ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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お待たせしました。本編20話となります。
ちょっとした遊び心で、11月、11日、午後11時(23時)の投稿であります。


Chapter.20:解ける謎、迫る影

 

 

 

「い、生きてるですって……?」

 

「ああ、恐らく生きてる筈だ。ヨルコさんも、カインズさんもな」

 

俺達が辿り着いた答えを聞いて驚愕の叫びを上げるアスナと、声こそ上げていないものの、驚愕によって唖然としているシノンの二人に対して、俺達はゆっくりと頷いてみせる。

 

「け、けど……私達は昨日の夕方確かに見たじゃない。黒い槍に貫かれて宙吊りにされたカインズさんが……死ぬところを」

 

「いや、違うんだ」

 

シノンの抗議の言葉に大きくかぶりを振ってから、キリトは謎解きの説明を始めた。

 

「俺達が見たのは、カインズ氏の仮想体(アバター)がポリゴンの欠片を大量に振り撒きながら、青い光を放って消滅する現象だけだよ」

 

「だから、それがこの世界での《死》でしょう?」

 

「……覚えてるか? 昨日教会の窓から宙吊りになったカインズ氏は、空中の一点をぴったり凝視してた」

 

夕べの事を思い返したのだろう、アスナとシノンは暫くの間その表情に思案の色を浮かばせた後、小さく頷く。

 

「あれって、自分のHPバーを見ていたんじゃないの?」

 

「俺も最初はそう思った。でも、そうじゃない。彼が本当に見ていたのは、HPバーじゃなく、自分の着込んだプレートアーマーの耐久値だったんだ」

 

「「た、耐久値!?」」

 

アスナとシノンが揃って驚愕の叫び声を上げる。キリトばかりに説明をさせるのも悪いし、丁度キリも良さようなので、此処からは俺がキリトに代わって説明を行う。

 

「圏内じゃ、基本的にプレイヤーのHPは減りはしない。けど、オブジェクトの耐久値は減る。さっきのバゲットサンドみたいにな。つまりだ、あの時カインズさんの胸に突き刺さっていた槍が削っていたのは……」

 

「……カインズさんのHPじゃなくて、カインズさんが着ていた鎧の耐久値?」

 

「じゃ、じゃあ……あの時砕けて飛び散ったのは……」

 

「そう。鎧だけだ」

 

「そして、まさに鎧が壊れる瞬間を狙って、その中身のカインズ氏は結晶でテレポートした」

 

「結果、発生したのは死亡エフェクトに限りなく近い、けれども全く別の現象だったという訳さ」

 

最初にヨルコさんの話を聞いた時からずっとおかしいと思っていた。食事をしに来たというのに、何故態々分厚い鎧を着込んで来ていたのかと。

今ならば分かる……恐らくあれは、死亡エフェクトを偽装出来る程のポリゴンの量を稼ぐ為のものだったのだろうと。若しくは、ポリゴンの爆散エフェクトを可能な限り派手にして、多くのプレイヤーの注目を集める為だったのだろう。

 

「なら、ヨルコさんの消滅も同じトリックだったのね」

 

ヨルコさんも本当に無事であると分かり、「よかった」と呟いて胸を撫で下ろすアスナ。シノンも同様に安心した様だが、直ぐに疑問の表情を浮かべる。

 

「けど、確かにヨルコさんはやたらと厚着をしてたけど、ダガーは何時刺したの?」

 

「刺さっていたんだよ。最初から」

 

「さ、最初から!?」

 

俺の返答にシノンが、声こそ上げていないもののアスナも驚いた表情を浮かべている。

 

「よく思い出してみろ。あの部屋で、彼女は俺達に一度も背中を見せようとしなかった。それはつまり、俺らに背中を向けられない何かしらの理由が有ったって事だ。そこから考えるに……」

 

「……その時点で、既に背中にダガーが刺さっていた?」

 

「そう言うこった。そしてそれを決定付ける根拠もちゃんと有る」

 

「根拠?」

 

「見たんだよ、俺……彼女の背中にダガーが突き刺さっているのを」

 

「「「ええッ!?」」」

 

再び俺の言葉にシノンとアスナが、更にはキリトとユウキまでもが加わって驚いた表情を浮かべる。直後、隣に座るアスナが急に椅子から立ち上がり、鬼気迫る勢いで俺に問い掛けて来た。

どうでも良い事だが、アスナの足元に居たスーナがアスナが急に立ち上がった事に驚き、椅子の下に潜り込んでしまった。

 

「み、みみみ見たって……そ、それ本当なの、カミヤ君? あの時、わたしもカミヤ君と同じ様にヨルコさんの傍に立ってたけど、全然気付けなかったよ」

 

「仕方ねぇよ。ダガーは彼女の髪型の所為で殆ど隠れちまってたし、色も黒だったから彼女の濃紺色の髪と見分けが付かなかったからな。だから俺も最初は見間違いかと思ったよ」

 

「そうなんだ。それで、カミヤ君がダガーを見たっていうのは何時なの?」

 

「彼女が窓際に移動した時だよ。アスナの場合は、すぐ傍を通られたから逆に背中に目が行かなくて気付けなかったんだろうけど、俺の場合は彼女との距離が有ったから、全体的に視線が行って気付けたのさ」

 

アスナが俺の説明に納得の表情を浮かべたのを確認したところで、俺は更に解説を続ける。

 

「でだ、服の耐久値を確認しながら会話を続けて、タイミングを見計らって窓際に移動した彼女は、多分足で壁を蹴るなりなんかしてそれっぽい効果音を立てる事で、あたかも外から飛んで来たダガーが彼女の背中に刺さったっていう演出をしたんだ」

 

「窓の外に落ちたのは、転移コマンドをわたし達に聞かれない為ね。……て事は、あの黒いローブの男の人は……」

 

「十中八九、グリムロックじゃない。カインズだ」

 

アスナの問い掛けにキリトが断定の言葉を返し、俺もそれに頷く。

 

「ちょっと待って」

 

だがしかし、シノンにはまだ腑に落ちない点が有る様で、眉根を寄せて問いを投げ掛けて来た。

 

「私達は夕べわざわざ黒鉄宮に《生命の碑》を見に行って、カインズさんの名前に横線が刻まれているのを確認したわ。死亡時刻もぴったりだったし、死因だってちゃんと《貫通属性攻撃》だったわ」

 

シノンの言葉を聞いて、アスナも「言われてみれば」と眉根を寄せる。俺はその時諸事情で一緒に行かなかった為に直接は確認していないが、それでもカインズさんは生きていると言える。何故ならば……

 

「なら、そのカインズさんの名前の(つづ)りを覚えてるか?」

 

「えっと……確か、K、a、i、n、s、だったかな」

 

「そうだ、俺達はヨルコさんからそう教えて貰った。……けど、これを見てみろよ」

 

そう言って、俺は元《黄金林檎》のメンバーの名前が書かれた羊皮紙を四人に見せるべく(かざ)す。椅子から立ち上がり羊皮紙を覗き込む四人──その内のアスナとシノンは紙片の中ほどを一瞥(いちべつ)するや、驚愕にその目を見開き、逆に俺同様に答えに辿り着いていた様子のキリトとユウキは、示された内容に「やっぱり」と言いたげな納得の表情を浮かべる。

 

「《Caynz》……!? これがカインズさんの本当の綴りなの!?」

 

「一文字程度ならともかく、三文字も違ってくるとなればシュミットさんの記憶違いって線は考え難い。となれば、ヨルコさんは俺達にわざと違う綴りを教えたって事になる。Kのカインズさんの死亡表記を、Cのカインズさんのものと誤認させる為に」

 

「そ、それじゃあ……私達が夕べ教会前の広場でCのカインズさんの偽装死亡を目撃した瞬間に、アインクラッドの何処かでKのカインズさんも貫通ダメージで死んでたって事よね? 偶然……にしては出来すぎてるから…………まさか……」

 

「あ、多分その可能性は無いと思うよ」

 

一つの疑問が解けた事でそこから新たに浮上した疑問に、しかしユウキがすかさず口を開いてシノンが考えているであろう可能性を否定する。

 

「多分シノンさんは、ヨルコさん達の共犯者がタイミングを合わせてKの方のカインズさんを殺した、って考えてると思うけど、それは違うよ。よく考えてみて……生命の碑に表記されてた《四月(サクラの月)二十二日》は、昨日で二回目なんだよ」

 

「「あっ……」」

 

ユウキの説明に暫し絶句した二人は、やがて力の無い、けれど何処か安心する様な笑みを浮かべた。

 

「去年…なのね。去年の同じ日、同じ時間に、Kの方のカインズさんは今回の件とは無関係に、既に死んでたのね……」

 

「そう、恐らくはそこが《計画》の出発点だったんだ。ヨルコさんとカインズ氏は、この偶然を使えばカインズ氏死亡を偽装出来るのではないかと思い付いた。しかも《圏内殺人》という恐るべき演出を付け加えて」

 

「そしてその目的は、《指輪事件》の犯人を追い詰め、炙り出す事。二人は自らの殺人事件を演出し、幻の復讐者を作り出した」

 

「狙いはシュミットだ。多分最初からある程度疑ってたんだろうな。中堅ギルドだった《黄金林檎》から一足飛びに攻略組四大ギルドの《聖竜連合》に加入したとなれば、よっぽど急激なレベルアップか、或いは急激な装備の更新が無いと無理だろうからな」

 

ならばシュミットさんがグリセルダさんを殺して指輪を奪った犯人なのかと聞かれれば、正直何とも言い難い。可能性としては疑うべきだろうが、あれ程死に対して怯えていたシュミットさんに《殺人者(レッド)》の気配が有るかどうかと言えば、とてもではないがそんな風には見えない。だがしかし、だからと言って事件に無関係ではない筈も無かろう。

 

「まあ何にせよ、後の事は彼らの間での問題だから、俺達の今回の事件に於ける役回りは此処までだ。下手に首を突っ込もうとはせずに、彼らに任せよう」

 

「うん」

 

その後、未だに登録したままの状態であるヨルコさんとのフレンド機能で彼女達の現在の居場所を確認した俺達は、宿屋から撤収してギルドホームへと帰る事にしたのだった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

所変わって、十九層のフィールド《十字の丘》。

その天辺に立つ低木の前にて地面に膝を付くシュミットは、目の前に映る光景に驚いていた。グリセルダとグリムロックだとばかり思っていた黒衣の死神の正体が、まさかのカインズとヨルコだったのだから。

だがしかし、目の前の二人とて死んだ事には変わりはない。カインズの死亡は伝え聞いただけでしかないが、ヨルコに至っては、つい数時間前にダガーで刺された瞬間を目の当たりにしたのだから。

 

やはり幽霊なのか、そう思い一瞬気絶しそうになったシュミットだったが、直前にヨルコが口にした台詞が辛うじて彼の意識を繋ぎ止めた。

 

「ろ……ろく、おん……?」

 

喉から(しゃが)れた声を漏らしながら、ヨルコが手に握る物へと視線を向ける。ライトグリーンに輝く八面柱型のそれは、音声の記録・再生を可能とする結晶アイテム──録音クリスタルだ。

幽霊がアイテムを使って会話を録音する筈はないし、その必要性も無い。そこから導き出される答えは一つ──今目の前に居るこの二人は死んでなどいない。つまりは二人の死は偽装だったという事だ。

 

「…………そう……だったのか……」

 

手口こそ分からないものの、自らの死を偽装する事で存在する筈の無い復讐者を作り上げ、真に復讐すべき相手──つまりは自分を追い詰め、罪の告白を録音する事が、全て二人の計画であった事を理解したシュミットは、声にならぬ声で呟き、その場にがくりと脱力した。

まんまと騙され、証拠まで押さえられた事への怒りは無い。ただただ、二人の事件解決に対する執念、そしてグリセルダを慕う気持ちの深さへの驚嘆だけを感じていた。

 

「お前ら……そこまでグリセルダの事を……」

 

「あんただって、彼女の事を憎んでた訳じゃないんだろ?」

 

「も、勿論だ。信じてくれ。……そりゃあ……受け取った金で買ったレア武器のお陰で、聖竜連合の入団基準をクリア出来たのは確かだけど……」

 

カインズからの問い掛けに、シュミットは顔を歪めながらグリセルダへの殺意が無かった事を必死に訴える。

 

 

 

 

 

 

 

 

──ザシュッ……。

 

 

直後だった。背後から伸びて来た小さなナイフが胸当て(ブレストプレート)喉当て(ゴーゲット)の隙間に突き刺さり、シュミットは身体の感覚を失ってがしゃりと音を立てて地面に転がった。恐らくは小型刺突武器専用スキル《鎧通し(アーマービアース)》と、非金属防具専用スキル《忍び足(スニーキング)》の複合技による不意打ちだと当たりを付ける。

嫌な予感がした彼は直ぐさま自身のHPゲージを確認すると、その周りを緑色に点滅する枠が囲っていた。──麻痺状態だ。シュミットは聖竜連合の壁戦士(タンク)のリーダー格として最前線で戦うべく、高い防御力を誇ると共に耐毒スキルもそれなりに上げている。その耐性をも上回るハイレベルな毒を使うのは一体誰なのか……。

 

 

 

 

「ワーン、ダウーン」

 

 

 

 

そう思った次の瞬間、背後から少年の様な無邪気な声が降って来た。

必死に視線を上へと向けるシュミット。その視線の先に居たのは、全身を黒い装備で覆い尽くし、右手には刀身が緑色に濡れている細身のナイフ、そして頭部は、目の部分だけがくり抜かれた頭陀袋の様な黒いマスクに覆われていた。

更に注目すべきは、彼のプレイヤーカーソル。その色は見慣れたグリーンなどではなく、犯罪者である事を意味する鮮やかなオレンジ色であった。

 

「あっ……!」

 

更に別方向から聞こえて来た声……いや、小さな悲鳴。そちらへと視線を向ければ、そこにはヨルコとカインズを同時に血の色に発光する極細の剣──針剣(エストック)で牽制する、全身に襤褸(ぼろ)切れの様なものを垂れ下げたやや小柄なプレイヤーの姿が。頭には髑髏(どくろ)を模したマスクを被っており、その暗い眼窩の奥には不気味に赤く光る小さな眼が有った。そして、そのプレイヤーカーソルの色は先のプレイヤー同様にオレンジ。

 

「デザインは、まあまあ、だな。オレの、コレクションに、加えて、やろう」

 

その髑髏マスクの男は棒立ち状態のヨルコからエストックを奪い取ると、しゅうしゅうと擦過音の混ざる途切れ途切れの声でそう呟いた。

 

「Wow……確かにこいつはでっかい獲物だ。聖竜連合の幹部様じゃないか」

 

そして更に現れた三人目の影。膝上までを包む(つや)消しの黒いポンチョに、目深に被ったフード。だらりと垂れ下がる右手に握られるのは、まるで中華包丁の如く四角く、血の様に赤黒い刃を持つ肉厚の大型ダガー。

 

(まさか……こいつら……!)

 

シュミットはこの男達の事を知っている。ある意味ではボスモンスター以上に厄介であり、攻略組、中層問わず、ほぼ全てのプレイヤー達が忌み嫌う存在──殺人者(レッド)プレイヤー。

 

「殺人ギルド……《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》…………ッ!?」

 

その中でも特に注意すべき、最大最凶の殺人ギルド《笑う棺桶》──その幹部の座に着く最凶最悪の男達……

 

 

 

 

──毒ダガー使い《ジョニー・ブラック》。

 

 

 

 

──エストック使い《赤目のザザ》。

 

 

 

 

そして、その二人を……数多くのレッドプレイヤー達を纏め上げ、その頂点に君臨する男……

 

 

 

 

──リーダー《PoH(プー)》。

 

 

 

 

白骨の腕が隙間よりはみ出した、にやにやと笑う漆黒の棺桶(かんおけ)が描かれたエンブレムをその手に刻みし死神達が、命を狩らんとする凶刃を携えて現れたのであった。

 

 

 




PoH達との衝突に於いて少し書きたい内容が有ります故、今回の更新は此処までとさせていただきます。
余談ですが、自分としてはPoHの声は《藤原啓治》さんよりも《小山剛志》さんの方が好みです。

さてさて、圏内事件編もいよいよ終わりが見えてまいりました。
後2話程で終了を予定している圏内事件編……次回もお楽しみにしていて下さいませ。

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