベルの低いメンバーの人達の育成に出掛けてる事」
「気遣ってくれてどうも。けど大丈夫。自分の身体の事はちゃんと分かってるつもりだし、たまにだけど息抜きはしてるからさ」
「全然分かってないわよ! もう……」
何かかんかと理由を付けて俺に休む様にと命令して来るアスナだが、俺はそれを頑なに拒む。
休む事が大事なのはちゃんと分かっている。だが同時に、今日攻略を休むメンバーの分まで、俺だけででも少しでも頑張らなくてはという自己満足な思いも有る。デスゲーム初日に『日数は二の次で、生き残る事を最優先に考えろ』なんて言ったものの、やはり少しでも……一日でも早くこのゲームを終わらせなくてはならないと思っているからだ。
「あっ、そうだ!」
拒み続けていればその内俺を休ませる為の理由も無くなり、アスナも諦めてくれるだろう……一瞬だがそうなったかと思ったが、彼女はまだ諦めていなかった。
「カミヤ君……わたしの護衛をしなさい!」
「…………はい?」
果たして今度はどんな理由を以って攻めて来るのか、どうやってそれを拒もうかと考えていたが故に、俺はアスナが口にした『自分の護衛をしろ』という命令に、一瞬彼女の意図を読めずに呆気にとられてしまう。
「わたしは今から此処て寝る事にするから、カミヤ君はわたしやシノのん達が《睡眠PK》に遭わない様に、しっかり護衛してね♪」
だがその直後、アスナから告げられた内容を聞いて漸く彼女の意図を理解した俺は、虚を衝かれた思いとなる。
今俺達が居る此処──第59層主街区の中央広場は《アンチクリミナルコード有効圏内》に設定されており、アイテムの窃盗は勿論の事、他のプレイヤーを攻撃してもHPバーは一ミリも減らないなど、
この事は《SAO》というデスゲームに於いて、《HPがゼロになれば死ぬ》のと同じ位絶対のルールである。
だがしかし、残念な事にこれには幾つかの抜け道が存在する。
その内の一つが、アスナが口にした《睡眠PK》という方法。その詳細は、熟睡して動かない状態のプレイヤーに対して、HPがゼロになるまで戦うという《完全決着モード》のデュエルを申し込み、寝ている相手の指を勝手に動かしてOKボタンをクリックさせる。後は文字通り寝首を掻き、相手を死に至らしめるという寸法だ。
実際その方法で何人ものプレイヤーが被害に遭っている事から、アスナは警戒の為に俺を護衛に指名して来たという訳で、これなら確かに俺は攻略に行くのは難しいだろう。
だが、まだ甘い。生憎とこちらにはまだ抗議の為の材料が残っているのだ。
「此処にはキリトが居るんだから、別に俺が護衛をしなくても良いだろ? なあ、キリト?」
「お、俺が!?」
「キリト君もきっとお昼寝するだろうから、その間に《睡眠PK》に遭わない様に、やっぱりカミヤ君に護衛をして貰う必要が有ると思うんだ。……キリト君もそう思うよね〜?」
「ソ、ソウデスネー……」
と、内心で勝ち誇っていた俺だが、その内の一つ──未だに起きて俺達の会話を聞いていたキリトに任せるという手は、アスナにキリトを抑えられた事によって封じられてしまう。
「な、なら、《索敵スキル》の接近警報をセットすれば良いじゃないか?」
「わたしはゆっくりとお昼寝がしたいから、警報はセットしません」
ならばともう一つのカードを切るが、こちらは何とも我儘としか思えない理由によって却下。
その逆転劇によって貴重なカードを失った俺は、他に何か無いかと必死に考えを巡らすも、決定的な材料は中々思い浮かばない。……どうやら、俺は詰んだようだ。
「…………」
「どうやらわたしの勝ちの様ね?」
「…………はぁ、分かったよ。護衛という名目で、今日の攻略は休ませて頂きますよ」
「よろしい。あ、因みに副業のマッサージも今日はお休みね?」
「な、何ィ!?」
「それじゃあお休み。護衛宜しくね〜♪」
「お、おい! ちょっと待て!」
故にこれ以上の抗議は諦めて、渋々ながらも今日の攻略を休む事をアスナに伝えると、彼女は満足そうな表情を浮かべて更なる衝撃発言を残し、ユウキの隣に横になってその瞼を閉じてしまった。
「……はぁ。ド畜生が……」
「……お前も苦労してるな」
「……全くだ」
こうして、急遽攻略を休んでアスナ達の護衛をする事になってしまった俺は、彼女に聞こえない様に小声でキリトと会話をした後、色々と諦めて与えられた仕事を全うする事にしたのだった。
という訳で、こちらはいよいよ《圏内殺人》編に突入──
……なんですが、字数が目安の五千字を少しばかり超えてしまったので、今回は此処までです。
本格的な内容は次回からという事で、皆様…暫くお待ち下さいませ。